新釈 遠野物語 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 363
レビュー : 57
  • Amazon.co.jp ・本 (283ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101168074

作品紹介・あらすじ

東京の或る交響楽団の首席トランペット奏者だったという犬伏太吉老人は、現在、岩手県は遠野山中の岩屋に住まっており、入学したばかりの大学を休学して、遠野近在の国立療養所でアルバイトをしている"ぼく"に、腹の皮がよじれるほど奇天烈な話を語ってきかせた…。"遠野"に限りない愛着を寄せる鬼才が、柳田国男の名著『遠野物語』の世界に挑戦する、現代の怪異譚9話。

感想・レビュー・書評

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  • 誇大癖のある"ぼく"と、語り部である
    いんちき臭い犬伏老人が「遠野物語」の序文に
    なぞらえつつ紹介され、つるりと始まる物語。

    山の緑の稜線に重なる白い夏雲。
    世界が反転するような不思議で美しい
    桜の花びらほどの大きな雪の舞う景色。

    美しい描写にうっとりしながら、
    老人の話す怪異に夢中になりページをめくると、
    それはいつしか艶っぽい話、悲しい恋の話、
    残酷な話、悲しく面妖な話へと様変わりしていく。

    本家遠野の話を小さな骨組みとして
    話は隆々と肉をつけ、種を知っているはずの
    手品が鮮やかに趣向が変わり、感嘆し、
    最後には井上氏の愉しい試みに口角が上がる。

    遠野とどこかしら地続きでありながらも、
    延長線上のオマージュに留まらず、
    再構築され生まれ変わる遠野。
    "ぼく"となった聞き手の私は
    犬伏老人の話を心の底から楽しみ魅了される。
    見事な筆致にまさしく、どんとはれ!!

  • 柳田國男の『遠野物語』は、河童やきつねや山人といった不思議な生き物の怪奇談や幻想的な民話が勢ぞろい。奥深い自然とともに生きてきた人々の、生き物や天空の営みに対する愛惜と連帯感、そして深い畏敬の念がこもっているようです。読みながら、ひや~っと背筋が冷たくなったり、小春日和のようなぬくもりを感じたり、どこか懐かしく、静謐で物悲しい。民話とはじつに不思議な魅力にあふれた読み物です。

    そのような柳田の「遠野物語」を現代風にアレンジしたのが本作。オリジナルの「遠野物語」を知らない方でも十分楽しめる作りになっています。オリジナルをご存知の方は、ああ~あのくだり! うふふ~と楽しめるからなお嬉しい!

    岩手県内陸部の遠野に近在する国立療養所でアルバイトすることになった休学中の「僕」。ある日、ふと山奥から響いてくるトランペットの音色を聴いた僕は、まるでセイレーンの美しい歌声に惹かれるように岩屋に近づいてみると……山人のような暮らしをしている元トランペット奏者の犬伏老人と出会います。流暢で面白い彼の語りは、「僕」のみならずこの本のページを繰る万人をも魅了していきます。

    第1話「鍋の中」、第2話「川上の家」、第3話「雉子娘」、第4話「冷や馬」、第5話「狐つきおよね」、第6話「笛吹峠の話売り」、第7話「水面の影」、第8話「うなぎと赤飯」、第9話「狐穴」

    1話から9話はそれぞれ独立したお話です。でもそれぞれが音楽のように繋がっていますので、初めての方はどうぞ順番どおり読まれてくださいね。次第に犬伏老人の人となりや面白さが明らかになってきます。わくわくしながら最後までくると、うひゃひゃ~と独り笑いにおちいってしまった私。してやられた!

    それぞれの話が面白くアレンジされています。それらを緩やかに連結させたみごとな手腕、なんといっても柳田の「遠野物語」の神髄を体現したような結末。井上ひさしという人からはなたれたユーモア、優しさ、郷愁……さすがですよね。私にとって彼は「難しいことを易しく、易しいことを深く、深いことを面白く」してくれる魔法使いのようなひと、敬愛する作家です♪

  • 内容(「BOOK」データベースより)
    東京の或る交響楽団の首席トランペット奏者だったという犬伏太吉老人は、現在、岩手県は遠野山中の岩屋に住まっており、入学したばかりの大学を休学して、遠野近在の国立療養所でアルバイトをしている“ぼく”に、腹の皮がよじれるほど奇天烈な話を語ってきかせた…。“遠野”に限りない愛着を寄せる鬼才が、柳田国男の名著『遠野物語』の世界に挑戦する、現代の怪異譚9話。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    はっΣ(゚∀゚*)
    今気づいたけどそもそもの「遠野物語」知らないΣ(゚∀゚*)

    なーんて言う私でも、奇妙なお話楽しむことができました!
    子供の頃、よくこう言う民話系の不思議なお話が好きだったなぁ...と思い返し。
    「○○の昔話」みたいなシリーズ、地元のものも含めてけっこう読んだものです。
    小学生くらいの時かなぁ...
    あの頃から図書館に入り浸って、顔も名前も知られていたなぁ(´・ω・`)

    そんな淡い記憶もよみがえるような。
    不思議で奇妙で、ちょっと怖いお話たち。

    「遠野物語」は確か河童で有名ですよね。
    子供のころに読んでたら、もっと面白かったのかな?

