父と暮せば (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 910
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  • Amazon.co.jp ・本 (128ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101168289

作品紹介・あらすじ

「うちはしあわせになってはいけんのじゃ」愛する者たちを原爆で失った美津江は、一人だけ生き残った負い目から、恋のときめきからも身を引こうとする。そんな娘を思いやるあまり「恋の応援団長」をかってでて励ます父・竹造は、実はもはやこの世の人ではない-。「わしの分まで生きてちょんだいよォー」父の願いが、ついに底なしの絶望から娘をよみがえらせる、魂の再生の物語。

感想・レビュー・書評

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  • R2.1.12 読了。

     タイトルが気になって衝動買いした本。戦後間もない頃の広島が舞台で、1人の女性が「自分は幸せになってはいけない」という思いと、亡き父親の姿で現れた「恋して結婚して幸せになりたい」という思いの狭間で揺れ動く。
     原爆投下の日に父親は爆弾で死んでしまったという状況で、生き残った女性は運命に翻弄される。
    舞台上の設定で亡き父親と娘が会話する形式で進んでいく。
    戦争がなかったら、この人たちも悩まずに日常生活を送れていたのではないかと思うと、悲しくなってしまう。
    広島弁の語りが当時の状況を切実に伝えていると思う。
    もしもこの先、同名の舞台があればぜひ見に行きたい。

  • この作品も収録されている、『戦争と文学シリーズ』を知りました。文学を通して、そこに生きた人達の心情までありありと伝わってくる。
    ただただ真実を受け止めて、知ろうとする事を続けていく。心に焼き付けたい。世界の向かう指針として。

  • 買いだめしておいた何冊もの本の中から、今日偶然に手に取った。
    8月は鎮魂の月である。
    祖母は被爆者。自分が幼い時に話は聞いたことがある。原爆資料館にも連れて行ってもらった。
    それから30年以上たち、日本は戦争していないが、世界中で悲惨な戦いは繰り返されている。
    日本は核兵器禁止条約に批准しないという。
    日本の国としての限界がそこにある。
    ただ政治家も一般国民も皆戦争はしてはいけないものだ、と共通に願っていてほしい。
    父と暮らせばを読み、それも8月に読み、戦争はいかに人を傷つけるか、改めて考えさせられた。

  • 有名な作品なので、タイトルと「広島の原爆」の話だというのは知っていたが、
    どうしても「原爆」というテーマが重すぎて今まで手が出せなかった一冊。
    でも、実際に読んでみると「原爆で生き残った娘と恋の応援団長の父(亡き人)」の話だった。後味も良く、「これは、読まず嫌いだった」と反省。
    現代でも、悲しいけれど「死んだ者」と「生き残った者」は存在する。生き残った方は娘のように幸せから遠ざかろうとするけれど、死んだ者が望むのは、残していってしまった愛する人の幸せ。舞台版も観てみたいと思った。

  • 母に薦められて読んだ本。
    全く何の知識もなく読み始めて、まえがきで原爆のことなのだとわかり、覚悟して読む。
    読みながら、思いがけず3.11の津波のことを考えた。津波の後、この作品の父と娘の別れの回想と同じような体験談を読み、胸がえぐられた。全編通して、とても辛いのだけど、父の思いが前を向いていて、救いがある。
    原爆の資料集めやその際の言論が占領軍によってコントロールされていたのは知っていたけど、民間人がひしひしと感じ、そして話せない沈黙の中でどれだけのものが失われ続けただろうと考えると、やるせないし、また、原爆被害にあったものの子孫として、自分のこれだけの距離感はこの「話せない」「話さない」ことに根をもつものであり、そうであるならば、辛くても積極的にもっと読み、次につないでいかなければならないと感じた。
    「太陽二つをすぐそこに1、2秒」という原爆の描写は、子どもにもわかる描写でシンプルに、だからこそ恐ろしい。この小さな劇は私の中でずっと生き続ける。
    薦めてくれた母に感謝。

  • 井上ひさしの傑作戯曲。井上はこの作品を描くために広島に通い詰め、被爆者の手記を筆記したという。原爆に翻弄された父と娘のおかしくも哀しい物語を、父の幽霊と暮らすという舞台ならではの仕掛けで描く。

  • 人よりも幸せになりたい、楽をしたいと考えるのが素直な人間の気持ちだろう。苦悩のうちに亡くなった身内や親友を思い、自分だけが幸せになっていいのだろうかと悩む主人公の葛藤が高潔でいて切ない。何不自由ない時代を生きる我々としては、先人の気持ちを少しでも慮って一日一日を大切に過ごしたい。

  • 終戦から3年経った広島。被爆した娘と原爆で亡くなった父のやりとりで進む、舞台台本。
    まず、前口上で原爆に対する作者の思いが、短いが力強く書いてあり印象的だった。
    原爆で一人生き延びた自分は幸せになってはいけないと思う主人公が恋をする。心に蓋をし、相手を遠ざけようとする娘を「応援団長」として現れる亡くなった父こと“おとったん”。
    原爆をテーマとしているが、茶目っ気たっぷりの“おとったん”の励ましがなんとも温かい気持ちにさせる。
    セリフはオール広島弁。馴染みのない方は読みずらいかも…?

  • 台本であり、読みやすい。
    幸せになることに対しての娘の葛藤、父の心配、そして、幽霊として娘のそばにおり、娘がそれを受け入れているというユニークな設定。あたたかい。

  • 「ちゃんぽんげ」の場面が好きで好きで…
    これの意味を知りたい人は読むべし。

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著者プロフィール

(いのうえ・ひさし)
一九三四年山形県東置賜郡小松町(現・川西町)に生まれる。一九六四年、NHKの連続人形劇『ひょっこりひょうたん島』の台本を執筆(共作)。六九年、劇団テアトル・エコーに書き下ろした『日本人のへそ』で演劇界デビュー。翌七〇年、長編書き下ろし『ブンとフン』で小説家デビュー。以後、芝居と小説の両輪で数々の傑作を生み出した。小説に『手鎖心中』、『吉里吉里人』、主な戯曲に『藪原検校』、『化粧』、『頭痛肩こり樋口一葉』、『父と暮せば』、『ムサシ』、〈東京裁判三部作〉(『夢の裂け目』、『夢の泪』、『夢の痴』)など。二〇一〇年四月九日、七五歳で死去。

「2023年 『芝居の面白さ、教えます 日本編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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