アメリカ素描 (新潮文庫)

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  • / ISBN・EAN: 9784101152363

感想・レビュー・書評

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  • 1.著者;司馬氏は、小説家・評論家。少年時代は学校嫌いで、図書館と本さえあればそれで満足、と考えていました。大学卒業まで、本を乱読し、古今東西のあらゆる本を読破。出世作「ペルシャの幻術師」で講談倶楽部賞受賞。「梟の城」で直木賞、「世に棲む日々」で吉川英治文学賞、「人々の跫音」 で読売文学賞など、多数受賞。『司馬史観』と言われる独自の歴史観は有名。
    2.本書;「小説を書く余暇に、文明や文化について考えたり、現地にそれを見たりする事がまずまずの楽しみ」という、司馬氏のアメリカ見聞録。「文明という人工で出来上がった国、ジーパンの様な、普遍性があってイカすものを生み出すのが文明であるとすれば、アメリカ以外に無い」と言う。東洋諸国の歴史本が多い司馬氏が、「私にとっての“白地図”」に、独自の視点でアメリカの原型を捉えています。二部構成(第一部;私にとっての“白地図”等12項、第二部; 人間という厄介な動物等18項)。30数年前の本だが、最初に写真が24枚掲載されており、懐かしく読める。
    3.個別感想(心に残った記述を3点に絞り込み、感想と共に記述);
    (1)『第一部5項;ベトナム難民の街』より、『人類史上、最も愚かだったベトナム戦争を振り返る時、自分の愚行を、その後のアメリカ人達は反省し続けている。たとえ反省しない人がいたとしても、あの戦争がもたらしたアメリカ社会の変質や病患については十分認めている。❝他人の国の内臓に手を突っ込んだ国は、相手国が持つ政治的風土病に感染してしまう❞」
    ●感想⇒ベトナム戦争は、社会主義の北ベトナムと資本主義の南ベトナムが争った戦争。実質的に米ロ等の国々が参戦。多くの犠牲者を出して、社会主義陣営の勝利で終結。アメリカは、“枯葉剤による健康被害”や “戦争の罪悪感に苦しむ兵士”など、❝社会の変質や病患❞は甚大だった。戦争は、表面的には主義主張の違いが発端で起きます。しかし、その深層には、人間の様々な欲望に起因していると思います。少数の人に利益をもたらし、圧倒的多数の人に不利益となる、戦争は回避しなければなりません。かつて、日本の軍部は、近隣諸国に対する蛮行、国内でも5・15事件を始め、やりたい放題の暴挙を行いました。政府はそれを忘れ、“戦争放棄”を捨て去り、忌まわしい準備をしているように思えてなりません。ウクライナについても、我が国は、他人の国の内臓に手を突っ込まず、対話による解決に尽力すべきだと考えます。欧米に歩調を合わせず、停戦交渉のテーブルを作る事の模索を切に願います。
    (2)『第一部10項;英雄待望の国』より、「孔子語録というべき❝論語❞は、東方にあっては、聖賢の書だった。・・・❝論語❞の語句は、いちいち読み手が察せねば完成しないのである。さらに言うと、❝論語❞は論理の展開ではなく、片言隻句の集まりなのである。どの句も50%しか語っておらず、読み手は自分の50%を持ち出さねば補完できない。つまり、察せねば、読むことが完了しない」
    ●感想⇒論語は、孔子と弟子の言行録です。二十篇に分けられ、その論理は、警句(心理を短文で表現)で構成。概ね五百章なら成り、一章は六字~三百字と短い。論語は、人間の生き方の良き助言者。司馬氏が言うように、「❝論語❞の語句は、いちいち読み手が察せねば完成しない・・・察せねば、読む事が完了」しません。『日本人とユダヤ人』(イザヤ・ベンダサン)に書いてあります、「日本人は、最も大切な事は、言葉によらず言外によるから」と。日本人は“察する”事に長じているので、議論はあまりしないのでしょう。会社でも、上司にあれこれ聞くと、“察しなさい”と言われ、自問自答したものです。私は、文化の善し悪しは分かりませんが、論理が納得性を高めると考え、そうした文化に馴染めません。蛇足です。私の好きな論語の言葉は、❝巧言令色、鮮なし仁❞と❝剛毅朴訥、仁に近し❞です。
    (3)『第二部3項;フィラデルフィア・資本の論理』より、「資本というものの性格のきつさが日本と比べものにならないという事もある。この社会では資本はその論理でのみ考え、動き、他の感情を持たない。労働者も労働を商品としてのみ考え、その論理で働く。論理が、捨てたのである。凄味がある・・・日本の場合、しばしば資本は人間の顔をしている。例えば、石炭の時代が終わって、常磐炭田が無力化した時、従業員を食べさせる為に、会社ぐるみレジャー産業に転換した」
    ●感想⇒私は、「労働者も労働を商品としてのみ考え、その論理で働く」というアメリカ的労働観を、好みません。日本は、❝企業は人なり❞と社員を大切にしてきました。経営資源(人・原材料・設備・・・)の内、お金で買えないのは、人材だけです。そういう意味で、人間に仕事の遣り甲斐を与え、安心した生活(物心両面)が送れるような施策を展開する企業が良いと考えます。独り言です。政府は、少子化対策と言って、金のバラマキをしています。それも良いですが、少子化の原因を広く考え、派遣を正社員にする施策なども必要です。結婚して家族を持てるような環境を整備すべきです。
    4.まとめ;司馬氏は、文明(誰もが参加できる普遍的なもの・合理的なもの・機能的なもの)と、文化(不合理なもの・特定の集団、例えば民族においてのみ通用する特殊なもの・普遍的でない)と定義し、持論を展開します。そして、「アメリカは文明だけで出来上がっている人口国家という。地球上のほとんどの国の人々は、文化で自家中毒する程に重い気圧の中で生きている」と言います。第一部では、韓国移民やベトナム難民の歴史を紐解き、第二部では、東部に回って、フィラデルフィアやニューヨークの黒人文化等をを独自の視点で分析。アメリカという多民族国家の成り立ちが理解出来きます。現地に出向き、色々な人との交流をベースにした司馬史観の考察。学者とは異なる洞察に感銘。(以上)

