城塞 上 (新潮文庫 し-9-20 新潮文庫)

  • 新潮社 (1976年12月17日発売)
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本 ・本 (608ページ) / ISBN・EAN: 9784101152202

感想・レビュー・書評

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  • 司馬遼太郎はやはりすごい。時代の空気感や家康、淀君などの人物像をしっかり描ききっている。だから、立体的に人物が躍動し、その時代を見てきたように物語を読むことができます。危うく史実と見紛うほどのリアリティーがあります。
    家康+本多正純、金地院崇伝、林羅山、天海僧正の悪巧み四人衆の悪辣さにはとても好きになれそうもありません。普通、司馬遼太郎の作品では、最初、主人公が頼りなかったり、仕様もなかったりして親しみがわきます。さらに、その後の成長が見違えるようでファンになってしまうものです。
    しかし、ここでの家康は序盤から政略や策謀に長けてしまっています。さすがの司馬遼太郎をしても家康を悪謀家として描きむしろ徹底した狸親父としての姿が面白さの核となっています。
    今大河ドラマ「どうする!?家康」にハマっています。松本潤が清々しく、頼もしく成長続ける家康を演じています。徳川家康というある種の大物政治家兼武将を幅広く見ることができ、これも大きな楽しみです。上巻では大阪との開戦前夜までが描かれます。中巻が楽しみです。

  • 関ヶ原の戦いで勝利し、隠居した後も家康は健在でした。家康60代。現在の60代と違って当時は老年期だと思うのですが。健康診断で生活習慣病を指摘された中年のおじさんが、健康管理に励むかのような様子が記されていました。毎朝の火縄銃射撃、鷹狩、時に水泳と体を動かす様子は現代のジム通いのようです。頭の方も切れ味良好で、豊臣家を潰してやるぞという意欲満々の巧妙な策略。恐るべしです。

    豊臣家側の人物の内情がよく分かりました。(秀頼、淀殿、大野修理、小幡勘兵衛【徳川のスパイ】、片桐且元)セリフが面白くて、特に淀殿。ホントにエンタメ歴史小説だと感じることこの上なく、笑ってしまいます。大野修理の登場の記述で能筆家とあり、書が残っていれば見てみたいと思いました。

    方向寺鐘銘事件について、知らなかったのですが(大方の日本の方は知っているのかと思うと自分が情けないのですが)何で、こんな重箱の隅をつっつくようなこと、家康はよく考えるなあと、本当に細かくてねちっこい人だと思いました。考え方を変えれば、発想はすごいと言えるかも知れませんが。

    中巻以降、豊臣家を潰しにかかる家康の様子の描き方、興味あります。

  • あれ、、これは家康が主人公なのに、家康のことがますます好きではなくなっていく…
    関ヶ原後からの物語で片桐且元が退去するところまでが上巻。
    個人的には有楽町は織田有楽の江戸屋敷があった場所というミニミニ知識が好き。

  • 上巻は鐘銘事件がどう描かれるのかを楽しみに読み進めました。崇伝らのやり取りがたまらない。

    さらに、片桐且元が退去する際に武装し、人質交換するあたりの臨場感。次巻以降の展開にますます期待してしまいます。

  • 『関ヶ原』の内容をまだ生々しく覚えているうちに続けて『城塞』も読む。三成が滅び、徳川が形式的には豊臣の臣下でありながら実態として天下をその掌中にほぼ収めてしまっており京には形骸化しながらも一種の権威というか役割を持つ公家世界があるという複雑な情勢が司馬さんの丁寧で質実な筆致で分かりやすく描かれています。徳川の権勢が豊臣家のそれを凌駕していながらも、それは徳川家というよりまだまだ老人となった家康個人の命に依っているものであり秀吉の死後家康がしてのけたように掠め取られかねないという不安定ななか、徳川に反旗を翻す旗印とも為り得る存在の秀頼を亡き者にするべく、人たらしたる家康が深謀で悪辣な謀略計略をこれでもかと繰り出し、詰め将棋のようにジワジワと豊家を追い込んで行く様が再現されています。秀頼に対する家康の陰湿で執拗な仕掛けは、司馬さんをして「犯罪的」と言わしめるほどで、秀頼への忠義の心故に家康に手玉にとられ結果として家康に利するように踊ってしまう大蔵卿局と大野修理親子と、秀頼大事のあまり害をなしてしまう母淀君の振るまいようは読んでいて辛くなるものがありました。後藤又兵衛や真田幸村を始めとする能力も気力も人望もある武将たちが本領を発揮出来ぬままもはや勝利は望めず後世に恥じぬ戦いをしようと奮戦し次々命を落としてゆく終盤は、読んでいる私も「もはやこれまで」ともう読み続けられない気持ちになりました。大変面白く満足して読了しましたが、とても疲弊しました。大河ドラマ「真田丸」をもう一度通しで見たくなりました。

  • 関ケ原の合戦(1600年)の後、豊臣打倒の野望に燃える徳川家康の調略によって、太閤秀吉の遺児・秀頼とその母(淀殿)が籠る大坂城が炎上するなか、成す術もなく自害して果てる(1615年)までを克明に描かれた歴史長編小説です。“狸親爺“などという愛嬌ある家康像など木端微塵に打ち消してしまう、豊臣への締め付け、陰湿ないじめ、大阪城内での間者の諜報戦など、ありとあらゆる悪辣な手段を講じる弱肉強食の徳川一門に対し、世間知らずの恩顧頼み、その弱みにつけ込まれる情けない豊臣方に驚嘆させられる上巻でした。

