査察機長 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (361ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101160467

感想・レビュー・書評

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  • 飛行機好き、旅好きでよかった!
    エアライン好きなら絶対に読んだ方が良い!と断言できる名著。まぁ飛行機嫌いの方は読まない本だと思いますが。。
    旅客機が出てくるストーリーものと言うと、やれハイジャックだ、やれ事故だ、やれ出発空港に引き返すだの。もちろん、何か起こるからこそドラマが生まれるというのはその通りではあるのですが。
    しかしこの小説は、普通に飛行機を飛ばすという話。それにもかかわらず、ここまでのめりこんで読めて、ここまで感動できる、ということを示したもの。深くパイロットという仕事を知る内田氏だからこそ描けるドラマを堪能しました。

    ストーリーは、成田からニューヨークに向かうANAそっくりの架空の会社の便の話で、新米機長が査察を受ける「チェック・フライト」に臨むというもの。
    絵に描いたような査察官のチェックを受けながら、新米機長と、老練の先輩機長の2人の目線で進むストーリーが絶妙で、なるほど若手とベテランの目線の違いってこういうコトかと感心させられます。後半では査察機長の目線のくだりがあるかなと期待してたのでそこはちょっと残念ですが、終盤で内容はカバーされます。
    査察を受けるという設定があることで、エアラインの専門知識の説明を上手く話の中に組み入れているのがこれまた巧妙なやり方。頭で想像しながらでも全てを理解して読むのは難しいですが、100%まで理解しなくとも十二分に楽しめました。

    また、航空会社パイロットという仕事の特徴として、仕事のパートナーとなる同じフライトのパイロットが毎回違う、ということがあると思うのですが、そんな環境下でも息を合わせてフライトを遂行していく醍醐味のようなものを、本著を通じて感じ取ることができるように思います。
    普通のデスクワークをしている自分ですが、このような要素は自分の日々の仕事でも活かせるのかな。

    また今度、ロングフライトに乗る時に機内で再読したいなぁ。冬のニューヨーク線が理想だけど。

  • 今年最大の当たり本。著者は元全日空のパイロット。航空会社のパイロットには年に一回の「査察飛行」が義務付けられている。いわば定期監査のようなもので、機長は実際の搭乗を査察官による監査される。この小説ではNRT⇒JFKの12時間の査察フライトを350㌻で書く。コックピット内の臨場感は元パイロットだからこそ出せる表現力。時間を忘れて没頭してしまう。これは個人的意見だが、単なる小説にとどまらず後進指導とはどうあるべきかを考えさせられる点も言及したい。

  • 技倆を磨く意味を考えさせられた。チェックは見られているのではなく、見せている。何度も何度もやってくる試練のたびに、この本のことを思いだす。

  • この小説は、航空サスペンスではない。

    しかしながら、オビにある最高傑作の文字は紛れもない真実だと思う。

    この小説は、新人機長の北米路線の査察飛行という日常がテーマであり、実際に物語の進行に合わせて機は成田を飛び立ち、若干降雪で進入待機がかかるもののJFKに無事に着陸するという乗り合わせた乗客であっても平凡なフライトを取り扱っている。

    しかし、この小説の中には有償飛行を行うパイロットの心得とか、若年管理職と年配部下の微妙な人間関係や査察を受けるパイロットの微妙な心理などが複雑に絡み合いなんとも緊迫感のあるコックピットを描写している。

    そして、圧巻はJFKへのアプローチ。
    毎回こんな緊張ではないとしても、手に汗握るランディングシーンを描ききる。

  • 機長の仕事がどういうものであるかがよくわかる話。
    主人公と同乗者の2人の見方が分かるように書いているところがよい。

    なぜ2人で操縦するのか、
    なぜ、定期検査があるのか、
    定期検査の内容はどういうものか、
    などなど、乗客の知らないことが山盛り。

    専門家として必要なことがよくわかる。
    内田 幹樹の作品で一番親しみ易いかも。

  • 内田幹樹さんの小説の中で本作が一番好き。何と言っても突飛なトラブルがなく普通のフライトなんだけど、一番ストーリーに緊張感がある。LENDYからJFKにランディングする一連の流れとフライト後の小料理屋のやり取りなんかサイコーです。本当に惜しい作家さんでした。もっと沢山の作品展を遺して欲しかった…合掌。

  • 飛行機物だが、事故やハイジャックがあるわけではない。機長としての査察を受ける成田からニューヨークまでのフライト。着陸シーンはハラハラドキドキです。筆者の作品の中で一番面白かった。

  • 素晴らしい。私のようなその筋の人間にとっては、これは間違いなく史上最高傑作の本です。去年読んだブリティッシュエアウェイズのパイロットのエッセイなどどは比べようがないくらい面白い。著者が既にお亡くなりになられていることが残念。もっともっと書いて欲しかった。

  • すごい臨場感、緊迫感とスピード感、夢中になってあっという間に読み切ってしまった。物語は若手機長、村井の成田からニューヨークまでのチェックフライト。専門用語も出てくるけど、そんな細かいことは気にならないし、逆にそれがリアリティを増しているようにも感じる。

    パイロットは年に数回、このような技量チェックを受け続けているという。主人公は査察官の氏原に関する悪い噂ばかりが気になっていたが、吹雪の中の着陸では二人で息を合わせて、無事に難関を乗り越える。そして、チェック後のブリーフィングでは、査察官の考えていることを、もっと知りたいと思うまでになる。査察官の言葉の中で印象に残ったのは、チェックは教育ですというもの。

  • 実際にANAのパイロットだった著者が、パイロット物語。
    成田から 雪の吹雪くニューヨークまでのフライトの中で、
    新米機長 村井、ベテラン機長 大隅、そして 査察を担当する氏原。
    3人をめぐって、村井と大隅の視点で 物語られる。

    氏原に対する 村井の 風評からの人物評価。
    そして、査察と言うものが どんな意味があるのか?
    チェックされて 機長の職位が
    剥奪されてしまうという心配から、緊張する。
    一方で 村井は 職人気質なところがあり、
    コンピュータの指示に従うよりも
    自分の技量で 美しく着陸すると言うことにこだわる。

    大隅はベテランであり、パイロットの教官だったりしたので、
    チェック項目は ある程度心得ている。
    コンピュータ操縦といえども、自分の身体で、
    パイロット技術が染み着いている。
    その技量がさりげなく発揮される。
    『コンピューターは計算が速いが五感をもっていない。
    空を見て雲を読み、位置を考えて風を知る。
    高度と速度とパワーを決めて飛ぶ。それが、パイロットの基本だ』

    氏原は、胃を痛めていて、インスタントなどは受け入れない。
    無口で、無表情で、評価は厳しい。
    しかし、物語が進んでいく上で チェックは教育の一環であり
    機長は 前ばかりではなく、後ろに気を配ることが大切と語る。

    フランスでは、コーヒーのことを
    『悪魔のように黒く、地獄のように熱く、恋のように甘い』
    ブラジルでは、いいオトコのことをコーヒーという。
    『黒くて、熱くて、眠らせない』

    乗っている飛行機のコックピットで 機長がどんなことを考ているのか
    そのことが、リアルに語られていて、面白かった。

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