燃えよ剣(上) (新潮文庫)

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  • 新潮社
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感想 : 1609
  • Amazon.co.jp ・本 (592ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101152080

作品紹介・あらすじ

幕末の動乱期を新選組副長として剣に生き剣に死んだ男、土方歳三の華麗なまでに頑な生涯を描く。武州石田村の百姓の子"バラガキのトシ"は、生来の喧嘩好きと組織作りの天性によって、浪人や百姓上りの寄せ集めにすぎなかった新選組を、当時最強の人間集団へと作りあげ、己れも思い及ばなかった波紋を日本の歴史に投じてゆく。「竜馬がゆく」と並び、"幕末もの"の頂点をなす長編。

感想・レビュー・書評

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  • おれのやりたいのは、仕事だ。
    おれァ、職人だよ。
    新選組を天下第一の喧嘩屋に育てたいだけのことだ。

    土方歳三は、新選組が烏合の衆だけに、鉄の組織をつくらねばならぬと考え実行する。その結果、鬼の副長として隊士から怖れられ憎まれることにもなった。隊を緊張強化させるために、いやな命令、処置は全て自分が引き受ける。局長である近藤勇が隊士から慕われるよう、全ての憎しみを自分がかぶる。彼にとって新選組を強靭な隊にするためなら、そんなことぐらい痛くも痒くもなかったのだろう。全ては新選組のため。信念を貫きとおす歳三に漢を見る。
    そんな気概を理解しながら、いつもちょっかいを出すのが沖田総司。沖田はひそかに俳句をつくるという歳三をからかい、具足をつけ、甲冑を着こんだ歳三の姿を五月人形呼ばわりする。沖田とのやり取りを垣間見ることで、歳三とて赤い血が通う人間なのだとひそかに安堵する。
    だからと言って、「新選組副長」としての歳三はやはり鬼のような漢に違いない。

    そんな歳三が、どういう意味で沖田を選んだのか。山南敬助が脱走したときのことである。
    歳三と山南は結盟以来の古い同志である。それ故にお互い憎しみの感情が膨れてくる。その山南が脱走し、その追手として歳三は、山南が弟のように可愛がっていた沖田ひとりを向かわせる。局中法度では無論切腹である。しかし歳三は、山南が自分の大切な者に斬られるのか、それとも斬るのか。沖田が自分を大切にしてくれた者を逃がすのか、捕捉するのか。それらの判断をふたりに委ねたようにしか思えない。
    沖田の「なぜ山南は自分に追いつかれてしまったのか」と腹立たしく思う気持ちはわかる。山南の「追手が君なら、仕方がない」との気持ちも何だかわかる。それは二人の築いてきた兄弟のような関係があったから。でも、歳三はどうだったのだろう。山南が憎かったとはいえ、やっぱり長年ともに過ごした情が込み上げてきたのだろうか。それは、鬼が見せた優しさだったのだろうか。

    鬼。実は私にとって鬼は沖田かもしれない。それも美しく幽玄なる鬼。可愛らしく無邪気でありながら、たくさんの人を斬る。何だか彼の精神が孤独の深淵に沈吟しているように思えたからだ。

  • 新選組をテーマにした作品は沢山あるが、今までは興味を持って、見てきたものはそれほど無かった。今回も妻からの勧めで、司馬遼太郎作品から始める。あまりにも有名な小説だ。
    京都育ち、京都住まいの私。新選組が歩いた京都の世界に、引き込まれるのにはそう時間は掛からなかった。

    時は幕末。ここ京都。その名は新選組。
    よく見るあの羽織、誠の字。色んなイメージがあるだろう。
    本書は土方歳三にフォーカスした時代小説。
    格好いいけど、どこか寂しく、不器用な男。剣に生きたその姿を描く。

    概ね、登場する人物の印象は、他のそれと変わらないが、沖田の人柄には誰だって好感を持ってしまうだろう。だから切ないのだ。

    新選組を強くする。その為に、あくまで副長であること、近藤を輝かせ、嫌われ役は引き受ける。妥協を許さぬ規律の中で、登場人物それぞれの思惑が交差する。
    また、人の感情、腹の底について巧みに表現されていて、読んでいて心が動く。

    嘘のようで本当の話。本当のようでうその話。
    全部ひっくるめて、エンタメ作品である。
    かつての日本に実在した若者たちの熱き活動を見る。

    上巻読了。
    下巻へ。

  • 1962年から 1964年
    新選組副長・土方歳三の生涯。

    東京の片田舎、武蔵国多摩で、バラガキで百姓の息子である、歳三。

    幕府の浪士徴募に、大和武士と成らんとして、同道場の近藤勇らと、共に京へ出立。

    浪人集団を、とにかく強い組織にすることを目標とし、新選組を結成。
    剣の腕前と、組閣力は、確か。
    数々の維新志士達との闘いに明け暮れる。
    そこに、思想とか主義は、読めない。
    とにかく、切る。
    もう、幾つ手首が転がったんだかわからない。
    強い集団を作る、武士としてのステイタスを得ること、それが、原動力。

