塩狩峠 (新潮文庫)

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  • / ISBN・EAN: 9784101162010

作品紹介・あらすじ

結納のため札幌に向った鉄道職員永野信夫の乗った列車が、塩狩峠の頂上にさしかかった時、突然客車が離れ、暴走し始めた。声もなく恐怖に怯える乗客。信夫は飛びつくようにハンドブレーキに手をかけた…。明治末年、北海道旭川の塩狩峠で、自らの命を犠牲にして大勢の乗客の命を救った一青年の、愛と信仰に貫かれた生涯を描き、人間存在の意味を問う長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • 懐かしい1冊。
    私は中学生の時、全寮生の学校だった。
    同じ部屋だった中3の先輩が、良い本だからと押し付ける様に貸してくれた。私はまだ中1だった。今考えると、よく読み切ったと思う。

    主人公は、列車の運転手。そして、桁外れな意志の持ち主だった。それが、彼を
    大変な行動へと・・・・
    ・・・・何と言い表わすのがふさわしいのだろうか。このままだと、悲惨な大事故になってしまうと判ったからといっても、彼の精神力は並大抵ではないと思う。
    ・・・・これから待っていたであろう未来は彼の頭を掠めなかったのだろうか。
    そんなはずはない。もしも、彼があのような行動を起こさなかったら、列車は
    どうなっていたのだろう。やはり、思わずにはいられない。

    本屋で「塩狩峠」を見つけると、あの時の先輩の姿を思い出す。
    ・・・・それは、中1と中3の姿のままで。

    • 淳水堂さん
      ゆうママさんこんにちは。
      私のレビューの方にコメントいただきありがとうございます(^o^)
      私は読んだ後にレビューを書き、他の方々のレビ...
      ゆうママさんこんにちは。
      私のレビューの方にコメントいただきありがとうございます(^o^)
      私は読んだ後にレビューを書き、他の方々のレビューに目を通して、いいね、させていただきました。

      ゆうママさん中学生の時に読まれたのですね。
      うちも中学生の娘から回ってきたのを読んだのですが、中学生でこれを読むってすごいな−と思います。娘は「婚約者かわいそう」とだけ言ってましたが(苦笑)

      また機会がありましたら〜(^−^)/
      2021/05/22
  • 若い頃、この本に出会った。
    クリスチャンではない私だが、この本をきっかけに三浦綾子さんの世界に誘われていった。
    同僚に教会で上映会があるからと誘われたので出かけたら、この塩狩峠だった。
    小説でも映画でも最後が鮮烈だった。
    「真っ白な雪の上に、鮮血が飛び散り、信夫の体は血にまみれていた。」
    塩狩峠を家族で訪ねたのも冬だった。
    この一文が浮かび、身体は凛とした。
    娘もこの本を読み、感動をおぼえたという。

    世代を超えて、この小説は問う。
    本当の愛とは何か。
    最後は辛い。

  • 人はなにか芯になるものが必要であり、その”芯”にどうやってたどり着くのか。
    「一粒の麦、地に落ちて死なずば、唯一つにて在らん」『ヨハネ伝』の第12章24節

    ===
    明治十年の2月に永野信夫は東京の本郷で生まれた。
    母はすでに亡く、父の貞行は一見穏やかだが芯の通った人物ではあったが、仕事のため信夫の養育は祖母のトセに任されていた。
    祖母トセは、武家筋であることを誇りとし、信夫を厳しく育てていた。そして折に触れて信夫の母の菊を侮蔑する。だが信夫は、会うことのできない母に密かに慕情を感じているのだった。

    だがその祖母トセが死んだときに、ある女性が家に来た。
    この女性こそ、死んだと聞かされていた信夫の母の菊だった。
    菊はキリスト教だったため、ヤソ教を忌み嫌うトセにより家から追い出されていた。
    しかも信夫の父の貞行は菊のもとに通い、妹の待子まで生まれていた。

    信夫は混乱する。
    密かに憧れていた母は、優しく穏やかで、父とも妹とも心から結ばれている。だが自分は?母は幼い自分よりもヤソ教を取ったのか?妹だって?信夫は自分の家族を慕いつつ、素直になれない気持ちも持つ。

