江戸川乱歩名作選 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101149028

作品紹介・あらすじ

見るも無残に顔を潰された死体、変転する事件像(『石榴』)。絶世の美女に心を奪われた兄の想像を絶する“運命”(『押絵と旅する男』)。謎に満ちた探偵作家・大江春泥に脅迫される実業家夫人、彼女を恋する私は春泥の影を追跡する――後世に語り継がれるミステリ『陰獣』。他に『目羅博士』『人でなしの恋』『白昼夢』『踊る一寸法師』を収録。大乱歩の魔力を存分に味わえる全7編。

感想・レビュー・書評

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  • 「石榴」1934 中編 命日石榴忌の由縁
    温泉宿で意気投合した二人。過去の事件を語るうちに。。。顔を硫酸で潰されて死体(石榴っぽい)。残る指紋から事件を解決しようとする刑事。しかし、残された証拠さえも計算されたものだった。「二廃人」の設定と似ている。二人は刑事と犯人だった。

    「押絵と旅する男」1929短編 
    魚津へ蜃気楼を観に行った帰りの汽車で押絵を持った紳士と席を同じにする。押絵の秘密が語られる。好きな女が押絵であったことを知り自らも押絵になった兄。二人を連れて旅する弟。

    「目羅博士」1931 短編 エーヴェルス「くも」
    上野動物園で猿をからかう男の告白。眼医者が鏡を使い殺人を犯す。それを逆手に取った青年。

    「人でなしの恋」1926 短編
    人形を愛する男と結婚した女性の悲劇。これはねー、許してあげても良かったんじゃないかな。

    「白昼夢」1925 掌編
    殺人告白の演説。本当なのに誰も気が付かない。

    「踊る一寸法師」1926 短編
    曲芸師達の宴。一寸法師への執拗なイジメ。人体切断マジックの強要。そして、スイカのような物は何!

    「陰獣」1928 中編
    これは、しっかりミステリー。作中に自身の推理小説を登場させて、事件解決に絡ませる。犯人構想が4、5回転する。100年近く前なの?それは凄いです。

  • 一つ目の「石榴」から濃い。
    古い作品なのだけど「そうは終わらないだろう」という感覚で容赦なく読んでみたが、予想を超えて揺さぶられ、気がついた時には暗闇に一人で取り残されたかの様に終わった。

    全体的、愛、憎しみ、狂い、の中にいる喪失または欠落して何も響かない人々が描かれていて全体を貫いてる。

    怪物だが「石榴」の犯人の様に
    自己完結するほど完璧ではなく、自分の勝利であり敗北である状態を知らせたいという欲があったり。人間と怪物の狭間が生々しく切り取られていてる。
    本当にただの化け物達の話もあるが、それが挟まっているせいで人間の話も怪物の話のように読める。

    本来はそれぞれ単発で別々に書かれたのだろうけど、続けて読むと作者の抱えるテーマが見え「こんな奇話を愉しむ人も怪物も皮一枚」と言われてる様にも感じる。

    暑い日に蝉に騒がれながら
    脂汗をかきつつ読むのがよい
    だんだん冷や汗に変わっていく

    新潮文庫の夏のフェア版のカバー
    全面赤に、真珠か虹を閉じ込めた様な
    色でタイトルが書かれている。
    妖しい。血と劇薬の混ざった匂いが
    しそうで良い。

    知らぬうちに作者の命日を跨いで読んでいた事に、なんかわからんけど
    ゾッとする。

    • ikezawaさん
      「陰獣」って、結局誰だったんだ?全員?
      「陰獣」って、結局誰だったんだ?全員?
      2019/07/31
  • 「石榴」「押絵と旅する男」「目羅博士」「人でなしの恋」「白昼夢」「踊る一寸法師」「陰獣」の7編。

    江戸川乱歩デビュー。わくわく。
    昔の作品とは思えないほど読みやすく入り込めた。

    「人でなしの恋」と「踊る一寸法師」と「石榴」好きだなー。どの作品もなんともいえない人の狂気さの描き方に引き込まれます。

    でもなんと言っても断トツで「陰獣」!!!!
    が面白かった。最後の、やはりあーかもしれない、こーかもしれないと主人公の妄想で読者をモヤっとさせる感じも好きでした。
    陰獣は乱歩の他の作品を読み込んでからまた読みたい。

  • 江戸川乱歩の没後51年目を迎えた今年、様々な形で江戸川乱歩作品が文庫化されている。この『江戸川乱歩名作選』は新潮文庫から1960年に刊行された『江戸川乱歩傑作選』に次ぐ第2弾のベスト選集といった位置付けのようだ。収録されている作品は全て既読作であるのだが、何度でも読み返したくなるのが、江戸川乱歩作品の魅力だ。

    今なお、江戸川乱歩が多くの人々に読み続けられている理由は類い希なる巧みなプロット、時に幻想的で、時に耽美的な、読者の冒険心を大いに刺激し、作品全体に時を経ても廃ることのない面白さを秘めているからではなかろうか。