    歴史の流れの中央部へ向かっていく、偶然と必然。
    誰も止められない怖さ。

    近藤との折り合いも悪くなりつつ、周囲から疎まれ始め、下巻へ。


  • 司馬遼太郎さんは「坂の上の雲」を読んだ事があって、ちょっと私には難しくも感じるのですが、会話のシーンになると面白いんですよね。
    でも難しく感じるので2巻?3巻?くらいまでしかまだ読めてなかったはず。
    本作もブックオフで100円くらいで売ってたのをお買い得だぁ〜と何年も前に買った物…(笑)
    映画が公開されるとの事で、観に行けるは分からないけど先に原作を…読むなら今じゃない!?と思い本棚から引っ張り出してきました。
    挫折するかもしれん…との不安を胸に読み始めました。
    なんせ歴史に疎いのです。
    それはもう勉強し直した方が良いのでは?と思われるレベルで。
    新撰組も辛うじて近藤勇、土方歳三、沖田総司が分かるくらいでした。
    「でした」というのはゲームに新撰組が出てきて藤堂平助、原田左之助等も覚えたからです(笑)
    その勢いもあって読み始めました。
    やっぱり書き方は難しく感じる部分もあるし(特に説明してくれている部分)、何で昔の人の名前ってこんなに難しいのでしょう。
    ヒプノシスマイクに混ざっても浮かないくらいには「いや読めんて」って名前もチラホラあります。
    言葉も知らないのが出てくるので調べながら読み進めますが、それでも読了出来たのはやっぱり面白いからですね。
    面白かったんです。今更、新撰組にハマりそうなくらいには。
    土方さんと沖田さんの会話が凄く好きだし、「ふふっ」と思わず声に出して笑ったシーンもありました。
    写真を撮る話なのですが、庭で隊士がざわめいていて土方さんが不思議に思っていたら、顔を真っ白に塗りたくった近藤さんが廊下を歩いて行って、それを見た土方さんが(野郎、とうとう気がくるいやがったか)と後を追いかけて行くシーンと、松本良順という方が地顔が黒かったので白粉を厚塗りし、感光をよくするため寺の大屋根に登らされ、長時間直立不動の姿勢を取らされた結果、それを見た町の人は「南京寺にあたらしい鬼瓦ができたと勘違いし、ぞろぞろ見物に来たという話。
    想像したら凄く面白かったです(笑)
    文庫で約500頁ありましたが、全然長く感じませんでした。

  • 【あらすじ】
    幕末の動乱期を新選組副長として剣に生き剣に死んだ男、土方歳三の華麗なまでに頑な生涯を描く。
    武州石田村の百姓の子“バラガキのトシ”は、生来の喧嘩好きと組織作りの天性によって、浪人や百姓上りの寄せ集めにすぎなかった新選組を、当時最強の人間集団へと作りあげ、己れも思い及ばなかった波紋を日本の歴史に投じてゆく。
    「竜馬がゆく」と並び、“幕末もの”の頂点をなす長編。

    【内容まとめ】
    1.新撰組の発足から失脚・殲滅までを描いた幕末物語
    2.新撰組プロデューサーの土方歳三は策士、レイプ魔、そして最強
    3.近藤勇は神格化された無能
    4.新撰組は史上最悪のブラック企業


    【感想】
    新撰組のストーリーを描いた物語。
    中でも、副隊長の土方歳三の一生を中心に描かれている。

    農民上がりで弱小道場出身の近藤・土方が何故、そもそも何故こんなにも強いのか?という事は置いといて、単純に面白い!!
    司馬遼太郎の作品は結構わき道にそれるのに、この作品はほとんどそういったヨリ道無しで、1000ページ弱でまとめられているため読みやすい!!
    新撰組発足→幕末の京舞台→維新→戊辰戦争までをたった2冊でまとめるとは・・・
    「翔ぶが如く」や「坂の上の雲」もそれぐらいにまとめろよと思う。笑
    やはり幕末はドラマチックだなー

    坂本竜馬が大好きだけど、幕末は色んな視点から読んでみるとより面白いな。
    今度は長州目線の「世に棲む日日」を読みたいなー


    【引用】
    p192
    「つまりは、こうか。新党結成の願いを、芹沢を通じて京都守護職様に働きかけさせるのか。」
    「そうだ。芹沢は毒物のような男だが、この際は妙薬になる。そのうえ都合のいいことに芹沢一味の5人とは、同じ宿ときている。」
    もしこういう偶然がなければ、新撰組は出来上がっていたか、どうか。

