- Amazon.co.jp ・本 (624ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101168180
感想・レビュー・書評
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再読。と言っても、あらかた話は覚えてなかったので新鮮な気持ちで読めた。改めて、一流の作家の先進性、世の中を見る慧眼に驚かされた。
細部では今となっては、古臭く効果を減じている部分もあるが、物語が提起している話題は全く古びていない。逆に言えば世の中変わっているようで変わってないわけだが・・・
個人的には、余りにしつこい下ネタに辟易するところもあったり、現実離れした人物設定、饒舌すぎて読むのに苦労した点はあったが、概ね楽しめた。東京で育った私には農家の苦労も怨念も分からないが、元は両親の出は農家である。遺伝的には、多くの日本人同様百姓である。仕事で、東北に行くと、荒れ果てた休耕田を見て心が痛むこともある。井上氏の想像した「ユートピア」の実現は困難だろうが、生きるために一番大事なものが農業である事も間違いない。 -
滅茶苦茶、破茶滅茶大騒動も、遂にフィナーレ。
ダラダラ、無駄の多い長ったらしい物語だが、それが苦にならない。
無駄に長い文章は、苦手なのだが、スっと頭に入り込んできた。
不思議と物語にのめり込んでいた。
本当に不思議な物語。 -
上中下巻と、面白くて一気に読んだ。吉里吉里人を読みながら、日本の内部で吉里吉里国が独立するという設定がイスラム国の比喩のようにも取れたし、また『横浜駅SF』を思い出しもしたし、あらゆる吉里吉里に関する要素が百科事典的に記されている様はメルヴィルの『白鯨』のようでもある。それにしても、日本で『白鯨』のような大きな物語を持った古典に『吉里吉里人』が相当すると考える人はあまり多くないかもしれない。国の内部で国としての独立を立ち上げる視点は大江健三郎の『芽むしり仔撃ち』そのものだし、日本は日本国内での独立、地方の自立をカノンとして持っているというのは、英文学やフランス文学にはあまりない特徴のように感じる。
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一気に読んでしまった。いろいろな言い方があると思うけど、日本語(と吉里吉里語)でこの作品を読めることの幸せを噛みしめるべきだと思う。自分がどっぷり生きた昭和が懐かしくそれでいて現代に通じる批判や皮肉がぎゅっと詰まっている。そしてこうやって物事は終わってしまうのだということも知る。これが予定調和だとは決して思わない。
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中二みたいな下ネタてんこ盛りの語り口に、大人な農業論、政治論、医療論の食い合わせに頭がクラクラしました。ストーリー全部ばらしちゃう解説に気を付けましょう。
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井上ひさしの博識と問題の切り口、設定の仕方の巧みさにただただ脱帽だった。
本書を著したのが1985年と自分が生まれる前年にも拘わらずテーマとしている問題意識が全く古めかしく思えない。
期せずして安保関連法が物議を醸した正に同じタイミングで読んだことで井上ひさしの訴えようとしている課題の一端を強く共有することが出来たと思う。
個別には特効薬、特に虫歯(および歯医者)に関する論点が素敵だった。
虫歯の特効薬が発明される。
すると「全世界の歯科医師や歯科技工士が失業しますよ。残るのはごく一部の、美容師まがいの歯科医師。つまり細々と派の手入れをさせてもらうしかなくなります。歯科用の医療機器商も潰れましょう。世界的な社会問題になりますよ。」(pg.55)と厚生省の役人が嘆く。
特定分野の技術開発がもたらす社会的な影響に考えを巡らせてくれるきっかけを与えてくれる。ラングドンウィナーの「技術の政治性」を日本的視点から論じているようだ。この視点は「組織の自己保存」にも繋がるのではないか。歩留まりの改善を主業務にしている技術者が、仮に100%の歩留まりを達成する技術を開発したら自分の職を潰すことになるその技術を果たして公にするのだろうか。また、そのような技術を開発するインセンティブは発生するのだろうか。
率直に面白かったのは以下の記述。
「わたしはね、七十や八十の老人がマラソンなんかして体を鍛えているのを見るとぞっとするんだ。薄みっともない、恥を知りなさいってんだ。いったい、いくつまで生きてりゃ気が済むのか。自分と同じ世代の人間で、戦争や病気で早死にした人たちのこともちっとは考えてみるがいい。また自分より若い人たちの邪魔をしていないだろうか、たえずそう反省して、ひそかに余生を送ってはどうなのだ。」(pg.68)
こんなこと、空気を読むことが絶対の今の世の中では思っていたとしても口になんてできやしない。それを小説の中で痛快に言い放ってしまうあけすけなこの小説は読んでいてとても楽しかった。
※ちなみに★三つ評価は少々長すぎて読みつかれてしまったから…。 -
ラストがいやにあっけなかったのだが、物事というのはそういうものなのだろう。
最後の最後に明かされる吉里吉里人と吉里吉里国の真実を知ると、もうテーマが深すぎて……。
終盤まではドタバタ小説だと思っていたら、何とも悲哀のこもった、そしてしたたかでギラギラした小説でありました。
ひとことで言えば面白いです。通しで読んでよかった。