  • 第二部は小村寿太郎の足跡を辿る旅にもなっている。
    ポーツマスでは小村寿太郎ゆかりの地を訪ね歩いた。
    司馬氏が訪れた事によって、小村のアメリカでの基金設立の功績も再びクローズアップされたと思う。
    さらに私を含めた読者が訪れる事により日本との縁は続いていくのではないかと思う。
    日露戦争の最中、小村の基金設立に慌てたロシアが一年後に基金を設立したが、日本のように誠実ではなかったそうだ。
    また、日露戦争はロシア有利と、マスコミを使って喧伝したそうだが、その手法はウクライナとの戦争のある令和の今でも変わっていないと思った。

    司馬遼太郎氏の観察力と分析力、そして私などの一般人にもわかりやすい文章力。
    この本はまた年齢を重ねてから読んでみようと思う。

    また、司馬遼太郎氏はその当時から多様性を受け入れている様子が文章からも感じとれた。

    あ、そういう訳でいよいよ坂の上の雲を読んでみようと思います!

  • 私は基本的に、本を他人にお薦めすることがきらいな人間だが、この本は強く薦めたい。特に映画が好きな方。映画といえばやはりアメリカで、これまで満遍なく観てきたつもりでも、結局はアメリカ映画を観た本数が最も多い。映画は、その国の文化そのものを映し出す。だから、映画を観ることで自然とその国の文化に触れることになる。

    私も含めて、日本人が慣れ親しんでいるアメリカ映画・アメリカの文化だが、歴史や時代背景など、わからないことも沢山ある。しかし、この本を一冊読むだけで、かなりの部分が理解できるようになると思う。それだけではなく、この本を一冊読むだけで、ものすごく頭が良くなると思う(←頭の悪い奴が書いた文章)。
    「この壺を買ったら幸せになれますよ」みたいなノリだが、どこの図書館にも置いてあるような本なので無料です。安心して下さい。

