ながい坂 (上) (新潮文庫)

  • 新潮社 (2018年11月28日発売)
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  • 本 ・本 (592ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101134826

作品紹介・あらすじ

憎む者は憎め。俺は俺の道を歩いてやる。徒士組の子に生まれた阿部小三郎は、幼少期に身分の差ゆえに受けた屈辱に深い憤りを覚え、人間として目覚める。その口惜しさをバネに文武に励み成長した小三郎は、名を三浦主水正と改め、藩中でも異例の抜擢を受ける。藩主・飛騨守昌治が計画した大堰堤工事の責任者として、主水正は様々な妨害にも屈せず完成を目指し邁進する。

感想・レビュー・書評

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  • 父から勧められて。
    素直で高潔で、使命に生き抜く誇り高い男の一生。時代背景も理解はしているが、ななえのくだりは当方女のためちょっとした嫌悪感。
    しかし我が一生の中で己の使命を見出し、時に軟弱な己を鼓舞しながらも、高潔に柔和に、素直に力強く生き抜いていく姿は読了後、なぜ人は生きるのか、どう生きるのかと考えさせられる。

  • はじめての山本周五郎作品。思っていたよりもずっと読みやすい。ちょっとミステリー?サスペンス?的な要素もあり、序盤から引き込まれた。「なにごとにも人にぬきんでようとすることはいい…人の一生はながいものだ、一足跳びに山の頂点へあがるのも、一歩、一歩としっかり登ってゆくのも、結局は同じことになるんだ、一足跳びにあがるより、一歩ずつ登るほうが途中の草木や泉や、いろいろな風物を見ることができるし、それよりも一歩、一歩を慥かめてきた、という自信をつかむことのほうが強い力になるものだ」は序盤の名言。沁みる。

  • 名作。素晴らしい、時代小説。
    実際、江戸時代にあった事なのだろうか。平和な時代だと思っていたが、なんだかんだ武士の時代が平和なわけないと
    思った。

  • ながい坂だった。面白く読めた。
    大造の存在が大きい。
    「道」タオ
    奉仕、愛ーキリスト教

  • 再読なのだけれど、やはり最後の大団円には感動。
    そして嘆息、
    これだけ楽しめたのはいいけれど、
    記憶とはなんともあいまいなものよと。

    これを私は
    誇り高い性格の者同士ゆえ不仲であった夫婦の劇的な邂逅、
    という風な印象を強く持っていた。

    それは違ってはいなかったが、
    物語は全体として主人公三浦主水正の人間的成長発展をたどっていく
    典型的なビルドゥングス・ロマン(教養小説)なのだ。

    その成長物語がだだごとではなく、ながく重苦しい坂道の旅なのだ。

    作者はある架空の小藩を世間として、
    この世の矛盾に満ちた不条理の世界を描いて見せ、
    さまざまな災難、難題を主人公に遭遇させる。

    それを主人公平侍「主水正(もんどのしょう)」
    のストイック過ぎる性格と理想がなおさら強調するのである。

    それは周五郎の歩いた道でもあるらしいと垣間見られる。

    8歳の時の理不尽な事件が引き金となって、
    上へ上へと、上昇志向に走る姿に、
    理想は野心とそしられ、前にひたすら進んでいく。

    冷静沈着、頭脳も冴えているにもかかわらず、
    1人になったときは、苦しみつつ泣くような
    人間的な弱いところもある主人公。

    しかし結論は「自分の選んだ道だ、行くしかない」とくじけない。

    前半は物語として平坦ではあるが、後半ミステリー風味もあり、
    一気に読ませる。

    私が主水正の妻「つる」に印象付けられたのも、
    主人公のながい道のりの
    ともし火のような存在だからだったのではないだろうか、
    と改めて思ったのである。

  • 山本周五郎氏の本を読むのは3作品め。青べか物語は面白かった。
    本書は同じく時代小説、設定は江戸時代である。偶然にも、これの前に読んだ童門冬二「上杉鷹山」と筋書きが似ていた。主人公は平侍の息子として生まれたが、たまたま藩の上役に気に入られ、いろいろなポジションを与えられながら、数々の試練を経験しながら人として成長していく、という話。
    紀州あたりの、豊かな藩ではあったが、それゆえに商人たちが影響力を持ちすぎて、自分たちに都合よい人物を担ぎ出そうとする。それを守ろうとする立場が藩主側の主人公である。革命を企て、藩の取り組みを邪魔しようとする勢力と、武力ではなく計画・戦略で挑む。
    とても細かくて、登場人物も多く、盛り上がるイベントもなかったので冗長で、上巻で投げ出しそうになった。下巻は物語が整理されてきて、やや面白くなった。「ながい坂」というタイトルは、想像に難くないが、やはり人生そのものを例えた言葉である。それぞれの人の立場で、それぞれの生きざまがあり、きれいな部分と醜い部分が誰にでもある。醜い人間像、人の弱い面もたくさん描かれている。
    主人公が長い時間をかけて見出したそれらの主題は、主人公よりはるかに長く生きてしまっている私には、まぁそれはそうだろう、というもので、新しい発見ではなかった。もうちょっと全体的に起伏が欲しいというところ。でも、ずっと読みたいと思っていた本だったので、完読できてよかった。

  • 阿部小三郎は身分の差からくる差別に憤りを覚えながらもどう前向きに生きていくのかよく分かる本であった。我々も現代社会でも身分の差は無くても様々な差別、ハラスメントを受けて生き抜いていかないといけない。すべては自分の考え方、行動で変えていけるという生き方はとても参考になると思う。これからどんな苦難が待っているのだろうか?身分の差は動かしようがない、出世は望んでいません、一生を懸けた仕事がある、おれの一生を決める仕事だ、どんなに苦しくても自分の力で切り抜けてこそ立ち直れる、人間の一生とはどういうことだろう、等人間としての素直さ、前向きさを感じられる。

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著者プロフィール

(やまもと・しゅうごろう)
1903~1967。山梨県生まれ。小学校を卒業後、質店の山本周五郎商店の徒弟となる。文芸に理解のある店主のもとで創作を始め、1926年の「文藝春秋」に掲載された『須磨寺附近』が出世作となる。デビュー直後は、倶楽部雑誌や少年少女雑誌などに探偵小説や伝奇小説を書いていたが、戦後は政治の非情を題材にした『樅ノ木は残った』、庶民の生活を活写した『赤ひげ診療譚』、『青べか物語』など人間の本質に迫る名作を発表している。1943年に『日本婦道記』が直木賞に選ばれるが受賞を辞退。その後も亡くなるまで、あらゆる文学賞の受賞を拒否し続けた。

「2025年 『山本周五郎[未収録]時代小説集成』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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