- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101167510
作品紹介・あらすじ
これからどうやって生きていこう?マイペースに過ごす女子大生可南子にしのびよる苛酷な就職戦線。漫画大好き→漫画雑誌の編集者になれたら…。いざ、活動を始めてみると思いもよらぬ世間の荒波が次々と襲いかかってくる。連戦連敗、いまだ内定ゼロ。呑気な友人たち、ワケありの家族、年の離れた書道家との恋。格闘する青春の日々を妄想力全開で描く、才気あふれる小説デビュー作。
感想・レビュー・書評
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『もう就職活動やめようかなあ』
『私も。なんだかいかに自分が会社勤めに向かないか、わかってきたもん』
マイナビ社の直近の統計値によると、就活における大卒生の平均エントリー数は約30社。そして、内々定の保有数の平均値が約2.2社だそうです。エントリー数でこれを割ると、なんと内定率は約7%という狭き門。計算上は、ひとつの企業から内定をもらうには15社にはエントリーをしないといけないという数値ではありますが、一方でそんな簡単なことでないことは、いうまでもありません。私にも過去に就職活動に悩み苦しんだ時代がありました。面接の連絡が来るのか、次の面接には進めるのか、そして内定はもらえるのか。今まで、店頭の商品を選んでいた立ち場が逆転し、選ばれる側にまわることの戸惑いとその息苦しさ。一方で、ふと思う、自分は本当は何をしたいんだろうか?という人生を俯瞰したそもそも論が繰り返し波打つように押し寄せてきたあの頃。そんな就職活動という人生のビッグイベントをリアルに描いたこの作品、自らの体験による物語、これは三浦しをんさん24歳のデビュー作です。
『そろそろここを出ねばならぬ。今日は五時間で十八冊の漫画を読んだ』、と漫画喫茶を後にするのは主人公・可南子。『私は就職活動をサボってここに来た』という可南子。『可南子さん、今日の会社はどうでした』、と家に帰るとすぐに義母に聞かれます。『一体どういうところに就職したいんです』という問いに『ええと、出版社にしようと思ってます』と答える可南子。『十五年以上読んできた漫画の中には、たくさんの編集者たちが現れた』という自らの経験から『ケーキを持って漫画家の家に行き、それを食べながらボーッと原稿ができるのを待っている。あれなら私にも可能だろう』と安易に考える可南子。台所へと立った義母を確認して弟・旅人は『漫画喫茶行ったんだろ。姉ちゃんがガキの頃から今まで熱心に続けてるのって、漫画読むことだけだな』と全てお見通しの様子。『それから二週間、私はいくつもの会社にハガキを出した』という忙しい日々。『練習をかねて、有名百貨店を受けてみることに決めた』ものの、理由は『社員になったら、きっと社割で服が買えるだろう』という可南子は『わざわざ「平服でおいでください」と書いてあった』ことから『気合いを入れて可愛らしいタックの入った黒いカーディガンに黒いスカート、黒いストッキングにインパクトのある膝下までの豹柄のブーツ』という『完璧なるコーディネイト』で筆記試験に赴きます。そんな『会場は見事にリクルートスーツで埋め尽くされていた』という衝撃。さらに『すぐに問題用紙とマークシートが配られた』時に『私はもう一度驚いた』という展開。『問題の表紙に「適性検査(SPI)試験」と書いてあった』。これを『なぜ百貨店に入るためにスパイの適性が必要なのだ』と不思議に思う可南子。終了後、大学で友人に会った可南子は『いま就職試験っつうもんを受けてきたわ』とその内容を細かく説明します。すぐに『スパイならスペルはSPYだろ?』と馬鹿にされる可南子。でも『試験に通過したから一次面接に来いと連絡が入った』という予想外の吉報。しかし、可南子は『今回もすべての人間がリクルートスーツだった』というその場に、『私は半ば意地になっていて、また前回と同じ豹柄のブーツだった』と出かけて行くのでした。そんな可南子の就職活動が続いていきます。
