心が挫けそうになった日に (新潮文庫)

  • 新潮社 (2021年1月28日発売)
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  • 本 ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101147345

作品紹介・あらすじ

人生は挫折の連続だ。それを乗りこえていくのが人生ではないか。敗北をおそれず、勝利に甘えるな、と、小声で耳打ちするしかない。 ──この激動の時代をどのように生き抜けばいいのか。そして、生きていく上でのピンチをいかに克服するのか。不条理にみちた人生の危機からの脱出術を、自らの体験をもとに、深く丁寧に、そしてやわらかく伝える豊潤な講義録。『七〇歳年下の君たちへ』改題。

感想・レビュー・書評

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  • かつて「徹子の部屋」に五木寛之さんがゲストで出られた時、戦争の話になって涙ぐむ黒柳さんに五木さんが「貴女はまだ流す涙があるからいい」と話した言葉がずっと頭に残っていました。
    この本を読んで、五木さんの壮絶な忘れられない体験と共に生きてきた人生を思いました。
    話を聞いた高校生たちにも、今はピンと来なくても、この先にああいうことだったのかと分かる時がいつかきて、聞いておいてよかったと思えるのではないかと。
    貴重な講演を再録してもらえて、共有できたことに感謝です。

  •  東京都代表として五年連続で出場していた冬季国体への出場が、今年は厳しそうで。自身や家族のスケジュールの関係で練習時間が例年通りには取れなかったり、元日本代表という経歴を持つ選手が突如として華々しく現役復帰したり、一回り以上も年の離れた若い選手たちと戦わなければいけなかったり。励ましてくれる優しい人たちの声も耳には入らず、うまくいかない理由ばかり思いついて、万が一のチャンスに賭けようという前向きな気持ちに全くなれずに悶々と日々を過ごした。予想外のことがたくさん起こり、もうこれ以上頑張れないと思うたびに自分を奮い立たせてなんとか最後まで頑張ろうと言い聞かせた。何ひとつ大丈夫なことなんかないのに全然大丈夫ですみたいな顔をし続けなくてはいけないのはしんどかった。試合の一週間前にはもう精神的に限界だった。だからこの本を借りて、心の準備をした。もしだめだったらこれを読もう、いったん落ちるところまで落ちるかもしれないけれどこれを読んでなんとか這い上がろう。結局、悲しいことがあったときに自分以外の誰かがなんとかしてくれる年齢やフェーズはもうとうに終わって、自分のことは自分でなんとかしなければいけないのだから。そう思いながら、心が挫けるとわかっている日に向かってただひたすら突き進むしかない毎日は辛かった。日常が容赦なく心を蝕んだ。朝起きるところから胸が苦しく、何をしていても心が完璧に晴れやかになる瞬間はなかった。でも、この本が常にそばにあったから、なんとか試合当日、ゴールを切って予選敗退が現実のものとなったあの瞬間まで、最後のほんの一筋の希望だけは捨てることなく踏ん張ることができた。そして一週間分の心の準備なんか何の役にも立たず、私の心はボッキリと挫け、予定通り深い闇に堕ちた。
     試合のあと、しっかり用意していたにもかかわらず本を手に取るまでに二日かかった。何もしたくなくて、動きたくなくて、今まで経験したことのない無気力状態に陥っていた。三日めにやっとページを開いて数日かけて読み終えたあとも、すっきり晴れやかな気持ちになれたかというともちろんそんな簡単なものではなかった。相変わらずどんよりとした気分は抜けないし、なるべくなら立ち上がりたくない気分のままだった。それでも、五木さんご自身の体験に基づく語りは胸に残った。生きていれば誰でも鬱状態に陥ってしまうことはあり、それを乗り越えるきっかけになるものは日常的な出来事や会話の記憶がもたらしてくれること。ただたくさんのことを経験すればいいわけではなく、些細な出来事の中から、自分の気持ちを上げてくれる要素を見出す力を身につけることが大切であること。たしかに、これを書いている今も正直まだしんどいけれど、振り返ってみれば、試合に向かう日々の中で温かい言葉をかけてくれた家族や友人はたしかにいて、彼らとの楽しかった記憶もあって、そういうことを思い出せば思い出すほど、氷のように固まった心が少しずつ融解していくような気がしてくるのだった。完全に元の精神状態に戻れるまでどのくらい時間がかかるか今はわからないけれど、この人生を終わりにするという選択を排除する前提であるなら、なんとかして乗り越える努力をしなければと今は思う。

  •  五木寛之「心が挫けそうになった日」、2021.2発行。視線を低くして生きる、それでも人間を信頼する、転がる石として生きる、の3つの章立てです。「70歳年下の君たちへ」を改題したもので、若者に対する著者の存念が吐露されています。私にとって一番心にグサッと響いたのは、敗戦時に囚人部隊を第一陣とする酸鼻を極めたソ連軍の暴行略奪の話です。戦争に負けたことがなかった日本人にとって、呆然自失の出来事でしょう。今の日本、災害、病気の災難は避けがたいものがありますが、干戈を交ゆることのない70数年、有難いと思います。

  • 現代日本は識詞率が低いと書かれているのを読んで、はっと我に帰った。詩を詠むのは古臭い、分からない、難しいという意識が先行して詠まないが、五木さんの御本を読んで、詩の面白さがどこにあるのか、詩を通して異文化を知ることの魅力を感じることができた。
    詩を詠んだから何かが起こるわけではない。しかし識詞率が低いことで知らない詞の世界を知ることはできない。知らないことを知ることの面白さ、そのことの大切さを実感した。
    自分を異端児と捉えて日本人を見詰める五木さんの考え方から日本人はいかにのんびりしていて呑気なのか改めて気付かされた。難民の話が途中で出てくるが、情勢が目まぐるしく変わる今、難民の話を対岸の火事のように思っているようでは日本も世も末だなと感じてしまった、、、。
    何事にも新たな視点で考えること、知ることが大事だと気がついた。

  • 世界史も仏教も哲学も、盛り沢山だけど教科書には載っていないものが腑に落ちまくり。
    特に引揚者だからこその真実が随所にあり、一気に時代にひきこまれる。

    大戴礼記についての実父から教わった件は必読。

  • 生きる力は日常の営みの中にある?
    そのささやかな触れ合いが、エピソードが自分を励ます。結局人との触れ合いなのかな。

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著者プロフィール

1932年、福岡県生まれ。作家。生後まもなく朝鮮半島に渡り幼少期を送る。戦後、北朝鮮平壌より引き揚げる。52年に上京し、早稲田大学文学部ロシア文学科入学。57年中退後、編集者、作詞家、ルポライターなどを経て、66年『さらばモスクワ愚連隊』で小説現代新人賞、67年『蒼ざめた馬を見よ』で直木賞、76年『青春の門筑豊篇』ほかで吉川英治文学賞、2010年『親鸞』で毎日出版文化賞特別賞受賞。ほかの代表作に『風の王国』『大河の一滴』『蓮如』『百寺巡礼』『生きるヒント』『折れない言葉』などがある。2022年より日本藝術院会員。

「2023年 『新・地図のない旅 Ⅱ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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