きみはポラリス (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 18620
感想 : 1537
  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101167602

作品紹介・あらすじ

どうして恋に落ちたとき、人はそれを恋だと分かるのだろう。三角関係、同性愛、片想い、禁断の愛…言葉でいくら定義しても、この地球上にどれひとつとして同じ関係性はない。けれど、人は生まれながらにして、恋を恋だと知っている-。誰かをとても大切に思うとき放たれる、ただひとつの特別な光。カタチに囚われずその光を見出し、感情の宇宙を限りなく広げる、最強の恋愛小説集。

感想・レビュー・書評

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  • 『いつも不思議に思うことがある。どうして恋に落ちたとき、ひとはそれを恋だとちゃんと把握できるのだろう』

    『「恋愛をテーマにした短編」の依頼が多い』という三浦しをんさん。仕事を受ける場合、その仕事には当然発注元からこと細かな要望が付きます。小説家が仕事を受ける時に付くのが『テーマ』。あらかじめ提示されたテーマを『お題』として出来上がる小説は、その『お題』からはずれない限りは無限の可能性を持つことができます。『結婚して私は貧乏になった』、『ラブレター』、『あのころの宝もの』、『最後の恋』というような『お題』を聞いた時、あなたはそこにどのような物語を思い浮かべるでしょうか?『結婚して私は貧乏になった』=うんうん、そうだよ、あの旦那がこんなに金遣いが荒いとは思わなかった、とか、『あのころの宝もの』=あ、そうだ、小学校の時に大切にしていたあれ、どこにしまったっけ?といきなり押し入れをがさがさ探し出したり、とか。人によってピン!とくるものは違えど、人は人それぞれに今まで生きてきた中で今の自分を作ってきたドラマを持っています。普段、記憶の中に眠っているそんなドラマが『お題』というきっかけを与えられることによって、再び光を浴びる瞬間、そしてまた長い眠りについていくドラマたち。人の記憶とは面白いものだなと思います。そんな記憶の中でも恋愛は人にとってさらに特別な意味を持つものではないでしょうか。この作品は、依頼者から与えられた恋愛にまつわる『お題』を元に書き下ろされた三浦しをんさんの短編集です。

    2005年から2007年頃に書かれたこの作品は11の短編から構成されています。面白いのは、三浦さん自身が、それぞれの短編について、依頼者から与えられた『お題』をはっきりと明示していることです。読者は、三浦さんがそれぞれの『お題』でどのように作品を描いたのか、また逆に、この作品はこんな『お題』を元に描かれていたのか、という、そんな側面からも楽しむことができるようになっています。

    そんな11編の中で、私が最も三浦さんらしいと感じたのが〈裏切らないこと〉です。『お題』は『禁忌』です。『急いで帰らないと、勇人を風呂に入れるという楽しみを逃すことになる』とバス停からの道を小走りに急ぐ岡村健。そんな岡村は『恵理花が床に額ずくようにして、勇人の小さなペニスを口に含んでいた』という『とんでもないものを目撃』します。『赤ん坊のペニスをしゃぶるような妻を、はたして俺はこれからも変わらずに愛しつづけられるだろうか』と考えこむ岡村。『ざーんねん。勇人が待ちきれないって騒ぐから、もうお風呂に入れちゃったよ』といつも通りの恵理花。会社の同僚に相談しようと考えた岡村は、翌日、相談相手に十は年上で、子持ちの女性である柏崎さんを選びます。『舐めましたか?赤ちゃんのときのお子さんを』という問いに『岡村くん、舐めてないの?うちの旦那なんか、「かわいいなあ」ってベロベロ舐めまくって大変だったよ』と返す柏崎。そして『二人とも女の子』という柏崎に『俺が知りたいのは母親の、息子への接し方なのだ』と不満が晴れません。思い切って『実はですね。妻が息子の、その、あれを舐めてるというか…柏崎さんでもそうしてみますか息子さんがいたら』と覚悟を決めて核心を聞く岡村。『そうねえ、してみると思う』と答える柏崎。『岡村くんだって、きっとお母さんに舐められてたわよ』と笑われます。『かわいけりゃなんでも舐めていいのか、と胸の内で抗議しながら、俺は悄然と席を立った』という岡村は、『なぜ女たちは、血のつながった男には深い寛容と信頼を見せ、他人である男には素っ気ないとも言える警戒を見せるのか?』と考えます。『結婚して二年が経つが、恵理花は俺のことをどこか信じていないところがある』と『恵理花にとって俺はあくまで「他人」のままだ』とどんどん考えこむ岡村。一方で岡村は『ほとんど家に帰れない』という大きな仕事上のトラブルに巻き込まれていきます。そんな中で、ふと『自分にとって恵理花と勇人が、どんなに大切な存在であるかに』気づく岡村。そして…というこの短編。インパクトのある起点から、物語は大きく膨らみを見せながら『愛』というものの本質へとぐりぐり迫っていく過程に三浦さんらしさをとても感じた短編でした。

