新釈 遠野物語 (新潮文庫)

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  • 本 ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101168074

感想・レビュー・書評

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  • 遠野物語をベースにしつつ、昭和28年頃に、山中に住む不思議な山男から聞いた話として、複数の小話が綴られている。
    東北で語り継がれてきたであろう話がベースになっているものと思うが、一昔前の東北地方で苦しい生活を送っていた人たちの様子や、人間と動物の情愛など不思議な話が多く、変な話だと思いつつも、なぜか引き込まれて一気に読んでしまった。

  • 柳田國男の『遠野物語』は、河童やきつねや山人といった不思議な生き物の怪奇談や幻想的な民話が勢ぞろい。奥深い自然とともに生きてきた人々の、生き物や天空の営みに対する愛惜と連帯感、そして深い畏敬の念がこもっているようです。読みながら、ひや~っと背筋が冷たくなったり、小春日和のようなぬくもりを感じたり、どこか懐かしく、静謐で物悲しい。民話とはじつに不思議な魅力にあふれた読み物です。

    そのような柳田國男の「遠野物語」を現代風にアレンジしたのが本作。オリジナルの「遠野物語」を知らない方でも十分楽しめる作りになっています。もちろんオリジナルをご存知の方は、ああ~あのくだりね! ふふふ~と楽しめるから嬉しい。

    ***
    岩手県内陸部の遠野に近在する国立療養所でアルバイトすることになった休学中の「僕」。ある日、ふと山奥から響いてくるトランペットの音色を聴いた僕は、まるでセイレーンの美しい歌声に惹かれるように岩屋に近づいてみると……山人のような暮らしをしている元トランペット奏者の犬伏老人と出会います。流暢で面白い彼の語りは、「僕」のみならずこの本のページを繰る万人をも魅了していきます。

    第1話「鍋の中」
    第2話「川上の家」
    第3話「雉子娘」
    第4話「冷や馬」
    第5話「狐つきおよね」
    第6話「笛吹峠の話売り」
    第7話「水面の影」
    第8話「うなぎと赤飯」
    第9話「狐穴」

    1話から9話はそれぞれ独立したお話です。でもそれぞれが音楽のようにゆるく繋がっていますので、初めての方は、どうぞ順番どおり読まれてみてくださいね。次第に犬伏老人の人となりや面白さが明らかになってきます。わくわくしながら最後までくると、うひゃひゃ~と独り笑い、してやられたわい!

    それぞれの話が面白くアレンジされています。それらを緩やかに連結させたみごとな手腕、なんといっても柳田國男の「遠野物語」の神髄を体現したような結末。
    井上ひさしという人から放たれたユーモア、優しさ、郷愁……さすがですよね。私にとって彼は「難しいことを易しく、易しいことを深く、深いことを面白く」してくれる魔法使いのような作家なのです♪

  • 誇大癖のある"ぼく"と、語り部である
    いんちき臭い犬伏老人が「遠野物語」の序文に
    なぞらえつつ紹介され、つるりと始まる物語。

    山の緑の稜線に重なる白い夏雲。
    世界が反転するような不思議で美しい
    桜の花びらほどの大きな雪の舞う景色。

    美しい描写にうっとりしながら、
    老人の話す怪異に夢中になりページをめくると、
    それはいつしか艶っぽい話、悲しい恋の話、
    残酷な話、悲しく面妖な話へと様変わりしていく。

    本家遠野の話を小さな骨組みとして
    話は隆々と肉をつけ、種を知っているはずの
    手品が鮮やかに趣向が変わり、感嘆し、
    最後には井上氏の愉しい試みに口角が上がる。

    遠野とどこかしら地続きでありながらも、
    延長線上のオマージュに留まらず、
    再構築され生まれ変わる遠野。
    "ぼく"となった聞き手の私は
    犬伏老人の話を心の底から楽しみ魅了される。
    見事な筆致にまさしく、どんとはれ!!

