正雪記 (下) (新潮文庫)

  • 新潮社 (2009年1月13日発売)
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  • 本 ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101134680

感想・レビュー・書評

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  • 由井正雪を主人公とした長編。周五郎にしては珍しく実在の人物を描いた作品。徳川政権が磐石のものとなっていく中でその陰の部分を見つめて模索した正雪と、幕藩体制の中で藩としての生き残りを模索する原田甲斐(『樅ノ木は残った』)。この二作は時代も近しくて対になるような作品ですね。

  • 由井正雪。時代は関ヶ原合戦後、大阪の陣、島原の乱を経て、大名の取り潰しもあり、世の中には、浪人が溢れていた。由井正雪の乱とは何だったのか。幕府はなんとでも言う事が出来たのであろう。
    この世の中に対し、由井正雪は、何を訴え、成し遂げようとしたのか。
    大作であり、読み応えある一冊でした。

  • 油井正雪の乱として授業で習う慶安の変は、教科書的にいうと、大量発生した浪人対策を怠る幕府に対する反抗ということになる。3代将軍徳川家光の時代までの武断政治により改易された藩からは主家を失った浪人が大量に発生、徳川幕府体制をより確固たるものにしたい松平伊豆守信綱はこれを利用し、浪人が果てるのを待つ政策を遂行。これに対し、油井正雪は浪人による徳川幕府の転覆をはかったが、事前に計画が漏れて、実際には乱にはならなかったという事案である。

    教科書では油井正雪が実際何者であったかはほとんど触れられず、浪人を大量動員した測った計画を重く見た政府徳川幕府が、家光の死後、文治政治に展開していくという歴史の流れの転換点としてのみ表記されている。

    そこで、山本周五郎の登場だ。「樅の木は残った」でも伊達騒動について原田甲斐を新たなイメージで描き、これを読むとこれが正のような感じがしてくる。同じように正雪記では、幕府転覆などという大それたことを本当に考えていたのか?そう思わせる彼のバックボーンは何なのか?という観点でストーリーが組み立てられているのだ。まさに本書を読むとこれが正に思えてきてしまうわけだが。

    しかし、ひとかどの名を成すのだ、という思いと、何で名を残すかという思索の果てが浪人取り扱いに関する幕政改革であったというのはやっぱり本当な気がする。表面的な教科書知識と油井正雪のものがたちがぴったりと合わさった感じがする。そして、山本周五郎にかかるとやはり、命を落としてはダメなのだ、なんとか生き残っていくのだというベースラインがしっかりと提示されていく。

    フィクションだとは思うが、歴史の背景や流れは腹落ちするものがある、それが山本周五郎なんだと思う。

  • 正雪によるクーデータと思われる慶安事件の真相を解く。事実はでっち上げではないかという仮説を立て、時代の流れと権力の犠牲になった悲劇として追求する作品。浪人圧迫の政策がゆるみ生きる道を与えるために必要と思われる手段を淡々と講じ、決して武力行使をしてはならないという強い意志。耐えて耐えて忍ぶ生き様。周五郎の歴史時代小説はやはり群を抜くな〜。

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著者プロフィール

(やまもと・しゅうごろう)
1903~1967。山梨県生まれ。小学校を卒業後、質店の山本周五郎商店の徒弟となる。文芸に理解のある店主のもとで創作を始め、1926年の「文藝春秋」に掲載された『須磨寺附近』が出世作となる。デビュー直後は、倶楽部雑誌や少年少女雑誌などに探偵小説や伝奇小説を書いていたが、戦後は政治の非情を題材にした『樅ノ木は残った』、庶民の生活を活写した『赤ひげ診療譚』、『青べか物語』など人間の本質に迫る名作を発表している。1943年に『日本婦道記』が直木賞に選ばれるが受賞を辞退。その後も亡くなるまで、あらゆる文学賞の受賞を拒否し続けた。

「2025年 『山本周五郎[未収録]時代小説集成』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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