釈迦 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (326ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101144382

感想・レビュー・書評

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  • たった今読み終わったので新鮮な気分。ヘッセの「シッダルタ」も読んだが、瀬戸内流の方に惹かれた。つまるところ私たちは世尊の実態には迫れない。漫画も含め色々な解釈を見聞きしても、そうだなと思ったり、なんとなく違うなと思ったりしても、そう思うだけで実態に近づけるわけではない。

    今回瀬戸内さんの釈迦は、従者アーナンダの視点で描かれている。おかげで、私たちの中の崇高なものに近づきたいけど近づきがたい気分と、語り手の視点とがマッチして丁度良い距離感になっている。

    だが物語の中に、世尊を理解するヒントがちりばめられていないかというとそうではない。世尊は孤独だと言ったデーヴァダッタ、死ねずに永遠に生きる方が地獄に落ちるより苦しいんじゃないかと思うと語ったアングリマーラ。

    けれどそれでも解けない謎がふんだんに残っている。法は平等を説いているのに、世尊はなぜ女性の出家を認めなかったか。最後「この世は美しい」とおっしゃった世尊は、それまでこの世は苦しみだと説いていたのに、最後になってその考えを翻すことにしたのだろうか。小説終盤のアーナンダの悟りもあまりにあっさり成就しすぎているように感じる。

    それでも作中で二度、三度世尊が語る「犀の角のようにひとり歩め」という言葉を始め、覚者の言葉は智慧に満ちていて、それを小説と言うわかりやすい形で教えてくれた瀬戸内さんには感謝する。

    けど物分かりの悪い私は、結局この一度きりの人生をどう生きることが大切に生きることなのか、まだ分からないでいる。

  • 寂聴は釈迦の晩年と言葉を物語った。
    師ブッダの従者アーナンダに同行した私は師の入滅後、遂に阿羅漢となったアーナンダに涙した。
    旅の途中では、誤ってブッダに毒キノコを供した者を何処までも赦しその者の未来まで思い遣る怖しいまでの懐の深さに驚嘆した。他にも印象に残る話ばかり。
    また読み返したいと思ったのは若い頃に読んだ井上靖の孔子以来、かもしれない。 

    下村湖人は論語物語で孔子の晩年の放浪と言葉を物語ったとか。次は孔子と弟子たちと旅に出るとしよう。

  • いわゆる釈迦が涅槃にたどり着くまでの話。とはいっても、晩年の釈迦が弟子に過去の事を語る感じで話は進む。
    本書では、いわゆる釈迦は、世尊とよばれる。
    世尊は、この世で満たすあらゆる欲望には、深い患いの伴うことを知った。人間の究極の自由と心の平安を求めて世尊は王子の地位を捨て、修行の道へはいった。人々の真の平安は、富でも、武力で保つかりそめの平和でもない。なにが、真の平安なのかを探し求めるために世尊は旅を続けるのであった。
    世尊は、女性こそ人間の煩悩の最もたるもの、渇愛の元凶だといった。女性の容姿の美しさ、可愛らしさにまどわされ、柔らかな体、滑らかな皮膚、豊かな髪、男にとって心地よいものはすべて女性に備わっている。その魅力はたちまち男を刺し殺すと。
    しかし、反対に、世尊は男女は平等だ、ともとく。はじめは、女性は出家できない、としていたが、前述のような弟子からの巧妙な弁論のため、この世に尼僧を誕生させてしまい、これにより、仏法は、五百年早く滅んでしまうといった。
    本書では、とくに、仏教の教えについて、世尊の話したことや、体験を通して語られるような小説ではないのが、物足りない。世尊が、仏法でこのように諭したのは、こういう事実があったからだよ、など、小説で読めれば楽しく、また、仏教への理解も深まるのにと期待していたのだが残念だ。

  • 日本人は少なからず仏教徒と言われる。多くは開祖がいてその人の教えの印象が強い。その原点にある人を小説として描いている。これが凄い。もちろん瀬戸内寂聴のブッダ理解であり、仏教理解ではあるけれど、そこに確かに仏を感じるような気がする。寂聴の福音書といったような感じかな。そういう意味では今までになくブッダを近くに感じられるような気がするいい作品だった。巻末の横尾忠則の解説も素晴らしい。

  • 釈迦の生涯を、その語り部であるアーナンダが世尊晩年の侍者としての回想を書くことで、古代インドに誘われた気持ちになる。神格化されたブッダではなく、シッダッタ(〈梵語〉シッダールタのほうが馴染みがあるが)の悟りの境地に至った人間らしさが強く感じられた。同時に読んだ『聖☆おにいさん イエスとブッダのパネェ秘密』は、本書を読む上でも大変参考になった。

  • 仏教の話に出てくるお釈迦さまは、偉大で超人的でよく分からなくなるときがあるけれど、このお話のなかのお釈迦さまは、確かに悟った偉大さや神々しさはありながらも、人間的な温かさが感じられます。

  • 古本屋で購入、ジャケ買いあと釈迦好き、瀬戸内寂聴好き。三拍子揃った。やっぱり間違いなかった面白かった。

  • 前に手塚版ブッダなら少し読んだことがあるけど、聖☆おにいさんを読み出してから改めてブッダの生涯に興味がわいてきた。

    これは読みやすくて面白かった~!アーナンダの視点から描かれているけど、ブッダ自身の回想もあったり、物語として面白かった。

  • おもに仏陀の侍者アーナンダの視点から見た仏陀の晩年を中心に話がすすむ。限りない慈悲の心がいくつもの場面で繰り返し表現され、これが仏陀の人間性かと感心させられる。一方アーナンダはなかなか同じ位置に立てない。かといって彼が悪い人間ということではない。

    ところが、仏陀の出家の際の妻ヤソーダラーへの仕打ち、さらには9年後故郷に帰ってきたとき息子と義弟を出家させる話に至っては、ほんとうにそれが必要なことなのか、仏陀の行動に無慈悲な点が多く矛盾を感じる。あまねく総ての人の幸福を目指すのか、なるべく多くの人の幸せを目指すのか、はたまたゴールはもっと違うのか、あるいは無いのか、答えはない。

    著者寂聴による見方ではあるが、イエスについて書いた遠藤周作の「イエスの生涯」と並び、仏陀の全体像を考えるに大いに理解の助けになった。

  • 子供の頃から、お釈迦様は神様だった。寂聴さんの人間ブッタにふれ、仏教が身近に感じる事が出来ました。

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著者プロフィール

1922年、徳島県生まれ。東京女子大学卒業。63年『夏の終り』で女流文学賞、92年『花に問え』で谷崎純一郎賞、11年『風景』で泉鏡花賞を受賞。2006年、文化勲章を受章。2021年11月、逝去。

「2022年 『瀬戸内寂聴 初期自選エッセイ 美麗ケース入りセット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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