    信夫が小学4年のときに同級生の吉川修、そして吉川の妹ののぶ子と知り合う。
    吉川は北海道に引っ越ししていったが、距離が離れても信夫と吉川とはこの後生涯の親交を結ぶことになる。

    思春期を迎えた信夫は自分自身について思い悩む。
    人はなぜ死ぬのか、自分の言葉と行動は本心なのか着飾っているだけなのか、自分は平等なつもりで他人を見下しているのではないか、家族が好きなのに素直になれない気持ち、自分自身のヤソ教への理不尽な反発心、そして触れたことのない”女の人”への憧れと後ろめたさ。

    そんな折に父の貞行が死ぬ。貞行は、思い悩んだり精神的傲慢さを見せる信夫に対して穏やかに、だが力強く、人としての道を示してきた。

    母菊と妹待子のために働き始めた信夫は、10年ぶりに吉川と再開する。
    文通を重ねてきた彼らは、お互いに本心を話せる、お互いの考えを深め合う間柄となる。

    数年後、信夫は東京での務めを辞めて北海道の鉄道会社での職に就く。
    吉川のこと、それよりもその妹である病床ののぶ子への慕情の想いだった。
    吉川に「のぶ子さんと結婚したい。病気が治るまでいつまででも待つ」という信夫だったが、実はのぶ子はキリスト教信者になったのだと知らされる。

    人の救いは?人は他人の罪を我が身と思えるのか?人は誰かの”隣人”になれるのか?
    ある時キリスト教宣教師の言葉を聞いた信夫は、これまでの反発心や心の迷いやわだかまりすべてを超えて、キリスト教の教えへに心を囚われるのだった。

    キリスト教徒になった信夫は、その人柄、人への平等性、普段は穏やかだが芯の燃えるような伝道で、鉄道会社の職場でもキリスト教教会でも、特別な人に慕われる人物になる。

    だが決して信夫は昂ぶらず常に考えていた。
    自分は本当に聖書の教えそのものを実施できているのか?人は他人のために死ねるのか?

    吉川の妹ののぶ子の病も回復の兆しが見え、信夫との結婚の話も進む。
    信夫は、自分の務める鉄道で、吉川とのぶ子の元に向かう。
    だがその車両が塩狩峠を登っているときに暴走し、転覆の大危機が訪れるのだった。

    ===
    中学生の娘の課題読書(の中の1つ)。娘が「私課題提出したからお母さんも読みなよ」と回ってきた。中学生でこれを読むってすごいなと思う。みんなどんな感想を書いたのだろう。

    実在の宣教師の行いを聞いた作者の三浦綾子さんが、その信仰の深さに感銘を受けて、宣教師をモデルにし、人の愛と勇気の根源、信仰を持つ人間の強さを書いた小説。
    最期の場面は、実際の記録だと、事故っぽく書いてあるようですね。小説のように自ら犠牲にだと自殺っぽくなってしまってキリスト教精神に背くからなのかな。

    信夫の子供の頃からの気持ちの複雑さが語られて、なぜ彼が信仰を持ち、それほど強くなれたのか。
    最初は反発したキリスト教であり、なぜ反発したのかも(母は自分より宗教を取ったのだとか、宗教が違うからと言って祖母の仏壇のお世話をしないなんて、とか)、けれどなぜ信仰にたどり着いたのか。
    お話としては、キリスト教徒になってからの迷わなさよりも、そこに行くまでの思い悩みの語られ方が印象深いです。

    私が以前友人から聞いた話で(キリスト教徒の人⇒私の友達⇒私 で聞いた)「人間関係は横糸。他の人に引っ張られて自分がズレてしまうこともある。神様との関係は縦の糸。自分がズレそうになったときにまっすぐに引っ張ってくれる」ということがあります。
    その縦糸は宗教だったり、道徳心であったり、人によって違うのでしょう。では私にとってそれは何?と言われると答えずらいのですが。。