    また、作品中、一番雰囲気感に溢れていたのは〈冬の一等星〉です。これは三浦さんが自分で『年齢差』という『お題』を設定された短編ですが、『私が誘拐されたのは、八歳の冬のことだった』という衝撃の設定の上に描かれるのは、『誘拐』という言葉から抱く緊迫感とは対極の優しさに溢れた雰囲気の中で描かれていく”誘拐犯”の文蔵と八歳の『私』が見上げる冬の星空でした。『好きな動物は?』と聞く文蔵に『うさぎ』と答える『私』。オリオン座の下に位置するうさぎ座を教える文蔵。『ペンギン座も、スフィンクス座も?』と聞く『私』に『なければ作ればいい』と答える文蔵。『誘拐』という設定の物語を、なんとも言えない奥深い余韻を残す作品としてまとめる三浦さん、う〜ん、上手いなぁと思いました。

    「きみはポラリス」という書名のこの作品。ポラリスとは北極星のこと。でも、11編の中で星について触れられるのは10編目の〈冬の一等星〉と7編目の〈森を歩く〉の中に出てくるプレアデス星団だけで、それらも含めて北極星に触れられることは一切ありません。北半球で一年を通して真北を表す象徴のように輝く北極星。でもそれは全天で21個あるとされる一等星でもないごく普通の二等星に過ぎません。そんな北極星を持ち出して「きみはポラリス」という作品名とした三浦さん。そんな11の短編に登場する人物たちは、さまざまな愛の形を紡いでいく中で、北極星の如く、いつも同じ場所にいつも同じ明るさで、その存在を頼りに生きる人たちに向かってほのかな光を放っていました。人は生きていく中で、新たな道を探し、新たな道を造り、そして新たな道へと歩みを進めようとします。でも、そんな時に、そんな新たな道で、進む方向を迷った時に顔を上げる。そんな時に、いつもの場所にいつもと同じほのかに、静かに輝き続ける人がいる、心の拠り所とする人がいる。「きみはポラリス」、なんて印象深い書名なんだろう。読み終わってふっとため息が出ました。

    恋愛には恋愛の数だけさまざまな形があり、普通の恋愛というものはありません。この作品に取り上げられている11の短編に描かれた恋愛もそれは同じことです。

    『どうして恋に落ちたとき、ひとはそれを恋だとちゃんと把握できるのだろう』

    そう、すべての人が必ず持つ特別な感情、それが『恋』です。

    そして、その感情が発露するその瞬間に生まれる恋愛という感情。そんな感情が描かれた11の短編を通して、この世には人の数だけいろんな恋があり、いろんな愛の形があるんだ、そしてそんなすべての恋愛の上にそれぞれのポラリスが輝き続けているんだ、そんなことを考えた、三浦さんらしい作品でした。

  • 三浦しをん 著 

    すべての恋愛は、普通じゃない。2人にしか見えない光、それが宇宙で一番かがやく。
    どうして恋に落ちたとき、人はそれを恋だと分かるのだろう。
    三角関係、同性愛、片想い、禁断の愛……言葉でいくら定義しても、この地球上にどれひとつとして同じ関係性はない。けれど、人は生まれながらにして、恋を恋だと知っている──。
    誰かをとても大切に思うとき放たれる、ただひとつの特別な光。カタチに囚われずその光を見出し、感情の宇宙を限りなく広げる、最強の恋愛小説集。

    不思議な力のある本です。
    11の短編が収録されており、全て恋愛小説であるこの作品…
    恋愛だけの作品集なんて、あんまり得意じゃないと思ってた自分でも、とても引き込まれてしまい、気がつくと読み終わっていた。
    三浦しをんさんは、鋭い観察眼と言おうか、心のひだをひとつ、ひとつ、丁寧に描き出してくれる作家さんだと思う。

    日常にないような出来事でも、何か心当たりがあるように感じられて、読み進めてしまって…
    それは何?って疑問が沸々湧く中、読了した後に…
    中村うさぎさんの解説が、そんな思いを解放してくれるように得心出来た。

    中村うさぎさんの解説が、この作品の情景を映し出すだけじゃなく、核心を突いて心に迫ってきた、うさぎさん、作家さんだけあって、やはり流石です!

    私は、この作品について感じた感情を言葉に出来ないし、レビューする事すら難し過ぎるので、代弁してくれたように感じられた。
    驚きに満ちたことも淡々と、微妙な感情も解説を通して、すーと入ってきた(o_o)
    言葉にして解説を出来るとはすごいなぁとしか言いようがない。

    中村うさぎさんの解説を引用したいところだが、まだ本作を読まれていない方の為には、
    引用しない方がいいだろうと思う。
    私はいつも、解説は原作本を読んだ後に読むと決めているのだが、最初に読まれる方もいらっしゃるようなので…(それは人それぞれ)しかし、本作に限っては特に…?読後に読んだ方がいいように感じました。
    読んでいる時に、少し自分の中で、引っかかっていた気持ちを見事に解釈へと導いてくれた解説だったから。

