讃美する旅人 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1995年1月1日発売)
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本 ・本 (283ページ) / ISBN・EAN: 9784101146324

感想・レビュー・書評

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  • 私が読んだのはハードカバー版だけれど、登録無いようなのでこちらで。面白かった。
    お金持ち一家の不肖の次男、お金だけもらって生きてきて盲目になりかけの60歳のおじさんが旅をしていろんな人と話をするという短編集。
    どこか突き放したようでそうでもない絶妙な距離感、相手も自然と心のうちがぽろぽろと漏れる、そういう塩梅で自分の心の内側にもいつの間にか入り込まれている感じがする。
    「星の祝福」「なれの果て」「海へ帰る」が特に好きだな。

    「海へ帰る」は浮気した夫に捨てられて慰謝料で暮らしながら傷付いたアザラシやアシカの保護をするボランティアセンターで働く女性の話なんだけど、「自立した女性」(女性に限定した話ではないが)についてさらりと語っていてなるほどと思った。
    「私今度初めて自分が自立した女なんだ、ってことがわかったの。経済的には夫からお金もらっておいてなんだ、って笑われるでしょうけど。淋しさにも、一人でいることにも立ち向かえるようになった。つまり苦しさを、こんなもんだ、って受け止めていられるようになった……」
    これに主人公は「そこまで君を育てたのは別れた旦那だ」と刺すんだけど彼女はそれをさらっと肯定してみせて、そこでああ本当に「自立」したんだと思わせる。
    「私はもうとっくに海に帰ったの」って笑う彼女。傷をいやして、海へ帰って、一人で生きていく動物。自立って掲げて踏ん張っているうちは、まだそうできてないんだな。

    一つ一つは短いながら、人生観、死生観に踏み込んでいく話が多くて一篇読む度にちょっと物思いにふけりたい感じ。誰かの死にまつわる話も当然多いのだが、最後の方で嘘の人生を書いて作家にファンレターを送る男の話で、上手くお話を作れるのは「死がテーマだからですよ」なんて言わせていて、ちょっと毒があるな、と思う(笑)連載物だったっぽいから、読者へのアンサーなのかな。

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著者プロフィール

1931年、東京に生まれる。作家。53年、三浦朱門氏と結婚。54年、聖心女子大学英文科卒。同年に「遠来の客たち」で文壇デビュー。主な著作に『誰のために愛するか』『無名碑』『神の汚れた手』『時の止まった赤ん坊』『砂漠、この神の土地』『夜明けの新聞の匂い』『天上の青』『夢に殉ず』『狂王ヘロデ』『哀歌』など多数。79年、ローマ教皇庁よりヴァチカン有功十字勲章を受章。93年、日本芸術院・恩賜賞受賞。95年12月から2005年6月まで日本財団会長。

「2023年 『新装・改訂 一人暮らし』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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