草原の記 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1995年9月29日発売)
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感想 : 55
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  • 本 ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101152370

感想・レビュー・書評

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  • 帰るという感覚というか生き方って素敵ですよね。
    翻弄されても帰れれば良きかな。

  • 打ちのめされました。短い文庫本。
    ほとんど「街道を行く」のスピンオフなのかな、という感じなんですが。

    モンゴルの女性の話で、どうやら実在の人物で、司馬さんが数回は会っているヒトのお話し。
    戦前戦中戦後にかけて、日本とソ連と共産中国とモンゴルの「政治」に翻弄されて家族と人生をズタズタにされた女性の人生。

    それを、アンコから入らずに、その人の存在感から語り起こしていく書き方は、舌を巻く小説家の技法だと思いました。ノンフィクションなんだろうけど。

    これはまさしく、小説というか文章でしか伝えられない後味。
    荒野の中の人間の滋味。政治と個人。

    脱帽。

  • 静かな感動を覚えた1冊。
    1人のモンゴル人女性の生き様をとおして、20世紀のモンゴルと歴史が描かれている。
    当時の様子、人の生き様が目の前に現れてるいるかのように表現され、圧倒される。
    壮絶な生き様なはずなのに何処となく軽やかに感じられるのは、筆者の力か、それともモチーフとなった女性のお人柄なのか。
    モンゴルに興味がある方はぜひ手に取ってもらいたい。

  • 「草原の記」司馬遼太郎著、新潮文庫、1995.10.01
    228p ¥400 C0195 (2025.02.25読了)(2005.04.30購入)(1995.11.30/2刷)
    司馬遼太郎さんの「モンゴル紀行」の本だと思って読んだのですが、違っていたようです。
    モンゴルを訪れた時にガイドをしてくれたツェベクマさんという女性のたどった運命を綴ったものでした。とはいえ、話は壮大で、モンゴル民族の歴史をたどっています。
    モンゴル民族は、ロシアや中国にもいてモンゴル人民共和国にいる人たちだけがモンゴルというわけではないということです。
    ツェベクマさんはロシアで生まれ中国の満州に渡り文化革命の際にソ連経由でモンゴルに逃れた方で、中国語、日本語、蒙古語が話せます。
    モンゴルに興味のある方には、一読を勧めます。

    【目次】
    匈奴
    シベリアの暖炉
    黒い砂地(カラ・コルム)
    城市(まち)

    虚空
    帰ってくる話
    解説  山崎正和

    ☆関連図書(既読)
    「長安から北京へ」司馬遼太郎著、中公文庫、1979.01.10
    「アメリカ素描」司馬遼太郎著、新潮文庫、1989.04.25
    「ロシアについて」司馬遼太郎著、文春文庫、1989.06.10
    (アマゾンより)
    空想につきあっていただきたい。
    モンゴル高原が、天にちかいということについてである――。
    一人のモンゴル女性がたどった苛烈な体験を通し、20世紀の激動と、その中で変わらぬ営みを続ける遊牧の民の歴史を語り尽くす。
    史上空前の大帝国をつくりだしたモンゴル人は、いまも高燥な大草原に変わらぬ営みを続けている。少年の日、蒙古への不思議な情熱にとらわれた著者が、遥かな星霜を経て出会った一人のモンゴル女性。激動の20世紀の火焔を浴び、ロシア・満洲・中国と国籍を変えることを余儀なくされ、いま凜々しくモンゴルの草原に立つその女性をとおし、遊牧の民の歴史を語り尽くす、感動の叙事詩。

  • モンゴル旅行の予定があったので一読。

    【ザッと内容】
    司馬遼太郎自身のモンゴル渡航記×オゴタイ・ハーン(チンギスハーンの後継者)の歴史とその背景×数奇な人生を辿ったモンゴル人ツェベクマさんの回想、この3つが折り重なった一冊。小説ではないし、歴史書ではないし、渡航記というわけでもない。文中で司馬遼太郎自身が我ながらただただ書き綴っていると表現している。

    【こんな人にオススメ】
    ・これからモンゴル行く人
    ・モンゴルの文化や歴史について興味のある人

    【感想】
    司馬遼太郎がほんとにただただ書き連ねたような一冊。この一冊を読めばなんとなくモンゴルという国の概要を掴むことはできよう。特に印象的だったのがモンゴル人らしいとされているオゴタイハーンの思想。とにかく遊牧的で、「財宝や金銭は全て過ぎいく。永遠なものは何か?人間の記憶である」と考える。どうやらこの考え方を大国の王が本気で実践していたらしい。衝撃的であった。
    モンゴルという国自体が近代化しきれない根っこにはこの考え方があるようである。現代のモンゴルでは環境汚染も問題になっているが、技術がないというのも大きな理由の一つであるし、この小説を読むと納得感が増す。
    ぜひモンゴルに行く前に一読いただきたい。
    モンゴルの史実が文の多くを占めているのが少し残念で、司馬遼太郎の感じたものやツェベクマさんのストーリーの内容がもっとあったらよかった。一気読み的な類のものではなく、読み物。

  • 時々、ついばむように読んでいた「草原の記」をようやく読了。

     モンゴルの歴史を、恐らく司馬さんが恋心をよせたであろうブリヤート人の「ツェベクマさん」の生涯になぞらえ、淡々と書きよせています。

     しかし、いつも思いますが。「司馬遼太郎」と言う人はどれほどすごいのか?歴史文学者としての司馬さんの大きさを改めて感じます。

     私もそうですが、日本の歴史は学校ではなく、司馬さんの小説から学んだ人、少なくないのでは?