    他に、アメリカ映画、歴史と文化をより深く理解するためにお薦めなのは、ひとつは町山さんなどの本。もうひとつは、BSでやっている『世界サブカルチャー史 欲望の系譜』という番組。
    この3つはそれぞれアプローチの方向性が異なる。町山さんなど映画の本は、個々の作品に纏わることから掘り下げる。BSの番組はサブカルチャーつまり戦後史で(第1回は50年代から始まる)、扱うのは戦後の映画のみ。

    司馬遼太郎の『アメリカ素描』は、もっと前から現代まで。アメリカという国そのものが対象範囲です。だからこの本を一冊読めば、アメリカ映画全体の背景について、かなり詳しくなれてしまう。


    司馬遼太郎さん。Googleで「歴史小説」と検索すれば、司馬さんの本の書影がズラズラッと出てくるぐらい有名な、歴史小説の大家だが、私はあまり読む気になれなかった。
    学生の頃、友人の友人との会話で「読書が好き。」「誰の本が好きなの?」「司馬遼太郎。」というノリが嫌いだった。司馬遼太郎を読んでいる男子大学生よりも、池波正太郎を読んでいる女子大学生の方が魅力的に感じる(私よりだいぶ若い方だったが、実際にいた)。

    この本を知ったのはBSの『司馬遼太郎「アメリカ素描」を行く』という番組で。この番組が面白くて面白くて、再放送されるたびに何度も見て、たぶん4回は見ている。
    以来、アメリカ映画を観る時、それ以外もニュースなどからアメリカについて考えるとき、大きな補助線になっている。本そのものは読んでなかったが、間接的にとても影響を与えられた。今回ようやく本そのものを読んだ。

    この本は、1984年と1985年に司馬遼太郎が渡米して、アメリカについて書いた紀行文・エッセイである。前半が西海岸編、後半が東海岸編で、とても読みやすい。460頁ほどでわりと分厚いが、ちびちびと読んで私でも1週間ほどで読み終えた。

    「アメリカについての本」ではあるが、そこは日本人であり、歴史小説家の司馬遼太郎。多くの頁で「アメリカと日本」について書いている。司馬さんといえば幕末期の『竜馬がゆく』『燃えよ剣』。また、明治期、日露戦争を描いた『坂の上の雲』があるので、ペリー来航からの日本との関わりの話になる。つまり、アメリカの歴史を学びつつ、同時に日本の歴史を、あるいはロシア、また多民族国家なので他の国についても学べてしまう。

    この本を貫くテーマとして何度も書かれているのは「文明」と「文化」の違いについて。
    “文明は「たれもが参加できる普遍的なもの・合理的なもの・機能的なもの」をさすのに対し、文化はむしろ不合理なものであり、特定の集団(たとえば民族)においてのみ通用する特殊なもので、他に及ぼしがたい。つまりは普遍的でない。”

    アメリカは多民族国家なので、文明によってつながり、成り立っている。それぞれの民族集団(エスニック)が持つものが文化(サブカルチャー。今現在使われている意味とは異なり、元々の社会学用語としての意味)。


    個人的に気になった点。
    ・84年頃の西海岸、ロスといえばオリンピックだが、この本では一切触れられていない。オリンピックのオの字も出てこないのが、逆に不思議だった。
    ・同じく、当時のロスといえばロス疑惑。こちらも触れられてはいないが、捜査の指揮をしたジミー佐古田の名前は出てくる。

