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本 ・本 (704ページ) / ISBN・EAN: 9784101134888
作品紹介・あらすじ
徳川中期、農村が疲弊し、都市部の商人が力を持ち始めた転換点。老中首座の重責を担う田沼意次には、貧民を虐げる血も涙もなき重税、汚濁にまみれた賄賂政治と非難と悪罵が降りかかる。――悪政の動かぬ証拠を掴むため、反田沼派より勘定方に送り込まれた河井保之助だったが、調べれば調べるほど、田沼の重商主義的政策や農地拡張のための印旛沼手賀沼の干拓事業には道理があり、しかもなんの不正の痕も出てこない。やがて、田沼暗殺の実行者の一人として動くよう指示される。保之助の友人青山信二郎はさる筋からの指令で、田沼の政治を取り上げて根拠のない悪口雑言を流布させ続けていたが、原稿を押さえられ、江戸城への出頭を命じられた。田沼に会ってみると、見事な人物であった。信二郎は筆を断ち、追われる身となる。将軍家治の鷹狩りの折に、ふた組の暗殺者が田沼の命を狙っていることを聞きつけた信二郎は、意を決して田沼意次の中屋敷を訪ねる……。まったく新しい視点から、絶望の淵にあっても、孤独に耐え、改革を押し進めた田沼意次という不屈の人間像を、時流に翻弄される男女の諸相を通して描く歴史名編。文字を大きく組み直し、カバーを新装し、主要登場人物一覧と注解を付した新編集でお届けする。
感想・レビュー・書評
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江戸時代の疲弊した状況を打破するために奮闘した田沼意次の断固とした経済改革と挫折を背景としながらも物語の筋は信二郎、保之助、そしてその子を、中心に展開していく。3人3様の生き方はそれぞれの目線では正義ではある。自分の気持ち、特に精神に忠実に生きたい信二郎の、人気小説を自ら絶版にするなど、物理的な保身ならあり得ない行動の気高さ。その子の、女性の性に忠実に行動するあまり周りの人々を翻弄する魔性の人。そして、周りに翻弄されながらこちらも身を滅ぼす保之助。保之助の生き方が1番人間らしく感じる。
終盤の、ぺージが少なくなる中の展開に焦燥感を感じる。そして最後の2ページで、こんな形で終わるのかという鮮やかな、余韻の残る締めくくり。
氏の他の作品を読みたくなりました。
以下、とても印象に残る、記しておきたいフレーズです。中々言えない、むき出しの人間感情です。
・主従とか夫婦友達という関係は生きるための方便か単純な習慣に過ぎず、それは目に見えない絆となって人間を縛る。そして多くの人間がその絆を重大と考えるあまり自ら縛られていることに気が付かず本当は好ましくない生活にもいやいや引きずられて行んだ。
・人と人の繋がりは結局そのくらいが限度で、あとは習慣と惰性なんだ。
・献身とか奉公とか言うがそれはそのことが自分を満足させるからそれらに喜びを感じる。それは男女の感情も同じで、自分にとって満足であるから愛する。人間は常に自己中心的で、愛される人は単にその人の対象に過ぎない。
・愛する人との変わらぬ愛とは、毎日鰻の蒲焼きを食べ続けるようなものさ。 -
実は今回読んだのは奥付によれば1989年発行のかなり古い旧版で字体なんかも今と比べると小さくてかつ読みづらいものだったが、その割には時間の記述が(江戸時代にもかかわらず)現代式になっていたりしてちょっと違和感あり。とはいうものの「樅の木は残った」に通じる、通説への疑問・反論やフィクションとのバランスなど非常に面白く読めた。
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老中田沼意次の暗殺を命じられた青山信二郎と河井保之助。幕府の権力争いに巻き込まれ、運命を狂わせられる親友の2人。正直に生きるとは、なんと難しいことでしょう。人間の悲しさと愛しさがふんだんに描かれます。
著者プロフィール
山本周五郎の作品






yoshi2013さんがこの本での印象に残ったフレーズとして、ここに書き記しているものって、今の世の中、な...
yoshi2013さんがこの本での印象に残ったフレーズとして、ここに書き記しているものって、今の世の中、なんとなく共通の通念(考え方と言った方がいいか?)としてある、濃密な人間関係を(面倒くさとして)厭う感覚じゃないですか。
それが、山本周五郎という、一昔前の人、それも人情小説を書いていた人(なのかは2冊くらい読んだだけなので知りませんけどw)が、登場人物に言わせているっていうのは面白いですね。
ただ、その反面、今の世の中って、誰もが面倒くさい濃密な人間関係を厭うことで避け合うあまり、多くの人が人情の喪失感に喘いでいる(?)ような気もするんですよね(^^ゞ
いや。たまたま、『とめどもなく囁く』という本を読んで、今みたいな便利な世の中を暮らすにはは、親密な仲だろうがそうでなかろうが、ある程度の距離を取って付き合うってことが必要なのかな?って思ったこともあって。
まー、そんなことを書いてみました(^^ゞ