『就職活動というビッグイベントに参加しているという一体感がある』という可南子。この国では新卒採用という独特の考え方が基本である以上、大学生活の後半戦最大のビッグイベントが就活です。誰もが通るその道を、かつて三浦さんも通ってこられました。その経験を参考に書かれたのがこの作品。そして、そのイベントに参加する際の制服ともいえるのがリクルートスーツです。本文中では、それを着ないで『豹柄のブーツ』で赴く可南子の顛末がとても興味深く描かれています。またリクルートスーツ自体をチクッと皮肉るところなどもとても面白いですが、三浦さんならではの表現だと感じたのはこんな箇所です。『私はこのストッキングというものが好きではない』と宣言する三浦さん。『ただでさえ蒸れやすい足を、こんな得体の知れぬものでピタリと覆うなど、まったくもって理解できない』と不満爆発のご様子。『だいたい私は素足に自信を持っている』とここで自身の素足が登場。『私の脚はまだスンナリと美しく、張りもある』、そして『体毛が薄いからムダ毛処理をせずとも、肌はいつもスベスベだ』と畳みかけるように主張が展開します。そして、『それなのに、就職活動というと、お決まりのリクルートスーツにパンプス、やけに白いストッキングと相場は決まっている』、と就職活動の現状を嘆きます。そんな三浦さんらしく『素肌を直視するのが、試験官のオジさんには眩しすぎるのだろうか。それとも、ストッキングをキューと裂いて、そこから現れる肌に接吻するのが好きなのだろうか』と、ストレートな表現の登場。この辺り、もう思いっきり三浦節炸裂とも言える表現です。三浦さんの場合、こういった表現は、小説よりは、エッセイに多く登場します。そういうこともあって、余計にこの主人公・可南子=三浦しをんさんを感じさせます。そして、この作品が三浦さんの自伝なのかも?という感覚に繋がってしまうところが、この作品の面白さを格段に増しているように感じました。
また、エッセイの世界で見られる三浦さんならではの世界観も顔を出します。二つご紹介します。一つ目は、『おたく』。可南子が古本屋に入るシーン。『絶版になって手に入らない文庫が百円で、有名な古本屋で一冊八百円で取引されている『キン肉マン』の単行本(それも三十巻目以降で初版!)にいたっては三冊百円で、売られていたのであった』というなんとも細かい部分まで規定した上での一文。それを買って『嬉しくて近年まれに見るほど興奮した』というのは可南子ではなくて、これはどう考えても三浦さんだと思います。二つ目は、『BL』。『僕さ、ホモかもしれない』という二木君。『男に対して性欲がもてるのかどうかは、「もしやホモかも」という可能性に思い至って間もないから、まだわからない』という突然の告白。それは可南子が『男惚れについて』という卒論を書いているのを知っていたからでした。『古今の文献や映画、演劇にあたって、男惚れの実態とその表現を分析し、そこに秘められた性意識と差別性をさぐるのが、私の研究課題である』という可南子。これはもう、三浦さんご本人の趣味の世界が重ならざるをえません。ただし、小説の世界しかご存知でないと今一つ納得感が得られない部分でもあるかもしれません。三浦さんのエッセイの世界を知っている者だけがニンマリする、そういった部分をあちこちに感じました。もちろん、デビュー作なのでこの作品の前に他の作品を読む必要はないのかもしれませんが、この時代に並行して書かれたエッセイを読んだ後にこの作品を読むと面白さが倍増、三倍増する、と思いました。
「極め道〜爆裂エッセイ」で、『ここで声を大にして申しますが、あの話はあくまで小説、フィクションです』とこの作品が自伝などではないことをはっきりと語る三浦さん。でも、自らの就職活動では出版社への就職を目指されていたのは事実で、そういう意味でも虚構と現実の線引きが微妙なこの作品。K談社、集A社、S学館など、伏せ字の意味をなさない活動先での面接シーンを含め、誰もが通る就職活動というビッグイベントをリアルに描写したこの作品。
- 三浦しをんさんは、もう最初から三浦しをんさんだった -
ということを実感させられる三浦しをんさんど真ん中!の作品。若さゆえの圧倒的な推進力でぐりぐり読ませる三浦節炸裂しまくりの作品でした。 -
格闘するもの?足掻く?
苦しんで闘うものに応援?
ふふふ、なるほど、
表題に納得。
三浦しをんデビュー作?
