五瓣の椿 (新潮文庫)

  • 新潮社 (2019年5月29日発売)
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  • 本 ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101134895

作品紹介・あらすじ

仇はきっとうちます。娘はそっと釵を忍ばせた。婿養子の父親は懸命に働き、店の身代を大きくした。淫蕩な母親は陰で不貞を繰り返した。労咳に侵された父親の最期の日々、娘の懸命の願いも聞かず母親は若い役者と遊び惚けた。父親が死んだ夜、母親は娘に出生の秘密を明かす。そして、娘は羅刹と化した……。倒叙型のミステリー仕立てで描く法と人倫の境界をとらえた傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 半世紀後ぶりに読み返しました。初めて読んだ記念すべき周五郎作品なのですが、内容が強烈過ぎたのか、今一つピンと来ない印象が残っておりました。ところが、50年の歳月は自分自身も社会情勢をも変化させたのか、ちっとも古びていない今日の問題と言っていいものでありました。

    なんで当時わからなかったのか。18歳のみめうるわしい乙女が猟奇的な殺人を次々に犯すなんて!とヒロインが若すぎる、そして読むわたしが世間知らずで、ものを知らなかったのだと。

    いつの世も片隅でまじめに苦しく努力する人々と、こずるく世渡り上手に得をするような人たちとで世の中はできているのでありまして、それを江戸時代の末期に置いてみて、ミステリー仕立てにグイグイ読ませる筆力はすごいし、構成がガタついていないというか、細かなところまで行き届いたストーリーはさすが!

    許せない罪を犯されてもそれを罰するに、何をやってもいいということはないけれども、そうしなけらばならない悔しさとヒロインの気質を、見抜いたかのような周五郎さんの並々ならぬ人間性への洞察力。

    ヒロインのつぶやき
    「それは・・・・この世には御定法では罰することのできない罪がある、ということでございます。 倫」

    現代でも理不尽な被害にあった人々の、悔しい解決されない嘆きがなんと多くあることか、と想いながら。「罪と罰」は永遠のテーマです。

  • 銀のかんざし、椿の花弁、美少女というビジュアルがそのまま今アニメの設定にでもなりそうなくらい。手塚治虫の女性キャラしかり、筒井康隆の七瀬シリーズしかり、先達たちはわかってるよなぁ。ヒロインおしのと父の最期の無念のひと時を描く序章の濃度、そのあと5人の仇を一章で一殺ずつ果たしていくという構成の巧みさ。その三章から現れる与力による追及のサスペンス、四章と五章での仇相手の配置などのアイデアも素晴らしい。茶屋の間取りの細かな描写や江戸の街並みの風景描写も簡潔ながら豊富に描かれて情緒も満点。文章のテンポもいい。

  • 山本周五郎としては異色の倒錯型ミステリー。淫蕩な母と自分の汚れた血。19歳の女性の潔癖と目覚め。この手の女性を描けるのはこの作家しかいない。
    没後50年企画で改版が多い周五郎作品。この機会に未読の本書を初めて読む。「樅ノ木は残った」「赤ひげ診療譚」や多くの短編は読んだことがあったが本作は異色の存在だろう。松本清張の作品を周五郎ばりにアレンジしたかのように思える。

    周五郎作品に登場する女性の典型のような主人公のキャラクター。女の子から大人の女へ、ちょうどその狭間、母の淫蕩が生理的に認められない潔癖。

    時代を超えて読み継がれる周五郎作品。多くの文豪の作品が絶版となる中、今でも読み継がれる魅力は何なのだろうか。殺伐とした世、人と人の関係が希薄になればなるほど、周五郎の哀しい人達に向けた優しい目が求められる時代なのだろうか。

  • 世の中は今も昔も変わってないなと考えさせられます。

  • 椿、冬に始まり冬に終わる哀しい復讐の物語

  • 時代劇仕立てのミステリーというか復習譚というか、スリリングでぐんぐん読めるストーリーでした。最終的にはこのように決着するしかないだろうなという終わりかたでしたが、殺さずに生かすことで死ぬまで苦しみを背負わせるということで復讐を遂げるというのが斬新でした。

  • 復讐物。好きで3回は読んでるかも。
    序盤では、父親思いの優しい少女として書かれているのが、復讐を決めた途端、非情に徹する姿がなんとも物悲しい…

  • 山本周五郎全集11(再読)

    この世には御定法で罰することのできない罪がある。
    薬種・油売商むさし屋の寮で火事があり、焼け跡から主人と妻・娘とみられる3人の死体が発見される。
    その後、一人の美しい娘によると思われる殺人事件が続き、その死体のそばにはいつも一枚の椿の花びらが落ちていた。
    報われず死んだ父への思いと人の気持ちをもてあそぶ放蕩な母とその相手への恨みを晴らす復習劇。
    スリリングなサスペンスドラマの趣。面白い。

  • 以前NHKでドラマをやっていたことがあって、興味を持ったので原作本を読んでみました。
    残念ながらドラマのほうは若干オリジナル要素が多かったので、同じ作品とは思えなかったのですが、与力の青木さんがじわじわと犯人に近づいていくところなど喪服のランデブーを彷仏とさせ、これはこれでとても面白かったです。

  • 主人公のおしのと同い年くらいの時に読んだのだと思う。
    ラスト、そうなるかぁ…と思いつつも、いちばん救いのあるエンディングかもしれない。何よりも自分の中に流れる血が汚らわしく、さらに汚らわしい血に染まって行く自分…それを許せなかったのだろうと感じた。

    2001年の国仲涼子主演のドラマをきっかけに手に取った。

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著者プロフィール

(やまもと・しゅうごろう)
1903~1967。山梨県生まれ。小学校を卒業後、質店の山本周五郎商店の徒弟となる。文芸に理解のある店主のもとで創作を始め、1926年の「文藝春秋」に掲載された『須磨寺附近』が出世作となる。デビュー直後は、倶楽部雑誌や少年少女雑誌などに探偵小説や伝奇小説を書いていたが、戦後は政治の非情を題材にした『樅ノ木は残った』、庶民の生活を活写した『赤ひげ診療譚』、『青べか物語』など人間の本質に迫る名作を発表している。1943年に『日本婦道記』が直木賞に選ばれるが受賞を辞退。その後も亡くなるまで、あらゆる文学賞の受賞を拒否し続けた。

「2025年 『山本周五郎[未収録]時代小説集成』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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