忍ぶ川 (新潮文庫 み-6-1 新潮文庫)

  • 新潮社 (1965年6月1日発売)
3.69
  • (44)
  • (55)
  • (80)
  • (10)
  • (1)
本棚登録 : 717
感想 : 65
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • 本 ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101135014

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 芥川賞
    たまには過去の名作というものを読んでみようと手に取る。
    東北の裕福な呉服屋の六人兄弟の末子である作者だが、姉二人は自殺、兄二人は失踪、残された姉は弱視という凄まじい家庭環境。その血に怯える心情を描く私小説を中心とした中短編集。
    売れない小説を書いているだけで、働こうともしない夫に文句も言わず、義父の最期も献身的に看取る、遊郭街で育った妻のまっすぐな人柄が驚きだった。
    ふだん読み慣れているような現代の小説とはかなり異なった時代設定であり文章。大作家の初期の作品ということだが、文学を読んだという充実感はあるが、正直良さのわからないところもあった。

  • 家族の重々しい暗い過去と血を継ぐ主人公の私と小さな料亭で働く志乃の出逢いと婚姻を描いた恋物語。眩しいほどの情愛の清々しさと文章の瑞々しさに、読んでいるこちらが恥じらうほど。昭和35年下期(1960年)の芥川賞受賞作。過ぎし時代を感じさせる作品だった。

  • ⚫︎受け取ったメッセージ
    川の流れのように、粛々と流れる時間。
    一緒にいてくれる人を思う気持ちが、
    水面を輝かせる。


    ⚫︎あらすじ(本概要より転載)
    大学生の私は、料亭「忍ぶ川」で志乃としりあった。それぞれの家族とのかかわりやいたましい生い立ちを乗り越え労わりながら逞しく生き抜こうとする。くり返し読み継がれていく名作   第44回芥川賞受賞作品

    ⚫︎感想
    素直で、わかりやすい日本語で書かれている。その表現が、話の美しさ、慎ましさを引き立てていると思った。主人公二人は家族とのかかわりで、それぞれ苦しみをもっていても、それが二人の性格を捻じ曲げることなく、素直で美しい。悪人も、ズレた人も出てこない、ものすごく劇的なことが起こるわけでもない。穏やかな川のように、時間が粛々と流れる中で、丁寧に人物像や会話がつむがれる。何が起こるわけでもない日常を切り取って表現し、読ませることができるのが、本物の筆力だと思う。

  • 表題作「忍ぶ川」を含む7つの短編集である。「驢馬」の1編だけ満州人の留学生の差別を描いた作品で、他の6編は「忍ぶ川」に連なる作品と捉えてもいいのではないだろうか。

    「忍ぶ川」は昭和初期の恋愛小説。不幸な過去を互いに持ちながらも出会い、果てに結ばれるという目新しいストーリーではないが、情景や心情が読み手に見事に投影されきて、胸が熱くなる。改めて微妙な加減を表す日本語の凄さと平明な言葉でここまで読み手に迫ってくる、三浦氏の文筆の素晴らしさを感じることができた作品だった。


  • 大好きかつ素晴らしい短編作品。
    男女が出会い家族となり生きていくまでが、清純で慎ましく描かれる。
    時代背景か若干の男尊女卑は感じるが、素朴な愛情が流れる数作が続く。
    ラストの『驢馬』は毛色の違う戦争モノだが、ずっと哀しみがこびりつく名作。

