赤ひげ診療譚 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 16
  • Amazon.co.jp ・本 (414ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101134857

作品紹介・あらすじ

清らかで美しく、貪欲で邪悪なのが人間だ。幕府の御番医という栄達の道を歩むべく長崎遊学から戻った保本登は、小石川養生所の“赤ひげ”とよばれる医長・新出去定の元、医員の見習勤務を命ぜられる。不本意な登は赤ひげに反抗するが、その一見乱暴な言動の底に脈打つ強靱な精神に次第に惹かれてゆく。傷ついた若き医生と師との魂のふれあいを描く医療小説の最高傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 貧しい人がかかる小石川養生所での患者の話や、見習いである保本登の成長、医長の赤ひげこと新出去定の人格者たる言葉
    面白かったです

    医術には個体の生命力以上の能力はない。病気を克服する生命力に多少の助力ができるだけである。

    医術は進歩しているんだろうけど、診察ということに関しては昔の方が優れていたんじゃないかと思いました。
    今は細分化しすぎて、マニュアル化している。
    けど、間違えるということをなくすためには必要か、、

  • 江戸時代の貧しい庶民たちを診療する養生所を舞台にした八篇の連作形式の小説。三船敏郎と加山雄三が出演した、黒澤明による映画化作品も有名である。

    幕府の御番医としてエリート医師の道を歩むために三年間の長崎遊学を終えた保本登が、主に貧乏人を相手にする小石川養生所に医員見習として住み込むところに物語が始まる。エリート医師の卵としてのプライド、不本意な就職先、遊学前に婚約を交わしたちぐさに逃げられたことなどが重なって荒れる登は酒に酔って暴れるなど、養生所に馴染もうとしない。そんな登だったが、養生所の代表で強烈な個性を放つ医師"赤ひげ"こと新出去定や、患者たちとの関わりを通して認識を改め、人間的な成長をとげていく。

    基本は一話完結の連作形式だが、途中参加の人物が養生所の住人に加わったり、全体を通して登や去定の背景が徐々に明かになり、破れた登の縁談のその後を描くなど、シリーズものとしての性格も併せもつ。タイトルにもなっている"赤ひげ"は去定に反発する医師による蔑称であり、意外にも一話目にしか登場しない。予想される通り、見習い医師である登視点で"赤ひげ"こと去定の破天荒な魅力が描かれるのも面白さだが、それだけではない。去定がほとんど活躍しないエピソードも複数あり、それでも短編作品としての魅力から引き込まれる。また、各話の終わり方についても必ずしも勧善懲悪のハッピーエンドとは限らず、救いがなかったり、突き放すような結末もあるなど様々となっている。なお、作中に登場する患者は身体的な病よりも精神的な病とされる者か、末期な患者がほとんどである。

    裕福な患者から法外な薬代や診察料をふんだくり、ぶっきらぼうながらも貧しい人々の助けになろうと尽力する去定が体現する思想は、やはり作品の大きな魅力だろう。短気な性格もあって、ときには弱者にたかる者たちに激昂することはあっても、「この世に悪人はない」と断言し、常に人間そのものに罪はなく環境によるものだとする人間観と、医療の非力さへの認識に貫かれている。娯楽小説でありながらも単純に善悪によって断罪するではなく、生きることの苦さ、世の中のままならなさも、そのままに提示し、ときに貧しい人々が報われないままに無残な死を遂げる。映画化作品はもっとわかりやすい面白さだった覚えがある。原作である本作には、そこで汲みとりきれない奥行を感じ、映画鑑賞済みでも読む価値は十分あると思える。娯楽作品としての期待を越えて、より味わい深い作品だった。

    やはり手塚治虫の漫画『ブラック・ジャック』も、本作の新出去定に強い影響を受けたキャラクターだろうか。

  • 診療代もままならない貧民に対する、献身的ともいえる治療を行う医師、新出去定。がんこな性格の持ち主の彼のもとに、許嫁に裏切られ、心が荒む若き医師、保本登が預けられる。

