ふなうた (新潮文庫 み 6-15 短篇集モザイク 2)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (243ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101135151

感想・レビュー・書評

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  • 18編の短編集。
    小谷野さんの本による疲労から(笑)救い出してくれた本だ。
    同じ著者の「みちづれ」のレビューにも書いたが、中学生向けの朗読作品を探していて巡り合った作品。
    手元に置いて、つれづれの癒しアイテムとしてお世話になっている。

    今年の初め、「みちづれ」の中の一篇である「とんかつ」を中学生に朗読した。
    すると身じろぎもせずに聞いていた生徒が「ふなうた」にも良い作品がありますよと教えてくれた。どの作品がお薦めだったのか、その後コロナ禍でお話会も休みになったまま卒業したため、もう尋ねることも出来ない。
    まして粒よりの短編集。
    どれかひとつを選ぶのは難易度が高すぎる。

    世間は芥川と直木でわいているだろうが、著者は芥川賞の選考委員のひとりだった。
    この本の最後に載っている「みのむし」は、95年の川端康成文学賞受賞作品。
    わずか10ページ半の掌編だが、思わずうなるほどの名作だ。
    語り過ぎず、省略もせず、一切の無駄がない。
    文中から鮮やかにたちあがるイメージ。
    そうか、みのむしってそういうことかと分かるとき、微かな震えが来るほどだ。

    小さな日常の風景を切り取った作品群で、大事件は何一つ起こらない。でも胸の底をえぐられるような話も多い。
    悲しみ、悔恨、小さな気づき、巡る運、羞恥、ほのかな恋。
    刺激的な作品を求める読者だったら、すうっと通り過ぎてしまうだろう。
    これ以上の短編の書き手は、もう現れないかもしれないのに。

    よく見て、よく聞いて、よく考えよい言葉を紡ぐ。
    著者もまた、「言葉をこうして」残してくれた。
    調べていたら、何とも悲惨な家族の話に出会った。
    6人兄弟のうち4人が、自死または失踪している。
    残るふたりのうちのひとりが、三浦哲郎さんだ。
    きめ細かく練られた美しい文章は、亡くなった家族への追悼だったのか。
    「たきび」「さくらがい」「ひばしら」「ぜにまくら」「みのむし」が殊に良い。
    来月が没後10周年だという。
    作品を読んだ感想とお礼を手紙にしたためたい気分だが、宛先さえ分からない。
    「気づいたときは失われたとき」で、それは作家さんにも当てはまるのだろう。

    • nejidonさん
      夜型さん、おはようございます(^^♪
      教えていただいたその本は、リストには入っていませんでした。
      でも、たった今入れましたよ・笑
      牧野...
      夜型さん、おはようございます(^^♪
      教えていただいたその本は、リストには入っていませんでした。
      でも、たった今入れましたよ・笑
      牧野さんの本で検索すると最初に登場する2冊ですね。楽しみです!
      たどり着けるように読み進めてみます。
      この頃は、レビューした本から登録してくださる方が増えました。
      読みたいと思ってもらえるまでに多少なりともステップアップしたようで、秘かに喜んでおります(*^-^*)
      コロナ禍の解決の兆しも見えず不穏な空気ですが、なんとか頑張りましょうね。
      2020/07/16
    • 淳水堂さん
      nejidonさんこんばんは。
      すみません、こちらのnejidonさんのレビュー見逃しておりました。同じタイミングですね(^^)

      ふなうた...
      nejidonさんこんばんは。
      すみません、こちらのnejidonさんのレビュー見逃しておりました。同じタイミングですね(^^)

      ふなうた、たきび、ぜにまくら、いい話ですよね。
      そして、でんせつ、メダカ、みのむし、あたりが喉に引っかかった小骨のように、忘れることができないでいます。

      三浦哲郎さんの兄弟の話は知りませんでした。「ユタ」の座敷童子も家族を思って書いたのかな。
      2020/07/27
    • nejidonさん
      ふふ、淳水堂さん、またまたニアミスです・笑
      最近知ったのですが「鈴木るりかさん」が一番好きな作品は「みのむし」だそうです。
      恐ろしい中学...
      ふふ、淳水堂さん、またまたニアミスです・笑
      最近知ったのですが「鈴木るりかさん」が一番好きな作品は「みのむし」だそうです。
      恐ろしい中学生がいたものです。

