- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101156507
作品紹介・あらすじ
「〔たいめいけん〕の洋食には、よき時代の東京の、ゆたかな生活が温存されている。物質のゆたかさではない。そのころの東京に住んでいた人びとの、心のゆたかさのことである」人生の折々に出会った"懐かしい味"を今も残している店を改めて全国に訪ね、初めて食べた時の強烈な思い出を語る。そして、変貌いちじるしい現代に昔の味を伝え続けている店の人たちの細かな心づかいをたたえる。
感想・レビュー・書評
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美味しそうな食事の写真から始まる。
食べてみたいなーと思いながら先に進む。
読み始めたら、わくわくが止まらない。
どんどん読み進む。
今年は池波正太郎さん、生誕100周年で、池波正太郎さんゆかりの地を巡るバスツアーがあるらしい。池波正太郎さんが愛した鍋料理を昼食に頂けるらしい。行ってみたいものだ。
とてもおいしいということが、文章からわかる。食べ物からその時代の様子も伝わってくる。やんちゃな様子が楽しそう。親友の井上留吉さんの消息が気になるなあ。池波さんと天国で再会されているといいなあー。
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本棚の奥から出てきた。
池波氏が「うまい!」と思って食べてきた味と店の思い出が書かれているが「グルメ本ではない」という但し書きがつく。
舌が覚えているのは、思い出と、人の縁。
この作品の最初の刊行は、昭和59年(1984年)で、およそ40年前。今から見たら、すでにむかし・・・かも。
その「むかし」に振り返って、まだ続いている店を紹介していたものだから、現在から振り返れば、むかしむかし、である。
スマホのマップで見たところ、「たいめいけん」や「イノダコーヒー」などのごく有名な店を除いては、すでに残っていないようだ。
跡地がコンビニやビジネスホテルになっているのを見て、味気ない思いと共に時の流れを感じる。
「持続の美徳」と言って、変わらぬ味を愛し、賞賛した池波氏であったが、残念ながら変わらないものなどない。
私たちには行くことの出来ない、戦前の東京。戦後の復興。
そんなものが、読むほどに懐かしく感じられ、目の前によみがえる気がするのだ。
「むかしの味」の向こうに池波氏が見ているものは、先に亡くなった年長者たちの思い出であり、戦前戦後と経て音信不通になってしまった友たちとの懐かしい日々だった。
見たことのない、憧れの「昔の東京」に行くための重要なアイテムとして、また本棚の奥に大切に保管しておこうと思う。 -
述懐しているのは味だけではなく、その店が持ち合わせ、守り続けてきた店構え。矜持を持った、料理人、店主、店員、客、人も含めた店構え。
味以上に語りたいのは、そちらなのかも。 -
いい匂いのしてくる本でした。まつや、竹むら、煉瓦亭はその昔、剣客商売にどハマりした若い時に池波正太郎を気取って食べてきました。資生堂パーラー、行ってみたいなぁ。たいめいけんも。憧れるのは自分だけの、こうしたお店を見つけること。おいしいもの、良き思い出の逸話の合間にちょっとほろ苦いエピソードを交えてただのおいしいだけ、昔は良かった的な話だけではないのは、さすが池波正太郎でした。
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昭和の時代飲の食べ歩きエッセイ。
懐かしくもあり無くなった店も多い。この先の日本でどんな店を探そうかと考えた。 -
食べ物やお店にまつわる思い出やエピソードが綴られていて、それを通して自分が生まれる前の時代の雰囲気や生活などを知ることができる。
自分には分不相応なお店も多いので実際に追体験をすることは難しいが、自分なりに食とその思い出を大切にしたいと思った。 -
粋な本である。如何にも旨そうな料理の描写と池波正太郎氏のむかしの挿話が各店を訪ねたい気にさせる。・・・と現代の技術を使ってグルメサイト検索すると何れも高評価なお店ばかり。さすがは食通として名高い文豪である。しかし大切なのは味ばかりではない。丁稚奉公から文豪となった氏が語る料理への思い出は最高の調味料として効いている。回顧主義に走るのではなく、江戸っ子らしい感覚で「よいものはよい」とむかしの味と記憶を紡ぐ物語はなんだかほっこりさせられてしまう。
余談ながら東京下町の老舗にお邪魔すると池波正太郎氏の写真がちょくちょく飾られている。自分の足で色んな店を訪ね歩き、気さくに写真に応じる氏の表情が浮かぶようである。 -
本書は昭和63年に文庫化されたものだが、食通の著者の文章が素晴らしく良い。〔たいめいけん〕は、当時も有名な洋食屋だったのだろうが、今はTVで紹介されてか、休日には時分どきを外しても長蛇の列で、店そのものに入れやしない。いや、本書は店に客を呼込むグルメ紙ではないのだが、やはり本書に出てくるものを食べたいものだ。〔どんどん焼〕は作れそうな気もするが、元の味を知らないし……解説で書かれた「日々のニュースに見られる救いようのない事件」どころではない平成の世を著者が見たら「君たちは気の毒」では済まないだろうな。
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私にとり池波正太郎は、時代小説作家、劇作家であると共に「随筆の名手」です。
私達(戦後世代)が知る味、私達が知らぬ「むかしの味」。
この作は、人々の営みを読者に教えてくれます。
「ご馳走の湯気」、その向こう側に。
そんな一冊です、私にとって。 -
文庫の再読。池波氏による食べ物の描写は言うに及ばず、その後ろに浮かび上がる"むかしの味"には、その時代も味も知る由もない私でさえも郷愁を感じてしまう。