面白かった! とにかくひたすら長大でひらすら暗い話なのですが、読んでいてぐいぐいと引き込まれていく、迫力あるストーリーです。
終戦直後の日本というのは、相次ぐ台風の被害にさらされてきました。まさに疾風怒濤の時代だったといえます。そして戦後の混乱期を必死に生きていく人間たちが、海峡のあちら側で犯罪を犯し、海峡を越えた場所で出会い、そして海峡での記憶はどこまでも追いかけてくる――。
緻密で執拗なまでの歴史描写と、その中でこまやかに描かれる人間たちの姿。それを見つめる作者のまなざしはあくまでも優しく、それがそこはかとない安心感を読者にもたらしてくれるのが不思議です。
終戦、嵐、沈没事故、大火、殺人、人の歴史とそして「飢餓」。それが海峡という独特の場所で始まり、そして最後には海峡に呑まれていく。犯罪小説でもない、ミステリでもない、人間の欲望と哀しみを愛を込めて描き切った「人間小説」としか言いようのないこの作品、読めてよかった。読了後に改めて『飢餓海峡』というこの小説のタイトルのことを思い、とてつもない感慨に打たれたものです。そしてもちろん、冒頭の一文「海峡は荒れていた」もたまらない響きでした。
作者は数年前に没しておりますが、晩年になってもこの作品の推敲を続けていたそうです。僕が読んだのは昭和44年の文庫版なので、最新版でも改めて読もうと思います。