    本に書かれていないことの補足。当時と現在ではかなり変わった点があるようだ。
    ・ロス、この本の8年後にロス暴動が起きる。ユダヤ人が豊かになって郊外へ越していなくなる→韓国人がやってきて豊かになる→いなくなる、というドーナツ化現象的な感じじゃなかったかな。
    ・NYの地下鉄の落書き、治安はジュリアーニ市長の頃に改善していった。ハーレムの治安もだいぶよくなったそうだ
    ・最大の変化は、同時多発テロでWTCビルが失われたこと。この本ではビルから夕陽を見るという美しい情景が描かれているので、落差が大きい。BSの番組もテロ以降に『アメリカ素描』の足跡を辿るという内容だった。因みに番組はリーマンショック前です。司馬さんは1996年に亡くなられたので、このことを当然知らない。この本には84〜5年頃の空気感も封入されている。

    この本で司馬さんが私の県について書かれているので大変驚いた。
    「この県人は男女とも二重がくっきりしていて、目の大きな人が多い。ときにポルトガル人かと思えるほどのひともいる。A君の目も、そうである。(戦国期、長期にわたって大分の港にポルトガル船が出入りした。船員と地元との混血が絶無であったとはいえない。)」
    ↑んなわけない笑。ポルトガル人みたいな顔の人なんて見たことないよ!ポルトガル人みたいな名前の人はいるが(ユースケサンタマリアとか)。冗談か本気かわからんが、無茶苦茶なこと言うなあ……これが司馬史観か笑。

    最後に。各章(都市)に併せて、私が連想した映画をリストにしておきます。
    ・韓国移民→『ドゥザライトシング』
    ・カリフォルニア→『チャイナタウン』
    ・ベトナム戦争→『グラントリノ』
    ・WASP→『ギャングオブニューヨーク』
    ・ヒスパニック→『マチェーテ』
    ・排日問題→『ベストキッド』
    ・ロス市警→『クローザー』(ドラマ)
    ・サンフランシスコ→『ダーティハリー』
    ・ゲイ→『真夜中のパーティ』『ミルク』
    ・アイルランド移民→『タイタニック』『ダイハード』
    ・フィラデルフィア→『ロッキー』
    ・アフロアメリカン→『カラーパープル』『アミスタッド』『大統領の執事の涙』
    ・南部料理→『ヘルプ 心がつなぐストーリー』
    ・ボストン→『グッドウィルハンティング』
    ・美人の基準→『お熱いのがお好き』
    ・ヤッピー→『摩天楼はバラ色に』
    ・私的復讐→『狼よさらば』(本文中に出てきます)
    ・ウォール街→『ウォール街』
    ・ブロードウェイ→『バードマン』
    ・全体→『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』『フットルース』
    巻頭写真
    ・ディスコ→『サタデーナイトフィーバー』
    ・OL→『ワーキングガール』
    ・ユダヤ教徒→『質屋』『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』

  • <謎>
    なぜ今,司馬遼のかなり前のアメリカ旅行記などを読んでいるかと云うと,これはもう多分に憎きコロナバイラス禍津のせいなのである。この2021年の夏秋にかけての緊急事態宣言にて近隣のTSKは全部あっさりと休館してしまって手元に読む本がなくなってしまったのだ。そこで古本屋さんで "棚から一掴み” して選んできたのがこの司馬遼アメリカ旅行記やなのであった 。

    毎度思うのだが司馬遼の文章と云うのはどうしてこうもリズミカルで読み易く面白いのだろう。それは本書の様なエッセイの類に限らず小説にも云える。だから超人気作家で著書は全部大変に売れて来たのだろうけれど,その理由なり手法について触れた書にはあまりお目にかかったことが無い。

    今作で僕は気づいた。司馬遼の作品とはそれは本人も意図しない大いなる ”脱線横道逸れ文章” の集まりなのである。最初にお題目を唱えても,しゃべって(書いて)いるうちに自分でしゃべった言葉に自分で横向き反応しちまって逸れてゆく。普通の作家の場合は後からその事に気づいて書き直したりするのだろうけど司馬遼の場合は後から読んでもその逸れた横道の話が面白くてそのままにしてあるのだ。まあこれは一種の天才的才能なのだから理屈が分かっても真似することなどは出来ないのでしょうが。

