樅ノ木は残った(下) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101134666

作品紹介・あらすじ

お前の目論見は終わる。この命と引き替えだ! 切腹、闇討ち、毒殺。親しき友が血を流す様を「主家大切」一義のため原田甲斐はひたすら堪え忍ぶ。藩内の権力をほしいままにする伊達兵部は他の一門と激しく対立し、ついに上訴へと発展する。評定の場で最後の賭けに出る甲斐。すべては仙台藩安堵のために─。雄大な構想と斬新な歴史観の下に、原田甲斐の肖像を刻んだ歴史長編。

感想・レビュー・書評

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  • 仙台藩伊達家62万石で起こったお家騒動「伊達騒動」の第3巻です。
    第3巻は、寛文4年(1664年)正月2日から始まります。
    万治3年(1660年)の藩主綱宗の逼塞(ひっそく)から伊達家では、伊達家一族の伊達兵部少輔宗勝が仕掛けて来る家臣間の色々な問題が起こり死人が出ますが、伊達家重臣の原田甲斐宗輔がなんとか大事にならないように鎮めて来ましたが、とうとう抑えきれず幕府に訴え出る事となりました。そこで老中評定が、寛文11年(1671年)3月27日に徳川幕府老中・酒井雅楽頭忠清邸で行われます。
    その老中評定の控室で、評定に出席していた伊達家重臣の古内志摩を除く伊達安芸宗重、原田甲斐宗輔、柴田外記朝意、蜂谷六左衛門の4人が酒井雅楽頭の家臣によって斬り殺される。
    この騒動のあと仙台藩は残ったが、首謀者として原田家はお取り潰しになり原田甲斐の一族は、男子は全員死に、女たちは他家に預けられる。伊達家一族の伊達兵部少輔宗勝の一族は、他の大名家お預けとなる。

    【読後】
    万治(まんじ)3年(1660年)7月18日に伊達家3代目藩主綱宗の逼塞(ひっそく)から始まったお家騒動は、寛文11年(1671年)3月27日の酒井雅楽頭邸の老中評定の控室で、原田甲斐以下4名の伊達家重臣が酒井雅楽頭によって殺されたことで約11年間の物語が終わります。
    酒井雅楽頭は、原田甲斐に敗れて殺すしか選択が無かったと感じ取れます。
    著者は、一貫して原田甲斐を書いて来ました、無口で、微笑みをたたえ、人に愛される人間として。領地では、人と会うのを嫌い、山に籠り鹿を追う山男として描いて来ました。そして女性に好かれる魅力的な男として……。

    樅ノ木は残った(下)
    2003.02発行。字の大きさは…小。2021.10.11~13読了。★★★★☆
    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    【徳川幕府第4代将軍家綱の治世】
    慶安4年 ​(1651年) ​8月18日 ~ 延宝8年 ​(1680年) ​5月8日。28年 9か月。
    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    【バックナンバー】
    樅ノ木は残った上・中・下のバックナンバーは、私の本棚より「タグ」→「タグの一覧を絞り込む」に「山本周五郎」と入力。または、その中から山本周五郎を探してください。そうすると著者山本周五郎さんの本が一覧表示されます。
    私は、本を登録するときには、著者名と登録した年(2021)で登録しています。たまにシリーズ名でも登録もします。例えば「風烈廻り与力・青柳剣一郎」などです。

  • やっと3冊読み終わった。
    たった3冊を読むのに、一ヶ月もかかってしまった。
    内容はかなり面白いのだが、私がとにかく時代小説が苦手ということで、
    言葉が頭の中に映像として入ってこない(-_-;)

    それなのにとても面白く、最後まで何とか諦めずに読むことができた。


    この本は、伊達騒動と呼ばれた、江戸時代前期の仙台伊達藩で起こった御家騒動の話。

    史実上では、原田甲斐宗輔は奸臣とされているようだが、
    この本ではその真逆の立場で描かれていた。

    この原田という人物の描写が非常に巧み。
    私の文章能力では、とても形容出来ない、非常に魅力的な人物に描かれている。

    主人公の原田だけでなく、伊達騒動の中に生きる多くの登場人物の個性が
    非常に緻密に描かれており、時代小説嫌いの私でも、楽しく読ませていただいた。


    超大作!読んでみて絶対損は無い!

  • 人間関係や政治的な内容を理解するのが難しく読むのに苦労した。新八とおみや、柿崎と石川兵庫介のエピソードは興味深く面白かった。

  • 山本周五郎作品を初めて読んだ。

    伊達騒動の真実は置いといて、歴史小説として面白かったけど、共感することが難しい壮絶な価値観でもあった。

    大藩の改易ともなれば、数万人の武士が失業するわけで、その事態を十数人の犠牲で防いだ、という意味では利他的な美談であることは間違いない。

    しかしながら、『御家の為』と言われると、現代の価値観からすると、そこまでして守らないといけないほど伊達家はエライのか?とどうしても感じてしまう。

    また、原田甲斐が汚名を被って死ぬことで、本当に仙台藩が安泰となる確証があったかというと、かなり分が悪い賭けだったのではないだろうか。ラストの修羅場具合からすると、仙台藩に自治能力無しとして酒井侯が改易に踏み切る可能性はそれなりにあったのではなかろうか。

