峠 改版 (下) (新潮文庫)

  • 新潮社 (2003年10月25日発売)
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本 ・本 (448ページ) / ISBN・EAN: 9784101152424

感想・レビュー・書評

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  • 明治維新の以前から長岡藩と牧野藩主を守るために何をなすべきか、スイスのような永世中立国的な立場になれないか、また当時としては高価な近代兵器購入などに尽力した河井継之助の生涯。男としてかっこいいと思う。

  • 【書評】映画『峠 最後のサムライ』の原作を読む:司馬遼太郎著『峠』 | nippon.com
    https://www.nippon.com/ja/japan-topics/bg900419/

    司馬遼太郎 『峠〔下〕』 | 新潮社
    https://www.shinchosha.co.jp/book/115242/

  • 戊辰戦争は西軍が優勢のまま、ついに越後にも恭順か抗戦かという決断が迫られる。その中で武装中立という、あくまで長岡藩を独立させつつ西軍と東軍の橋渡し役を担うべく奔走する河井継之助は、やがて自らの運命を悟るようになる。

    題名の「峠」とは、実際の戦場となった榎峠のことを指すとともに、幕末から維新へと向かう日本社会にとっての転換点でもあることを示している。とくに北越戦争および会津戦争は、必ずしも優勢ではなかった西軍がその後の維新へと向かうための重要な戦略的転換点であり、ここでの勝利が決定的だった。

    継之助にとって不幸だったのは、西軍との交渉役が岩村精一郎だったことだろう。歴史にタラレバは禁物だが、もし戦略的思考を持つ黒田清隆や山県狂介が相手であれば、重武装の長岡藩と事を構えずに会津藩との交渉役に抜擢するといった判断もあり得ただろうし、もしかしたら戦後も生き残って維新政府で重要な役割を担ったかもしれない。

    2027年の大河ドラマに小栗上野介忠順が決まったように、近年では賊軍とされてきた幕府方の英雄たちを見直す動きが広まってきている。河井継之助も長岡という地に譜代大名の家臣として生まれていなければ、もしかしたら維新志士として名を馳せていたかもしれない。そして困窮にまみれることとなった長岡では、小林虎三郎による米百俵の精神が説かれ、そこから家老の名家を受け継いだ山本五十六が出てくるといった形で、歴史は紡がれていく。

  • 下巻にきて、これまで上巻、中巻で圧縮されてきた河井継之助のパワーが一気に爆発した感じだ。これまでの上巻・中巻がどちらかと言えば「静」の感覚だが、下巻にきて一気に「動」へ転じる。小説としても、最後の最後でドカンとクライマックスを迎える感じだ。

    河井継之助という名前は、世にあまり知られていない。歴史の教科書には出てこなかったからだろうか?少なくとも自分には記憶がなかった。

    また、大河ドラマに取り上げられたこともなく、「なぜ取り上げられないのか?」との疑問の声も多い。

    圧縮されたパワーが爆発したとはいえ、この爆発の形は、河井自身が考えていた理想とは全く異なる形での爆発だった。強い意思を貫いてきた彼だが、最後は時代の流れに飲み込まれ、彼にとっては魔の力とも感じたであろう意思に反する力に引きずり込まれての、やむにやまれぬ戦いに巻き込まれてしまった。

    小説の紹介文には、「西郷・大久保や勝海舟らのような大衆の英雄の陰にあって、一般にはあまり知られていない幕末の英傑、維新史上最も壮烈な北越戦争に散った最後の武士の生涯をを描く力作長編」とある。

    中巻で、福澤諭吉との対話シーンがあるが、当時の時代の大きな流れに逆らうかのような印象を受けた。時代に流されず自身の信念の姿は人としての強さを感じる一方、この巨大な流れに耐えらるのかとの不安を常に感じながら読み進めた。

    大政奉還後も、薩長を中心とした官軍と、旧幕府軍との戦いは続き、これを「戊辰戦争」と一言で表現されることが多い。官軍と旧幕府軍との闘いは、鳥羽・伏見の戦いや、上野戦争、函館戦争がクローズアップされることが多いが、もう一つの大きなキーとなる東北戦争に、とりわけ局地戦であった北越戦争に焦点を当てられたのが、この「峠」の下巻だ。