  • 多種多様な11編の「恋愛」をアウトローな形で表現した内容だった。自分のこれまでの経験から、全話、全く受け入れられない恋愛パターンが新鮮で、一方、何故だか光り輝く北極星(ポラリス)のようだった。浮気あり、大学の先生の骨を噛んだり、自分の息子のあそこを舐めたり、宗教絡みの恋愛、森を歩きまわり、大阪まで犯人と車で過ごしたり、最後には同性愛。最初はアウトローな内容なだけに感情移入はできずイライラしていたが、この話は客観的にアウトローを楽しむものであり、エキセントリックな登場人物が恋愛の幅を壮大に広げてくれた。

  • 『天国旅行』と同様、共感やしっくりとはならない短篇たちでした。
    一話目と最終話が時を経て繋がる素敵なお話でした。
    ですが、どのお話もなかなか上手くいかない恋心…
    結末もなんだか、はっきりとは分からずフェードアウトの様な…
    不思議な空気感に共感できず、ちょっと私には合わなかったです。

  • 三浦しをんさんは、これまで読んだことが無かったが、先日、読書仲間に紹介されて購入。

    11の短編集による、恋愛疑似体験フルコースである。
    11のストーリーを読んで、これだけ沢山の恋愛バリエーションがあることを知った。どのストーリーも独特で、予想の斜め上を行く驚きと感動があった。

    ちなみに私は「骨片」「冬の一等星」がお気に入りである。誰だって、心に秘めた思いを長年持ち続けているのだろう。

    そして、自分の経験が決して恥ずかしいものではないことを悟った。これまで「甘酸っぱい、イタイ」として見向きしなかった思い出に対して、しっかりと向き合って良いんだと、清々しい気分になることができた。

    • workmaさん
      シントラさん
      ご自分の経験が、読書によって清々しい気分になれるなんて…とよい読者体験をされたのですね…
      それこそ、読書の「醍醐味」...
      シントラさん
      ご自分の経験が、読書によって清々しい気分になれるなんて…とよい読者体験をされたのですね…
      それこそ、読書の「醍醐味」ですねぇd=(^o^)=b
      2022/02/20
    • シントラさん
      workmaさん コメントありがとうございます。
      疑似体験と自分自身の追体験、両方味わうことができ、大満足でした。
      workmaさん コメントありがとうございます。
      疑似体験と自分自身の追体験、両方味わうことができ、大満足でした。
      2022/02/20
  • なんとも三浦さんらしい、というかなんというか、一筋縄では行かない恋愛模様をつづった短編集。

    それぞれに味があって深いのだけれど、なかでも「冬の一等星」が心に凄くしみたなぁ。

    「どうして文蔵と同じ星を見ていると信じられたのだろう。それらはあまりにも遠くにあって。触れて確かめることもできないものなのに。」

  • 初三浦しをん。共感できる部分とクビを傾げたくなるような部分が、一編一編の中にまあまあある。
    側から見れば淡い恋心…でもうちに秘めた思いは想像力も相まって、燻り続けている。表に出ない様装おうのも、また、乙なものではないだろうか。
    自分自身に当てはまるかといえば…いいえだな。

  • 様々な愛の形を堪能できました。きみはポラリス、まさに特別な人。確かに、誰に教えてもらった訳ではないのに、この感情は不思議ですよね。形や時代は変わっても、誰かを想う気持ちは、優しい気持ちになったり、胸がギュッとしてしまいます。余韻を残した書き方がまた心に染みました。

    春太の毎日
    永遠につづく手紙の最初の一文

    がよかったです。

  • とても読みやすく面白かったです。
    『私たちがしたこと』はかつての恋人たちがもつ辛い秘密の話ですが、俊介が言った「俺がしたこと」という一言の優しさが余計に辛い。
    『夜にあふれるもの』の最後は予想外で驚きました。
    『春太の毎日』はこの本の中で一番好きなお話。麻子のところにやってくる米倉を最初は憎たらしく思いながら、やがて受け入れる気持ちになった春太の「どうしたって俺は麻子より先に死んじゃうだろう」という思いが切ない。「保険」として、という深謀遠慮に込めた愛がかわいい。
    恋愛小説の短編集ですが、それぞれに趣がまったく異なっていて、最初から最後まで楽しく読めました。最初と最後のお話が対になっている感じの作りもよかったです。

  • 恋愛テーマの短編。どれも 分かるーと思うけど実際同じ気持ちになるかといえば、似てる様な似てない様な。それが恋愛なのかな?ほのぼのしたー

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著者プロフィール

三浦しをん

一九七六年東京生まれ。二〇〇〇年『格闘する者に○』でデビュー。〇六年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、一二年『舟を編む』で本屋大賞、一五年『あの家に暮らす四人の女』で織田作之助賞、一九年『ののはな通信』で島清恋愛文学賞及び河合隼雄物語賞、『愛なき世界』で日本植物学会賞特別賞を受賞。その他の著書に『風が強く吹いている』『光』『神去なあなあ日常』『木暮荘物語』『政と源』など。『ビロウな話で恐縮です日記』『本屋さんで待ちあわせ』『ぐるぐる 博物館』などエッセイ集も多数。

「2021年 『愛なき世界(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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