- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101167626
感想・レビュー・書評
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何か読む本ないかな~と思っていたところで出会った。直感で手に取ったのだが、解説の角田光代さんの重く深い言葉の一つ一つが突き刺さり、勢いで購入。これが大当たりでした。
「心中」がテーマの本作は、どの作品もしをんさん的なひねりが効いていて、それぞれに先が読めない。不気味で、ぞわりと怖いのに、どこか滑稽だったり、静かに哀しかったり。よく描かれる、ただただ悲観的で、過剰に美化されがちな死と違い、しをんさんの視点は冷静だけどどきっとするところを突いている。
一体どういう気持ちで死を選んだのか?どうして殺されたのか?彼の正体は何なのか?…どこか謎に包まれている、「死」を巡る状況。それぞれの謎の解釈は読者に委ねており、どの作品もいい意味で「わかりやすくない」。前世の夢に捉われたり、あるいは夢で懐妊したり、恋人の幽霊が見えたり…時に非現実的な設定もあるけれど、その描写が不思議と説得力があるのだ。近しい人の死により人生は一変するけど、その後も残された人らの日々は続く。哀しみや苦しみが複雑に入り混じり、だけどほのかな希望がわずかに見え隠れする、独特な読後感の一冊だ。
一番印象的だったのは、「森の奥」。富士の樹海を舞台に、生死のはざまでみっともなく惑い揺れる中年男性の滑稽なほどのカッコ悪さ。謎の男性との束の間の交流でカッコ悪さはさらに際立つものの、共感できるところもあり。最後はちょっと泣きそうになる、しをんさんらしい作品だなと思いました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
心中をテーマにした7つの短編集。
心中なんてものをテーマにしているのだから、暗い小説かと思いきや意外と明るい物だった。死で終わるのではなく、死を通して生を語っているからだろうか。何があっても、今生きている事が大事だと思える内容だった。特に気に入ったのは「初盆の客」。
相変わらず、しをんさんの文章は美しく読みやすい。 -
死がテーマなのに、こんなに軽妙に描かれているということに驚き。
いろいろな生と死がある中で、私たちは自分の意識上「生」しか味わえない。けれど味わえる間は甘んじていたいなと思える。
可能ならば、奇っ怪に見えたとしても、自分なりの愉快さを伴って。 -
心中の話なのに面白い!
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いまのところ自分で死のうと思うことはおもっていないけれど、死んでもいいかなあって思えるような瞬間ってあるんだろうな。
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“きみと出会い、きみと生きたからこそ、私はこの世に生を受ける意味と感情のすべてを味わい、知ることができるのだ。”
この一文で二人の関係性がわかるような気がします。 -
人はやっぱり生きてこそ。
楽しいばかりではない人生だけど
辛いことばかりでもない。
自分に直接関係ないのに、しんどい状況になるのは嫌だけど。 -
さまざまな形の心中を綴った短編集。
読みやすさも読み応えもありました。好きです。
あらすじに「すべての心に希望が灯る」とありますが、そこにはあまり期待を寄せないほうがいいかもしれません。後味が良いとは言えないものもあります。
「遺言」と「星くずドライブ」がお気に入りです。
前者は、最後の一文にものすごく大きな愛を感じました。もう一度読み返すと端々に愛情が滲んでいてあたたかい気持ちになります。
後者は、ポップなおかしさと対峙する巨大な閉塞感にゾッとするのですが、どうしてだか1番好きです。 -
「心中」をテーマにした短篇集。
心中というと家族や夫婦が共に入水や練炭で自殺を図る、という印象が強いですが、本作ではその印象を覆されました。
過去に愛した2人の男の後を追うように、1人を真似て喫煙を続け1人を真似て断食をして安らかに眠ったウメおばあさんが「物理的」にではなく心の底から3人での心中を成し遂げたと思うと、死や自殺は痛ましく哀しいだけではないのかなと感じました。
解説にもあった「死は救済である」という考え方は私自身そのように考えていたのですが、嫌な事や苦しみからの解放だけが救済ではなく、例えそれが病死や老衰でも想っている人と気持ちの上で共に死を遂げたり、
自分の命を賭けて何かを抗議したり伝えたりということは
それ相応に死ぬ側も死なれる側にも救いがあるのかなと、改めて考えさせられました。 -
「心中」をテーマにした7つの短編集です。
タイトルはTHE YELLOW MONKEYの『天国旅行』という曲名からつけられたそうです。