  • 遠野物語は柳田国男の原作に限る。現代語訳や京極夏彦が脚色したものも読んだが、正直つまらない。遠野物語の迫力は柳田の文体により作られたものといえよう。
    ただ、この新釈遠野物語は別物で、面白い。遠野物語の原作をそのまま使っているのではなく、材料をうまく戦後まもなくの時代に落とし込んでいる。遠野物語を読んだことのある人なら、ああ、あの話か、と分かる。このころまでは、柳田の遠野物語と地続きだったのだろう。

  • 内容(「BOOK」データベースより)
    東京の或る交響楽団の首席トランペット奏者だったという犬伏太吉老人は、現在、岩手県は遠野山中の岩屋に住まっており、入学したばかりの大学を休学して、遠野近在の国立療養所でアルバイトをしている“ぼく”に、腹の皮がよじれるほど奇天烈な話を語ってきかせた…。“遠野”に限りない愛着を寄せる鬼才が、柳田国男の名著『遠野物語』の世界に挑戦する、現代の怪異譚9話。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    はっΣ(゚∀゚*)
    今気づいたけどそもそもの「遠野物語」知らないΣ(゚∀゚*)

    なーんて言う私でも、奇妙なお話楽しむことができました!
    子供の頃、よくこう言う民話系の不思議なお話が好きだったなぁ...と思い返し。
    「○○の昔話」みたいなシリーズ、地元のものも含めてけっこう読んだものです。
    小学生くらいの時かなぁ...
    あの頃から図書館に入り浸って、顔も名前も知られていたなぁ(´・ω・`)

    そんな淡い記憶もよみがえるような。
    不思議で奇妙で、ちょっと怖いお話たち。

    「遠野物語」は確か河童で有名ですよね。
    子供のころに読んでたら、もっと面白かったのかな?

    本家もぜひ読んでみたいです。
    もしかしたらこっちの方がユニークなのかも知れないけど。

    さらっとした感想でごめんなさい(人-ω-)

  • 遠野近在の国立療養所でアルバイトをしている“ぼく”は、その山中に住む犬伏老人に出会う。老人は“ぼく”に、遠野に伝わる奇天烈な話の数々を語って聞かせた。柳田國男の名著「遠野物語」を井上ひさし氏が新釈したもう一つの「遠野物語」。

    話し上手な犬伏老人のインチキ話の数々に、誇大癖のある“ぼく”は当初疑心暗鬼になりながらも暇つぶしと思って話を聞き入るが、しだいに“ぼく”は老人に次の話を乞い始める。老人が語る9つの話は、木々や動物といった遠野の美しい自然を背景に今も昔も変わらない人間の滑稽な姿を浮彫にする。印象的だったのは「雉子娘」「笛吹峠の話売り」、そして最後の「狐穴」。
    後悔先に立たずなオチはどれも秀逸で、読んでいる方は自分自身も話の登場人物のようにラストで途方に暮れるが、それがまた不思議と心地いい。「やられた」の一言。

  • どの話にも民話らしい仄暗さや余韻がある。
    狐や河童だけでなく、『雉も鳴かずば撃たれまい』『岩魚の怪』などの大胆な翻案も。

    解説にもあったが、『遠野物語』にはない入れ子構造がとられているのも面白い。この本の語り手の「ぼく」と物語の語り手の「犬伏老人」との関係性がタテ軸になることで、単なる短編集ではない連続ドラマとしても楽しめる。

  • 遠野物語を現代に甦らせた連作短編集。
    物悲しかったり、艶っぽかったり、遠野物語風味を楽しめた。
    最後はほほーっと唸ってしまいました。

  • 再読

    遠野物語をベースとした連作短編集。実際の民話としてありそうな(遠野物語が下敷きにあるから当たり前なのだが)自然と人の物語。人情味も加わり時に切なく、時に可笑しな話を騙る老人の正体は…。

    「鍋の中」
    雪山歩きの最中に見つけた人家に居た美しい女。一晩の宿を借りたいと頼むも、嫉妬深い夫を恐れて中々了承を得られない。帰ってきた夫に了承を取り付け泊まらせてもらうも、実は女は東京から連れ去られ、男と無理矢理一緒に暮らす身。どうか上手く逃げて家族と警察に知らせてくれと頼まれ決死の逃避行に走るが…。オチとしては何ともしょうもない話。しょうもないけれどほのぼのとした語り口は(大人の)民話らしいというか。