    『石榴』『押絵と旅する男』『目羅博士』『人でなしの恋』『白日夢』『踊る一寸法師』『陰獣』の7編を収録。

    『石榴』は、傑作『二癈人』と同じような構成の物語であるが、『二癈人』よりもトリックを重視した作品のように思う。

    『押絵と旅する男』は、何とも幻想的な物語、例えるならば『鏡地獄』の系統の作品だろう。

    『目羅博士』も幻想的な物語であるが、博士が犯した殺人のトリックが語られる。また、物語の中に江戸川乱歩自身が実名で登場するのは非常に珍しい。

    『人でなしの恋』は、耽美的で何とも妖しい物語。現代作家では大石圭が同じような系統の作品を書いている。

    『白日夢』は、群衆心理を的確に描いた短編であり、短編の中に凝縮されるものが多いせいか、記憶に残る作品になっている。

    『踊る一寸法師』は、サーカスの持つ怪しさを背景に猟奇的な光景を描いた作品で、本作の中では一番好きな作品である。

    『陰獣』は、短編ばかりの本作の中で、唯一の中編になる。淫靡な要素とミステリーの要素とがバランスを取り、上手く融合されている。作品の中に江戸川乱歩の『屋根裏の散歩者』『D坂の殺人事件』『二銭銅貨』といった作品を彷彿とさせる作品名が登場するのが面白い。

  • 昔の日本というだけで、すでに妖しい雰囲気を醸し出す。反面、ストーリーは斬新で読みやすい。
    扱っている内容がきわどすぎて、ビックリ!
    エロ、グロ、ホラー、ジェンダー、障がい、不倫、SM、変態…と、書き切れない。
    攻めすぎだわ。江戸川乱歩先生。
    よく発禁にならなかったなぁ。
    昔の方が案外、自由があったのかもしれない。

    どの話も面白い。気味悪い。読んでいて映像が浮かぶから、なおさら怖さが深まる。
    「人でなしの恋」が、私は一番怖かった。こんな恐怖感は久しぶりだった。
    そして名高い「陰獣」…。題名のつけ方が秀逸。覗き見、屋根裏、姿が見えない、お色気とてんこ盛り。
    本当に名作揃いで、全ての作品が妖しい世界に誘ってくれる。とても好みだった。
    江戸川乱歩、恐るべし。






  • 意外と読んでいなかった江戸川乱歩を改めて読んでみた。一作目から引き込まれていって、すごいなあ!ちょっと映像では怖そうだなと思うお話が多いけど、雰囲気頼みにならず、ただ不思議や怖さだけでなく、しっかりお話が組み立ててあって、どんでん返しが2回以上、雰囲気を壊さず新鮮な驚きでやってのけてるから偉大だなと思った。今読んでもこの感動なんだから当時の驚きはすごかっただろうなあ。新作として江戸川乱歩の本を読める当時の人がちょっと羨ましいです。

  • 2つの中編と5つの短編からなる江戸川乱歩の名作集。短編は短く、スラスラと読むことができ、中編はちょうどよい長さだった。個人的に印象に残ったのは、最後の中編「陰獣」でコナンくんが言ったセリフである「犯人を推理で追い詰めて、みすみす自殺させちまう探偵は殺人者とは変わらねーよ」が生まれるきっかけになった作品かなと思った。

  • 短編と中編。新潮文庫の傑作選とこの名作選で、ワクワクしたり嫌な気分になったり、仄暗い世界に迷い込んだり、かなり楽しめます。と言いつつ、傑作選に入ってる芋虫とか赤い部屋とか、この傑作選に入ってる踊る一寸法師とかは救いがなさすぎて正直苦手。

    名作選だと「押絵と旅する男」が幻想的で好き。それと読んでて楽しいのは、他の作品がチラチラ出てくる「陰獣」。陰獣は、それこそ傑作選を読んでるとけっこう判るし、わかるぶん推理が翻弄されると思う。面白い造りだなあ。
    100年近く前の作品と思えない。

    それはそうと、目羅博士の冒頭で原稿の催促が厳しくて一週間くらい家にいたくなくて外をぶらついてる乱歩さん、かわいいな。人でなしの恋に泉鏡花の名前が一瞬出てくるのも気になるところ。どんなの読んだんだろう。

  • 江戸川乱歩はドラマは見たことあたけど、読んだのは初めてかもしれません。(記憶にない)

    文章から漂う、彼の独特な雰囲気が癖になりますね。
    収められている「石榴」「目羅博士」「陰獣」の3つは映像化したらさぞかし映えるだろうなぁ、と思いました。
    「陰獣」の静子は木村佳乃さんか深津絵里さんでお願いしたい。
    フィクションめいたところもあるのですが、実際にありそうでもあります。(この微妙な空気感をつくるのが上手い)
    薄暗く、重たい空気なのに、どこか世離れしていて、ふわっとしたところもあって、ノスタルジックな感じもするんですよね。

    ”多くの場合、事実は小説の空想以上なのです。そして、はなはだありそうもない頓狂なことが、実際にはやすやすと行われているのです。”

    小説の抜粋ですが、こういったことが作風に出ているからなのかもしれません。

    「石榴」「目羅博士」「陰獣」はどれもラストが印象的です。
    「あぁ、この盛り上がった感情をどうしてくれよう、、、」
    ストーリーから一人取り残された気持ちになります。
    だからなのかなー。読み終わった後、ストーリーが頭から離れないんですよね。
    恐るべし、江戸川乱歩!他の作品も読みたくなるじゃないか!!

