燃えよ剣(下) (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (560ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101152097

感想・レビュー・書評

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  • 「男の一生というものは」
    「美しさを作るためのものだ、自分の。そう信じている」
    歳三が病床の総司に語ります。後に、最後までたった一人の幕士として残り、戦った男の美学なのでしょう。
    このふたりの場面には、同志として、また兄弟のような深い絆を感じました。上巻で私にとっての総司は、信じる近藤や歳三からの命令ならば、自分の意思を持たずにただ容赦なく敵方を斬っていく、美しい鬼のような印象でした。けれど、病床でも歳三を慕い、自分を介抱してくれる姉や鉄之助に明るく接し、自分の人生をはかないもののように振り返る姿から、総司は歳三が命を注ぐ新選組を守るためには、自分は剣を抜く、そんな守護神のようなものだったのかなと、しみじみ思えてきたのです。彼は最期、菊一文字で斬ろうとし斬れなかった黒猫に何を見て、ひとりで逝ってしまったのでしょうか。
    正直に言えば、京都で恐れられた鬼の新選組副長としての土方歳三よりも、鳥羽伏見の戦いに破れた以降の歳三に魅力を感じました。会津若松、函館五稜郭での重なる敗戦。近藤との決別と斬首、総司の死など、転がるように加速していく悲劇的な現状を最後まで駆け抜けた歳三。たとえ、世間が間違っていると言おうとも、友が離れていこうとも、最後まで自分の考えを貫く姿。自らの死をも恐れず、負けると分かっている戦に突っ込んでいく姿。そして、長年ともに戦ってきた仲間や若い隊士への生きることを強要した別離。歳三のなかで何かが去っていき、そして芽生えた人生の終盤、この頃の歳三には、哀愁が漂い、懐の深さが滲みでているようで、男とはこういうことなのかと思えたのです。
    でも、そういう男を愛してしまったら、女にも同じくらいの覚悟が必要ですよね。歳三を見送るお雪は、歳三との永遠の別れを覚悟してたのでしょう。戻って来てほしい……そう願ったとしても、お雪ならそんな言葉を、歳三の背中に投げ掛けることは決してしなかったはず。
    ときに、女には理解できないもの。それが男のロマンなのでしょうか。

  • 再読。下巻でようやくオリキャラ七里研之助とはケリがつき、歴史上の急展開。大政奉還、高台寺党残党による近藤さん狙撃、そして鳥羽伏見の開戦と続く。油小路の変もわりとあっさりめ、しかし司馬さんなぜか鳥羽伏見の戦いにかなりの頁数を費やしている。通常、新選組の小説だと、わりと簡略にされがちな部分を、ここぞとばかりに詳細に。いよいよここからが、喧嘩師・土方歳三の本領発揮ということか。

    鳥羽伏見の敗走、甲陽鎮撫隊の失敗、永倉・原田の離脱、そして運命の流山へ。近藤さんが引き留める土方さんに「自由にさせてくれ」と言うくだりが辛い。「ここで別れよう」「別れねえ、連れていく」とかほとんど男女の別れ話のようだ。しかし近藤勇のその後については司馬さんは詳しく書かない。土方歳三はひとりでも戦い続ける。新選組という枠が外れてからのほうが、たぶん土方歳三という男の真骨頂だと司馬さんは思っているんだろう。終盤の白眉は宮古湾の海戦。

    お雪さんとの別れは切なかった。開戦前夜に隊士たちがみんな各々の女のところへ出かけたのに留守番土方さんが病床の沖田さんの前で「歔欷」する場面もとても好きだ。沖田さんの前なら土方さんだって泣くし、そもそも実はポエマーだし。最後の突撃の前夜、近藤さんや沖田さんの亡霊(夢オチ)が現れる場面もとても美しい。司馬さんの幕末もの小説はほとんど読んだつもりだけれど、こういう一種幻想的なまでにセンチメンタルな場面があるのはこの作品だけかも。

