- Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101145013
作品紹介・あらすじ
アメリカン・スクールの見学に訪れた日本人英語教師たちの不条理で滑稽な体験を通して、終戦後の日米関係を鋭利に諷刺する、芥川賞受賞の表題作のほか、若き兵士の揺れ動く心情を鮮烈に抉り取った文壇デビュー作『小銃』や、ユーモアと不安が共存する執拗なドタバタ劇『汽車の中』など全八編を収録。一見無造作な文体から底知れぬ闇を感じさせる、特異な魅力を放つ鬼才の初期作品集。
感想・レビュー・書評
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文は恐らく綺麗とは言えず、悪文寄りだが“凄み”のある非常に特殊な作家。
戦後特有の暗い雰囲気に包まれている本作だが、とにかく言語化が難しい魅力がある。
芥川賞受賞で有名な本作だが、是非他作の魅力も感じて欲しい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ずるくて臆病でどうしようもない人間の解像度が高すぎる。
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目次
・汽車の中
・燕京大学部隊
・小銃
・星
・微笑
・アメリカン・スクール
・馬
・鬼
敗戦前の軍隊や終戦直後の日本を描いた短編集。
例えば雑誌で、たまにぽつりぽつりと読むのならいいのかもしれないけれど、一冊まるまるこれというのはちょっときつい。
『汽車の中』なんかはまだ余裕だったので、世間知らずの学校の先生が、初めて闇物資を買いに行って、なりふり構わない世間の人々に比べてあまりにも繊細な自分には生きる価値がないと思ってしまう姿を見て、共感したり突っ込み入れたりできたけど。
軍隊の中のいじめの話とかは、読んでいてもちょっと引いちゃったよね。
そんな中で『アメリカン・スクール』は、敗戦後の日本で、学校の先生たちがいかに混乱していたのかが、ユーモアを伴って切実に迫ってくる。
真っ先にアメリカに媚びる人、組織の体面だけを重んじる人、声の大きな人にただただついていくだけの大勢の人たち、目立ちたくないがゆえに逆目立ちしてしまう人。
そして唯一の女性。
彼女が、卑屈なまでに会話を拒否する伊佐に何を借りようとしたのか、が、思わせぶりに書いてあったけど、うーん…当時はこれで成功していたことになったのだろうか。
とはいえ、断トツでこれが面白かった。
あとは、妻主導で家を建てることになったものの、途中で夫が邪魔になれば精神病院に入院させ、気がつけば夫の部屋より立派な馬小屋を作り、馬の五郎を溺愛する妻に頭のあがらない夫の話である『馬』が面白かった。
夫が情けないのもあるのだけれど、妻がサイコパスですかってくらいやりたい放題で。
これだけはちょっと時代を超越していると思う。 -
奇想天外な思想や行動力を持つ主人公たちだが、はっとするくらい切実な気持ちも持っている。
微笑とアメリカン・スクールが印象的だった。 -
記録
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安岡章太郎の訃報を、たまたま訪れた書店で知り、衝動的に「海辺の光景」を買ってから、近代より少し新しく、僕よりは年上の、いわば両親くらいの年齢差の作家の作品を、折に触れて読むようになった。
古井由吉、庄野潤三、そしてこの小島信夫。
デビュー作の「小銃」の冒頭の銃を女性に喩えて描写している箇所を読んで、なぜか大藪春彦を思い出した。
銃の描写に大藪に通じるものを、感じたのだ。
他の諸作品にも、従軍して敗戦した戦争体験が、見え隠れしている。
大藪春彦には、戦争体験と敗戦の体験はあるが、兵士として従軍した体験はない。
そこに、作品の傾向の差を見るのだ。
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小説とは、作者の意図やメッセージを投影する媒体ではなく、それが書かれることによって、結果的に作者の意図などを遥かに超えた「得体の知れなさ」として表出される芸術である、ということをこの作品集は示している。江藤淳と保坂和志の解説の対比も読む価値あり。
(選定年度:2017~) -
きわめて現代的。
戦中戦後がまるで近未来のように感じられる。
回避的性格の主人公は常にマウンティングを試みている。
ネガティヴに満ちた作品群だが、それは不条理でサイケデリックな匂いがする。 -
昨年5月の不忍ブックストリート『一箱古本市』で、100円で購入した一冊。昭和50年6月発行の十刷。
王道的なレビューとすれば、「戦後」「アメリカ」「風刺」あたりのキーワードを使うということになるのだろうが、ワタシにはもうとにかく"イタイ"短編集という印象が強烈に。何が"イタイ"って、登場してくる男たちがのきなみイタイ。発言、態度、行動…どれを取っても、思わず「アイタタタ…」と突っ込みたくなるようなものばかり。例えば、このイタイ男たちはひたすら依存する。妻へ、愛人へ、物へ。そして、ブンブン振り回される。
ただ、思わず笑ってしまうおかしさがあるのは確かなのだけれど、喜劇のように腹の底から笑えるものでは決してない。この男たちが見せているのは、人間の性(さが)とか弱さといったもので、それは自分にもあてはまる部分がある…と、どこかで感じてしまう。これが腹の底からは笑えない理由なのでは。この短編集の不思議なおかしさの奥には、そんなものが垣間見えた。