俺俺 (新潮文庫)

著者 :
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レビュー : 95
  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101164526

感想・レビュー・書評

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  • 怖い、とても怖い小説。
    自己と他者に差がなければいい、同じならいい、なんの努力もなく解りあい必要とされ、その輪のなかで完結してしまいたい、自分だけが自分だけがと自意識に被害妄想に振り回されることもない。「同じ」だという絶対的な安心感。けれどそれは「同じ」なかで自己が失くなるということになる。
    …さてそれが現象として実際に現れたらどうなるか、それがこの、俺俺。

  • 最初はちょっととぼけたようななりゆきの俺俺詐欺から始まり、予想外の方向に少しずつ転がっていくストーリー、気付けば物事の細部が少しずつズレていき、現実感を失いながら俺と言う存在を解体して行く。それが思わぬスケールまで広がって、自我と言う存在を、意識を、ここまで深く掘り下げてしまうのかと、気付けば強く引き込まれていた。

  • この本での「俺」ってなんだろう。
    クローン?コピー?
    はじめは分からないまま読んでいた。
    しかし、読み進めていくうちに、
    「俺」には色んな一面があるんだと気がついた。
    くだらないことも考える、
    真面目なことも考える。
    他者よりも優秀でありたい、
    でも疲れた時にはだらけていたい。
    そんな面を誰しも持ち合わせているから、
    俺たちはみんな「俺」なんだ。
    そう考えると、全く気が合わない人でも、案外自分に似ているのかもしれない、という気になる。
    「自分」について考えるいい機会になった。

    解説の、
    「自分を演じながら他者とつながるのは疲れるが、1人でいるのは寂しい。
    だから自分を演じなくてもよい他者とつながりたい。」
    という言葉に共感した。
    ここ数年感じている、具体的じゃないモヤモヤした寂しさは、この言葉に集約されるのだと思った。

  • 実存に断片化を強いて、交換可能な名前をつけて以て適当な「何か」としてしまう。「何者でもない」という完全は否定態の内に実存することを許さない。芸術家は殺されすべてを市民俗物にしてしまう。そんな原初的な暴力の影としてしか、現代という時代はその在りようが無くなってしまっている。

    誰も彼もが自分から離れていく。眼差しの合わせ鏡の中で、お互いの全体性の像を結び合う親密な人もいない。そのくせ、誰もいなくなったときになお鵺の如く肌にまとわりついている匿名多数の有象無象としての「社会」。実存の存在余地を無くした空間としての「社会」。

    そこにあって、我々は、真に孤独として在ることすら不可能だ。自分の内面に深く沈潜し、強いられた「名前」が剥がれ落ちていき、何者でもなくなった透明な自分にまで降りていき、そこに響く声に耳を傾ける。そんな孤独の作業に没入するには、この「社会」は余りに気忙しく、また粗雑な言葉のガラクタがまとまりも無く喧騒となって満ちている。

    孤独な沈潜の末に聴こえるとうまいな存在としての自分自身の声は、超越の内在という自己関係的な規制の内部――常に自らを打ち破り外部へと突き抜けていくという内部――に自閉していることを発見するしかない。透明性を無限に否定し続けることによってしか透明で在り得ない自己を発見するしかない。独り言でしか口にできないことを誰かに伝達しようとする矛盾に突きあたるしかない。そこに芸術家は、「社会」に殺され続けるという仕方で蘇る。

    しかし、この孤独であることを経ることなく、曖昧な自己の輪郭のその曖昧さを凝視することなく、「社会」の雑音の中に自他の隔壁を溶解させようとすれば、不透明に濁った「社会」の汚泥の中で輪郭を失った自己は――自己意識を失った自己は――、その不透明さを無反省に・無否定に透明の共同体と錯覚し、その匿名多数の俗物根性の塊でしかないハリボテに自己の全体性を回復してくれる幻影を見出し、陶酔・没入・合一していく。これが全体主義だ。「独り」で在ることを突きつめる前に、安易に「一つ」になろうとする者すべてが陥る全体主義だ。

    美への忘我も、自己意識による否定の無限運動の中に措かれずにはいない。その無限否定のさなかに見出される以外に、美は、在りようが無い。

    太平楽と冷笑を、孤独の絶望へ転化せよ。死に到る絶望が、致命的に足りない。

    「死ぬか、気が違うか、それでなければ宗教に入るか。僕の前途にはこの三つのものしかない。」これは現代の出口無き絶望を突きつけてみせた夏目漱石『行人』の有名な一節だ。2000年代以降、ここにもう一つ「無差別殺傷」が付け加えられた。

    登場人物たちの日常性は終わらない、そこでは同じ悲劇が反復されるだろう。実存の不安に終わりはない。この物語は終わることができない。それが実存というものの、如何ともしがたい在りようなのだ。



    余りにも自分の姿そのものを映し出す鏡の如き小説に出遭うと、言葉を押し殺されてしまうような苦しみに襲われる。

  • ホラー以上に、コワい…

著者プロフィール

星野智幸(ほしの ともゆき)
1965年ロサンゼルス生まれ。東京都立戸山高等学校、早稲田大学第一文学部文芸専修をそれぞれ卒業後、産経新聞社記者に。1991年産経新聞社を退職、1991年から1992年、1994年から1995年の間、メキシコに留学。1996年から2000年まで、字幕翻訳を手がけていた。
1997年「最後の吐息」で文藝賞を受賞しデビュー。『目覚めよと人魚は歌う』で三島由紀夫賞、『ファンタジスタ』で野間文芸新人賞、『俺俺』で大江健三郎賞、『夜は終わらない』で読売文学賞、『焰』で谷崎潤一郎賞をそれぞれ受賞している。

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