    あと斉藤一おたくとして外せない名場面はここ↓

    ある日、
    「隊長、私は雅号をつけた。きょうからはその号で呼んでいただけないか」
    といった。なんだ、ときくと、
    「諾斉です」
    笑っている。若いくせに隠居のような名である。
    歳三も噴きだして理由をきくと、
    「なんでもあんたのいうことをきく。だから諾斉」
    といった。

    今も涙なしには読めないシーンだし、あまりにも良い場面だからこれを初めて読んだ高校生の私はてっきり斉藤一は五稜郭まで土方さんと一緒に行ったものだと思っていた。がしかし、斉藤一についていろいろ調べていくうちに、そもそも彼は会津に残り後半生を会津藩士として生きたので五稜郭には行っていないし、斉藤一諾斉という斉藤一と似た名前の全く別隊士のエピソードを、うまく利用した創作だと今では知っている。知っていてもこの場面の魅力はやっぱり衰えない。

    最近たまたま、新選組関連の史料を再読していたところだったので、小島鹿之助『新選組余話』と佐藤彦五郎『聞きがき新選組』の土方さんの郷里の人たちの証言をベースにいかに司馬さんが土方像を練り上げていったかに想いを馳せた。出典がわかっているので司馬さんが「肉付け」した部分もわかりやすい。市村鉄之助が「総司に似ている」なんてのは完全に司馬さんの創作で、こういうキャラづけやちょっとしたエピソードがうまいんだよなあとしみじみ感心した。色褪せない名作。

  • もはやノンフィクションのような歴史小説。
    土方歳三だけでなく、近藤勇も沖田総司も、イメージ通り。
    むしろ司馬遼太郎の作ったイメージが一般的になってしまっているようですね。

    新撰組を結成するあたりや池田屋事件とかもドラマチックだけど、その後の新撰組じゃなくなってからの話もおもしろかった。

    戦いに生きる男の気持ちは共感できないけど、真っ直ぐな芯の通った生き方はかっこいい。
    お雪との出会いと別れが切なくてよい。

  • 下巻。
    ここからの新撰組は、正直いいところがあまりなく、戦績だけで見るとほぼ負け戦だ。それは史実で知っていた。
    けれど土方の目線で戦を見つめると、彼は殆どの戦局を読んでいる。色々な事に気がつき、知識も頭に入れた上で、最後に勘を持っている。
    その彼が新撰組が瓦解した後、最後まで戦をつづけていく姿が本当にかっこうよく、時間を忘れて読み進んだ。
    上巻に2週ほどかかっていたが、下巻は4日ほどで読み終わった。

    組織を維持するために冷酷な処断もし、鬼の副長と呼ばれた土方が、後半江戸に帰ってからというものどんどんと人間味をおびてくる。
    最後の五稜郭で、新撰組として戦ってきた人たちを江戸に帰す、自分についてきたお雪とも別れる、慕ってきた小姓を自分の故郷へ送る。皆、土方と戦いたくて残ると言うが、それをよしとせずに見送る。
    何人もの人を殺してきた土方が、最後に信用して信頼して生き残らせるのが新撰組からの仲間であるのは、土方の人間としての優しさを見てしまった気持ちになった。
    彼は死ぬことを決めていたが、それを誰かと道連れに共有するつもりはなく、ただこのまま生きながらえる生涯だけは、先に死んだ仲間にあわす顔がない。その一心で最後まで駆け抜けた土方が格好よく、哀れにも見える。

    最後の晩、死んだ仲間達の亡霊を見る。その姿のあった場所に寝そべる。ぬくもりを追おうとする。
    土方が愛おしく思えた。

  • 最後まで武士の魂を捨てずに幕末の世を駆け抜けた男。

    勝つことだけに戦うのではない。
    その魂を持った人は、この土方歳三さんだけだ。

    読めば、世界観が変わる。

  • 【内容】
    元治元年六月の池田屋事件以来、京都に血の雨が降るところ、必ず土方歳三の振るう大業物和泉守兼定があった。新選組のもっとも得意な日々であった。やがて鳥羽伏見の戦いが始まり、薩長の大砲に白刃でいどんだ新選組は無残に破れ、朝敵となって江戸へ逃げのびる。しかし、剣に憑かれた歳三は、剣に導かれるように会津若松へ、函館五稜郭へと戊辰の戦場を血で染めてゆく


