天北原野(上) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101162126

感想・レビュー・書評

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  • 或る小説を興味深く読んで愉しんだという経過が在ると、「同じ作者による別作品?」という興味が沸き起こる。
    その種の興味に駆られて入手するに及んだのだが、紐解き始めてみると頁を繰る手が停まらない、また「停められない」という様相を呈し、なかなかに愉しんだ。
    題名の「天北」である。明治の初め頃、現在の北海道内に所謂「旧国名」に相当する地方の地域が設定された。北海道の北には「天塩国」、「北見国」というような「国」が設定された。ここから「天北」というような呼び名が起こっている。使用例を見ると、2つの「国」の頭文字を取っているという例も、「天塩国の北側」という意味が起こりという例も在るという「天北」である。
    実は「天北」というのは稚内に関係が在る用語だ。1922(大正11)年に初めて現在の稚内市内に至った鉄道は、後に「天北線」と呼ばれるようになる「天塩国」、「北見国」というような地域を経由する路線だった。この路線を通る<天北>という急行列車が稚内・札幌間で1961(昭和36)年から長く運行された。天北線は1989(平成元)年に廃止されている。
    本作はこの「天北」という地域、加えて「樺太」を主な舞台とする物語である。作中で少し長い年月が経ち、その中での作中人物達の人生が描かれる、所謂「大河小説」という体裁である。
    上巻では1923(大正12)年頃から1938(昭和13)年頃という背景だ。下巻では上巻の最後の辺りに在った場面の数ヶ月後から物語が起こり、1945(昭和20)年の戦争の終結の頃迄、最終盤辺りは戦後に相当する昭和22年頃という時代が背景だ。上下巻を通じて、概ね四半世紀の期間、その時代を生きた作中人物達の人生が描かれる物語ということになる。
    上巻の物語はハマベツという北海道北部の小さな集落から起こる。「左手に天売島、焼尻島が、右手に利尻岳が見える」とされている場所である。「ハマベツ」は架空の集落名だが、場所は苫前町辺りをモデルとしていると言われる。
    このハマベツに菅井貴乃という、美しく気立ての好い大工の娘が在った。小学校の校長の息子で代用教員である池上孝介と相思相愛であり、双方の両親も賛同していて間もなく結婚ということになっていた。
    集落の有力者で、造材業を手掛けて製材所を営む須田原伊之助の息子である完治は貴乃に密かに強い好意を抱いており、何とか自身の妻としたかった。そこで「一計」を案じる。結果、予定の結婚式を前に池上親子はハマベツを去らざるを得なくなった。孝介は代用教員を辞め、樺太で仕事をして人生を拓こうと旅立った。
    孝介が樺太へ去った後、完治は貴乃に執拗に言い寄り、やがてまた「事件」も在った。終に貴乃は完治と結婚する。
    10年程が経った。須田原家の造材業等に関しては、経済や社会の様々な動きで頓挫してしまっていた。一家は稚内で海産物店を営んで暮らしていた。貴乃と完治との間には一人息子を頭に二人の娘と3人の子ども達が在った。
    この稚内の須田原家に孝介が訪ねて来る。樺太で鰊漁の網元の後継者となり、各種事業を手掛けて水産業界で成功しているのだという。この孝介が、完治の妹である、ハマベツの代用教員時代の教え子でもあるあき子を妻に迎えたいと言い出したのだ。
    やがてあき子は樺太へ渡って孝介と結婚する。完治は樺太で造材業を手掛けたいということで、須田原家の人達も樺太に遷って活動しようということになる。

  • 主人公の2人が不憫でならないと思った上巻。
    さすが三浦さんの作品は人生や生きることについて考えさせられます。
    不倫のドロドロ感がたまらなかった。

  • 耐えること、許すこと、それがこの本の主題だろう。いや、著者の主題と言うべきか。なんのために耐え、なんのために許すのか、それは、ある時は自分のなすべきことだからであり、ある時は人の幸せを思うからだ。
    人間は生まれてきた以上、幸せだけを受けるというわけにはいかない。幸せを受ける以上、不幸せも受けるしか仕方がない。
    全三巻

  • とりあえず上巻までのレビュー。

    久しぶりに三浦綾子の小説読みましたが。

    やっぱり私の中で三浦綾子は別格です。

    他の方も書かれてますが、昼ドラばりにドロドロしてます。

    しかし古き良きというか何というか。

    貴乃と考介のプラトニックな恋が下巻では良い方向に進んでくれたらなぁと期待しながら下巻に入ることにします。

    それはさておき。

    三浦綾子と言えば。

    必ず出てくるのが北海道とキリスト教。

    が、本作ではまだキリスト教が出てません。

    下巻でいきなり洗礼受けたりするんかな…笑



    あと。

    ホンマにどうでもいいことなんですが、まさかここでちびまる子ちゃんで得た知識が役立つとは思いませんでした。
    (モガ=モダンガール)

  • 三浦綾子さんの作品、氷点に続いて2作目をこの順で読んで正解でした。
    母親として健気に生きる貴乃を応援しながら人生を歩んだ。
    昔の時代、身も心も綺麗でも苦労する。
    あき子のような孤独からの奔放も自分を苦しめる。
    今の時代の俳優で映像で観てみたいです。

  • 愛憎劇と社会や戦争がもたらす不条理が
    人間の本質的な部分を浮き彫りにしていって
    生とは、死とは何かを考えさせられる内容でした。

    「氷点」に近いスキャンダラスな愛憎劇だけど、
    生も死も、善も悪も肯定するような
    壮大なスケールの精神性を感じました。

    全体を通して、展開もテンションも結末も
    常に程よい緊張感があり、個人的には今のところ三浦綾子最高傑作です。

  • 人間関係が超ドロドロ
    戦時中でも現代でも、クズ人間はいるもんだな〜(笑)と思った。不倫に理由をつけて自分を正当化するのも現代と一緒。
    どの時代も人間ってこういう生き物なんだなーと思った!

    ドロドロが王道すぎて、次はこの人とこの人がこうなるのかな?こういう展開のパターンかな?
    って予測しながら読むと、だいたい予測が当たって面白かった!!!!

  • お気に入りというより、学ぶためにこれから先も読まないといけないと思う。


    罪を罪と分からない事が一番の罪。

    いつの時代も、罪深い人達ではなく、優しくひっそりと耐え忍ぶ人達が幸せになってほしいと思う。

  • 教師孝介と貴乃と夫、その家族の物語。
    風景や人間性の描写のほか、貴乃の家事の丁寧さ、とりわけ料理の丁寧さを見習いたくなる。
    お茶ひとつ、焼き魚ひとつ、工夫しだいで美味しくなる。

  • 名作

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著者プロフィール

1922年4月、北海道旭川市生まれ。1959年、三浦光世と結婚。1964年、朝日新聞の1000万円懸賞小説に『氷点』で入選し作家活動に入る。その後も『塩狩峠』『道ありき』『泥流地帯』『母』『銃口』など数多くの小説、エッセイ等を発表した。1998年、旭川市に三浦綾子記念文学館が開館。1999年10月、逝去。

「2023年 『横書き・総ルビ 氷点(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

三浦綾子の作品

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