    「川上の家」
    幼少期に共に遊んだ不思議な少年は河童だった…?少年の母親の異様な姿、ハッキリとしない弟の死因。本当に河童だったのなら、楽しく過ごしていた日々と自分の命まで失う結果になった事を思うと切ない気分も…。

    「雉子娘」
    病に倒れた娘の為に庄屋の米を盗んだ父。米を盗んだ代償として、父親が謎の死を遂げた後に回復した娘の傍には一羽の雉が…。
    娘に助けられ懐いた雉は父親の生まれ変わりか、それとも後にある冷やし馬のように娘を慕い、言葉を聞いて父を殺した蝙蝠達への報復をしたという事なのか…。ハッキリしないのが前提とはいえ、オチがちょっと微妙かなと思ってしまう

    「冷やし馬」
    飼い主の娘を愛した馬と、それに応えた娘。美しい愛のようにも見えるけど、馬のアオは自分の恋路を阻む飼い主(父親)をわざと振り落とした疑惑もあるし最期のやり取りと心中も青江(娘)の完全な同意があったかは微妙だよな…とも思うと何だかな…と思ってしまうように。

    「狐つきおよね」
    美しい娘の元に夜な夜な通う白狐。一計を案じ狐を追い払うことに成功するも、妻となった娘は商売を助ける予言を漏らすようになるが、その裏には狐と情を通じているような雰囲気があり…。
    オチとしては母から娘へ、狐の血を引いていたから狐と通じていた、という事か?予言については娘自身の力か、後も白狐は生きていたのかハッキリしない点にモヤモヤ

    「笛吹峠の話売り」
    奇妙な予言を売る話売りの老人と、孝女であった妻の話。留守中に他所の男が寄り付かないよう、夫に似せた藁の塊と話して男避けをしていたオチだが…老人の予言を聞いていたのにちょっと短気すぎるような

    「水面の影」
    酷い山師の元で鉱山掘りをする中、偶然見つけた穴から脱出し逃げた先で出会った男は…。
    執念深い性格ならば過去に1人だけ逃げ切った人間の顔も覚えてそうだが。

    「鰻と赤飯」
    人間に化けた池の主の大鰻の話。人間に化けて川の生き物を助ける話は確かあったなあと思いつつ読む。僧侶に化けてから池の水を干してはならぬと説教しつつも、口止めに貰った赤飯をしっかり食べてる辺り所詮は畜生の身という事か?と思ったり。笠や袈裟なんかも池から出てくる展開だったり、ちょっと人間に化ける魚の話として念入りすぎる気も

    「狐穴」
    人を騙す狐の所業を見ていたつもりが、それ自体が狐に化かされていた…という話から、それまで不思議な話を語っていた老人の正体も明かされる。

    結局は全て作り話だったという事か、それ故に多少の矛盾も気にするなという事だろうか…。でも、真面目に面白い話を聞かせてくれる位なら天ぷら油一缶は安いかも

  • 岩手旅行に行くので遠野物語を読もうと思い立った。中学生のころ、言葉遣いが難しく挫折した遠野物語。まずはライトなものを、と探していたら見つけた本書。オシラサマや河童の話を作家が煮詰めるとこうなるのか!と思った以上に面白い。
    著者は実際に釜石療養所で働いていたようで、それだからか、本当に語られている昔話のようなリアルさがあった。

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著者プロフィール

(いのうえ・ひさし)
一九三四年山形県東置賜郡小松町(現・川西町)に生まれる。一九六四年、NHKの連続人形劇『ひょっこりひょうたん島』の台本を執筆(共作)。六九年、劇団テアトル・エコーに書き下ろした『日本人のへそ』で演劇界デビュー。翌七〇年、長編書き下ろし『ブンとフン』で小説家デビュー。以後、芝居と小説の両輪で数々の傑作を生み出した。小説に『手鎖心中』、『吉里吉里人』、主な戯曲に『藪原検校』、『化粧』、『頭痛肩こり樋口一葉』、『父と暮せば』、『ムサシ』、〈東京裁判三部作〉(『夢の裂け目』、『夢の泪』、『夢の痴』)など。二〇一〇年四月九日、七五歳で死去。

「2023年 『芝居の面白さ、教えます 日本編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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