      タイムラインが時間帯によって激混みで、相互フォローしている方を見落とすこともあります。
      私もよくあるのでお気になさらずにね。
      2020/07/27
  • 三浦哲郎短編集モザイク2冊目「ふなうた」
    性、糞尿、生命を嚥み込む、自死…、1冊目より生々しさがあり、体がムズムズ〜っとするお話も。(((=_=)))

     80歳のお祝い、傘寿の席で孫が披露したロシア民謡”舟歌”。しかし彼の耳に残る”舟歌”とは違う歌だった。それは戦地ロシアで聞いた美しい歌だった。もう生きては帰れないと思ったあの夜に、この世の最後に聞く歌だと思った歌だったのに。/『ふなうた』

     夫婦の睦み合い。異国で自分だけに囁くように聞こえてきたアナウンス。妄想状態の女から10年受け続けている電話の。それらの声。/『こえ』

     田舎の山道にできた夜の店。クリーニング屋の要は一人の女に目を留める。だが別の男といるところを見てその場を離れた。山の中に入った要の足元に群生する赤い赤いアワタケ。/『あわたけ』

     亡くなった妻と結婚したのは、焚き火の事故がきっかけだった。家に作った暖炉の側にいると、妻が語りかけてくるようだ。/『たきび』

     伝説は糞尿譚が好きなのだろうか。地元にあった伝説と自分の経験とを考えてみる。読んでいてお尻がムズムズしてきた^^;/『でんせつ』

     藪入りの里帰りを密かに楽しむ老婦人の一コマ。/『やぶいり』

     こんな老人しかいない山の村なのに赤子の泣き声がした。かつて子を産んだ女として久しぶりに聞く泣き声に涙が出そうになる。いても立ってもいられなくなり声の主を探す。/『よなき』

     かつて桜貝のようだった爪の色は今では紫色だ。それと同時に身体の動きも悪くなっている。だが入院して退院したら、ちゃんと桜貝がもどっていたんだ。/『さくらがい』

     昔気質の仕立て屋は、お客の体をさっと触ってその癖を取る。男性客の場合は股間のその居所も一瞬で触り取らなければいけない。でもその客にはそれが感じられなかったんだ。長年の経験が狂ったかと混乱する仕立て屋。(←本人は真剣なんだが、読者としてはコミカルな感じ)/『てざわり』

     帰りの見えない入院でも、下駄を持たせないわけには行かない。でもあの世への旅立ちは下駄でなく草鞋だ。それではこの、履けなくなった帰りの下駄はどうしよう。/『かえりのげた』

     ホテルの朝定食。隣りに座った老夫婦は初めてのホテルに驚きと若返った気持ちを持って泊まったようだ。/『ブレックファースト』

     コンボ(ごぼう)堀なんていわれる腸捻転で死んだじいさまの墓の上にきれいに牛蒡の花が咲いた。庭に根付いた山椒から咲いた花。花豆を所望する老婦人にまずはふやかす間は目で楽しんでもらおう。/『はな・三しゅ』

     昔彼の遺品を燃やした。私は彼の死に責任があるのか。あのときと同じ火柱をみて、自分はきっと何度かうっかりして他人の不幸の原因になったことがあったのだろうと考える。/『ひばしら』

     ツアーの老人たちは一人、一人と入れ歯を外した。入れ歯の品評会とは呆れるじゃないか。/『いれば』

     83歳の誕生日を金寿と言って祝う。その前夜に銭を枕元に入れて、お祝いに来てくれた人たちに配るんだ。じいさんは寝たきりになってしまったけれど、それでもおめでたいから金寿をすることにした。すると病人に中った人の銭枕ならむしろ演技が良いってみんながお祝いに来てくれたし、昔馴染とも再会できたし、これはこれでよいのかもしれない。/『ぜにまくら』

     もうすぐ還暦を迎える妻は、跳ねた油で火傷をして慌てて東京に帰っていった。いままで連れ添った相手だけれど、夫である自分よりも女であることを優先するということがこの先もあるのだろうか。(←いや、これは帰してあげて…)/『かお』