    この本の中身は表題とは大きく違っていてたかだか20日程度の間に見てきたアメリカの事などさして重要視はしていない。アメリカの文化文明と日本のそれとを机上で比べる事で真の意味の日本と日本人の文化文明について司馬遼は篤く語っているのである。

    例記するなら,フィラデルフィアのデラウエア河畔に居ながら,司馬の考えている事は,その昔のアメリカ最大の工業都市が,司馬の大好きな幕末明治大正昭和初期の日本とどうかかわって,日本の軍事力や海軍の艦船たちをどのように日本は建造していったのかと云いう,あくまで日本の事に終始するのである。

    アメリカに(いやいやながらも出版社が全部面倒を見てくれるというのでしぶしぶ)ほんの少し(前述のたった20日間程w)旅したというだけで,常に日本の事を考えているのが司馬遼なのである。まあ彼に ”アメリカ” が語れるとはおそらく誰も思ってはいないだろうし実は本書の冒頭で彼はそのような発言をしている。「嫌だったのに・・・」と。笑う。すまぬ。

  • 素晴らしい。

    教養のある日本人が80年代後半の米国を訪れた時、どういった脳内刺激が発生しうるのかということを克明に記録してくれている書籍。ここでいう「教養」の枠組が、本来白地図状の中国大陸に根ざすものであり、「北米へ行きませんか?」という言葉に四年間抵抗し続けた揚げ句その間に旺盛な意欲でもって吸収された活字群をもって磨いたものの上に成りたったものであったとすれば、その視点を通して与えられる言葉というものはそれこそ自分にとっては天の恵みと称するに値するものである。

    20代半ばでこの国に足を踏み入れ、その上で歳相応のアメリカ人のふりをすることは容易ではない。こちらの大学で教育を受け知識は与えられたとしても、教養はそう簡単には身に付かない。まさに自分が来る10年程前に何が起こっていて、その頃の内外の評価はどういうものだったかということを知ろうとする時、ここに記録された言葉の数々はあちこちで引用してみてその反応をみてみる価値があるものなのではないかとも思えたりする。

    記述の中に現われる多くの地名や歴史的事実にうなずけるようになった今となっては読み進めるのが楽しくてしかたなく、「翔ぶが如し」第七巻に突入する前の週末で一気に読み切ってしまった。「米西戦争」という言葉が現われた瞬間に秋山真之の名が思い浮かび、結果彼の名がフィラデルフィアの街を背景として登場する頃には身震いする思いがして読み進めていた。小村寿太郎の下りも秀逸。後半に現われるワールドトレードセンターを訪れての紀行文は、司馬氏の眼光と先見性がするど過ぎていささか物哀しい。

      資本主義というものは、モノを作ってそれをカネにするための制度で
     あるのに、農業と高度技術産業はべつとして、モノをしだいに作らなく
     なっているアメリカが、カネという数理化されたものだけで(いまは
     だけとはいえないが)将来、それだけで儲けてゆくことになると、
     どうなるのだろう。亡びるのではないか、という不安がつきまとった。

    98年に日系の自動車部品工場で働いていた日本人の方が言っていた台詞そのままのことを10年以上も前に言い当てている。唯一の救いは司馬氏がこのWTCが倒壊する様子までをも見通すことなく済んだということだけであろうか…。いや、オバマ氏の当選は司馬氏も手をたたいて称賛したはずだ。そう思ってバランスをとりたい。

    さて、自分の素描(デッサン)や如何に!? 

