秘事・半所有者 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (375ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101161044

作品紹介・あらすじ

「幸福な結婚」に隠された秘密とは。三村清太郎と麻子は、大学で知り合った、昭和11年生まれの同級生カップル。夫は一流の商社で順調に出世し、妻は聡明で社交的な、周囲も羨む睦まじい夫婦だ。だが、この結婚にはある事故が介在していた。周到に紡がれた夫婦の日常の結晶(『秘事』)。亡くなった妻への夫の究極の愛を描き、川端康成文学賞を受賞した傑作短編『半所有者』を併録。

感想・レビュー・書評

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  • 愛に満ちた長編『秘事』、20p弱で終わる衝撃的な『半所有者』のとんでもない2本立て。
    『みいら採り猟奇譚』でも感じたが、河野多惠子の表現する男女の愛の美学は非常に崇高でもありながら歪。
    キャリアの終盤で彼女の導き出したこれまでの答えがこの2本と思うと感慨深い。良質な一冊でした。

  •  「秘事」は出来過ぎなくらい完璧な夫婦の物語です。読んでいて、嫉妬してしまったり、幸せのお裾分けをもらったり、不思議な気分になりました。
     何一つ過不足無く完璧な夫婦かと思いきや、息子の目からは共依存ぽく映っているのも新鮮でした。それでもいい夫婦だと思うけど。
     「多幸症」という症状は、この番組で初めて知りました。そのせいで「あの秘密」を妻に言えなかった夫に涙しました。また、眼鏡の下にハンカチを押し当てるシーンも泣けました。いい小説だと思います。
     一方、「半所有者」は愛情の強い夫はいいと思うけど、描写が生々しく気色が悪かったです。

  • 幸せな夫婦の物語だと思う。
    その軌跡を、自然に追っている。

  • 何気なく道を歩いていて住宅地などを通るとそれぞれの家にそれぞれの家族があることにどこか途方に暮れるような気持ちになることがある。どの家に住んでいる人にもそれぞれの歴史があるだろう。自分が交流をするのはそのほんのごくごく一部。それは当り前のことだし、それに抗おうとして活動的になってもっと多くの人と関わりを持とう、とも思わないが「時間経つの早いな」とか「人生短いな」といった思いはやはりよぎるようである。

    河野多恵子さんの「秘事」はある平凡な夫婦の生活を描いたものだ。結婚前から、妻が亡くなるまでが丁寧に描かれる。「秘事」と題がついているし、私の中の河野さんの谷崎好きのイメージが艶っぽい筋を想像させたのだけれど、全くそれがなくて意外だった。本当に平坦に小説が進んでいく。幸せな家族だ。

    なんとなく読んでいるうちに終わってしまったけれど、後で振り返ると、麻子が傷を負うエピソードや、夫に内密で貸金庫を借りるところなどが、薄ぼんやりと浮かび上がる。印象派の絵画みたいな小説だ。
    ささやかな「秘事」はどんな家庭にもあるのだろうな。自分の記憶の中のなだらかな起伏にも色を与えてもらったような気がする。

  • 一流商社で役員にまで登りつめた夫清太郎と、何年経っても夫に“ほんまに気持のええ奴”だと思わせる妻麻子。おまけに結婚を控えた息子に「おふたりは僕の最も大好きなご夫婦なんですよ」とまで言われる理想的な夫婦の日常を描く。
    これでもか、これでもか、というくらいすべてがうまくいっている。ある意味異常だ。でもこれくらいの秘事を抱えてみたいとも思わせる。
    「半所有者」は、妻の遺体と最後にもう一度交わろうとする男の物語。短いながらもあまりにも河野多恵子らしい、濃厚な作品だ。

  • とっと、とっとと、作者が勝手に(?)思いついたことを思いついたまま語った、という感じの物語です。 日常をとりとめもなく。
    それでも何だか、不思議な情愛を感じます。

  • 「秘事」
    様々なトリックが仕掛けられているが、文章が非常に巧みなために読みやすい。
    最後はさぞや盛り上げるクライマックスだろうと思っていたために呆気なく感じられたが、それは過剰な刺激を期待する悪いエンターテイメント中毒なのだろう。
    一組の夫婦の愛情を余すところなく描いた良作だった。
    妻がとても魅力的。

    「半所有者」
    妻の遺体の冷たさから何から、実際体験しているかのようだった。
    この文章の上手さは恐ろしい。

  • 『秘事』は、幸せすぎるほど幸せな夫妻の半生を描いた作品。
    夫の三村清太郎は、大学卒業後、一流商社に就職して順調に出世し役員まで務める。海外生活も長く、周囲の人望も厚い。
    妻の麻子は、大学卒業前に同級生の清太郎と交際を始め、卒業後の秋に結婚。二人の息子と四人の孫に恵まれ、夫にも生涯愛され続けた。
    大学卒業直前に麻子が清太郎の目の前で交通事故に遭い、顔に傷を負ったため、就職をやめたことが二人の結婚を後押ししたのは事実だけれど、
    清太郎は事故の責任を感じて結婚したのではなく、純粋に麻子を好きだから結婚して、生涯愛し続けた。
    「秘事」というと悪いことを連想するけれど、こんな秘事もあるんだなと思った。

    『半所有者』は、「亡くなった妻への夫の究極の愛を描き、川端康成文学賞を受賞した傑作短編」(作品紹介より)。
    亡き妻の通夜に遺体と交わる夫の姿は衝撃的だった。

  • outofthisworldさんのお勧めを見て。
    この作家の作品はおそらく初めてでした。
    「秘事」は最初テンポが掴めなくて戸惑いましたが、ラストへの導入、本当に見事でした。
    カフェで読んでいたのに、涙ぐんでうるうる。
    夫婦というものを考えさせられました。
    教えていただいてありがとう。

  • 良い作家だ

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