越後つついし親不知 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1974年1月1日発売)
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本 ・本 (269ページ) / ISBN・EAN: 9784101141077

感想・レビュー・書評

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  •  水上勉の短編集。
     「越後つついし親不知」
     「桑の子」
     「有明物語」
     「棺」
     「西陣の蝶」
     「三条木屋町通り」
     「北野踊り」
     以上7編の小説を収録。昭和37年~41年までに発表されたものであり、作者が直木賞を受賞したのが昭和36年3月なので、作家として脂の乗り切ったころのものである。
     このうち、前半の4編が、北陸の越後、若狭などを、また、後半の3篇は京都を舞台としている。
     この作品のいずれもが、貧しい最下層ともいえるような生活を強いられながら、生きようとすることすらままならない、厳しい運命に翻弄される薄幸の女性を主人公にしたものである。
     水上勉の小説世界は、墨の濃淡だけで現実を描いているまるで水墨画のように感じる。また、それはモノクロ映画を見ているような感じすらするほどである。実際、「越後つついし親不知」はモノクロ映画が作られている。
     特に、京都を舞台とした3篇、それぞれ、六孫王神社であったり、木屋町通りであったり、上七軒といった旧知の場所が描かれている。
     昔、上七軒から西陣の方にかけては、古い長屋のような建物の奥から、機織りの機械の音がよく聞こえていたものだ。そこには、京都の雅とは違う生活感のある京都の姿が垣間見えた気がした。
     水上勉の描く京都は、絢爛豪華な雅な世界を描くのではなく、そういった世界では描かれることのない、もっと生活の匂いがする風景である。テレビや雑誌などではおそらく取り上げられることにない、暗い、重たいものであるが、それもまた本当の京都なのであると思う。
     描かれている世界は、「北野踊り」はわずかに光が差す部分があるが、なかなか救いようがない物語である。
     昭和も高度経済成長を遂げ、バブル景気がはじけ、平成、令和と日本の社会は、低迷期に入っている。とはいっても、これらの小説が描かれた時代よりは、はるかに物質的には裕福な時代を生きている私たちに何かを問いかけてくれている気がする。
     

  • 交通網が発達し山奥まで車でサッと移動できる今となっては、こういった本を静かに読むことでしか当時の状況を想像しえない。
    滋賀への旅路に読んだ

  • 著者の生まれ育った環境が闇だとしたら、
    ただそこにある風景にも影を見つけることができるのだろうか。
    著者は悲哀を得意にしているが、人間は悲哀のみで生きれらるものではない。
    闇を知っているからこその、
    腹の底から笑ったような話も読んでみたかった。

  • 貧しい村、細々と慎ましく暮らす人々、閉鎖的空間。
    彼らはまじめにコツコツと生きていたのに、なぜ、悲劇的結末を迎えなければならなかったのか。
    寒村の寂しい雰囲気をじわじわと味わいつつ、物悲しさが少しずつ、少しずつと心に積もってくる本だった。

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著者プロフィール

少年時代に禅寺の侍者を体験する。立命館大学文学部中退。戦後、宇野浩二に師事する。1959(昭和34)年『霧と影』を発表し本格的な作家活動に入る。1960年『海の牙』で探偵作家クラブ賞、1961年『雁の寺』で直木賞、1971年『宇野浩二伝』で菊池寛賞、1975年『一休』で谷崎賞、1977年『寺泊』で川端賞、1983年『良寛』で毎日芸術賞を受賞する。『金閣炎上』『ブンナよ、木からおりてこい』『土を喰う日々』など著書多数。2004(平成16)年9月永眠。

「2022年 『精進百撰』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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