    唯一の障害は、密約の原文を見た久世侯が黙っていない、という点だろうが、酒井侯に『知らぬ存ぜぬ』で押し切られてしまうリスクもあった思う。極めて分の悪い賭けに自分の名誉ではなく汚名を賭けた、という設定がすごい。決して真似が出来ない。

  • お家騒動の発端以後、ひたすらに耐え忍ぶことを貫き通した原田甲斐。
    私利私欲のためでもなく、名誉のためでもなく、ただただ伊達藩とそこに属する人々を守るために、彼は進んで悪名を被り、そうすることで黒幕の懐深くへ入り込む。
    分かり合えた友人、同士、家臣たちから白眼視されたり、次々に死に別れる事態に見舞われても、哀しみを押し殺し、黙々と命の襷を拾うに止める。
    全ては黒幕を追い詰めるためだった。
    堪忍・辛坊が、時にもどかしく感じたけれど、凄絶な最期の瞬間にまでそれを貫徹されると、感動だけが心に残ることに。
    「いつの世でも、しんじつ国家を支え護立てているのは、こういう堪忍や辛坊、──人の眼につかず名もあらわれないところに働いている力なのだ」。
    この箇所、この一文に、主題が結晶しているような。
    著者が一番伝えたかったのはこれだったのかと思う。

  • 耐え難きを耐え忍んだ甲斐が、あのような結末を迎えるのは、あまりにも惨い。あまりにも口惜しい。妻と別れ、真の友の葬儀も立ち会わず、伊達藩のため、滅私で尽くした甲斐が。。。
    それでも六二万石が安泰となり、安らかに逝ったのだろうか。

  • 読了。

    伊達家を守るために陰謀の只中に敢えて身を投じ、最悪の事態の回避を狙う。裏切り者として自身や自分の家に悪評がたってもひたすら耐える。友人や、自分に忠誠を誓う部下たちが陰謀の犠牲となり倒れていくのを見ながら、苦しみの中、孤独の中で耐え忍ぶ。それはそれは、壮絶な生き様でした。

    興味を覚えて伊達騒動や原田甲斐についてちょっと調べてみたけれど、事件の本当の詳細はよくわかっていないとのこと。
    事件ののち、苛烈なお家断絶の措置が取られたあと暫くして、元家臣たちが密かに集まり、原田甲斐の供養をしたそう。また、菩提寺の移転の際にも密かに遺骸を移転先に運んだとか。そうなるにはよほど人望厚い人だったのだろうというところから、山本周五郎が事件を読み解き、苦しみ抜きながらも任務を全うしようとする原田甲斐として、そして、貴賎男女問わず人を惹きつけた人間味溢れる姿に描いたのでしょう。

    原田甲斐は、これまで読んだいくつかの時代小説系の主人公の中でも、トップスリーくらいに入る魅力的すぎる(男前すぎる)人物でした。

  • 山本周五郎の代表作なる大作。
    お家を守るためとはいえ、本当に大変な忍従をしいられ、現代人には理解できないものがあった。
    クライマックスは手に汗握る緊迫感があり、一気に読み終わった。
    結果はあのようになったが甲斐はいったい耐え忍んで何を目指していたのか?耐える現状維持は自分が死んだ時点で終わりを迎えるのに、次々と周りの人間が死ぬ状況で積極的な行動を起こさなかったことに疑問と不満が残った。

  • 壮絶な最後でした。上巻冒頭の暗殺以降、置毒やくびじろとの対決などのエピソードはあったものの淡々と歩みを進めていた物語が終盤に一転、怒涛の展開の中で多くの命が散って行きました。そしてフィナーレ、思いもよらない謀略が仕組まれ、本懐は遂げることができたものの待っていたのは悲劇的な結末。国のために侍はここまでしなければならないのか、自身の命や名誉のみならず家族の命や家の歴史までも捧げなければならないのか、凄まじい価値観が描かれていました。選挙の票のためならカルト宗教にも魂を売る、自民党安倍派の国会議員にぜひ読んでいただきたい本でした。船岡は家からそれほどは遠くはないので、そのうち城址公園の樅の木の下で余韻に浸ってこようと思います。

  • 山中に籠もった原田甲斐がよい。名作だと思う。

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著者プロフィール

山本周五郎(やまもと しゅうごろう)=1903年山梨県生まれ。1967年没。本名、清水三十六(しみず さとむ)。小学校卒業後、質店の山本周五郎商店に徒弟として住み込む(筆名はこれに由来)。雑誌記者などを経て、1926年「須磨寺付近」で文壇に登場。庶民の立場から武士の苦衷や市井人の哀感を描いた時代小説、歴史小説などを発表。1943年、『日本婦道記』が上半期の直木賞に推されたが受賞を固辞。『樅ノ木は残った』『赤ひげ診療譚』『青べか物語』など、とくに晩年多くの傑作を発表し、高く評価された。 

解説:新船海三郎(しんふね かいさぶろう)=1947年生まれ。日本民主主義文学会会員、日本文芸家協会会員。著書に『歴史の道程と文学』『史観と文学のあいだ』『作家への飛躍』『藤澤周平 志たかく情あつく』『不同調の音色 安岡章太郎私論』『戦争は殺すことから始まった 日本文学と加害の諸相』『日々是好読』、インタビュー集『わが文学の原風景』など。

「2023年 『山本周五郎 ユーモア小説集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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