    当書はミステリだけでなく、幻想的なストーリーも収められています。
    江戸川乱歩の雰囲気が楽しめる本となっています。

    長年読まれ続けている文学っていいものですね。

  • 全集も何度も刊行されているし今親しんでいる和製ミステリの生みの親育ての親で、これが読めるのは嬉しかった。横溝正史や高木彬光などを見つけ出した大乱歩の探偵小説。ミステリといわないところに重みを感じます。


    目次は「石榴」「押絵と旅する男」「目羅博士」「人でなしの恋」「白昼夢」「踊る一寸法師」「陰獣」です。

    どれも何度も取り上げられていたのでずいぶん前に読んでいました、ストーリーはきちんと覚えてはいないのですが、肝心の解決部分の方を覚えていたのが多かった、残念。

    それで謎解きというより改めて背景になっている幻想的な表現を読むと、当時の珍しい風俗などくっきり鮮やかな手並みで書いてあるのが改めて印象的でした。ジャンルとしては推理小説ですが、多少エロティックだったりグロい所もあって、短編でもずいぶんひねりが効いて面白かった。

    最後に載っているのが長編の「陰獣」
    これは初めて読んだのですが「陰獣」は今では年のせいか恐怖感にも慣れてしまっていたけれど、書き出しから興味深かった。

    私は思うことがある。
    探偵小説家というものは二種類あって、一つの方は犯罪者型とでもいうか、犯罪ばかりに興味を持ち、たとえ推理的な探偵小説を書くにしても、犯罪の残虐な心理を思うさま書かないでは満足しないような作家であるし、もう一つの方は探偵型とでもいうか、ごく健全で、理知的な探偵の径路のみ興味を持ち、犯罪者の心理などには一向頓着しない作家であると。


    「陰獣」にはこの二つのタイプの探偵作家が出てくる。

    殺人事件が起き、それの回顧録をノートに残しているのはもちろん理知的な後者で、自分は全くのおひとよしの善人だと言っている、確かにその通りなので事件に巻き込まれる。

    事件当時世間に受けているのは犯罪を煽情的にこれでもかと書く大江春泥などで前者だった。

    私(善人という作家)は博物館でそっと隣に立った女性に一目でひかれた。言葉を交わしてみると彼女は私の小説のファンだと言って、ときどき手紙が来るようになった。その女性・静子は実業家小山田氏の妻だった。

    相談があるという手紙で出かけてみると、彼女は身の上話をした。
    女学生時代の大恋愛の相手だった平田という男がいまだにつき纏ってくるので恐ろしい。いつもどこかで平田の気配がする。耳を澄ますと天井から時計の音がする。
    平田の筆跡で手紙が来る、その手紙を見ると、平田は今では売れっ子の大江春泥だと書いてあった。
    あの血みどろで悪趣味な小説を書き、そこが世間に受けている春泥だから何をされるか、と怯えていた。

    たびたびあっているうちに静子と深い恋愛関係に堕ちてしまった。借りた土蔵の二階を静子の趣味でしつらえ遊戯と称して関係を持つようになる。
    二人が夢中になって遊び耽っている間に、静子の夫の死体が隅田川に流れ着き乗り合い汽船のトイレで発見された。

    恨んでやる殺してやると手紙に書いてきた春泥が実行したのか。
    しかし彼は人嫌いで世間に顔を見せるのを極端に嫌い転居を繰り返していたが、事件の後ふっつりと後を絶ってしまった。

    さぁ、静子は?春泥は?犯人は?私の日記は克明に経緯を記してあったがその後春泥は見つからず、脅迫の手紙も来なくなった。

    事件の様相は二転三転、最初に書いたように、善良な作家である私は、腑に落ちない時間の矛盾に気が付く。


    残りの6篇も、オチが鮮やかなもの、もの悲しい結末をにおわせるもの。思いもよらない真実が隠されていたもの。酔っ払いの悪い冗談で辱められた男の胸のすく復讐譚など。やはり面白かった。
    再読して乱歩の世界に浸ることができた。

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著者プロフィール

1894(明治27)—1965(昭和40)。三重県名張町出身。本名は平井太郎。
大正から昭和にかけて活躍。主に推理小説を得意とし、日本の探偵小説界に多大な影響を与えた。
あの有名な怪人二十面相や明智小五郎も乱歩が生みだしたキャラクターである。
主な小説に『陰獣』『押絵と旅する男』、評論に『幻影城』などがある。

「2023年 『江戸川乱歩 大活字本シリーズ 全巻セット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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