- 本 ・本 (212ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101141015
感想・レビュー・書評
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偶然ながら今日は金閣が放火によって焼け落ちた日なのだそうだ。この小説は薄幸の遊女、夕子と金閣寺放火僧との悲恋の物語。
簡単に言ってしまえばそうなんだけど、これから想像されるどろどろした暗さがなくて、素直にいい物語を読んだという印象が残る。京都弁も自然でたいへん結構。
廓で働く女性というのは今の時代難しいのかもしれないが、こういう佳編が現役の文庫に入っていないというのはさみしいね。 -
清濁の対比が鮮明。しかし夕子への同情が掻き立てられる一方で、櫟田がひねた原因はそこまで踏み込んで描かれず、物足りない気がする。『金閣炎上』を女目線で描いた創作ということなのだろう。
夕子は最後まで謎な部分を持ったままだった。家族思いでしっかり者の長女かと思いきや、我の強さを隠し持つしたたか者で、死に方もずいぶん身勝手な印象。ここまでの意志の強さがあるなら、もっと他の道も選べたのではなかろうかとつい考えてしまう。
そんな夕子に裏切られながらもなぜかすごく人の良い女将かつ枝にも違和感が。そういう点では好色爺竹末の存在が一番リアリティがある。 -
美しい小説だった。
読後、20歳という年齢がさせた恋だなぁとしみじみとした。
水上勉さんの小説って好きだなぁ。
どこか物悲しいのだけれど、そう遠い昔でもない、程度や内容は違っても似たようなことがあったということをよくよく考えさせられる小説。
後半部分は一気に読み進めた。そのくらい、後半の小説の盛り上がり方が心をわしづかみにされた。 -
京都弁が美しくも哀しい
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京土産の定番である「夕子」の元ネタということで読んでみた。明らかに三島の「金閣寺」を意識して書かれた本。金閣寺を「鳳閣寺」に名前を変えている。放火犯が「夕子」という遊女と幼馴染だったとの設定を挿入することで、三島の作品とはかなり毛色の違う大人のメルヘンに仕上がっている。
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期待していなかったが、普通に面白かった。「いい話」っぽくするのはどうかと思うけど。授業で出たので読みました。
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娼妓として京都五番町に来ることになった夕子。小さい頃からの吃りで鳳閣寺の小僧となってなお辛いめにあう同郷の正順。恋というより互いの境遇を慰め短い一生を終える。夕子の父、夕霧楼の人々の素朴さ、あたたかさも哀しい。13.11.9
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遊女の話はいくつか読んでいますが
こんなに静かな文はあまりない。
主人公の考え、内面、本性が
受け取りずらい。
しかし少女が懸命に生きている姿、
悲しい境遇が胸に来る。
京都の方言を読みたい人にも
すすめたい。
著者プロフィール
水上勉の作品






水揚げ金弐萬圓は、作者は当時のサラリーマンの1月分の給料としているが、安いと思ったので調べてみた...
水揚げ金弐萬圓は、作者は当時のサラリーマンの1月分の給料としているが、安いと思ったので調べてみた。
1951年(昭和26年)
大卒初任給(公務員)5.500円 高卒初任給(公務員)3.850円
牛乳:12円 かけそば:15円 ラーメン:25円 喫茶店(コーヒー):30円
銭湯:12円 週刊誌:25円 映画館:100円
新聞購読料:280円 ※11月より朝夕刊セット開始 ※8月まで朝刊のみ配達 100円 9月値上げ 130円
2021年の大卒初任給は28万円程であるので当時の約50倍。水揚げ金弐萬圓は現在の百万円くらいとなるが、それでも安い。現在の吉原の高級ソープが30万円と聞く。そう思うと大店の主人甚造が渋る額ではないが…。