    【感想】
    まるで、ロードショーを見ているかのような、
    鮮やかな描写。
    どうして、こうも、史実に基づくにせよ、
    想像で描けるなぁと思う。司馬遼太郎は天才だ。

    お雪という愛する女性が出来たことで、
    人間味が滲み出てきた、というのもあるなぁと。

    最後まで、義兄弟の近藤勇が亡くなった後も、
    新撰組の副長如く、武士として闘った。

    こんなカッコいい男はいない。


    最期の函館での、
    夢現の中で、近藤や沖田が現れたというのは、
    まさに想像だが、泣けた。

  • 土方歳三の生き様がほんとにかっこいい、と感じることができる。
    特にラストのシーンは必見。
    こんな人が約150年ほど前まで生きていたのか、
    と考えるとすごい。

  • 時勢が傾き薩長に弓引く者は賊とされ追われる側になった旧幕府軍及び新選組。
    激しい弾雨に散る者、負傷や病で離脱する者、方向性から袂を分つ者…かつての同志達が離別していく中、歳三だけは乗った喧嘩に降伏する術は当然持ち合わせておらず刀や槍の時代ではなくなって来た事を肌で感じるも、誠の旗に誓い武士として本懐を遂げる事を最後迄貫くのです。
    かつては京を震撼させた鬼の異名も北上するにつれ、角が削れ穏やかな顔を見せるも白刃戦となれば疾風迅雷鬼神の如し。「格好いい」の言葉以外出てこない!!
    肖像写真を見ても納得の男前ですけど生き様はそれ以上の漢前!
    数ある新選組文献で、私的王座の席はこの書を抜いて当分譲れそうにありません。

  • 上巻の熱気はいつのまにおさまったのだろうか。
    この本を読み返すたびに不思議に思う。
    下巻を読み進め、ふと一息つくと、
    物語の周囲に神秘的なまでの静謐さが漂っているのに気付く。
    それがどこを境目に変わったのか全く分からない。
    ただ気が付けば、空気が変わっているとしか言いようがない。
    司馬先生のすごさに驚くばかりだ。

    京から物語の舞台が移るにつれ、
    肩書きはどんどん変わっていくものの、
    自ら着込んだ鬼副長の皮は一枚一枚はがれていき、
    物語の最初に私たちが出会った「歳」に戻っていく。
    その無邪気さ、奔放さ。
    そして純粋さに、思わずため息が出る。

    私の大好きなシーンは、最後の幽霊のシーン。
    このシーンを読むと、必ず涙がこみ上げる。
    土方歳三の最奥部分に触れたような気持ちになる。

    初めて読んだのは高校3年生の夏。
    この本に出会ったから、今の私はある。
    今年読み返して改めて思った。
    やっぱりベスト1の座は当分変わりそうにない。

  • なんて強い男なんだろう、土方歳三。
    お雪への態度を見ていると決して強くないから鬼になったのかもしれない、とも思えるが、でもその鬼が歴史を変えたのだと思う。
    ここまで信念を貫かせたのは武士になりたい一心だったのか、新選組の為だったのか。
    最後の晩、そして土方歳三の最期に涙涙・・・。

    土方歳三が没して約150年。
    悪名として、賊軍として、その名は残っていないよ、とだけ伝えたくなった。

    誰にだ。誰かにだ。←

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著者プロフィール

1923年大阪市生まれ。大阪外国語学校蒙古語学科卒業後、産経新聞社に入社。59年「梟の城」で直木賞受賞。独自の史観を駆使し、戦後の歴史小説に新風を吹き込んだ。代表作は『竜馬がゆく』『坂の上の雲』『翔ぶがごとく』など。93年に文化勲章を受章。96年に72歳で死去。

「2008年 『豊臣家の人々 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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