セミたちと温暖化 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101164748

作品紹介・あらすじ

東京では珍しかったクマゼミの声を、最近よく聞くようになった。虫好きは喜ぶが、ことはそう単純ではない。気温で季節を数える虫たちが、温暖化で早く成長する。しかし日の長さで春を知る鳥たちは、子育て時期を変えられない。餌が少なくて親鳥は大ピンチ。ひたひたと迫る温暖化の波に、生き物たちはどういう影響を蒙っているのか?自然を見つめる優しい目から生れた人気エッセイ。

感想・レビュー・書評

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  • 本当に動物、とりわけ昆虫が好きな方なんだな、というのが伝わってくるエッセイ。
    自然と人間社会の関わりについて、興味を持った昆虫の生態について、昨今の地球環境の変化について…など、筆者が「なぜ?」という疑問にどう向き合い研究してきたかが書かれている。
    圧倒的な探究心と観察力…さすが研究者…。 

    各エピソード、少し短すぎるかな?という印象。
    稲垣栄洋の「生き物の死にざま」に少し似てるけど、より筆者の嗜好が強く出てる印象。
    こういったトピックスにもともと関心のある方は楽しめるけど、そうでない人にはオススメしにくいかも?と思い★2つ。


    ●メモ
    春の数えかた
    虫:それぞれの種ごとに「発育限界温度」が決まっており、温度の累積で春を数える。
    例)7℃の虫の場合、その日の気温から7℃を引いた温度を毎日足し合わせていき、一定の値に達すると卵から孵ったり蛹になったりする。
    鳥:日の長さ(明暗の周期)によって春の到来を知る。
    つまり、地球温暖化が進めば、生物たちの春の数え方に食い違いが起こる可能性が生じる。

    祈祷師の話
    蛙の皮膚はきわめて精密にできていて、湿度に関してとても敏感である。
    なかなか雨季がやってこないと、人々は祈祷師に雨乞いを頼むが、祈祷師は蛙を捕まえてくるように言うのだそう。蛙が一匹でも微妙な湿度の変化を感じ地中から姿を現したら、雨季の到来を示すものだからである。

  • 最近、日高先生の訃報を聞きとても寂しく思いました。
    私が日高先生の著書を知ったのはごく最近なのでまだまだ色々なお話を読めるのかなあ~と思っていたのでとても残念です。

    別に先生だから、と言う訳ではないと思いますが視点が自分と全然違うので読むたびにふうん、とかそうなんだ~という発見があり面白いです。そして物事を短絡的に考えるのではなく、包括して全体をとらえないといけない、と言うようなことをやさしい口調で書かれております。

    昆虫や動物がすみにくい地球は結局人類だってすみにくい場所になる、と言うことなのでしょう。
    そういえばこの頃アマガエルを見ないな。昔すんでいた家は近くに田んぼがあったので
    子供のころはよくオタマジャクシを捕まえたりしたのですが。
    カタツムリともご無沙汰してるし、あ、でもこの間カナヘビを見かけたなあ。
    そんな小さな生き物が元気に生息する日本や地球であってほしいなあと思うのです。
    (蚊は居るんですけどね、どこにでも…)

  •  人間の直接の祖先は類人猿である。森に住んでいた大型類人猿は、本来は草食動物であった。しかし彼らは牛などのように徹底して草ばかり食うのではなく、木の葉も食い、植物の芽も食べ、果実も食べ、たまたま出会った虫も食うという、いわば雑食的な食べかたをしていた。人間の体の雑食的なしかけはこの基礎の上にできあがってきたのだろう。(p.93)


     鳥たちが動いたり、餌を食べたり飛びまわったりすることがさえずりと関係するかもしれないと考えて、餌をやる時間を一定にしたり、強制的に運動させたり、いろいろなこともしてみたそうであるが、それはさえずりの開始にかんけいがなかった。さえずりの始まりは、暖かくなるかどうかではなく、早く夜が明けるかどうか、つまり日の長さによってきまるのだということが、こうしてはっきりとわかったのである。
     生物の活動が昼夜の長さ、いいかえれば明暗の周期(光の周期)によってきまる現象は、「光周性」と呼ばれている。
     植物の花がいつ咲くか、動物がいつ繁殖するか、いつ冬眠に入るかなど、いろいろなことが光周性によってきまることが、今ではよくわかっている。小鳥は光周性によって春の到来を知り、さえずり出すのである。
     その一方、多くの昆虫は暖かさで「春を数えて」いる。(p.222)