    本家もぜひ読んでみたいです。
    もしかしたらこっちの方がユニークなのかも知れないけど。

    さらっとした感想でごめんなさい(人-ω-)

  • 遠野近在の国立療養所でアルバイトをしている“ぼく”は、その山中に住む犬伏老人に出会う。老人は“ぼく”に、遠野に伝わる奇天烈な話の数々を語って聞かせた。柳田國男の名著「遠野物語」を井上ひさし氏が新釈したもう一つの「遠野物語」。

    話し上手な犬伏老人のインチキ話の数々に、誇大癖のある“ぼく”は当初疑心暗鬼になりながらも暇つぶしと思って話を聞き入るが、しだいに“ぼく”は老人に次の話を乞い始める。老人が語る9つの話は、木々や動物といった遠野の美しい自然を背景に今も昔も変わらない人間の滑稽な姿を浮彫にする。印象的だったのは「雉子娘」「笛吹峠の話売り」、そして最後の「狐穴」。
    後悔先に立たずなオチはどれも秀逸で、読んでいる方は自分自身も話の登場人物のようにラストで途方に暮れるが、それがまた不思議と心地いい。「やられた」の一言。

  • 掌編集。
    どこかいかがわしく、泥臭く、懐かしい。
    ウナギと赤飯がすき。

  • ひょっこりひょうたん島の作者による遠野物語

  • 「ぼく」は思ったことをすぐに出しすぎ。

  • タイトルに「遠野物語」が入っているからという先入観入りまくりで最初の話を読んでしまったので
    最後に「ええー;」という感じに(笑)
    でもオチまではどきどきしながら楽しく読めました。
    他の作品も断言しない、言い切らない良さと
    善と悪で容易に分けない良さがあり、
    ただただ切ない話もあり…
    特に妻の話の切ない事と言ったら…!
    と 思っていたのに
    最後の話を読んでまた「ええー;」という感じで終わるという(爆)
    とても面白い一冊でした。
    10年後くらいにもう1度読みたい一冊。

  • 1990年 読了

  • (*01)
    柳田は伝説成立の要件として具体的で固有名称で呼ばれる地物と関連付けられていることを指摘している。その点で本書に収められて数編の創作は伝説的でもある。
    新釈遠野物語と称しているものの、多くは釜石側に編まれた物語である。本書に現われる地名を地図に探れば、この新釈物語の世界がやや立体的に(*02)浮かび上がってくる。
    伝説の語りは怪異とされ得体の無いものを対象にしていると印象されてしまうが、本書においてはそうでもなく多くは動物譚(*03)として読める。
    語りの老人の姓は犬伏であり、老人はイヌないしキツネをトーテムとしてトランペットという鳴き声の隠喩とともに老人像が描かれる。「川上の家」はカッパ(これも古典的には動物である)、「雉子娘」はキジとコウモリ、「冷し馬」はウマ、「狐つきおよね」はキツネ、「鰻と赤飯」はウナギとコイと老人周辺の人物との交歓であった。動物との交歓のクライマックスは獣姦と殺傷である。冒頭の「鍋の中」の巨漢は柳田の文脈の面影が残る山人であり、人間よりは動物に近しい霊的な存在であった。

    (*02)
    創作か実在か定かでない地物も登場するが、これは最終話で主人公(*04)が指摘する老人の語りのクロニクルな編集における齟齬とともに、創作面と現実面との作為的なずらしや歪みとして読めるのかもしれない。時間と空間をもっともらしく現実に溶接する試みとして興味深い。

    (*03)
    もう一つの物語の筋に近代と資本がある。鉱山の現場、運搬の現場、畜産の現場、小作の現場を、老人は近代的な個として巡っている。この近代の解釈を新釈とするかどうかはともかく、伝説的な語りの中に近代がどのように現れるか、柳田の本編でもその端緒は現われていたように思う。

    (*04)
    主人公が老人の語りに対し、時に急かすような合いの手を入れる。そしてそれを老人が諌めるというおなじみパターンが数話繰り返される。合いの手は物語に読み手を参入させる方法である。主人公を通じて私たちは物語に挿入されているのである。

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