    ここまで壮絶な戦いであったというのは、この「峠」を読んで初めて知った。河井はこのときは、藩士、家老というよりも、一人の軍総司令官であった。

    河井は幕府系の長岡藩に生まれ、忠誠の心を貫くということと、倒幕・維新という時代の流れとの狭間で、それらを両立させるためには、長岡藩を中立的な存在としてそれに耐えうる力を持たねばならないと考えたのかもしれない。

    しかしながら、彼の中立国の理想は、最終的に魔の働きによって捻じ曲げられ、結果として官軍と壮絶な戦いをせざるを得ない宿命の中に投げ込まれた。長岡藩の民衆を守りたいという理想とは全く真逆の結果、民衆をことごとく戦いに巻き込んでしまうという結果を導いてしまった。

    彼があるいは、長岡の出身でなく、薩長に生まれていたとしたら、西郷、大久保や勝海舟らと歴史に名前を並べていたかもしれない。

    同じ幕末を読むにしても、違う角度から読んでみると、なんとなく時代が立体的に見えてくるように感じるものだな・・・という感想だ。

  • 「長岡に死ににきたぞ」
    悲壮感漂う長岡奪還戦をクライマックスに、負ける結末を知りながら、死に花を咲かせる継之助と長岡武士たち。
    悲しい中にも爽やかをもって、長かった話は終わった。
    現在、長岡に行くとシャッターを閉めた店が多く、寂しい限りだが、今度訪れる時は、昌福寺に行ってみようと思う。

  • 幕末の時代。
    誰もが、長いものに巻かれ、右往左往していた時代に、これだけの自己規律と信念を持ち、ブレずに生きた男がいた。
    そのことが衝撃だったなぁ。

    思想や自己規律、信念が、ここまで生き様を描くことができる。それが人間が、他の動物とは一線を画す生き物である、ことの証左だとも思う。

    武士って、スゴイや。

  • 【2022年の読書振り返り】

    自分の愉しみとして10作選びます。

     

    ■実書籍■誰がために鐘は鳴る(ヘミングウェイ)

    ■実書籍■ドクトル・ジバゴ(パステルナーク)

     

    この2作が頭一つ抜けて圧巻でした。パチパチ。

     

    ■実書籍■ロバート・キャパ写真集

     

    正直、「誰がために鐘は鳴る」「ちょっとピンぼけ ローバト・キャパ自伝」との3点セットの味わいなんですが、やっぱりこの人の写真は魅力が尽きないなと思いました。

    これは岩波文庫が素敵な仕事をしていくれていると思いました。

     

    ■実書籍■マノン・レスコー(プレヴォ)

    ■実書籍■郵便配達は二度ベルを鳴らす(ケイン)

     

    今年は海外古典がマイブームだった気がします。光文社古典新訳文庫、素晴らしいですね。

     

    ●電子書籍●街道をゆく・オホーツク街道(司馬遼太郎)

     

    今更な司馬遼太郎さんなんですが…。面白いものは面白い。

    数十年ぶり再読の「峠」、「播磨灘物語」、それから「人間の集団について」「街道をゆく・陸奥のみち」も併せて、脱帽ものでした。

     

    ■実書籍■すみだ川(永井荷風)

     

    やはり数十年ぶりの再読なんですが、今回は復刻シリーズで旧かなを堪能。

    打ち震えるくらいの快楽でした。旧かなマニアなので…。

     

    ■実書籍■「細雪」とその時代(小林信彦)

     

    小林信彦さんの新作を愉しむというのが歳月を考えると感無量。

    そして「細雪ファン」としてはこれまた鳥肌モノ。

    関西が懐かしくなりました。

     

    ●電子書籍●人生が変わる55のジャズ名盤入門(鈴木良雄)

     

    失礼ながら大きな期待なく読んだんですが、鮮烈に愉しみました。

    数年ぶりに「猛烈にジャズが聴きたいっ!」と思わせてくれました。

    現役のジャズ巨匠、それも日本人の、という視点がこれほど興味深いとは。

    名盤入門なんですけど、鈴木良雄さんの半自伝という楽しみですね。

     

