戒厳令の夜 下 (新潮文庫 い 15-10)

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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101147109

感想・レビュー・書評

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  • なぜか、五木寛之を追いかけている。「土の時代」所有することがステイタスだった時代から、「風の時代」所有せず、情報収集やオリジナリティが基本となり、シェアーする時代となると言われている。五木寛之のデラシネの生き方は、ある意味では「風の時代」を先取りしていたと思う。
     この本に出てくる「サンカの社会」の考察は、優れている。日本にいた先住民の長い歴史が語られる。古代から山に住み、山に生きて、自由に列島の山中を流動していた人たち。田を耕さず、村に定住せず、土地を私有せず、いくさをしない。共同体であり、山人は非定住、非耕作、非属の3つの伝統を守ってきた。その人たちは、戸籍にも入らず、その当時の国民の三大義務、納税、徴兵、義務教育を拒否し続けた。その人たちは、縄文以前から住み着いていた先住民。現在の三大義務が、勤労、納税、教育となっている。
     山人がいると同じように、海人もいた。ふーむ。この考察が、実に面白い。日本の歴史の裏面のように見える。農耕民族が登場する前の人たちである。冴子は海人の系譜にあり、江間は山人俗の系譜にあった。三潴郡の県主で海人族の老人の水沼隠志儀式によって二人は結ばれる。
     江間が、福岡の東中洲のベラという酒場で、パブロロペスの絵に出会うことで、追いかけていく。
     パブロロペスの絵は、原島雄一郎が持っていた。それを、鳴海望洋、黒崎龍平、江間によって見つける。が、鳴海と江間は爆発打ち取締法違反や銃刀法違反で全国指名手配される。黒崎のニセレンジャー部隊作戦で絵を奪う。陽動作戦で、鳴海と黒崎は死に場所を決める。山人たちの活躍で、絵は確保され、無事にイサベルが希望したチリに返されることに。
     チリに江間と冴子も絵と一緒に渡るが、アジェンデ政権は、アメリカの干渉などで国民の生活が守れない状況にあった。パブロロペスの新しい美術館が作られようとしているときに、パブロロペスの絵が生命の輝きがなく偽物ではないかと疑われる。そして、それが本物かどうかが解き明かされる。
     架空のパブロロペスを作ることで、ここまでパブロの物語を作るスケール感に感服する。
    それぞれの生き方、死に場所を求めて懸命に生きる人々。連綿とした人間の歴史。チリの社会主義連合のアジェンデ政権がなぜ崩壊せざるを得なかったのかの描き方で、フィクションと現実が混じり合って、平和をもとめる意志が強く描かれる。地球上には、まだ戒厳令の夜を迎えている国、ミヤンマー、ウクライナがある。この物語は、時代を深く抉る作品である。
     参考文献が充実している。いくつか読みたい本があった。

  • ストーリーの展開が小気味良く、ついつい引き込まれて読んだ。
    著者に一度お目にかかったことがあるが、お元気で執筆を進めていただくことをファンとして望みます。

    14/04/01-19

  • 2014.2.7(金)¥105。
    2014.3.11(火)。

  • 場末のバーに飾られた一枚の絵画から、ナチス、ファシズム、炭鉱、昭和の疑獄といった、どれか一つでも物語が生まれそうなキーワードがどんどんあふれ出てきて、その疾走感が心地よかった。
    学生の頃に初めて読んだときに比べると、詰め込みすぎのせいなのか、一つ一つに物足りなさも感じたが、それでも十分楽しめた。

  • 風の王国読んでからでよかった。歴史観変わる。

    設定が35年前だからしっくりこないことも。
    中身はずっこけ3人組3本組み合わせました、みたいな流れだった。

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著者プロフィール

1932年、福岡県生まれ。作家。生後まもなく朝鮮半島に渡り幼少期を送る。戦後、北朝鮮平壌より引き揚げる。52年に上京し、早稲田大学文学部ロシア文学科入学。57年中退後、編集者、作詞家、ルポライターなどを経て、66年『さらばモスクワ愚連隊』で小説現代新人賞、67年『蒼ざめた馬を見よ』で直木賞、76年『青春の門筑豊篇』ほかで吉川英治文学賞、2010年『親鸞』で毎日出版文化賞特別賞受賞。ほかの代表作に『風の王国』『大河の一滴』『蓮如』『百寺巡礼』『生きるヒント』『折れない言葉』などがある。2022年より日本藝術院会員。

「2023年 『新・地図のない旅 Ⅱ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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