細川ガラシャ夫人(上) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101162140

作品紹介・あらすじ

明智光秀の娘として何不自由なく育てられた玉子は、16になった時、織田信長の命令で細川忠興のもとに嫁ぐこととなった。女性が男性の所有物でしかなく、政略の道具として使われた時代に、玉子は真の人間らしい生き方を求めて行く…。実の親子も殺し合う戦国の世にあって、愛と信仰に殉じた細川ガラシャ夫人。その清らかにして熾烈な悲劇の生涯を浮き彫りにした著者初の歴史小説。

感想・レビュー・書評

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  • 今村翔吾作『じんかん』を読み、松永弾正や細川家に興味を持ち、フォロワーさんの方々が、この作品をレビューされていたのを思い出して読みました。

    上巻は、玉子(ガラシャ夫人)の少女時代、及び主に玉子の父の明智光秀の人柄がよくわかりました。

    明智光秀というと三日天下という悪いイメージしかなかったのですが、人徳者だったということを初めて知りました。
    少女時代の玉子は非常に利発で美しい子でした。

    戦国の世に生まれた玉子は、
    「女はみなこのようにして、好きも嫌いもわからぬ人に嫁ぐのかと思うと、それが口惜しゅうございます」
    と言って、細川忠興に16歳で嫁いでいきます。

    そして、光秀は平生、茶道、短歌、俳句、花を好み、利休は明智光秀であったという言い伝えまであったそうです。
    この作品を読む限りでは、信長の残忍さは常軌を逸しており、光秀の怒りはごく順当であったと思いました。

    信長より、光秀の方が人格的にも優れているように思いました。

  • 読みやすい歴史小説、の一冊。

    もう少し早く手に取れば良かったと思うぐらいスラスラ読みやすい。

    柔らかさ感じる文章が戦国時代の世界へとゆっくりいざなってくれる。

    まずは明智光秀と妻、凞子の婚姻エピソード、言葉にいきなりキュンと心つかまれる。

    これこそ真の愛だわ。

    幼き玉子のストレートな感情、それに真摯に応える光秀の姿、情愛に溢れる姿も意外な一面で素敵だ。

    そんな穏やかさとはうらはら、城外は乱世の世。

    美しく成長した16歳の玉子は細川家へと嫁ぐ。

    次第に高まり漂う不穏な空気、光秀の信長への胸中も見せられながら下巻へ。

  • 「男が、妻を娘を政争の具として、品物のように扱っていた時代である。大方の女性たちは、それを己が運命として疑うこともなかった。が、玉子はそのような中にあっても、人間としての自我にめざめていたのである。玉子は、女たちが道具のように扱われること自体に、いち早く耐えられぬ思いを抱いていたのである。」

    三浦綾子さんが描く細川ガラシャ婦人。つまり明智光秀の娘玉子である。

    ずっと読みたいと思っていた一冊で、心ざわつく外出自粛の日々。緊急事態宣言が出る前に買っておいてよかった!

    玉子の出生のみならず、謀反者として知られる明智光秀の人となりや妻煕子との関係性も丁寧に描かれ、玉子の人物像に織り込まれていくよう、巧みに物語が進む。

    男と女、それぞれの「幸せ」というものが身分に応じて規定されていた時代。

    男は、力で競い、手柄を主君に呈することこそが唯一無二の成功かつ立身出世の証。
    結婚や縁結びも、勢力争いのなかで有効な手段であった時代に、明智家の人々が男女ともに心を寄せ合う、細やかな表現に惹かれる。物語性も充分に面白い。

    後半、信長の狂信的な振る舞いに関する場面が増えていく中、下巻が楽しみ。

    父に対する純粋な思慕の念と、背信、逆心、謀反等の象徴として世に後ろ指をさされ、屈辱的な思いを抱えて生き続けるために、父を否定するダブルバイント二重拘束を心の底に持つ玉子に興味が尽きない。

    大河ドラマ「麒麟がくる」も合わせて、今年は大好きな明智光秀が取り上げられて、楽しみが増えたな。

  • 三浦綾子さんが戦国時代の話を書いたことをついこの間知った。読みやすい文章で、景色や人間の心の描写が緻密なので情景や心情が頭に浮かんでくる。
    あっという間に読んでしまった。

  • これまで持っていた明智光秀のイメージが塗り替えられた

  • 今年の大河ドラマを見ていて、
    この方が気になったので読んでみました。

    三浦綾子さんの作品は「氷点」とか「塩狩峠」なんかを
    中学生くらいの時に読んだ以来でした。
    歴史小説を書いているなんてちょっと意外。

    「細川ガラシャ」夫人って名前は知っていたけど
    大名の奥様でキリシタンだった、くらいしか分からず
    どんな人生だったのか
    読んでよくわかりました。

    明智光秀の娘ということで
    なかなか大変な人生だったんですね…。
    戦国時代の大名の妻というのは
    本当に人権が無くて、
    読んでいて痛ましくなってしまいました。

