雨のみちのく・独居のたのしみ (新潮文庫)

  • 新潮社 (1984年1月1日発売)
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感想 : 7
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  • 本 ・本 (227ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101134482

感想・レビュー・書評

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  •  ①たいせつなのは「生きている」ことであり、「どう生きるか」なのである。こんにちを充分に生きる、こと以外に人間の人間らしいよろこびはないのだ。②人間は五十歳を越すころから、ようやく世間の裏表や社会構成のからくりや人間感情の虚実を理解できるようになる。③健康法とは「しかじかかくかくのことをする」というのでなく、毎日どのようにくらすか、ということではないかと思う。④男というものは、ときどき「おれはこんなばかな人間だったのか」と思って冷や汗をかくものだ。山本周五郎「雨のみちのく 独居のたのしみ」1984.12発行

  • 【注:本レビューは,旭川高専図書館Webサイトの「私の推薦する本」に掲載した文章を,執筆者の許可を得て転載しています】

     全45話の短編随筆集で,漢字にはフリガナが多用されていて読みやすい書籍です。しかも文庫本のため,どこにでも持ち込めてちょっとした空き時間に読めます。一つ一つの話は,ウィットがきいていてくすりと笑えたり,ぞくっとしたり,考えさせられたりします。スマホの方が便利だと思うかもしれませんが,ここは文庫本の魅力をアピールします。すべての短編を紹介しきれませんので,「極貧者たちの喜びと怒りを」という話をご紹介します。
     あなたは極貧者と身近に接する機会は,ほとんどないと思います。特に旭川の冬の空のもと,段ボールハウスで生活する極貧者は想像できないでしょう。極貧とは言えませんが,もしあなたが友達と一緒に買い食いができない,欲しいスマホが手に入らないとき,お金がなくて寂しい気持ちを少し理解できるかもしれません。その貧しさをぐっと深めた極貧は,人の心を蝕み,人としてのプライドを砕き,夢も希望も消し去って孤独な人をつくるのでしょうか,という疑問を本編は投げかけています。
     また,持たざる人はありのままの自分を見せ,内にはみえ・・や嫉妬,貪欲さも持ち合わせているとも書いています。貧しさは人を底が浅く単純なものにしてしまうので,すぐに心の中が他人から見透かされてしまいます。すると,本来は内に秘める嫉妬や貪欲さが,相手に見られることで,良くない結果をもたらしてしまいます。極貧ではない人からすると,その単純さが人としての底の浅さに映るので,彼らを軽視し,無能だと判断する材料にしてしまいます。本編があなたに問うているのはすべての極貧者が愚かであるか,ということです。いつまでも貧しい生活をするか,それとも貧乏から抜け出られるか,極貧者から見分けられるでしょうか。一度でも極貧に落ちると,そこから這い上がるにはなみなみならぬ努力が必要です。あなたが成績でビリをとろうと,高専生という枠内でのボーダーであり,高専から弾かれたりはしません。しかし極貧というボーダーは,ハンディキャップとして社会から追放され,再び元に戻ることを困難にします。よって極貧の人たちを見ることで,あなたは現在の生活に安堵を感じるともこの本では述べられています。
     最後に,たくさんの短編を読むことは,SNSなどで短い文章を読むこととはまるで違います。短編というまとまりは,短く端的にメッセージを読者に投げかけるからです。ICTの発展によって長い文章を読む機会が失われ,学生も短い文章ばかりに接すると嘆く声を多く聞きます。私は短い文章しか読めなくてもいいと思います。その代わり質の良い短い文章をたくさん読み,1つ1つよく考えてほしいと思います。最初は文章の流し読みでも構わないです。数を読み込みながら一つでも二つでも疑問を持ち,考えて自分の意見をまとめられると,アクティブな読書になります。ぜひこれを機会に,短くて質の良い文章を能動的に読んでください。
    (学科横断 (連携教育プログラム担当) 阿部 敬一郎 先生)


    ▽配架場所・貸出状況はこちら(旭川工業高等専門学校蔵書検索)
    https://libopac3-c.nagaokaut.ac.jp/opac/opac_details/?kscode=004&amode=11&bibid=1010763838

  • BSフジ「原宿ブックカフェ」のコーナー“文壇レシピ”で登場。
    http://nestle.jp/entertain/cafe/


    本の中に登場するあの美味しそうな一品を
    実際に再現してみよう!というこのコーナー。

    第58回目に紹介されたのは、「雨のみちのく・独居のたのしみ」に登場する『朝食』。

    ―レタスを洗い、トマトを切り、人蔘と盛り合わせて
    フレンチ・ドレッシングを掛ける、
    ベーコンの焼ける匂い、卵をうまくフライにするこつ、
    トーストに溶けてゆくバター、

    独り椅子に掛けて海を横目に眺めながら、誰に邪魔される心配もなく、
    ゆっくりと時間をかけて食べるこころもちは なんと言いようもない


    原宿ブックカフェ公式サイト
    http://www.bsfuji.tv/hjbookcafe/index.html
    http://nestle.jp/entertain/bookcafe/

  • 歳末に往来を行く女に貧の哀れを感じる著者の目は矢張り市井人情を描いてきた名人のもの。気骨あるがどこかユーモラスな懐かしい文人。

  • 周五郎の随筆集。貧困、忍耐、頑固のイメージのある作者にユーモアがある面も見せてくれる。12.6.16

  • 1985.1.15

  • 山本周五郎の随筆集。時代だろうが妄想乙・偏見です、みたいな意見もありますが、芯が通っていて心が軽くなる言葉が沢山。嫌なことがあったのですが数十分これを読むだけで落ちつくことが出来た。ありがたや。

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著者プロフィール

(やまもと・しゅうごろう)
1903~1967。山梨県生まれ。小学校を卒業後、質店の山本周五郎商店の徒弟となる。文芸に理解のある店主のもとで創作を始め、1926年の「文藝春秋」に掲載された『須磨寺附近』が出世作となる。デビュー直後は、倶楽部雑誌や少年少女雑誌などに探偵小説や伝奇小説を書いていたが、戦後は政治の非情を題材にした『樅ノ木は残った』、庶民の生活を活写した『赤ひげ診療譚』、『青べか物語』など人間の本質に迫る名作を発表している。1943年に『日本婦道記』が直木賞に選ばれるが受賞を辞退。その後も亡くなるまで、あらゆる文学賞の受賞を拒否し続けた。

「2025年 『山本周五郎[未収録]時代小説集成』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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