- Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101152240
感想・レビュー・書評
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人物評伝短編集。
表題作は、奥羽の雄に留まらざるをえなかった戦国武将、伊達政宗が遺した漢詩を基に、凄絶な半生と苦渋の感慨を綴る。
死する前年に詠われた句に、窺われる寓意が沁みた。
また、「重庵の転々」は、伊予吉田藩の初代藩主・伊達宗純に重用され、「山田騒動」の引き金となった医者・山田仲左衛門をモデルとしており、仙台藩の宗家から分かれた宇和島藩、さらに支藩の伊予吉田藩の経緯が詳しく述べられ、表題作と併せて奥行きが増す。
他、越後長岡藩士・河井継之助、海援隊隊士・菅野覚兵衛、南画画家・田崎草雲、《賤ヶ岳の七本槍》の一人、脇坂安治(甚内)らが描かれる。
知名度の低い人物を主軸に置いても、格調高く冷徹な筆致でもって、終始、読み手を惹き込む筆力の高さは流石の一言。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
久々短篇集。なぜだかタイトル作品の「馬上少年過ぐ」をモンゴルのお話だと思い込んでいたので、1本目の話に河井継之助が登場するとともにそうじゃないらしいことと短篇集であることに恥ずかしながら同時に気づいたという次第。実際のところ4本目である「馬上少年過ぐ」にたどり着き、冒頭部にてその題のままの詩句が紹介される下りに目を通した際には「街道をゆく」の南伊予・西土佐のみち編のお陰で「嗚呼、そちらのお話でした。」と反応することになった。早くも「街道をゆく」踏破の逆効果を感じつつある今日このごろ。
『英雄児』
今回の一時帰国で「峠」の前後編を揃え、その開始のタイミングを計っていた最中だけに、河井継之助の名を見た瞬間に「おっと、今のタイミングでこれを読むのはいかがなものか…。」と反応してしまったのであるが、短編でもあるということも手伝って「まぁダイジェスト版として楽しみますか」と切り替えた。結果は…果たして意図通り。よい助走ができたのではないかと。
『慶応長崎事件』
つい先日亀山社中を訪ねたばかりの者としてはそのタイムリーさについ興奮を隠せず。惜しむらくはあともう少しの時間をとって実際に浜まで歩いてみるべきであったこと。
『喧嘩草雲』
今になって思うことはシバさんがARTについて語るということは、剣術について語ることよりは信憑性が高いということ(笑) こんな語り口で紹介されたら誰だって田崎草雲の作品を一度は観てみたくなる。そしてここにひとり。
『馬上少年過ぐ』
よく考えてみるとその詩句が紹介されていたのは南伊予編だったのか、仙台編だったのか、はたまた両編においてであったのか記憶が定かではない。やはり読み返してみるしかなさげである。そして今さら大河も観たくなってきた。
『重庵の転々』
伊達藩ものとして続いているところがまたたのし。口惜しきは今回の旅では松山以南を断念したこと。そちらまで足を延ばしていれば良くも悪くも土佐までの行程を捨てることになったわけで、まさに本編のために伊予の気勢をいっそう深く感じるのに一役を担っていたであろう。
『城の怪』
司馬作品としては数少ないミステリーもの。「果心居士の幻術」がふと思い当たる。短編としては抜群の題材であり、嬉々として読ませてもらった。
『貂の皮』
このいわれについて無知であった自分がいたお陰ですっかり楽しませてもらった。「所詮三万石止まりの霊験よ」とはよく言ったもの。ふとこの物語の足跡をたどる旅なんてのも面白いかなと想像してみたが、渡海せねばならない部分があることに気づいて即自粛。 -
短編集。ちょうど仙台に行ってきたところだったから馬上少年過ぐはタイムリーだった。
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元々「貂の皮」が読みたくて購入、いままで読んだ司馬短編のなかでもダントツ面白い。
さて、主人公の脇坂甚内(安治)、徳川初期の豊臣系大名の生き残りにして、賤ヶ岳七本槍のひとり。