    追い求めていかねばならぬ。

  • 面白い。
    司馬遼太郎はいつ読んでも納得感がある。

  • いま親しくお付き合いさせていただいている、日系コミュニティ活動に尽力している方に紹介いただいた司馬遼太郎の一冊。
    1985(昭和60)年、著者が延べ40日に渡って旅したカリフォルニア州と米国東海岸諸都市の旅行エッセイなのだが、これはれっきとしたアメリカ論だ。

    文明と文化という言葉を用いてアメリカという国を定義し、それを身の丈に合った目線で「ナマの人間を見て」検証しているから、説得力もあるし、何しろ面白い。
    著者は、文明とは誰もが「参加できる普遍的なもの・合理的なもの・機能的なもの」であり、文化とは「特定の集団(たとえば民族)においてのみ通用する特殊なもの」と指摘し、アメリカが世界で唯一「文明」によって成り立っている国家だと言う。だからこそ、世界の人々の憧れの対象になり、人々を集め、それがさらにアメリカ文明の普遍性を高めている、と説く。
    その一方で、文明だけでは人は生きていけないとも指摘する。そこで、この人工国家アメリカにも文化が登場する。文化とは排他的なものであり、その内側に居る分にはとても居心地がいいものである。したがって、人は疲れや衰えを感じると、「カイコがマユの中に入るように自分の文化にくるまりたくなる」と論じ、それらがアメリカの表面にも浮き上がってきていると考える。そして、その一つの実例として「ゲイ」を挙げる。(当時はまだLGBTという言葉がない時代。)

    アメリカを語る上で欠かせない一冊であると同時に、時代に関わらず、物事の本質を見抜くとはこういうことなのか、と納得する一冊でもある。

  • 大学生の時に父親から勧められ読んだ時には、何処をどのように理解すれば良いのか分からなかった。司馬遼太郎の表現するアメリカが、僕の理解する現代のアメリカと少し違っていた事もある。だが、今再度読み直してみると、時代が違えど、随所にアメリカという国と国民の本質が散りばめられており、改めて司馬遼太郎の分析の鋭さと緻密さに驚かされた。

  • さすがは司馬遼太郎だ。今まで、司馬遼太郎のエッセイは読んだことがなかったが、歴史に深い造詣がある筆者だけに、アメリカを見る視点が鋭い。
    まず、「ザ・ステイツ(the States)」ですっかり感心してしまった。考えたこともなかった。しかし、この一言でもってして、ローマ帝国とアメリカとは、同じ法による国家とはいえ、似て非なるもの、と思った。
    司馬遼太郎の深い洞察力の下に書かれた、様々な国を見つめたエッセイをもっと読みたくなった。話の中にも様々な本が引用されているが、興味深い。
    しかし、何気に文章が短くて、歯切れ良く、躍動感を感じる。司馬遼太郎の人柄をなんとなく感じられて、それも面白い。

  • 「もしこの地球上にアメリカという人工国家がなければ、私たち他の一角にすむ者も息ぐるしいのではないのでしょうか」。
    本の冒頭で、アメリカについて司馬と会話した在日韓国人のセリフである。
    アメリカに対する世界中の人々のまなざしを表しているようで鋭い、と思った。


    司馬遼太郎の熱心なファンではないが、この本は一気に読めた。20年前に書かれた本とは思えないほど新鮮でアメリカの本質を突いている。


    普遍性があり合理的で機能的なものである「文明」と不合理で特定の集団においてのみ通用する特殊なものである「文化」。二つの視点を軸に、アメリカという人工国家を観察した旅の記録。紀行記しても充分楽しめるが、アメリカ論としても勉強になる。

    アメリカという国を知る上で最適な書である。

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著者プロフィール

司馬遼太郎(1923-1996)小説家。作家。評論家。大阪市生れ。大阪外語学校蒙古語科卒。産経新聞文化部に勤めていた1960(昭和35)年、『梟の城』で直木賞受賞。以後、歴史小説を次々に発表。1966年に『竜馬がゆく』『国盗り物語』で菊池寛賞受賞。ほかの受賞作も多数。1993(平成5)年に文化勲章受章。“司馬史観”とよばれ独自の歴史の見方が大きな影響を及ぼした。『街道をゆく』の連載半ばで急逝。享年72。『司馬遼太郎全集』(全68巻)がある。

「2020年 『シベリア記 遙かなる旅の原点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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