「せまいベッドの列車で天国旅行に行くんだよ 汚れた心とこの世にさよなら」
この曲の一節です。
生と死、夢と現実、そんなワードが浮かんでは消える、この曲のなんとも言えない不思議な世界観が、7つの短編に散りばめられているように感じました。
綴られる文章の中には、歌詞のように美しい一文がたくさんあります。
曲を聴いてから読んでみてもいいし、逆に本を読んでから曲を聴いてみてもいいかもしれません。
ぜひ、音楽と本をリンクさせてみてください。
図書館スタッフ(学園前):トゥーティッキ
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帝塚山大学図書館OPAC
http://lib.tezukayama-u.ac.jp/mylimedio/search/search.do?target=local&mode=comp&category-book=1&category-mgz=1&materialid=2410003897 -
「死」とか「心中」がテーマの短編集
…と言ってしまうとなんかイメージが偏ってしまいそうだけど、秀逸の物語ばかり。ハッとさせられる切り口に、作家の力量を見る。
普段は文庫本の解説って余計だと思うけれど、角田光代の解説は、そうそうとこちらを頷かせる。
死んだらおしまいよ。感じることができるのは、面白いと思えるのは(いろんな意味で)生きているからこそ、です。
「初盆の客」
「森の奥」
「遺言」 -
死をテーマにした7編の珠玉の短編集。
哀しさが底流に流れる愛の物語。セックスの描写はどれも寂しくてエロい。
ゴシックメタルで例えると言MY DYING BRIDEかな。なんで、あまたあるPEACEVILLEのバンドの中からMDB なのか?それはオレにもわからん。ふと、頭に浮かんできたのがこの老舗ゴシックバンドだった。
どれも傑作だけれど内田春菊の『南くんの恋人』テイストの「星くずドライブ」を推しとこ。角田光代のあとがきではひとことも触れられてないし。香那とちよみのキャラも被ってるような気もするし。映画『星くず兄弟の伝説』やフロイドの「星空のドライブ」を思ひ出すから。
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「死」をテーマにした短編集。自分の死、身内の死、赤の他人の死。自殺、他殺、心中。そしてそれにまつわる遺書、幽霊、前世、などなど。なのに不思議と重すぎず、暗すぎず、いろいろな人のいろいろな死と向き合っています。死に方=生き方なのね。解説を角田光代さんが書いてるのがちょっとうれしい。
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軽い読み物と思いきや、思いのほかの重量級。
テーマは心中。
主人公たちのほとんどは、あまりうまく世渡りするタイプではない。
生きあぐねて、あるいはパートナーの死に直面して、揺らぐ心のありようが描かれる。
「遺書」。愛を確かめるために自殺しようとする妻に残す遺書の形式の短編。
二人のなれそめまでもがそこには書かれているが、妻に翻弄される彼の姿に、何とも言えないおかしみが漂う。
老齢に達した彼が、もし妻が後に残されたら、と考えてこの「遺書」を書くのだが、最後の数行の彼の気持ちは崇高だ。
「星空ドライブ」は、ひき逃げで死んでしまった恋人につきまとわれる大学生の物語。
最初は死んだ彼女が自分のもとにやってきたことに愛情を感じていた佐々木だが、自分が死ぬまでずっとそばにいられることにぞっとし始める。
こういう細やかな心理描写がすばらしい。 -
森の奥…「心配してくれるひとが一人もいないまま生きていくってのが、どんなことなのか」、この言葉が胸に深く突き刺さった。想像を絶する孤独を抱えて寂しさから抜け出せないという地獄。
遺言…捉えどころのないご主人とエキセントリックな奥様。
初盆の客…誰の子供なのかが奇々怪界だった。
君は夜…この永遠にループするような愚かさに怒り心頭。
炎…仇を取ったというには程遠いし、真相もわからずじまい。
星くずドライブ…場所はつくばかな。ちょっとあり得ない完璧な結びつきと永遠性に到達した二人に羨望した。
SINK…評価はこの作品。主人公の厭世的姿勢は男なら理解できる人は多いだろう。真っ黒な絶望と悲劇的状況でも可能性が万に一つあるのなら試してみる価値はあるとお母さんは思ったのだろう。お母さんの意思をそう解釈するのなら主人公は極めて幸運だと言えるのではないか。万に一つで生き残ったのだから。
解説は角田光代さん。 -
心中の話。三浦しをんさんの文体が好きすぎ。
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160611*読了
著者プロフィール
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