特段の才はなく、只真面目で平凡な人物であったけれど、丹波の雄 赤井家に伝わる家宝「貂の皮」の霊験のお蔭か、大名として家名を永らえる基を作る。
やはり、日本という国は、率直に才を示し過ぎると足元をすくわれるのか、「出る杭は打たれる」「能ある鷹は爪隠す」というけれど、「大事な処世術だな」と改めて感じた。
ついでに書くと、関ヶ原では西軍に属しているにも関わらず、加増されている。藤堂高虎の曲芸よりも上をいっている。ほんとに「めでたい」というほかない。 -
司馬遼太郎氏の短編集。短編とはいっても、一つ一つ重厚でとても丁寧に書かれている。
他の長編のダイジェスト版のようになっている小説もあり、長編に取り組んでみたいが敷居が高いと思う人は、こういう短編集から読んでみるのもいいかもしれない(といってもやはり長編がおススメだが)。
室町時代から江戸時代まで、必ずしも一番活躍したわけではない歴史の脇役に焦点があたっていて興味深い。本当に面白くて、寝食を忘れて読んだ。 -
司馬遼太郎短編集。
全部で7つの短編集なので、それぞれの内容と感想をかなり手短に。
英雄児…頭が良過ぎる河合継之助の話。無隠の立場からみた継之助の生涯という感じ。「あの男にしては藩が小さすぎたのだ」という台詞がなんとも言えない。
慶応長崎事件…海援隊と外人水兵の斬った斬らなかった話。坂本龍馬、アーネストサトウも出てくる。とにかく幕末の話なので、攘夷運動が盛んな時にこの事件は相当まずい。頭脳戦。
喧嘩草雲…絵師の草雲の話。足軽の子だから足軽絵師。嫁のお菊が亡くなってから人が変わったようになり、穏やか草雲になった。名将であり絵師であった草雲。お菊はいい嫁だったんだなぁと、しみじみ。
馬上少年に過ぐ…タイトルにもなっている。伊達政宗の幼少期中心の話。歌道に堪能だった政宗、疱瘡で片目が潰れてしまった政宗、母から愛されなかった政宗。奥州筆頭伊達政宗此処にあり!という感じ。
重庵の転々…土佐人の医師、重庵の話。武道にも長け頭もキレるこの重庵は伊予人から土佐人ということだけで嫌われていた。家老にまで登りつめたが、結局医師になって仙台で余生を送るという。何とも言えない。
城の怪…万左衛門の一目惚れから発展していく、乱心?な話。狐狸が城に出るという噂を聞き、退治しにいく。そこまではいいけど松蔵とのもや〜っとした感じ。かなり女は怖いなとつくづく。
貂の皮…脇坂甚内の貂。野伏だった脇坂が、豊臣秀吉との出会いで賤ヶ岳の七本槍の1人として世間に注目されたけど。それは豊臣秀吉から貰った貂の皮の庇護では?という話。貂の皮の有り難さというか、貂の皮のおかげで此処までこれましたというか。 -
2つの単行本から計7編を収録した本。河井継之助、イカルス号事件、田崎草雲、伊達政宗、山田文庵、脇坂安治+創作1編。
山田事件は山田文庵に厳しい評価が多いが、文庵に寄り添ったないようになっているのが面白い。司馬遼太郎氏は四国の南側の空気感には割と厳しい目線が多い気がする。
脇坂安治の貂の話は知らなかった(創作としても知らなかった)。安治の評価はなかなか手厳しいが、3万石の話なども興味深い。短編であっても、それぞれに司馬さんの思いが詰まっており、読み応えがあった。 -
講談師見てきたように何とやらと言うが、本当に司馬遼太郎はその場にいたのか?というような描写力で、小説家としての才気を感じる。
お気に入りは『喧嘩草雲』、『重庵の点々』、『貂の皮』。とくに貂の皮が好き。有りそうで無さそうな、無さそうで有りそうな、読んでワクワクする絶妙なラインの古潭を紡いでいる。一方で、『慶応長崎事件』はビックリするほどつまらない。題材が弱いし、龍馬含む登場人物に主人公性が無いし(誰が主人公なのかもよくわからない)、いまや史実ではないことが知られた歴史雑学のために話がしばしば脱線する。で、最後の段落で「なるべく資料にもとづいてこの事件を綴った」とか言ってる。なるほど、物語的なつまらなさは、これが歴史小説ではなく、歴史読本のつもりで書かれているからなのか、司馬史観に騙される人はこうして作られるのかと思った。言い過ぎか
でも先に挙げた三編はめちゃめちゃ面白いので星五つだ!