- 本 ・本 (528ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101151717
感想・レビュー・書評
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まさしく昭和事件史の生き字引。確かに、うちの会社にも、八兵衛さんと同じタイプの個性的な職人さんがおりました。
今は、薄い人が多く、若い人は、さらに薄い。
高度成長を支えたのは、八兵衛さんタイプかもしれません。
時代が違うと言ってしまえば、それまでですが、私は、こういうタイプの人間が好きです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
鬼の八兵衛の名言
「組織にのっかると肝心のホシ(犯人)を追うのを忘れて、肩のホシ(階級章)ばかり増やすことを考えるのさ。デカが肩のホシを追うようになったら、おしまいさ。」 -
昭和の大事件である吉展ちゃん誘拐殺人事件、帝銀、下山、三億円等々手掛けてきた平塚刑事への聞き書き集。
平塚氏の語り口調になっていて読みやすいものの、内容が濃いのでじっくり読ませます。
地道な捜査と経験に裏打ちされた平塚氏の強靭な仕事ぶりは、どこかでマイナスの部分もあったかもしれないけれど、読み手に訴えてくるものは強くあります。
占領下の日本で強いられた苦労なども少し読めますが、それを知るだけでも読む価値はあると思いました。 -
「落としの八兵衛」こと、平塚八兵衛氏の聞き書きを中心とした、昭和犯罪史とでも申せませうか。
八兵衛氏は「花の捜査一課」で30年以上勤めあげた、現場の刑事一筋に生きてきた人。巡査に始まり、最終的に警視にまで上り詰めますが、そのすべてが無試験での昇進といふ、異例中の異例の経歴を持つ刑事さんでした。
彼の名声を高めた「吉展ちゃん事件」をはじめ、「帝銀事件」「小平事件」「スチュワーデス事件」「下山事件」「カクタホテル殺人事件」、そして「三億円事件」と、戦後の重大事件の多くに関つてきたのであります。えー、このうち「カクタホテル」は、わたくし不勉強にして存じませんでした。いや、お恥かしい。
「吉展ちゃん事件」で明らかなやうに、この人の取り調べは、被疑者の過去を徹底的に洗ひ、「悪事を暴く」のではなく「どんな良いことをしてきたのか」を調べ上げ、「この人は俺の味方だ」と被疑者に思はせるところに特徴があるやうです。以前取り上げた『捜査一課秘録』にもさう書いてありましたね。攻めるばかりが落としではない、凶悪犯といへ一人の人間であるとばかりに接する。しかし「ここだ!」といふ局面では容赦はしません。近年は何かと人権問題が五月蝿いですが、「被害者の人権はどうなる!」と、八兵衛流を貫きます。よつて上司と衝突したり、圧力をかけられたりは日常茶飯事だつたとか。
何しろ凶悪事件ばかりなので、本書を「面白い」と評すれば不謹慎の誹りを免れませんが、やはり八兵衛さんの語りは読む者を惹きつけます。聞き書きの醍醐味ですな。その語り口は、がらつぱちながらも、自らの足で捜査したといふ自負からか、独断に陥らぬやうにとの慎重さも窺はれます。
しかし「下山事件」では、徹頭徹尾自殺説を取り、これに関しては取りつく島がありません。取材に来た松本清張氏が、「なるほど、これはやはり自殺なんですな」などと納得して帰つたかと思つたら、『日本の黒い霧』では他殺説を取つてゐて、八兵衛氏が不満を表明するところがあり、笑つてしまひました。
全体の三分の二以上の分量を占める「三億円事件」については、一転して読むのが辛くなります。
犯人を補足することなく時効を迎へ、その投入した人員、資金、時間を考へると、結果的に大いなる無駄足を七年間にわたり続けてしまつたといふこともありますが、「落としの八兵衛」としては、一度も被疑者と対面することなく、地道な捜査のみで実りがなかつたといふ徒労感もあるでせうね。
元々八兵衛さんは、「三億円事件」には関つてゐませんでした。当初物証が続々出てきたこともあり、直ぐに犯人は割れるだらうと上層部は軽く考へてゐたらしい。数日で決着が付くだらうなどと、見通しが甘すぎたのです。
結果、八兵衛さんが「最後の切り札」として招集されたのが、事件発生後四か月も経つてからのこと。その時には既に、捜査はしつちやかめつちやかに掻き回された後で、流石の八兵衛さんも勝手が違つたやうです。
例へば犯人が残した帽子やコート。何と当初は鑑定に回してゐなかつたとか。最初期で汗や指紋の採取が出来てゐれば、犯人に繋がる手がかりがつかめたかも知れませんが、八兵衛さんが参加したときには、あらゆる人間がその第一級の物証に関つた為、もう特定が出来ない状態でした。八兵衛さんとしては、恨み節の一つも出さうですが、さういふ言ひ訳は一切してゐません。潔いのであります。
伝説的名刑事による、もうひとつの戦後史。初版から約30年ぶりに文庫で復刊された意義は大きい。もうこんな刑事は出ないだらうと思はれますが、その精神は現役刑事にも引き継いでいただきたいものであります。
http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-561.html -
平塚八兵衛氏へのインタビュー集
1.よしのぶちゃん事件
捜査の途中(こう着状態)で抜擢され,自分で容疑者の故郷・福島に行って捜査をし直し,自白に漕ぎつけた.