    三浦綾子さんだからななのか、
    “どうして細川玉(ガラシャ)がキリシタンになったのか”
    丁寧に描かれていて
    読み応えがありました。

  • 実家の本棚にあってずっと気になっていた本。母が亡くなって遺書物を片っ端から読んでいこうと手にした本だが、なんでもっと早く読まなかったんだろうと後悔するくらい面白かった。
    地元亀岡市では大河ドラマ『麒麟が来る』というのがあったが全く興味もなく、明智光秀ってなんとなく織田信長の裏切り者っていう先入観でいい印象を持っていなかった(無知)んだけど、上巻ではガラシャよりも光秀がメインの流れになっており、いかにして光秀が信長を討ち取ったのかがよくわかる。そして、その人となりが娘玉子へと受け継がれるというのがよかった。まぁ、細川ガラシャもオンラインゲーム『戦国IXA』の攻略ブックのおまけのカードで知った程度で何者かも知らなかった。だから読みたかったんだけどね。
    また小説とは別で明智光秀についてもっと知りたいと思うようになった。前に読んだ『極楽征夷大将軍』でも足利高尊氏が亀岡市の八幡宮で陣形を組んだ話とか地元亀岡市、結構いけてると思うんだよね。市役所さん、宣伝下手すぎくね?

  • オーディオブックで聞きました。
    明智光秀がとにかくいい男で、主人公であるはずのお玉よりも光秀の苦難の方が印象的。
    対照的に信長は気分屋で本当に恐ろしい男として描かれています。
    男の考えと、女の受け取り方と…。
    単純な善悪には分けられない中、さまざまな考えをぶつけていくお玉が頼もしい。

    上巻は明智光秀の謀反を起こすきっかけが積み重なっているイメージです。
    本能寺の変のイメージが強すぎて、明智光秀の人物像が意外だった。
    プロローグの明智光秀とその妻の馴れ初めで思わず泣いてしまった…。

    この時代だからこそ、思いやりやすれ違い一つ一つのエピソードが胸に刺さる。

    女の悲しみ、喜びを描きつつ、一方的にならないところも好感触でした。

    じわじわと明智光秀やお玉たちに入れ込んでしまい、本能寺の変が怖い…。
    ちなみに私はどうしても細川忠興が好きになれず…。
    嫉妬深すぎだろ!と思わずにいられないが、あの贈り物の場面は感動してしまった…。

  • 中学生のとき指定図書でしたが、歴史が苦手すぎて何も理解できず挫折しました。大人になってドラマ「真田丸」や「麒麟が来る」を見てようやく理解しました。
    そのうえで読むと情景が浮かんでくるようで読みやすかったです。上巻はまだ本能寺の変までは行っていないので人となりと夫婦生活について描かれています。登場人物をあまり広げすぎていないところもバランスがよいです。

  • 今まさに、NHK大河「麒麟がくる」(明智光秀)OA中。 戦国の世は刺激が多くて、歴史フリークの心をつかんでやまない。一国の主とはいえ、少しも安らぐことのない国盗り合戦。下剋上、猜疑心、裏切り、寝返り、人質…混乱の真っただ中に生きた明智光秀の娘、細川忠興の妻細川玉子の物語だ。
     「麒麟…」の中でも明智光秀はまっすぐで心温かい人として描かれているが、実際にそうだったんでしょうね。庶民からの信頼も厚い。土地を愛し、家族を愛し、それだけに自分が大切に築き上げた近江と丹波の土地を信長から召し上げられた悔しさは如何ばかりか。
     天下人になるような人物は、信長にしろ秀吉にしろ家康にしろ、役に立つ者は利用し、かわいがるが、いざその者が才知にたけていたりすると反逆を怖れて謂れもなく討伐する。そのやり方は情け容赦がない。気に入らないことがあるとすぐ殺す。それぐらい激しい性分でないと天下は取れないのかも。明智には無理。優しすぎて。だから細川にさえも味方についてもらえず、三日天下で終わってしまったのよね。
     明智光秀の反逆により、味土野の山奥に身を隠すことになった玉子。誰も訪ねてこない隠遁生活の中で、武家に生まれた女たちの不条理な生き様を憂い、そこで知った天主(イエスキリスト)へ自然と惹かれていくこといなる。やがて大坂に戻り、夫を通じてキリシタン大名高山右近の話などを聞くうちに意志が固まり、秀吉による弾圧化の中、ひっそりと洗礼を受ける。
     秀吉に可愛がられた細川忠興だったが、秀吉死後、天下分け目のうねりに巻き込まれ、妻である玉子は夫への貞節を守り、自害を自ら受け入れる。信仰は命より尊しと、玉子は最期までかっこよかった。辞世の句、

     散りぬべき時知りてこそ花も花なれ人も人なれ

    は、家や名誉にしがみついて醜く争う男たちとは対照的な潔さを表している。
     長崎で大規模なキリシタン弾圧が行われ、多くの信者が過酷な拷問の末、非業の死を遂げたのはそれから何年も後の話だ。



    コロナ禍、微熱で東京に戻れず、ぶらぶら過ごした実家の本棚から。

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著者プロフィール

1922年4月、北海道旭川市生まれ。1959年、三浦光世と結婚。1964年、朝日新聞の1000万円懸賞小説に『氷点』で入選し作家活動に入る。その後も『塩狩峠』『道ありき』『泥流地帯』『母』『銃口』など数多くの小説、エッセイ等を発表した。1998年、旭川市に三浦綾子記念文学館が開館。1999年10月、逝去。

「2023年 『横書き・総ルビ 氷点(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

三浦綾子の作品

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