     一方では、都市の水源確保や洪水防止のために、山や森を損ねてダムを作り、そしてそれが海や浜を荒廃させることになっていた。
     そしてまたその一方、役に立たない雑木林を伐採して、材が高く売れるスギやヒノキのような有用木の植林を広げ、豊かな森を貧困化させてしまった。そのため食物に困った大型動物たちが、農地や人間の居住地に現れるという状況が全国各地に生みだされて、今度は人間たちが困っている。いったんそのようになってしまうと、その対策は一朝一夕には立てられない。
     すべて森林が果たしていた重要な役割に気づかずにいたことの結果である。(p.242)

     換気と雨季で気候がまったくちがう地方では、作物の作付けを始める時機を知ることは、人々にとってきわめて重要な問題である。なかなか雨季やってこないと、人々は祈祷師に雨乞いを頼む。そのとき祈祷師は必ずカエルをつかまえてこいと言うのだそうである。カエルが一匹でも微妙な湿度の変化を感じ、地中から姿を現したら、それはまずまちがいなく雨季の近々の到来を示すものだからだ。カエルの感覚によって祈祷師の信用が保たれるのである。(p.259)

     重要なのは、そこにはいつも理系と文系の減少がからみあっていることである。
     世界最古の環境破壊の一つとされるアラル海問題も、その発端は旧ソ連政府のきわめて政治的な、つまりまったく「文系」の発想にあった。そこに自然科学や技術といった「理系」的な問題がからんでいって、その文系的な発想が具体化されていったである。そして政治、経済、社会主義国家の理念と名誉などという文系的なものがさらに関わってきて、問題はどんどん複雑になり、あげくの果てに悲惨な状況に立ち至った。それはまさに、地球という自然を支配して生きようとする、「人間文化」そのものが生みだした悲劇であった。(p.269)

  • studio-Lの事務所で雑談をしていたときに山崎さんに紹介してもらった一冊。環境に対する視点がおもしろく、文章もうまくて参考になりました。パークレンジャーやアウトドアが好きな人、僕のようなガイドをしたりする人も読んでみると、案内する際に集まってくれた人に環境や生き物のことをおもしろく伝えることができるかもしれないな、と思いました。

  • 読書録「セミたちと温暖化」5

    著者 日高敏隆
    出版 新潮社

    p36より引用
    “わずかながら世界のあちこちの春を体験してみると、春とは冬を
    経てこそはじめて味わえるものだということを、今更のように感じ
    た。”

     動物行動学者である著者による、動物達の日々の暮らしを通して
    世の中を見たエッセイ集。
     著者の身近な出来事についてから世界規模の問題についてまで、
    非常に穏やかな語り口で描かれています。

     上記の引用は、世界の国々で生物の調査をして季節を感じたこと
    についての一文。ひたすら長い苦しみの後に、それが終われば、確か
    に心地よい物だと思います。
    冬でも暖房の要らない日があったりする日本の地域では、味わうこ
    との出来ない感動が、北極圏にはあるのだろうなと思いました。
    私は寒いのも暑いのも苦手なので、大きな感動よりもぬるま湯のよ
    うな日々を選び続けるでしょう。
     読んでいると心優しくなれそうな、穏やかな気持のよい一冊です。

    ーーーーー

  • 読んでいると、ゆったり優しい気持ちになる。
    「気になることば」、面白いなぁ。
    「雑食の動物」や「牛と馬」。
    他の項も、安定的に興味深い。
    連載エッセイなので、疑問を解決していないものもあるけれど、
    先生の、心のつぶやきがそのまま、ふわっと形になっているようで、
    それもまた好き。

  • こんなに素敵な学者さんがいて、たくさん本をかいていて、もう亡くなられていたなんて!せかいをもっとちかくみてみよう。

  • (2010.08.08読了)(2010.01.11購入)
    新潮社のPR誌『波』に「猫の目草」と題して連載したエッセイをまとめた3冊目の本です。
    1冊目が「春の数えかた」、二冊目が「人間はどこまで動物か」です。
    三冊目の「セミたちと温暖化」の単行本は、2007年4月に出版されました。
    著者の日高さんは、2009年11月14日に亡くなられました。
    日高さんの本の積読がまだ10冊ありますので、今後も読んでゆきましょう。

    「少年のころから生き物が大好きだったぼくは、色んな虫や動物を観察しながら、「なぜこうなるのだろう」という疑問をもった。その気持ちは今も全然変わっていない。自然をよく見ていると興味が尽きないし、疑問も次々にわいてくる。本書は、そんなことを書き綴っている。」
    日高さんのエッセイは、自然に対する疑問を最新の研究に基づいて、わかりやすく説明してくれるので、感心しながら、読むことができます。
    中には、フェロモンの研究のように、定説がどんどん変わって行ってしまうものもあります。解明されたように見えて、実はそうではなかったなんて、科学も油断できません。