2.帝銀事件
同種の事件に使われた名刺から犯人・平沢を割り出した.(確かに根拠が希薄な気もするが..)
3.小平事件
いわゆる色情狂の殺人鬼・小平義雄による連続殺人事件.食い物で釣る手口=終戦後の哀しい時代を映す.
4.スチュワーデス事件
5.下山事件
これは平山さん操作1課だから,ガチガチの自殺説派.「これだけ目撃者がいるんんだから」と,目撃者の数で勝負.→でも替え玉があちこち歩き回れば,目撃者もふえると思うですが..
6.カクタホテル殺人事件
7.三億円事件
クルマが2台,白バイを模したバイクが1台使われている.これが単独犯だとすると,現場ちかくに(=近くでなければならないらしい)それだけの車両を収容できるアジトがあるのでは? どうしてそれが見つからなかったんだろう? それがまず不思議 -
現場現物現実ってこうやって確かめるんだ
いやあ、面白かった。
私事件にどうも興味を持ってしまうたちなようで、
気が付くとここ100年くらいの日本の殺人を中心とした事件を集めた
サイトでひたすらその情報を読んでしまうことがあります。
そうすると外せないのがこの人、平塚八兵衛。
戦後の日本の刑事を語るには外せないこの方の
退職後のインタビューをまとめた本です。
こちらとしては1事件1ページを基本とした事実を読むか、
松本清張さんの小説として接する、という切り口でしたので、
1つの事件を50ページから200ページかけて、
どんな捜査をしていったのかじっくりと読めることが
嬉しくてなりませんでした。
「落としの八兵衛」と言われていたのですが、落とすために、
物(物証)や、アリバイを目撃者をはじめとしてひたすら足で
情報を入手し、それを自分の中で理解させ、事実をあぶりだす。
基本となっている「現場、現物、現実」。
こうは言われますが、とはいえ、ついつい人に聞いたことで
納得しがちになってしまう中、自分で確認しないと信じない。
手間はかかるかもしれません。いえ、確実にかかるんです。
でもこの手間を愚直にかけることで、犯人にたどり着き、
犯人を落とすことができる。
この行動力に脱帽です。
本の語り口はインタビューということもあり、話してくれるテンポで
どんどんと進んでいきます。
数年前に、松本清張さんの黒い福音で、平塚さんにあたる刑事を
ビートたけしさんが演じたのですが、この語り口を見ていると
ぴったりだなと感じました。
今まで事件としては知っていたのですが、そこまで興味がなかったのに
この本を読んで俄然興味を引いたのが
「カクタホテル殺人事件」です。
伊藤和子さん、魅力を感じてしまうなあ。
次は文中にも話題になった「日本の黒い霧」を読んで、
松本清張さんが下山事件を、どこから他殺と判断したかも知りたい。
今はちょっと単語くらいは出てきた、「狭山事件」について
読んでいるので、まあ近々。
八兵衛さんに関する本、また読もう。 -
ドラマ化されたはず。八兵衛さん誰だったかな...
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話口調の文体なので読みにくいかと思ったらそうでもなかった
有名事件を本人の視点から書かれてます -
古本で購入。
戦後重大事件の数々に携わってきた名刑事・平塚八兵衛からの聞き書きをまとめた本。
昨年放送された渡辺謙主演の同題ドラマがおもしろかったので読んでみた。
平塚に対する現在の評価は賛否両論相半ば、という感じだろうか。
違法すれすれ(と言うか違法)の捜査手法、“人権”無視、帝銀事件に見られる冤罪疑惑などなど、「市民派」を自称するヒトビトには恰好の攻撃材料だ。
けれど
「被害者の人権はどうなる、犯人に人権なんぞない」
という主張は、本当の意味での「市民」にとって、これほど心強い警察官はいないと思わせるに足る。
印象的だったのは、下山事件について松本清張が平塚のもとへ取材に来たという話。
『日本の黒い霧』の中で下山事件を国鉄の大量解雇をスムーズに行うためのGHQの謀略と断じた、つまり他殺と見た清張が、自殺説を取る平塚への取材の最後に「やはり自殺ですか」と納得して帰ったというのは、何だろう。
清張が殊更議論にしたくなかっただけなのか、平塚の主観にすぎないのか、何だかおもしろい。