    • アールグレイさん
      こんばんは、初めまして!
      ゆうママと申します!
      本にいいねを頂きありがとうございます。
      淳水堂さん、今日レビューを書いたのでしょうか。しっか...
      こんばんは、初めまして!
      ゆうママと申します!
      本にいいねを頂きありがとうございます。
      淳水堂さん、今日レビューを書いたのでしょうか。しっかりと読ませて頂きました。私のレビューは、昔の記憶を手繰り寄せながら、やっと書いたもの。淳水堂さんのおかげで、
      「こういう本だったんだな」と、思うことができました。ありがとうm(__)m 夜遅くに大変失礼しました。
      これからも機会がありましたら・・・・
      おやすみ(-_-)zzzなさい
      2021/05/20
  • ブクログのお勧めということで読んでみました。

    塩狩峠で、自らの命を犠牲にして大勢の乗客の命を救った青年の物語ということで、ハラハラドキドキの物語かと思ったら、想定とはかなり違ったお話でした。
    そりゃそうよね。本書は昭和48年の発行だし、物語の舞台は、明治時代だし...

    キリスト教の教えを中心に、生き方を語る物語

    厳格な祖母に育てられた信夫。祖母の死後、現れたのは、死んだと思っていた母親の菊と妹。
    菊はクリスチャン故に祖母から家を追い出されていた。
    そして、信夫の親友となる吉川、その妹ののぶ子
    キリスト教との出会い、当初は毛嫌いしながらも、その気持ちが変わっていきます。

    同僚への献身的な思い。信仰。そして、のぶ子への愛
    正直、この人、崇高すぎてついていけない。

    そして、驚愕のラストへ
    ようやくかなったのぶ子との結納に向かうその列車で、自らの命を犠牲にして、他人を救うのか?
    とても、重く切ない

  • 先日、北海道で暴風雪の中53歳の男性が亡くなられた。最愛の娘を守るよう10時間抱き続けて・・・父の必死の思いと引き換えに娘の命は救われた。

    親が子を、また愛する人を守るため、自らが犠牲になったケースはある。しかし、見ず知らずの人の命を守るために死を覚悟できる人間はそう多くはないと思う。

    この小説は長野政雄さんという実在の人物をモデルに描かれている。
    1909年2月28日、塩狩峠に差し掛かった列車の最後尾の連結器が外れて客車が暴走しかけたところ、当時鉄道院(国鉄の前身)職員でありキリスト教徒であった長野政雄(ながの まさお)さんが列車に身を投げ、客車の下敷きとなり(自らの肉体をブレーキにして)乗客の命が救われたという事故が起こった。

    実際の長野氏が「塩狩峠」の主人公 永野信夫のように結納に向かう際に事故にあったのかどうかは分からない。
    信夫がキリスト教徒になる大きなきっかけとして描かれる親友吉川の妹 ふじ子。肺病と脊椎カリエスで長年臥せており、しかも長年結婚を待ってくれた婚約者の存在・・・このエピソードからも、ふじ子のモデルは三浦さん自身で間違いないだろう。

    キリスト教徒がヤソと嫌われることがまだ多かった時代、母と祖母の間の宗教観をめぐる確執・・・最初はキリスト教に反感を覚えながらも不思議と信仰を深めていく信夫。

    宗教的なカラーが濃すぎる、と敬遠するきらいもあるが長野氏の行いの尊さに当時の人々は胸を打たれただろう。
    ひとりの人間の生涯を、後世にまで知らしめる。
    そういう意味でこの小説の持つ意味は大きいと感じた。

  • 主人公の信夫は厳格な祖母の影響を受け育つ。一方、母はキリスト教の信者であり、祖母との確執で会えない状態。父親が未だ母親と会って娘を作っていたことを知った祖母の死、その後、両親、妹と暮らす信夫だったが、父親の死によって、死への恐怖感を実感する。信夫は自然に生命、女性、愛、信仰についてストイックに考える。病気で身体が不自由なふじ子への愛を貫く覚悟をする。幼少時には明朗活発で親しみやすい信夫が、信仰にのめり込むに従い、徐々にストイックさを増して、信夫の魅力がなくなっていったと感じたてしまった。うーん、残念。