    ●電子書籍●ジャック・リーチャー・シリーズ(リー・チャイルド)

     

    村上春樹さんが「このシリーズは好き」と言っていただけで読んでみたんですが、

    いろいろ突っ込みどころも満載だけどとにかく楽しめてしまいました。

    「奪還」「パーソナル」「宿敵」「ミッドナイトライン」「葬られた勲章」の5作。

    敢えてひとつなら「パーソナル」がラストまで楽しめて印象的。

     



     

    以上で10作になります。

    上記で言及していない、次点みたいな心残りを挙げると

     

    ・新宿鮫Ⅻ 黒石(大沢在昌)

    なんだかんだ、また全作再読してまった挙句の新作は痺れました。

     

    ・世界の歴史23・ロシアの革命(上山春平)

    このシリーズは好きなんですが、特にこれは夢中になって読みました。

    かなりエンタメでのめりこめました。

     

    ・ヨギ・ガンジーの妖術(泡坂妻夫)

    とぼけた味わいとひねった仕掛け。脱力感溢れるキャラクター世界が秀逸。

     

    あたりでしょうか。「失敗の本質」もこれまで何度も読み切れなかった(読み始めるタイミングが無かった)んですが、面白かったですね。

     

    来年も、愉しみです。

  • 下巻一気読み。
    戦国時代モノや、幕末あたりの読み物好きだなーー。

    最初に買ってもらった本が織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の伝記だからかなー??

    河井継之助、惚れるなぁー。

    映画の公開が楽しみです。

  • 越後長岡藩・家老、河合継之助の一生を描いた作品。
    陽明学徒で非門閥の家柄ながら、才覚と能力で出世し藩家老まで上り詰めた開明論者。幕末の世に、佐幕でも薩長でもなく、第三の道を探った河合の構想は、官軍相手の北越戦争で霧散する。
    変わった人物だ。と、一言で表せぬほどの異能の侍である。全国を遊行し妓楼で遊ぶ上巻の散文的な日々から、中巻では黒船襲来、慶喜の大政奉還と世情が騒がしくなったころに、継之助の才覚と先見が頭角を現す。そして下巻における北越戦争。この時代の時勢の結末を知っていても、なぜか河合継之助に、越後長岡藩に、奥羽越列藩同盟に、声援を送りたくなる。そう読者に思わせるところが、司馬遼太郎という小説家としての凄さだろう。

  • 誰よりも早く洋式を取り入れた継之助。
    一方、志や思考・思想は誰よりも武士だった継之助。特にこの下巻ではその色が濃くなる。

    継之助は完璧主義でもなければ適当主義でもない人なのだろうと思う。あえていうなら最適主義といった人物。

    複数の方が書いているが、幕末や明治維新の時代、学校の勉強ベースや歴史の書籍ベースだと、殆どといってよいほど、倒幕側の目線、あるいは幕府側の目線で書かれている。それがこの『峠』では長岡がとった『中立の立場』として描かれており、同じ時代でも全く違った世界を知ることが出来る。

    峠の主人公である河合継之助、同じ時代を生きた坂本竜馬、うつけと言われた信長、皆若い頃は総じて周囲から『変わり者』と思われる人間だったと思う。つまり天才とはそういう者だ!

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著者プロフィール

司馬遼太郎(1923-1996)小説家。作家。評論家。大阪市生れ。大阪外語学校蒙古語科卒。産経新聞文化部に勤めていた1960(昭和35)年、『梟の城』で直木賞受賞。以後、歴史小説を次々に発表。1966年に『竜馬がゆく』『国盗り物語』で菊池寛賞受賞。ほかの受賞作も多数。1993(平成5)年に文化勲章受章。“司馬史観”とよばれ独自の歴史の見方が大きな影響を及ぼした。『街道をゆく』の連載半ばで急逝。享年72。『司馬遼太郎全集』(全68巻)がある。

「2020年 『シベリア記 遙かなる旅の原点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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