  • 「忍ぶ川」に続いて「初夜」「帰郷」「団欒」「恥の譜」「幻燈畫集」と短編が続き、最後それらとは別の話「驢馬」が収録されている。
    この小説は作者の体験に基づいた私小説らしい。料亭で働いていた志乃という女に惚れて結婚した主人公。その馴れ初めから物語は始まる。「初夜」では主人公の兄弟姉妹が自殺や失踪を遂げていことが明かされ、その家族の血を引き継いでしまっていることを悩む主人公は志乃に子供は作りたくないと言う。そこに主人公の父が危篤となり父の死を目の当たりにしてそれをきっかけに子供を作ろうという話。「帰郷」は大学卒業後主人公は作家として活動するもの全く売れず妻が内職でアイスクリーム容器を作りそれで生活している話。妻の収入で生活しなければならないことにプライドが傷つけられるがそれしか生きる道がないことに気づいている主人公の葛藤が描かれている。「団欒」ではサラリーマン夫婦が郊外にアパートを見つけるところから始まる。そのアパートは壁がベニヤ板で音がダダ漏れ状態だがそんな環境でも受け入れないといけない状況。子供の誕生日に銭湯に出かけた時、子供と走っている時主人公が転けてしまい子供に怪我をさせてしまう。その際の主人公を見る妻の目がとても冷淡なのが印象的。「恥の譜」は主人公の父が脳軟化症で危篤となりその父を看病するために故郷へと帰る話。主人公にとって死と死体に間はないもので(姉妹が自殺しているから)父が病気により徐々に死に向かっている様を見て死に対する考えが変わる。「幻燈畫集」は主人公の幼少期の話。姉の死が自殺であったことを家族に秘密にされており、同級生から聞かされるのは辛い。そういうのがあって大人に対して不信を抱いていく主人公が描かれている。「驢馬」は戦時中に満州から日本に留学してきた満人の話。彼は心が綺麗すぎて同級生にいいように扱われており、逆に同じ留学生の戦は校長やその犬、同級生たちの考えを機敏に感じ取り立ち振る舞うことで処世していく対比が面白い。

    志乃のような女性ってかっこいいよね。素直だし男性を立てるし誠実だし。

  • 32頁まで読んだ。

    2021年5月8日、追記。

    著者、三浦哲郎さん。
    ウィキペディアには、次のように書かれている。

    三浦 哲郎(みうら てつお、1931年3月16日 - 2010年8月29日)は、日本の小説家、日本芸術院会員。

    青森県八戸市三日町の呉服屋「丸三」の三男として生まれる。 青森県立八戸高等学校へ進学し、八戸高校の籠球部時代に「はやぶさの哲」と呼ばれた(当時の遠征の様子を『笹舟日記』に残している)。1949年に高校を卒業して早稲田大学政治経済学部経済学科へ進学したが、1950年に次兄失踪のため、休学して父の郷里の金田一村湯田(現在の二戸市)に帰郷、八戸市立白銀中学校で助教諭として体育と英語を教える。

    さらに、ウィキペディアの引用です。
    兄弟がそれなりにいたようですが、以下のとおりで、大変だったようです。

    長兄 - 家業を手伝っていたが、1937年に失踪。
    次兄 - 三浦の学費を支援していたが、事業に失敗し、1950年に失踪。
    長姉 - 先天性色素欠乏症で弱視のため琴を習っていたが、1938年に服毒自殺。
    二姉 - 女子高等師範学校の受験に失敗し、1937年に19歳で津軽海峡で投身自殺。
    三姉 - 先天性色素欠乏症で弱視だったが、琴の師匠となり家計を支えた。

  • ユタを読んでおもしろかったので、他の作品も読んでみたくて読みました。
    寒い地方での暮らしや奥様との様子が小説の中から窺える感じでした。

  • 「忍ぶ川」のみの感想
    大好きすぎて何度読んだかわかりません。
    特にラストが好き。スケールが大きいわけでも長編ってわけでもないのに、読んだ後は壮大な気持ちになる。ピュアで胸が打たれる小説。

  • 「恥の譜」
     こんな豊かな表情がもし生前の父にあったとしたら、それを汚辱で塗りつぶしてしまったのは上の四人のきょうだいの罪であり、そうして父が生きているあいだにその汚辱を雪ぎえなかったは私の恥だと思った。死だけがそれをなしえたのである。そして、私の恥は永久に消えない。

全65件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

三浦哲郎

一九三一(昭和六)年、青森県八戸市生まれ。早稲田大学文学部仏文科を卒業。在学中より井伏鱒二に師事した。五五年「十五歳の周囲」で新潮同人雑誌賞、六一年「忍ぶ川」で芥川賞、七六年『拳銃と十五の短篇』で野間文芸賞、八三年『少年讃歌』で日本文学大賞、八五年『白夜を旅する人々』で大佛次郎賞、九一年『みちづれ』で伊藤整文学賞を受賞。短篇小説の名手として知られ、優れた短篇作品に贈られる川端康成文学賞を、九〇年に「じねんじょ」、九五年に「みのむし」で二度にわたり受賞。他の著作に『ユタとふしぎな仲間たち』『おろおろ草紙』『三浦哲郎自選全集』(全十三巻)などがある。二〇一〇(平成二十二)年死去。

「2020年 『盆土産と十七の短篇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

三浦哲郎の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×