  • 司馬作品の中で一番好きだったりする。

  • 司馬遼太郎の年来の心のふるさとであるモンゴルについて語った紀行であり評伝である。

    モンゴル民族は、著者の言葉を借りれば、「奇跡的なほどに欲望すくなく生きて」きたのである。

    このふしぎな民族を象徴させるように、13世紀に帝国の基礎を築いたオゴタイ・サーンと現代史の非情を淡々と生きぬいた知的な女性「ツェベクさん」対比的に登場させ、心奥の詩の散文化された文章として、自由な座談調で書かれている。

    モンゴルに始まりモンゴルで終わった著者の文体の芸が完成された作品となっている。

  • モンゴルについての司馬遼太郎氏の随想
    胡服・匈奴というあたりについての話から始まり、途中からは司馬さんのガイドを務めたツェベクマさんのルーツの話が中心になっていく。ツェベクマさんを指導した高塚シゲ子さんの話も大変興味深い。
    なぜモンゴルでは中国のことをキタイと呼ぶのか、ハンガリーを中国語で匈牙利と書く理由なども非常に興味深かった。
    終章の「帰ってくる話」の中に、ナーダムの話や、ベトナム戦争に送られた馬が(帰巣本能が無いはずなのに)モンゴルに帰ってきた話などが載っているのもよかった。

  • 司馬遼太郎いわく、126ページ
    日本は1868年の明治維新成立のときは、他国を侵略するような体質要素をもっていなかった。
    すべては、朝鮮半島への過剰な日本の妄想からおこったといっていい。

    その前の段では、
    理屈っぽく言えば、近代日本にとって、満洲は魔の野というべきもので、地理的呼称であるとともに、多分に政治用語であった。
    とも書いておられる。
    その後のページでは、さらに、
    朝鮮が日本の利益線であるという根拠あいまいな数式は日本国民やその政府から生まれてというより、政府や議会から独立した機関である陸軍参謀本部からうまれた。〔略〕日本陸軍は1880年代のドイツの軍制をまねた。この機関は平時にあってたえず戦争計画をたて、有効な情報収集をするというもので、近代日本異常外交のほとんどはこの参謀本部がかかわっていた、
    と記されている。
    日本異常外交!今にいたる、今なおというか、今も参謀本部や日本会議や新しい教科書を作る会などに連綿と異常ぶりを引き継がれ、国民と関係なく跋扈しているではないか。

    と、思いながらも。
    モンゴルに純粋に興味を持ち、というかモンゴルもチベット仏教の人々だなとか、ロシア語文字みたいな字を使っているな、とか草原の暮らしと日本の相撲など、さまざまなミスマッチ要素が絡み合う地域として気軽な興味本位で読んだり調べたりすると、必ず日本近現代史のジメジメと暗いところに引っかかってしまう。
    とは言え、本書では草原の、蓄財をよしとしない筋肉質なモンゴルがおおらかに描かれており、モンゴルや赤い英雄ウランバートルの街を気体のようだと描いておられて読んでいて知識も得るし気持ちも軽やかになる。

    それにしてもブリヤートモンゴル人であり、政治の成り行きで、ロシア満州中華人民共和国そしてモンゴルと国籍が変わる中逞しく自分を貫き生きたツェペクマさんの清々しさと荒々しさよ。人はこのように賢く美しくあるべきと思う、自分の祖国は戦争政治動乱で勝手に変わってしまう、そんなことを歯牙にもかけないというか、そんなことで人の人生も思想も影響されないという反歴史というかなんとも言えないツェペクマさんの生き様に、今のくだらなく矮小な世界を写しそこに住むのは間違いだ、自分の人生は希望だけです、と言い切るツェペクマさんがこの草原の記に遺ることの大切さ。

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著者プロフィール

司馬遼太郎(1923-1996)小説家。作家。評論家。大阪市生れ。大阪外語学校蒙古語科卒。産経新聞文化部に勤めていた1960(昭和35)年、『梟の城』で直木賞受賞。以後、歴史小説を次々に発表。1966年に『竜馬がゆく』『国盗り物語』で菊池寛賞受賞。ほかの受賞作も多数。1993(平成5)年に文化勲章受章。“司馬史観”とよばれ独自の歴史の見方が大きな影響を及ぼした。『街道をゆく』の連載半ばで急逝。享年72。『司馬遼太郎全集』(全68巻)がある。

「2020年 『シベリア記 遙かなる旅の原点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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