    土方歳三と近藤が、入洛(じゅらく)後まず熱中した仕事は清河斬りであった。


    p197
    近藤は苦しくとも精一杯のお世辞は言わねばならぬ。
    これが黒幕の土方歳三が引いた図式なのである。
    事を成すまでは、どうしても芹沢鴨という男が必要だった。


    p212
    軍用金はどうなるのか。
    13人の隊士の食う米塩をどうするのか。
    壬生の郷中の者は、隊士の服装を見て、みぶろ、壬生浪、と嘲り始めていた。


    p248
    「罪あるは斬る。怯懦(きょうだ)なるは斬る。隊法を乱す者は斬る。隊の名を?(けが)す者は斬る。
    これ以外に、新撰組を富岳の重きに置く法はない。」
    「歳、きくが」
    近藤は、冗談めかしく首をすくめた。
    「俺がもしその4つに触れたとしたら、やはり斬るかね?」
    「斬る」
    「斬るか、歳。」
    「しかしその時は私の、土方歳三の生涯も終わる。あんたの死体のそばで腹を切って死ぬ。沖田総司も死ぬだろう。天然理心流も新撰組も、その時が最後になる。」


    「近藤さん、あんたは総帥だ。生身の人間だと思ってもらっては困る。
    奢らず、乱れず、天下の武士の鑑であってもらいたい。」


    p274
    歳三の持っている唯一の可愛らしさが、おそろしく下手で月並みな俳句
    「公用に、出て行く道や 春の月」
    「知れば迷ひ 知らねば迷はぬ 恋の道」
    朝、佐絵を想った。想うと、たまらなくなった。


    p304
    戦場の場で臆した者は、後で必ず処罰した。処罰といっても在来の武家社会にあった閉門・蟄居(ちっきょ)といった生温いものではない。全て死罪である。
    隊士にしてみれば、乱刃の中で敵に斬られるか、それとも引き上げてから隊内で斬られるかのどちらかであったから、決死の日常である。

  • 歳三や総司が魅力的なのは言わずもがなだけど、七里や山南も好きだなー。
    近藤が思想を重んじたのに対し、歳三はルールや士道を用いて組織を強化しようとしたのが興味深いですよね。

  • ゴールデンカムイ→土方歳三つながりで気になって久々に長編小説を読みましたが、とにかく面白い。
    小説がこんなに面白いとおもったのは何年ぶりか、です。
    小説を読むのは何年も遠ざかっていましたが、この本のおかげで読書熱が再燃しました。

    ストーリーは史実にある程度沿っていますが、フィクションも入っていて実際の土方歳三がこう生きたわけでは、多分ありません。
    でも「本当の土方歳三がこんな人物であってほしい」と思うほどに司馬先生が書いた土方歳三は魅力的でした。

  • 幕末の日本で、敵からも味方からも最も恐れられたのがこの男。

    新撰組副長として、必死に生きていく漢の中の漢。

    魅力的な作品で、土方歳三の虜になります。

  • 函館で読んだ。が、舞台はまだ京である。

  • 燃えよ剣を読んで、新選組にどっぷりとハマってしまった。

    京都に行った際には、池田屋跡地や壬生寺に足を運び、芹沢鴨との決闘でできた柱の刀傷など現壬生寺の当主に説明してもらったりした。

    好きすぎて夢にも出てきた。自分が新選組の隊士で鬼の副長である土方が、当時勤めていたベンチャー企業の鬼の部長と呼ばれる人だった(笑)。

    竜馬がゆくと賛否は分かれるけど、これはこれで幕末のもうひとつの物語。尊皇攘夷派と倒幕開国派と思想は違えど一生懸命に生きる幕末の若者の生き様が見れる作品。是非ともオススメしたい。

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著者プロフィール

大正十二年(一九二三年)、大阪市に生まれる。大阪外国語学校蒙古語部(現大阪大学外国語学部)卒業。産経新聞文化部に勤務していた昭和三十五年(一九六〇年)、『梟の城』で第四十二回直木賞を受賞する。昭和四十一年(一九六六年)、『竜馬がゆく』『国盗り物語』で菊池寛賞を受賞。その後多くの賞を受賞。『坂の上の雲』『翔ぶが如く』『花神』『菜の花の沖』などの歴史時代小説、『街道をゆく』『この国のかたち』などの紀行、エッセイなどの作品が多数ある。平成五年(一九九三年)には文化勲章を受章。平成八年(一九九六年)死去。

「2022年 『花咲ける上方武士道 上巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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