少年間諜X13号 冒険小説集 (新潮文庫)

  • 新潮社 (2018年12月22日発売)
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  • 本 ・本 (544ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101134741

作品紹介・あらすじ

死ぬ用意はあるか? 出来ております。大和八郎少年、コードネームは〈本部X13〉。彼に下された指令は、上海郊外の米軍秘密要塞の発見・爆破であった。X13号は三つの特殊兵器を携えて単身川辺の湿原地帯に降り立つ……(表題作)。海軍少年特務員東忠三が、満洲の北方、ケルレン王国の再興に孤軍奮闘する「血史ケルレン城」等、冒険小説・スパイ小説の傑作を八編収録。

感想・レビュー・書評

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  • (山本周五郎ファンではなく、少年小説好きの感想です)
    表題作「少年間諜X13号」に感じる寒々しさ、一種の凶気は果たして意図的な皮肉なのだろうか。
    それとも「"時代の熱狂"」に流されたものなのだろうか。

    「少年間諜~」では少年兵たちが自らの命を捨てて戦う。
    主人公率いるのは死を厭わない少年兵だけの部隊だ。
    「一人残らず死ぬんだ」は主人公が仲間を鼓舞する言葉である。
    また後年「特攻」と呼ばれる、捨て身決死の戦術も描かれる。
    狂気と熱気。愛国ありきの理不尽と無茶。始終それが続く。

    「でも戦前ならそんな感じなのでは…?」と思われるかもしれないが、本作とほぼ同年(昭和9年)に書かれた平田晋策の作品などは無闇矢鱈な「決死」は描かれない。
    同じ日米戦を描きながらも、戦うのはあくまで軍人=大人であり、彼らも矢鱈めったら死ぬことを美徳と叫ばない。
    逆に敵に撃墜される味方をみて「可哀そうだ」と涙ぐむシーンもある。
    また優秀な主人公たる少年少女も、敵要塞破壊を単身命じられたり、すぐさま地元勢力を率いて決死隊を組むという無茶苦茶な命令を受けることもない。
    彼らは軍と行動を伴にして、時に役に立つだけの存在だ。
    子供だから怖がることもあるし、ビックリすることもある。そんななかで勇気を奮い立たせたり、味方の無事を祈る。
    平田晋策が軍事ジャーナリストであったということもあるのだろう、人物や作戦に突飛なところは少ない。(日本側の兵器はさすがにチートだが)
    同じ年代の作品でも「捨て身」や「決死」は当たり前ではないのだ。
    (なので、本書収録作が戦前軍国小説!と思われるのもあれなので、平田晋策作品なり山中峯太郎作品も読んでほしいなぁと思うことしきり)

    この作品には熱病のようなものが見える。それは戦争末期の特攻や苛烈な標語の持つものに似ている。
    要所要所で「勇敢に死ぬためにこんな無謀な作戦・戦法をとってるのか?」と思ってしまうようなシーンも多い。
    素人目にみても「それは犠牲前提のやり方では?なぜ?」となる箇所が多々。
    平田作品なら、秘密兵器を出さなくても犠牲者を強いることなくきちんと作戦だてて撃退するだろう。
    そして「わが日本海軍はこれほど強いのだ、きちんと組織された我々だからアメリカにも負けないのだ」と説くだろう。
    少年兵の犠牲を描かなくても。

    死を厭うなという台詞、読者と同じ年頃の少年兵の死に様。
    これらは、小国民を鼓舞するためだろう。
    しかし、それは著者の本心なのか、時代にあわせたものなのか、それともこの狂気のような熱気は皮肉の現れなのか。
    時代背景は承知の上で、戦前の少年小説・冒険小説を楽しんでいるが、そういう自分でも嫌悪感がともなう作品だった。
    「生きてお国のために働くのも本当だ」というヒロイン?の言葉が作者の本心なのだ、と思うよかない。

    あ、突飛なら突飛に降りきってくれたほうが面白いという立場からすれば、「血史ケルレン城」の少年軍事探偵・東くんはキャラもたって、相棒ともどもいいキャラだと思いますです。

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著者プロフィール

(やまもと・しゅうごろう)
1903~1967。山梨県生まれ。小学校を卒業後、質店の山本周五郎商店の徒弟となる。文芸に理解のある店主のもとで創作を始め、1926年の「文藝春秋」に掲載された『須磨寺附近』が出世作となる。デビュー直後は、倶楽部雑誌や少年少女雑誌などに探偵小説や伝奇小説を書いていたが、戦後は政治の非情を題材にした『樅ノ木は残った』、庶民の生活を活写した『赤ひげ診療譚』、『青べか物語』など人間の本質に迫る名作を発表している。1943年に『日本婦道記』が直木賞に選ばれるが受賞を辞退。その後も亡くなるまで、あらゆる文学賞の受賞を拒否し続けた。

「2025年 『山本周五郎[未収録]時代小説集成』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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