天上の青〈下〉 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (449ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101146294

感想・レビュー・書評

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  • 自己中心的な理由で次々と殺人を繰り返す、凶悪な連続殺人犯と、裁縫を仕事とし、園芸を趣味とする、奥ゆかし過ぎる位の女性との、不思議な関係を軸としたストーリー。

    ……と、さらっと言ってしまえる物ではない。

    単なる犯罪小説ではない。
    単なる犯罪小説で、読み終わった後、こんなに考えさせられる事があるだろうか。

    悪事を働くには、稚拙過ぎる理由かもしれないけれど、「現代社会、被害者がこんな風だから、犯罪も増えて当然かもしれない。」

    …と思ってしまったし、悪人にも、必ず、少なからず慈悲や後悔の念があるのだと、思わせる、作者・曽野綾子さんの文才、知識に頭が下がる。

    下巻の最後の短いラブレター、そして、その返信は、思わず溜息(落胆、安堵両方の意味で)してしまったし、油断したら泣きそうになった。

    犯罪は許してはいけない。
    でも、犯罪者にも、気持ちはある。

    ……うーん、考えさせられる!!
    とにかく、長編なのに飽きずにどんどん引き込まれた作品。

  • 読むものがなくて久しぶりに読んだら引き込まれた。
    やはり名作。考えさせられるというのもあるけど、単純に、ピカレスクロマンのエンタテイメントとしても面白い。
    そして、昔読んだときと今では、自分の感想も変わるものだなと驚く。
    富士夫を始めとする人間たちのクズさ、いやらしさ。前もそう思ったけれど、これほど容赦なかっただろうか。
    雪子は聖女ではなく、説教くさい女だなと思ってしまったこと。この感情のなさ、淡泊さが逆に男性を寄せ付けなかったのかなとも。

    対人という面では、ふたりは正反対だと思う。
    人に期待をするか、しないかという点において。
    人に依存して生きているか、自立しているか。
    でも富士夫の主観では、「あの人は甘ちゃんで、俺は頭がよく、世間を知っている」になり、
    雪子の主観では、「私は大した人間じゃない、頭も良くない、世間知らず」になるんだよね。
    この面白さ、人間というものの興味深さ。

    雪子は人に何も期待しない。変化ではなくて、そのままにしておくことをよしとする。
    これが「善」の正体だったとは。

    そしてあの一行に胸をうたれる。
    昔は、うーん?って思ったものだけど。切なくて胸がふさがれるような気持ちになった。

    富士夫のようなクズが、なぜ雪子を愛し、雪子だけは別だと思ったのか。人を愛する、信じるということは何なのか。
    掘り下げては書かれないけれど、富士夫の母親の愚かさ。
    なんで母親は面会に来ないんだろう。雪子に会おうともしないんだろう。彼女がもう少し賢ければ。

    名作は、年取ってから読み返してみるものですね。

  • 犯罪を犯す必然性で読ませようとする意図はなく、静かに問いかけられるような作品。キリスト教の思想が反映されている。

  • フジテレビでしたでしょうか。ドラマ化されていました。
    本よりは、ドラマの方が先です。
    素晴らしい作品でしたので、原作を読んでみる事に。
    ほぼ、原作通り。
    役者さんもぴったりとハマっていました。
    (白竜サンと山口果林さんでした。)
    思わず、「ヘブンリーブルー」という朝顔を探してしまった…。

  • 真面目なクリスチャンの雪子と、どうしようもない殺人犯の冨士男のやり取りが読みごたえある。遠藤周作の「沈黙」を再読した後だったので、キリストという存在や人の善悪について考えさせられた。

  • 富士男と雪子の書簡は果てしなくすれ違ったままラストを迎える。天上の青という朝顔の種を蒔いた雪子にも蒔かなかった富士男にも祝福のように咲いてただ、悲しい。

  • 主人公はとうとうお縄になる。しかし、何故彼はこのような殺人鬼になってしまったのかという過去の生い立ちや性格がねじ曲がった原因などは殆ど小説に描かれていない。しかし、そんな彼にも雪子には一目置いていて敬意さえ抱いていたことがなんとか主人公がギリギリの人間に思えてくる。その雪子をとおしてこの主人公、連続殺人をどう捉えるか作者自身の思想と、キリスト教の教義をまじえて凄く冷静に語られている。善人と悪人、救いや恨み、憐れみ、愛などこの物語で語られるとその言葉に魂が吹き込まれリアルに胸にしみた。

  • 現代日本の『罪と罰』と言える名作だと思う。楽しい、という内容のお話ではないけど、面白かった。かなり極端な性格や振る舞いの2人の考え方には、私だけなのかな、頷けるところが多くて、すごく感情移入して読みました。「普通」に描かれている小説の登場人物よりずっと共感できた。

    図書館のリサイクルでもらってきたのですが、上下巻揃っていたからっていう程度の理由で、著者のお名前も全然知りませんでした。読んでから振り返るとそんなきっかけでもなかったら読まなかったかもしれないから、出会ってよかったなあとすごく思う。

    富士男と雪子は対極なようでいてすごく似てる。自分の心が気持ちよくあることが第一。それが結果的に善行に見えたり、厭世的に見えたり、違法行為にまで及んだりするけど。
    自分の欲やエゴに素直な人が私はとても好きなので、2人がどんなことをしていても肩を持つような気持ちで読んでいました。
    ほんとうに分かり合うことはできず、素直に惹かれ合うこともなく、けれど通じるものを持っていたからこそのああいう描き方になったんだろうなあ。最後の手紙の遣り取りが切実で、それでいて優しくなかったりもして、こういうのが正直と言うのかもしれないと思った。

    気軽におすすめはしにくいけど、私はとても好きだし、他の人の感想を聞きたくなる一冊でした。

  • 凶悪な殺人を繰り返す男(富士男)と、
    心穏やかな年上独身女(雪子)の交流を描いている。
    ある日、雪子に近づくためだけに、
    庭先の青い朝顔(ヘブンリーブルー)を褒め、種をもらう富士男。
    もらった種はすぐさま捨てられ、
    それに気づいた雪子だが、そのまま富士男との交流を続ける。
    許されざる凶悪犯である富士男だが、
    雪子の前でだけは素直に人間らしさを取り戻す。
    やがて、逮捕された富士男のため、
    弁護士を雇い、世間から非難を浴びる雪子。
    その心理とは?
    同じ女として共感はできない。
    読み物としては、淡々と進行しているようでいて、
    読み応え充分で飽きさせない。

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著者プロフィール

1931年、東京に生まれる。作家。53年、三浦朱門氏と結婚。54年、聖心女子大学英文科卒。同年に「遠来の客たち」で文壇デビュー。主な著作に『誰のために愛するか』『無名碑』『神の汚れた手』『時の止まった赤ん坊』『砂漠、この神の土地』『夜明けの新聞の匂い』『天上の青』『夢に殉ず』『狂王ヘロデ』『哀歌』など多数。79年、ローマ教皇庁よりヴァチカン有功十字勲章を受章。93年、日本芸術院・恩賜賞受賞。95年12月から2005年6月まで日本財団会長。

「2023年 『新装・改訂 一人暮らし』 で使われていた紹介文から引用しています。」

曽野綾子の作品

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