  • 三浦綾子と言えば、最も有名な著作は「氷点」だと思う。かく言う自分も、まず氷点を読んだ。

    それから、ツイッターで「塩狩峠」の名前を見るようになった。例えば、「名刺代わりの小説10選」みたいな。読書系のハッシュタグツイートで、しばしば目にした。

    気になって購入。自分にとっては氷点以来、2作目の三浦綾子となった。

    「塩狩峠」の時代設定は明治時代。読みながら、昔の人たちのシンプルな生き様、シンプルな人生が少し羨ましくなった。

    そんなシンプルな時代において、主人公の信夫が少年から大人になっていく。その過程では、身近な人の死、病気、罪などを目の当たりにする。

    その度に、信夫はキリスト教の信徒や教えに触れる。そして読者もまた、キリスト教の教えや教義について自然と触れることができる。

    給料泥棒をした同僚の三堀の許しを乞うため、上司に土下座をした信夫の姿には、不覚にも泣きそうになった。

    信夫の遺書より、「苦楽生死、均しく感謝」という言葉が気に入った。自分もこんな境地に至れたら、と思った。

    ただ一点。結核で「びっこ」のふじ子に対する周りの差別発言があまりに酷すぎた。時代、なのかもしれない。そんな時代の空気感を学べた、という意味では読書の醍醐味とも言えるけど。

    あと、細かいけど、信夫が読書の癖がいい。書籍を手に乗せて、その重みを味わうという。真似してみたいと思わされた。

    総評としては、悪くなかった。キリスト教小説として、重くなりすぎずにライトに読めてしまう。氷点が傑作なら、塩狩峠は良作かな。

    (書評ブログも書いてます。よかったらそちらもどうぞ)
    https://www.everyday-book-reviews.com/entry/%E8%8B%A6%E6%A5%BD%E7%94%9F%E6%AD%BB%E3%80%81%E5%9D%87%E3%81%97%E3%81%8F%E6%84%9F%E8%AC%9D_%E5%A1%A9%E7%8B%A9%E5%B3%A0_%E4%B8%89%E6%B5%A6%E7%B6%BE%E5%AD%90

  • ダメ母の私は、娘の読書感想文を書く為にこの本を購入して読んでみた。

    課題作品だから仕方なく、、、だったが、、、

    これは娘にお礼を言いたくなる程の良書!
    あっという間に物語の世界に引きずりこまれ、没頭してしまう。

    主人公、永野信夫の生涯を丁寧に描いている壮絶、壮大な物語。そしてその誠実な人柄には、読み手の気持ちがぐっと掴まれてしまう。

    身分や宗教、病気など日常繰り返される差別を色々な方向から映しだしている。

    学ぶべき点が多く、読後の感動も半端ない!

    何でこんな良い作品を知らなかったのだろう?

    是非前面平積みで売って欲しい!そんな素敵な作品だった。

    この本に巡り合わせてくれてありがとう。読書感想文のおかげですm(_ _)m

  • キリスト教(ヤソ)信者にかこまれて育ち、後に自らも信者となった信夫の生涯を描いた傑作。
    信仰とはそもそもなんなのか。
    信仰に生きて信仰に死ぬこととはなんなのか。
    読み終えてもまだ完全には掴みかねるが、それでも信仰の尊さをひしひしと感じた。

    「義人なし、一人だになし」という聖句が頻出する。
    本当に罪の無い人というものは一人として存在しない、という意味だ。
    どれだけ良い人であったとしても、私たちは生まれながらにして心の中に妬み嫉み呪いの気持ち、すなわち原罪を抱えて生きている。
    ゆえに神の前においては、私たちは誰一人残らず罪人となる。過失を犯さずには生きていけない罪人。
    愚かな罪を赦すためだけにその身を磔にされて死んだイエス=キリストだけが義人なのである。
    私は考え込まずにはいられない。そんなことできるだろうか?他人のために、罪深き他人のために自分を犠牲にすることなど。
    信夫や、信夫を待っていたふじ子、親友の吉川、彼らはほんとうに救われたのだろうか。でもきっと救われたのだろう。だって信じる者は救われるのだから。
    このご時世で、私は現在進行形で困っている人にほんの少しでも目を向けただろうか。自分を犠牲にするなんて、私にはまだまだ遠い先の姿なのだろうが、それでも私は信夫のことを忘れはしまいだろう。信仰を諦めたくはないな、と思う。いつか分かるときが来ると思い続けたい。罪の問題を、自分の問題として知りたい。