    保本の目を通して映し出される、新出の医術。それは栄誉や出世、金もうけとは無縁の、しかしまず人のことを思いやる、何とも「生きがいのある」生き方だった。時代や場所は異なっても、こうした生き方の尊さは普遍的なものであり、たとえ読書という営みであっても、それを示されることによって暖かい感動を覚えることになる。

    拝金主義、出世主義のまかり通る今の時代だからこそ、「本当の生き方」といったものの示唆を与えてくれる作品だ。

  • 赤ひげは、江戸時代の武家社会の裏にある貧しい人々を診療している。長崎遊学から戻った登は医員の見習いとして勤務を命じられ不服ながらに働き始めるが、赤ひげに次第に惹かれていく。
    貧困と無知のために苦しむ人々の疲れ果てた叫びを聞きながら、医術を模索する師弟の触れ合いが温かい。

  • 古い時代を題材にした小説への苦手意識があったが、現代でこのようなストーリーが描けるだろうかと思うほど面白かった。
    登の成長物語と、人の生き死にや業の深さ、貧困や暮らしの中であっけらかんと見える庶民の中にひそむ仄暗さ。

    「毒草はどう培っても毒草と言うわけか、ふん」
    「だが保本、人間は毒草から効力の高い薬を作り出しているぞ、あのおかねと言う女は悪い親だが、怒鳴りつけたり卑しめたりすればいっそう悪くするばかりだ、毒草から薬を作り出したように、悪い人間の中からも善きものを引き出す努力をしなければならない、人間は人間なんだ」

    狂女おゆみの話や、三度目の正直、鶯ばか、氷の下の芽が特に面白かった。前3つはどこかねじがゆがんでしまった、あるいは飛んでしまった人の話だが、最後は、生きるために自ら狂うフリをする話、という全体の構成も面白い。

  • 市井の患者に寄り添う赤ひげ先生の連作短編集…なんだけど、新人医師・登の成長譚でもあった。「人間ほど尊く美しく、清らかで頼もしいものはない。だがまた人間ほど卑しく汚らわしく、愚鈍で邪悪で貪欲でいやらしいものはもない」窃盗や殺人でさえ、ある人にとっては正義になることもある。過酷な環境の曖昧な善悪の定義の前では、話は単なる医療モノでは終わらない。徒労を徒労にしない診療方針や、毒は薬になれることもあると、人を切り捨てない赤ひげの懐の深さ。赤ひげの過去に何があったのか、詳細が語られることはない。かつての若人・登だった時が赤ひげにもあるのかもしれないとの解説がよかった。

  • 若者が成長していく様子と、昔の貧しさに負けない主人公の強い精神力にとても引き込まれました。

  • 勧善懲悪ではなく、ハッピーエンドでもない、さじ加減が絶妙

  • 『赤ひげ3』
    NHK BSプレミアム/毎週金曜放送
    2020年10月23日から
    ――――――――――
    『赤ひげ2』
    NHK BSプレミアム/毎週金曜放送
    2019年11月1日から
    ――――――――――
    『赤ひげ』
    NHK BSプレミアム/毎週金曜放送
    2017年11月3日から

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著者プロフィール

1903年、山梨県に生まれる。本名は清水三十六(さとむ)。小学校卒業後、銀座の質屋で奉公、後に筆名としてその名を借りることになる店主・山本周五郎の庇護のもと、同人誌などに小説を書き始める。1926年、「文藝春秋」に『須磨寺附近』を発表、文壇デビュー。その後、不遇の時代が続くが、時代小説作家として認められはじめる。戦中から戦後まで連載が続けられた『日本婦道記』(1942-1946)で直木賞に推されるが辞退。主な代表作に『樅ノ木は残った』(1958)、『赤ひげ診療譚』(1958)、『青べか物語』(1960)、『おさん』(1961)などがある。1967年、逝去。

「2020年 『雨あがる 映画化作品集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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