  • 40年振りの再読。
    大阪冬の陣•夏の陣で陥落してゆく大阪城と豊臣家を描く。
    淀殿の戦さに対するトラウマと中途半端なプライド、大阪方に策謀をめぐらす家康と崇伝の大悪党ぶり、豊臣家家老の片桐且元の逐電などめちゃくちゃ面白い人間ドラマ。全3巻。

  •  大阪の陣をテーマにした小説。文庫本で読むと上中下の3分冊なのだが、この上巻ではまだ大阪の陣は始まらない。随想部分が多い歴史ものというよりは、人物が生き生きと動き回る時代小説のような雰囲気が強い。個人的な好みで言えば、「覇王の家」のようなものの方が好きなのだが、それでもさすが司馬遼太郎の小説、楽しみながら読み進めた。

  • 大坂の冬の陣・夏の陣を、戦が始まるきっかけから大坂城落城まで描いた歴史小説。
    2016年大河ドラマ「真田丸」の予習として読んだ。
    主人公は小幡勘兵衛という牢人で、後に軍学者となる人物。彼は、戦の表舞台には立っていないが、徳川方の間諜として豊臣方に入り込んでいた人物であるため、両者を行き来しつつ狂言回しとして物語を進めていく。でも、途中で時々、全く登場しなくなり、誰が主人公だっけ?となることも。司馬小説ではよくあることだけど(いわゆる「余談だが現象」)。

    たまに勘兵衛が、恋人お夏のために豊臣方に肩入れして徳川を裏切りそうになり、その場面だけはグッとくるものがあるのだけど、最終的には打算と私利私欲で動く人物なので、途中からはそんなに感情移入は出来ない。

    それ以外の、戦の表舞台に立つ登場人物は以下の人達
    豊臣:淀殿、豊臣秀頼、大野治長、真田幸村、後藤又兵衛、片桐且元
    徳川:徳川家康、徳川秀忠、本多正純、本多正信

    どの人物も、何かしら足りないところや汚いところがあって、他の司馬小説の主人公(竜馬・高杉・土方・信長・秀吉ら)みたいに純粋にカッコいいと思える人はいない。でも、その人間臭さこそが、司馬さんが群像劇としてこの小説を描いた意味なのだろう。

    そして、女優で歴女の杏さんが本の帯か何かで書いていた、『最強の城も、人間や組織次第でこうも簡単に滅びるのか』みたいなことが、この小説の一番のテーマ。最強の城と、実戦経験豊富な現場担当者。これらが揃っていながら、なぜ大坂城は落ちてしまったのか。上に立つ者が世間知らずでマヌケだったから、なのだろうけど、その一言だけでは片づけられない、数々のボタンの掛け違いによる失敗から学ぶことは多い気がする。

    以下、印象に残ったエピソード

    片桐且元の豊臣方から徳川方への転身
    - 豊臣を裏切る気持ちは無かったのに、家康の策略と豊臣上層部の疑心暗鬼から、やること全て裏目に出て、転身せざるをえなかった片桐且元。豊臣への忠誠心は誰よりも強かったはずなのに、最後は大坂城へ向けて大砲を打つことまでさせられた彼の心境は、言葉に出来ない。人と人との些細な擦れ違いから、人生を狂わされてしまうこともあるのだ。大河ドラマ「真田丸」小林隆さんの悲喜劇入り混じった演技も、印象深かった。

    大坂五人衆集結
    - 真田幸村、明石全登、後藤又兵衛、毛利勝永、長曾我部盛親ら五人衆。戦う場所を欲して、家の再興、キリスト教布教許可など、各々の理由を持ちつつ大坂城に集まって来て、団結して戦いに臨む。大河ドラマと並行して読んでいたため、映像とシンクロしてワクワクして読み進めた(負けるのは分かっているのだけれど)。
    犯罪者家康と、純粋な豊臣方牢人たちとの対比

    - 司馬さん曰く、徳川家康の大坂攻めは戦争というよりも、本質は「犯罪」(主家である豊臣家に対し、騙したり、約束をすっとぼけたり、内部分裂させたりしたから)。家康をとことん悪人に描いているが、それは彼が「後世にどう思われるか」という発想が無かったから、との解釈。一方、真田幸村・後藤又兵衛ら大坂方牢人は、豊臣が滅んだら他に頼るものが無いわけで、自然、死を恐れず武名をあげ、後世に向かってよき名を残すことに純粋に研ぎ澄まされていくようになる。それぞれの生き方の違いだったのだろう。

  • 大坂の陣を描いた作品。謀略の限りを尽くして豊臣方を追い込んでいく徳川家康の悪辣振りは嫌悪感を覚えるほど。そして、彼に翻弄される淀君は自ら滅亡の道へと歩んでいきます。最後に一花咲かせようと、死に体の大阪方に馳せ参じた真田幸村、後藤又兵衛ら武将たちの生き様は胸を打ちます。

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著者プロフィール

司馬遼太郎(1923-1996)小説家。作家。評論家。大阪市生れ。大阪外語学校蒙古語科卒。産経新聞文化部に勤めていた1960(昭和35)年、『梟の城』で直木賞受賞。以後、歴史小説を次々に発表。1966年に『竜馬がゆく』『国盗り物語』で菊池寛賞受賞。ほかの受賞作も多数。1993(平成5)年に文化勲章受章。“司馬史観”とよばれ独自の歴史の見方が大きな影響を及ぼした。『街道をゆく』の連載半ばで急逝。享年72。『司馬遼太郎全集』(全68巻)がある。

「2020年 『シベリア記 遙かなる旅の原点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

司馬遼太郎の作品

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