    ●ネコの自意識(10頁)
    電話で話をしている途中でふとネコを見ると、さっきはぐっすり眠り込んでいたと思ったネコが、目を開けてじっとこちらを見ているではないか!ぼくの関心が自分にではなく、電話の相手の方へ向いてしまっていることに対して、明らかに不満そうな面持ちである。
    電話の話相手の方から、ニャアというネコの声が聞こえてくることもある。声はますますはげしくなり、苛立たしそうに何度も何度も繰り返される。何よ、あたしのことを放っておいて!と、相手のネコも怒っているのだ。
    ●フェロモン(28頁)
    大抵の夜行性昆虫では、メスが自分の身体から性フェロモンを空気中に放出し、その匂いでオスを誘引して交尾する。
    ところがマツノマダラカミキリは、メスではなくオスが性フェロモンを放出し、メスがそれに誘引されてオスの近くへやってくるのである。
    ●フェロモンの有効距離(48頁)
    性フェロモンはどれくらいの距離からオスを誘引するのだろうか?
    数百メートルから1キロメートル、2キロメートル、ときには何と10キロメートル以上という驚くべき値が得られた。でも、オスたちは性フェロモンに遠くから「誘引」されてなどいないのだ。
    オスたちは猛烈なスピードでランダムに飛び回り、メスのごく近くで性フェロモンが高濃度に漂っているところを探している。そしてたまたまそれに遭遇すると、突然に飛び方を変え、ゆっくりジグザグにフェロモン源に近づきながらメスの姿を探して、彼女に飛びつくのである。
    ●アリの絵を描く(64頁)
    最初は、いきなりアリの絵を描きなさいと言って描かせ、次に、シャーレに生きたアリを一匹入れ、それを一人一人に渡して、さあこれが本物のアリだよ、これを見て描きなさいと言って描かせ、最後は、先生が説明した後描かせた。
    最初の絵の多くは、頭と胴体、四本の肢というよくありがちな虫の絵であった。
    二回目に描かれたアリは、本物のアリを見て描いたので、本当のアリの姿が描かれるはずと期待したのだが、描かれたアリの大部分は、依然として、頭と胴体、肢は四本であった。
    三回目は、体が頭と胸と腹の三つに分かれていること。肢は六本あること。六本の肢はみんな胸に生えていること、等を説明し確認してから描かせた。子供たちのアリの絵は、実物に近いものになった。
    人間は実物を見たからと言って、おいそれとその実物が見えるものではない。

    ☆日高敏隆さんの本(既読)
    「ソロモンの指環」ローレンツ著・日高敏隆訳、早川書房、1970年
    「攻撃 1」ローレンツ著・日高敏隆訳、みすず書房、1970.01.30
    「攻撃 2」ローレンツ著・日高敏隆訳、みすず書房、1970.05.15
    「人類の創世記 人類文化史1」寺田和夫・日高敏隆著、講談社、1973.09.20
    「動物にとって社会とはなにか」日高敏隆著、講談社学術文庫、1977.08.10
    「ワニはいかにして愛を語り合うか」竹内久美子・日高敏隆著、新潮文庫、1992.01.25
    「昆虫という世界」日高敏隆著、朝日文庫、1992.12.01
    「ネコたちをめぐる世界」日高敏隆著、小学館ライブラリー、1993.04.20
    「日本文化の新しい顔」河合隼雄・日高敏隆著、岩波ブックレット、1998.01.20
    「春の数えかた」日高敏隆著、新潮文庫、2005.02.01
    「人間はどこまで動物か」日高敏隆著、新潮文庫、2006.12.01
    「ネコはどうしてわがままか」日高敏隆著、新潮文庫、2008.06.01
    「セミたちと温暖化」日高敏隆著、新潮文庫、2010.01.01
    「世界を、こんなふうに見てごらん」日高敏隆著、集英社、2010.01.31
    (2010年8月29日・記)

  • 作者の生き物に対する温かい愛情を感じます。虫を見る目は子供のままだと思います。

  • 日高先生の生き物に対する目線は、あたたかだけど的確な研究者のもので、それに触れたあとはなんだか毎日を過ごすのがとても楽しくなる。すごい!

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著者プロフィール

総合地球環境学研究所 所長

「2007年 『アフリカ昆虫学への招待』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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