橋のない川(五) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101137063

感想・レビュー・書評

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  • 毎回のことですが、よくもここまで細かく多くの人の心の動きや生活の営みを描けるなぁと驚かされます。住井すえさんの、登場人物の一人一人への愛情を感じます。そのおかげで私も畑中家を始めとする人達が大好きになりました。同じく子を持つ女性目線で、ぬいやふでの孝二に対する思いやりや心配、家計の切り盛りのあれこれには特に感情移入してしまいます。突然来客があり、慌ててありあわせのもてなしをする場面や、孝二の外出のために行き届いた支度をする所など、すごくリアルと思います。そしてそれにしっかりと応える孝二が頼もしく、愛おしいです。

    農作業の大変さと、奈良の自然の色々な表情にも、水平社の動きと同じくらい惹かれます。つい100年前まではこんな生活をする国民が大部分だったんだと、戸惑いの様な寂しさの様な気持ちになります。重労働や夜業の合間に交わされる会話だからこそ重みがあるように感じました。文盲でも、畑と家に縛り付けられている生活でも、深い知恵や愛情を湛えているぬいにこの巻でスポットライトが当たったことに感動しました。

    孝二が国粋会の人達と言葉でやりあう場面は息を詰めてしまう程でした。理路整然とした話の運び方がとても勉強になります。


    まちえがただのお金持ちのお嬢様でなかったことには拍手喝采でした。豊太宛の手紙から伺える真摯さに、まちえと孝二が結ばれたら良いのにな…と思ってしまいます。

    あとは、聞き慣れない日本語が多く、語彙力が広げられることも良かったです。

    本当に、書ききれないほどの感想が出てくる本で、自分の子供達にもいつか読ませたいです。

  • これまで耐えに耐えてきた差別、偏見、搾取、弾圧などに力強く抵抗し始める住民たち。筆者が描くその思いは、人として当たり前のことばかりであるが、この小説の中だけでなく、**ファーストやヘイトスピーチなど、現代でも起こっている事柄に思えてならない。

  • 差別を無くして欲しいという願い1つ叶わず、挙句の果てには強情だと牢屋に入れられる。
    自身(部落)の訴えを申し出ただけであるにも関わらず、時代は自然に帰る自由を許さない。

    差別は利き手から始まる。
    刀を元にした利き手の話はためになったし、云われてみれば大方が右利きも変な話だと感じた。

    そら豆が食べたくなる。

  •  大正11年3月3日、全国水平社結成。古い因習と偏見による抑圧と宣言を拠点に立ち上がる抵抗の激しいぶつかり合い。孝二たち7人は、正太、熊夫の通う小学校の校長に「差別待遇廃止」の決議書を提出するが、校長は差別はないと受け取らず、騒擾罪として監獄に収監される。孝二は首魁として独房に。70余日で保釈。後の公判では、実刑なるも執行猶予。杉本まちえは自分の気持ちを渡辺豊太に書簡で示し、豊太はその手紙を孝二に差し出す。1年遅れの徴兵検査、孝二は丙種。住井すゑ「橋のない川」、昭45.11刊行、480頁。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/60555

  • 3 「大人になる」とはどういうことか[辻智子先生] 2

    【ブックガイドのコメント】
    「被差別部落に生まれた少年の成長を日露戦争から水平社宣言へと向かう時代の中で描く。」
    (『ともに生きるための教育学へのレッスン40』182ページ)

    【北大ではここにあります(北海道大学蔵書目録へのリンク先)】
    https://opac.lib.hokudai.ac.jp/opac/opac_link/bibid/2000073502

    【関連資料(北海道大学蔵書目録へのリンク先)】
    ・[単行本]1970年発行
    https://opac.lib.hokudai.ac.jp/opac/opac_link/bibid/2000169374

  • 水平社創立以来、だんだんと小説というよりもドキュメンタリーっぽくなってきた感じがする。孝二らの投獄という難儀な出来事もあるが、静かに時は進んでいく。
    そしてそろそろその年が来るはずだなぁ、と思っていたら巻末でついに来た。来てしまった。しかも渦中には自立の道を求めて行った豊坊んがいるはずで…。孝二同様頭が真っ白になった瞬間、ぬいお祖母んの「若いのよりもさらに美しい」顔が目の前に見えた。
    大地は生きているのだから動くのは当たり前というお祖母ん。そのお祖母んは動く大地にしっかりと足を踏みしめて、これまで生きてきたのだ。辛いことから逃げ出さず、面と向かい合う、耐え忍ぶ、あるいは立ち向かう。どうしたらそんなに強くいられるのだろう。孝二はぬいの血を濃く受け継いでいると思う。
    どうか生きてて豊坊ん、そして朴さん…。

  • ぬいとふでの生活がとても愛おしくなってきた。

  • 不当な差別に虐げられてきた人たちが、今や“賤民”を返上して、“選民”の道をいかんとす。歴史の教科書では理解し得なかったできごとが、生きた言葉で語られることのおもしろさ。長~い語りや手紙のやりとりが多く、またかぁ~なんて言いたくなるところもなくもないが…。思いがけず、孝二らが裁判にかけられたりして、いよいよ歴史が動き始める。年内に7部まで読み終えられるかしら。

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