ゆるーくて才能を彷彿させるものを感じる、
それに後の作品で出てくる人らしい人もちらほら。
はじめから三浦しをんワールドを感じる。
自分は好きだわ。
個人的に、最近はあまり聞かないけど、
平気で「ろうほ」などというやからがあまりね。 -
著者が、自らの就職活動体験を下敷きとして描いたデビュー作。
文学部4年生の主人公、可南子が少女漫画オタクで運動オンチなところ、ものぐさなところ、出版社を志望する(がどこからも内定を取れなかった)ところ、仲のよい弟がいるところ等は、まさに著者そのものといった感じ(著者のエッセーからイメージした著者の人物像にマッチしている、という意味です)。さすがに、父親が入り婿の政治家で母親は義母だったり、親族会議の席で後継者にされそうになったり、70過ぎの書道家のじいさんと付き合っていたり、というのはフィクションなんだろうなあ。
忍の台詞「ちゃんと毎日体を動かしていれば、そのうち自然と食いぶち稼ぐ道は見つかるもんや。何がなんでも会社に入らなあかん、思うて焦ったらいかんよ」は、就職活動に失敗した全ての学生への温かいエールになっている。
処女作としては相当完成度の高い作品だった。 -
三浦しをんさんのデビュー作
冒頭、ジャングルの塔に暮らす王女の物語から始まる。
何だか不思議な話なのだが、これの意味は後に明かされる。
そして、この不思議なタイトルの意味も。
就活、家族、恋。
女子大生可南子が様々な事にぶつかりながら志望する出版社の就職試験に挑んでいく。
しをんさんの体験に基づいて書かれたそうだ。
なるほど、エッセイと小説どちらとも言える雰囲気だ。
上手くいかない就活に思いっきりツッコミを入れ、妄想を炸裂させるところは可笑しくて笑ってしまった。
これがデビュー作なのだ。
強烈なインパクト。
三浦しをんさんが好きと言いながら今まで読んでいなかった事を後悔した。 -
三浦しをんのデビュー作。なんで今まで読んでいなかったんだろう…
突然象の話しから始まり破天荒なストーリーの予感がありましたが、家族の話しや就活の話しなど様々な話題を絡めながらも、まとまりがあって面白く読めました。 -
タイトルの意味、なんだろうなぁと思ってずっと読み進めていたのだけれどまさかそういう事だったとは。
就職活動がいかに学生をスポイルして、精神を荒廃させるかは、実のところ就職活動らしきものをしたことのないワタシには実は想像がつかないのだけれど、石田伊良さんの「シューカツ!」とかこの本を読んでいると本当に辛くて気持ちが萎えるものだなぁとひしひし思う。とてもじゃないけれど、自分では耐えられそうもない。
早々に就活を諦めてドロップアウトする若者や、社会に出てくるなり疲れ果てている新入社員を見るとさもありなん、と思うもの。
非常にとんでもない家庭環境の主人公だけれど、実におおらかで愉快な性格。こういうキャラ設定は三浦さんの真骨頂でしょうなぁ。大好きです。 -
就活中に読んでたら、イライラしたんじゃないかと思うような話
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就活もテストも恋愛も、大学生は忙しい。
まるで、社会人になる前の焦りか開き直りのようだ。
自分を見失わないように、翻弄されながら、
いろんな人が世の中にいることを知っていくのだろう。
デビュー作、24歳の三浦しをんはすごい。
しをん氏の活躍が十分に予想されるような、作品のように思う。
しかし、女子が働くことには、
今でもこんな思いをするのだろうか
まるで、変わっていないじゃないか。
驚いてしまった。
重松氏の解説もよかった。 -
三浦しをんさんのデビュー作!
就活を軸にして、家族や恋愛についても描かれていて、とても共感しやすい物語。デビュー時からこんなに勢いのあるボケとツッコミをしていたのかと驚いた。
最初の文章がここに繋がって、タイトルはここで回収されて…というように、物語の構成がおもしろい。
三浦しをんさんも最近覚えました!また読んでみたいと思います。
こちらこそ、ありがとうございます。
イヤミスと言うと私も順に読んでいる湊かなえさん。yuka♡さんも『読みたい...
こちらこそ、ありがとうございます。
イヤミスと言うと私も順に読んでいる湊かなえさん。yuka♡さんも『読みたい』に登録されている「母性」はとても興味深い作品でした。
三浦しをんさんは、小説とエッセイではまるで別の顔を見せられるのがとても好きです。この「格闘する者に○」は、そんな小説の三浦さんとエッセイの三浦さんが一体になったかのような作風でとても面白かったです。
また、よろしくお願いします。