    実はこの塩狩峠、16歳のときにプレゼントされて一度読んでみたことがある。でも当時の私にはあまりに退屈で、読み進めることができなかった。
    それから10年以上も本棚で眠り続け、今こうして読んでみたら易しくて美しい文章が生きる意味について問うテーマにするすると惹き込まれていくのだから、やはり本には読むべき時、開かれる瞬間というのがちゃんとあるのだなと、ひしひし思う。

  • 裏表紙に清々しいまでのネタバレ。

    自身の結納を明日に控えた青年が、自分も乗る列車の脱線事故から乗客を守る。
    自分の命と引き換えに。
    その悲劇を知ったうえで、話は信夫の幼少期まで遡る。

    利かん気が強く聡明な少年、信夫。
    自分よりキリスト教を選んだ母への複雑な気持ち、尊敬する父の死、吉川とのかけがえのない友情、ふじ子との恋。
    色々なことを経て、信夫の心の成長とキリスト教への信仰の芽生えが読む者の心を真摯にさせる。

    最後の方は信夫が聖人すぎて、少し置いてきぼり感…ラストも個人的には正直好きではない。自らの命を投げ出すことが美化されすぎていて、婚約者・ふじ子のことを思うと辛かった。

    キリスト教の教えが詳しく知れて、勉強になった。

    ----------------------------------------

    ◉吉川との友情
    特に印象に残っているのは、北海道に住む吉川が母妹を伴って東京に出てきて、信夫の家に泊まったその日の夜の会話。

    「良いことと知りながら、それを実行するというのは何と難しい事なのだろう」

    「全く君の言う通り、人間って不自由なものだねぇ」

    若者らしい伸び伸びとした物言いとまじめに人生を見つめる姿。
    彼らよりずっと歳を重ねた自分でも、こんな風に考えたりはしてこなかった。

    特に足の不自由な妹・ふじ子を思いやって
    「世の中の病人や不具者は人間の心にやさしい想いを育てるために、特別な使命を持って生まれてきたのではないだろうか」という吉川には心を打たれた。


    ◉ふじ子の人生を思うと辛い
    その後、北海道の鉄道会社で働く信夫はふじ子への想いを意識するようになる。
    嫌っていたキリスト教への気持ちも変化していく。

    仕事は良くでき、仲間を思いやり、酒や女遊びもしない。休みの日は教会で先生をしている。たった一着の制服をどこへ行くにも着ていく。
    当時難病と言われていた肺炎を患ったふじ子を、嫁に貰いたいと吉川に訴える。
    初めは信夫の将来を思い断っていた吉川も、彼の想いが本物と知り、ついに二人の結婚を認める。

    そして明日、ついに結納…
    そんな時にあの事故。読む方は結末が分かっているのでもうドキドキしてしょうがない。

    酷だなぁと思うのは、ふじ子のこのセリフ。
    「信夫さんって神様のために生き、神さまのために死ぬことにしか生きがいを感じていらっしゃらないと思うの。
    信夫さんが何より欲しいのは、ただ信仰に生きることだと思うの。」
    自身も熱心なキリスト教信者である彼女は分かる。分かってしまう。
    自分を残し、乗客の命を助ける方を選んだ信夫の気持ちが。

    どうして私だけ。
    病を克服し、やっと幸せになれると思ったのに。
    他人の優しい心を育てる使命とか知るか
    どうして私を選んでくれなかったの…!

    こんな風に取り乱すことさえ、ふじ子には許されなかった。
    信夫の死によって感激し、キリスト教に入信する乗客たち。美しすぎる物語だ。

    でも私は、今まで苦しさを微塵も感じさせず信夫の前で笑顔でい続けた、ふじ子一人のために生きて欲しかった。

    キリスト教は他人に一番大切なのもをあげてしまうことが愛だと言う。
    私には絶対にできない。
    そう思って、信夫の感情と距離を置いてしまった読後でした。

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著者プロフィール

1922年4月、北海道旭川市生まれ。1959年、三浦光世と結婚。1964年、朝日新聞の1000万円懸賞小説に『氷点』で入選し作家活動に入る。その後も『塩狩峠』『道ありき』『泥流地帯』『母』『銃口』など数多くの小説、エッセイ等を発表した。1998年、旭川市に三浦綾子記念文学館が開館。1999年10月、逝去。

「2023年 『横書き・総ルビ 氷点(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

三浦綾子の作品

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