     一匹だけ残ったメダカ。田舎に帰らなければいけなくなった女は流し台に向かう。
     …読んでいて胸のあたりがムズムズと…(((=﹏=)))/『メダカ』

     癌の老女が退院したが、夫は認知症となっていた。翌日の朝、痴呆症の夫はリンゴの木からぶら下がっているものを見た。こりゃあまた、がいにでっかいミノムシぞ。
     …読んで心がムズムズと…(((=_=)))/『みのむし』

    • nejidonさん
      おお、読まれたのですね!
      嬉しいです、ありがとうございます。
      深い穴の前で、トン・・と背中を押されるような気分になりません?
      すごい書...
      おお、読まれたのですね!
      嬉しいです、ありがとうございます。
      深い穴の前で、トン・・と背中を押されるような気分になりません?
      すごい書き手さんがいたものです。
      もう一度、ありがとうございます
      2020/07/27
  • 18話からなる短編集。
    短い話がばかりだけど、深みを感じる。ときに落とし穴に突き落とされたような気持ちにさえなる。
    多種多様なの人生の一部が切り取られていて、まったく飽きがこない。

    「みのむし」は哀しい衝撃で、「メダカ」は予想外の衝撃だった。どちらも恐ろしい。

  • なんて恐ろしい作家だろう・・・ここまで人間の孤独や悲しみの淵を巧みに描ける人に出会ったのは初めてかもしれない。
    時に東北の農村、また時には繁華街の街角を舞台に織り成されるどこか後味の悪い人間模様。
    深深とした沈黙の中で読みたくなる短編たち。
    中でも特に最後の『みのむし』はわずか10ページにも関わらず救いようのない鬱っぷりで独特の存在感を放っている。
    今まで読んだ短編の中でも5本の指に入るかも。

  • おじいさんが聞きたかったというロシアの「ふなうた」を調べてみた。おそらくはチャイコフスキー作のふなうた、のことだったのだろう。聞いてみた。
    あぁ、そうかと思った。
    おじいさんが、人生の最後の歌になるかもしれないと思って遠い昔、ロシア兵が歌うのを聞いたのは、この音だったかと。
    どこかで聞いたことのある音色であった。
    あぁ、そうか。
    このように優しく切ない音色であったか。

  • 「みちづれ」の時はあまり感じなかったが、作者晩年のこの短編集は、死というものの捉え方が、今まで読んだどの小説とも異なっている。この作品での死は衝撃とかそういうものではなく、どちらかと言えば寄り添うような穏やかなものだ。作中、かなりの人数が人生を終えているが、悲壮感はあまり感じられなかった。それは登場人物の年齢が高いためだが、自分にはまだまだわからない感覚だ。

  • 「ぜにまくら」が好きです

  • ふなうたと同様、読んでいて笑えたり、泣けたり、市井の人々の生活、人生、それは自分のことなんだけれど、これを読むと、いちいちイライラしても仕方ないかなって思える。

    …ちょっとめだかが怖かった…。

  • 秀逸な短編集。静かで、心のひだにひっかかるような…。
    読んでいて安心できる文体です。一歩踏み込んで、何を描きたかったのか考えてしまう。でも分からなかったり(笑)

  • 2回目、終了しました。
    (2012年11月7日)

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著者プロフィール

三浦哲郎

一九三一(昭和六)年、青森県八戸市生まれ。早稲田大学文学部仏文科を卒業。在学中より井伏鱒二に師事した。五五年「十五歳の周囲」で新潮同人雑誌賞、六一年「忍ぶ川」で芥川賞、七六年『拳銃と十五の短篇』で野間文芸賞、八三年『少年讃歌』で日本文学大賞、八五年『白夜を旅する人々』で大佛次郎賞、九一年『みちづれ』で伊藤整文学賞を受賞。短篇小説の名手として知られ、優れた短篇作品に贈られる川端康成文学賞を、九〇年に「じねんじょ」、九五年に「みのむし」で二度にわたり受賞。他の著作に『ユタとふしぎな仲間たち』『おろおろ草紙』『三浦哲郎自選全集』(全十三巻)などがある。二〇一〇(平成二十二)年死去。

「2020年 『盆土産と十七の短篇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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