変奏曲 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1975年1月1日発売)
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  • 本 ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101147062

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  •  五木寛之の青春時代にも、安保反対闘争があり、メーデー事件なども登場する。
     『内灘夫人』(1968)『デラシネの旗』(1968)『変奏曲』(1972)
    五木寛之は『内灘夫人』、『デラシネの旗』は陽画(ポジ)で、『変奏曲』は陰画(ネガ)という。
     発表された時は、1970年の安保闘争前から後の時代。時代の雰囲気が浮かび出る。
    革命という言葉が、意味があった時代。『変奏曲』は、革命というロマンを追い続け、突然行方不明となった男、森井と、その当時恋人だった杏子は、17年ぶりにパリのカフェで、17年ぶりにバッタリと会う。杏子は、結婚して、夫は貿易商で、高輪に家を持つ裕福な生活。夫は、プラハに買い出しに行き、杏子は、パリに一人で居残っていた。そんな時に、あったのだ。
     二人は、ニース近くのマントンに行く。マントンは鄙びた街だが、毎年音楽祭が行われる。そこで、杏子は「自由になりたい」という。学生の頃のおぼつかない森井への愛が、吹っ切れないのだった。また、心は、森井を愛していて、体では夫に満足している。その物足りなさを感じていて、自殺を企てたりしていた。また、眠れないので睡眠薬を日常的に飲んでいた。一方の森井は、日本から脱出して、中国、インド、モスクワ、プラハ、パリと点々としていた。ペー・ジェー・ペー・エムというインターナショナルな革命組織に加わっていた。革命のロマンを追いかけている。森井は「政治や革命運動の現実は、革命そのものの理想とはちがう」と言う。
     杏子は、森井とセックスをしようとするが、森井は不能だった。性的に結合できないことが、どうにもならない状況。『挫折』は、心にも、体にも反映する。
     杏子は、裸で男の前を歩いたことがないといい、森井のまで裸であるく。杏子は、「あたし、生まれてから何十年も、一度もそれを自分で大声で人前で口にしたことはないわ。あたしはまだこんなにも不自由に生きているのよ」。もっと叫びたいと杏子はある言葉を言う。
     森井は、「革命なんて無意味だ」「自分の欲しいのは自分だけの安楽と権力だ。民衆なんて馬鹿だ」「民衆は馬鹿だ。革命なんて無意味だ。ぼくはカネと権力をにぎりたい。うまいものを食って、ぐっすり眠りたい」と叫ぶ。孤立、孤独、そして、革命という現実。
     二人は、音楽祭に出かける。サン・ミシェル教会の広場で行われるが、チケットは売り切れ、ある男の誘いで、広場が見えるベランダに場所をとる。
     演奏者は、オイストロポーヴィッチ。ナチスに囚われて、演奏をしろと言われても、NONと言って、一切しなかったソ連の人民芸術家だった。演目は、プロコフィエフのチェロ・ソナタ、バッハの無伴奏チェロ組曲 第5番。聴衆はきらびやかな服装をした富裕層だった。
     杏子は、人民芸術家のオイストロポーヴィッチが、富裕層に媚を売ることに怒る。
     森井は、「ぼくが、オイストロポーヴィッチを聴いたのは、なんと20年ぶりだよ。そして、こんな感動は、ずいぶん長いこと忘れていた。本当にひさしぶりなんだ。こんなに楽しい気分なのは」
     という杏子に、いう。そんな森井に怒りさえ感じるのだった。
     そして、森井は、別れる間際に「革命だって、恋愛だって、快楽だって、そしてきみの言うような死んだような生活だって、みんなあやふやで、共通性がない。もっとも確かで、もっとも間違いのないこと、それはいずれ正確に二人とも死んでしまう。君はいずれ本当の死に直面する。ぼくもそうだ。それは外見正反対でも、結局は同じ生き方かもしれない」という。メメントモリなんだ。
     こだわりなくお互いの不恰好な姿を見つめることができるようになる。挫折しようがしまいが、いずれ死ぬ。五木寛之の時代にコミットメントした過去を持つ「陰画」の物語。
     必要な時期にNONときちんと言えることが、大切なのだ。

  •  
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/410114706X
    ── 五木 寛之《変奏曲 197510‥ 新潮社》
     
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/B00005FZA2
    ── 中平 康・監督《変奏曲 19980321 パイオニアLDC》遠藤 瑶子・音楽 [VHS] ¥ 4,725
    http://geocities.yahoo.co.jp/gl/endohyouko/view/20120705
     
    ── 五木 寛之《変奏曲 1971-1972‥‥ 1976‥‥ ATG》
    http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD18816/staff.html
     

  • 雨のパリ。
    過去を捨て、裕福だが死んだように生きてきた私が、昔愛した忘れられない彼と偶然に再会した。

    美化しすぎた過去を現実のものとするために、その人に幻滅するために、再び生きるために、私は彼と南仏へ旅立つことを決める。


    彼と過ごす一週間。

    果たして私は彼に幻滅できるのか…それとも再び愛してしまうのか。


    うちにはまだ難しいお話でした。

  • 雨のそぼ降るパリのカフェで十数年ぶりに再会した男と女は、共に学生運動に身を投じ愛しあった過去を確かめるために、そして、別れを告げるために南仏の避暑地マントンへと旅にでる。

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著者プロフィール

1932年、福岡県生まれ。作家。生後まもなく朝鮮半島に渡り幼少期を送る。戦後、北朝鮮平壌より引き揚げる。52年に上京し、早稲田大学文学部ロシア文学科入学。57年中退後、編集者、作詞家、ルポライターなどを経て、66年『さらばモスクワ愚連隊』で小説現代新人賞、67年『蒼ざめた馬を見よ』で直木賞、76年『青春の門筑豊篇』ほかで吉川英治文学賞、2010年『親鸞』で毎日出版文化賞特別賞受賞。ほかの代表作に『風の王国』『大河の一滴』『蓮如』『百寺巡礼』『生きるヒント』『折れない言葉』などがある。2022年より日本藝術院会員。

「2023年 『新・地図のない旅 Ⅱ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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