最後の喫煙者 自選ドタバタ傑作集1 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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レビュー : 152
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101171432

作品紹介・あらすじ

ドタバタとは手足がケイレンし、血液が逆流し、脳が耳からこぼれるほど笑ってしまう芸術表現のことである。健康ファシズムが暴走し、喫煙者が国家的弾圧を受けるようになっても、おれは喫い続ける。地上最後のスモーカーとなった小説家の闘い「最後の喫煙者」。究極のエロ・グロ・ナンセンスが炸裂するスプラッター・コメディ「問題外科」。ツツイ中毒必至の自選爆笑傑作集第一弾。

感想・レビュー・書評

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  • シュールかつスラップスティックな短篇を集めたドタバタ短篇集。荒唐無稽なネタに合わせて世界を自在に捻じ曲げてしまう悪夢の如き短篇のオンパレードである。「急流」は時の流れが加速してもそれに辻褄を合わせようとする愚直さを笑った短篇で、特に細部のギャグが面白い。工場努めの人間が加速する時間とベルトコンベアに合わせて加速した結果、日常生活で必要以上に力を込めてしまい、手の骨を折ったりドアノブをねじり切ったりする様は、チャップリンの喜劇を思い出す。時報を延々と喋るうわ言のようなラジオなど、五感に伝わるリアリティのある描写もさることながら、突拍子のない設定を大真面目に考察し、それに応じて世界の細部まで作り変えてしまう手腕こそ筒井康隆の真骨頂といえよう。「問題外科」は倫理観の欠如した医者が患者を弄ぶエロ・グロなコメディで、直腸をしごくシーンはえげつないながらも、子どもが虫を残酷にいたぶるブラックな笑いを感じる。表題作の「最後の喫煙者」は名作と言っても過言ではない出来で、国会議事堂の上で煙草を吸うという絵になる冒頭、そこからの回想と構成に一切の無駄がない。禁煙ファシズムが極限にまで達した世界というのは今の社会を端的に表しており、その先見性には脱帽するばかり。特に人権擁護委員会とのやり取りは秀逸で、この会話に込められた人権派の欺瞞や胡散臭さなどは音読したいレベルである。また弾圧から一転して最後の喫煙者として保護されるという流れもブラックユーモアに溢れている。「老境のターザン」は老いたターザンが狂い咲いて悪の道の進む話だが、軽快なテンポの裏には、老いた人間の存在価値や報いのない正義が悪へと転じるという重いテーマが隠されている。「こぶ天才」は虫を寄生させることでこぶ天才を作り出す物語だが、協調性のないこぶ天才が増えすぎた結果、単なるIQではどうにもならない人間社会の壁にぶち当たり、社会にひずみを生み出して権力からそっぽを向かれるというのがたまらなく斬新で面白い。こぶ天才が増えすぎたことによってこぶ天才の中から脱落者が出たり、かえってこぶのない人間がもてはやされたりという逆転現象を描いている。また周りと衝突するぐらいなら天才でなくてもいいというのは一種の真理であろう。「ヤマザキ」は一番の問題作である。最初は時代劇なのだが、途中でいきなり電話が出たかとおもいきや、新幹線やホテルなど急に時代が狂いだしていく。圧巻なのはオチであり、「説明は何もないのじゃ」という言葉を残して読者の理解すら置き去りにしてしまうのだ。執拗に説明を欲する心理を逆手に取った短篇ともいえるし、またオチのないことがオチになっているという極めて稀有な短篇である。この言葉を言わせるためだけにこの話があったともいえる、一度読んだら忘れられない迷作である。「喪失の日」は大仰なタイトルに見せかけて中身はエリート社員の童貞喪失の話であり、童貞の妄想が先行する様は昔も今も変わらない。「平行世界」は地平がねじれて一続きになった平行世界の話で、自分の弱さを見たくないあまりに駄目な自分を見るために上から降りてきた自分というのが色々と興味深い。「万延元年のラグビー」はタイトルこそ大江健三郎のパロディだが、桜田門外の変の後日談を描いた話で、井伊直弼の首をめぐって忍者がラグビーをやったりイギリスからの助っ人外国人を雇ったりという奇想天外な物語である。ネタに走った一本かと思いきや、万延元年とラグビーを組み合わせた描写は時代が符合するせいか内容に妙に真実味があり、前述の「ヤマザキ」と違い文体も歴史小説のそれである。雪を踏むぽっぽっという音や、切り捨てる、ずべらぼ、という擬音はセンスの塊でしかない。総じてどの短篇も面白く、筒井康隆の短篇を勧めるならまずはこの一冊であろう。

  • 「最後の喫煙者」読みたさに購入。購入後「夜のコント・冬のコント」既収録と分かった。悔しい。他短編は何度も既読だが、勢いで読んでしまった。「ヤマザキ」がやっぱり面白い。

  • ほんと久々の筒井ワールド。学生のとき以来か。
    相変わらずのシュールなストーリー。嫌いじゃないんだけど…。

  •  ドタバタパニック短編集。狂っているし不条理だし何もかも終わっているのに、読む手を止められないのが筒井さんの作品の中毒性。どのお話も筒井さんの果てしない想像力から生まれたとんでもないフィクションであるのに、妙なリアリティーを感じ、現実とのリンクに気付かされることがあるのも、また病み付きになる原因だと思う。なんせ面白かったけれど、これからもこれを笑っていられる世の中であってほしいなぁ。

  • 又吉直樹さんがオススメされてたので読んでみました。

    今まで読んだ本では又吉さん以外では初めて、読みながら声に出して笑ってしまった本(笑)

    『時をかける少女』の作者だけあって、ハナッから時空がぶっ飛んでます。ちょうど、時間過ぎるのが早いなーと思ってた時期に読んだので、『急流』に比べたらまだ、
    まったりしてるんだなと実感させられた。

    注目すべき『最後の喫煙者』は喫煙者をもっと
    温かい眼差しで見守ろうという気にさせてくれました。

    『喪失の日』はいろんな意味で喪失してて、
    私的に副題を付けるなら【ー愛すべき馬鹿ー】

  • 2014.7記。

    筒井康隆氏の短編、「最後の喫煙者」(オリジナルは「夜のコント・冬のコント」所収)。禁煙が絶対善の世の中で、世界最後の喫煙者となった主人公が国会議事堂に立てこもって戦うという相変わらずしょうもない筋書の、しかし最高に笑えてコワイ王道ドタバタ。

    主人公は、雑誌に喫煙擁護の一文を寄稿したことで、世の中全体を敵に回すことになる(殺到する批判が「手紙」や「電話」なのは、この小説の発表された20数年前にはインターネットもSNSも(ほぼ)なかったから、でしょう、もちろん)。

    読んでいて、「・・・大義名分がある時ほど人間の残虐行為がエスカレートする時はない」(本文より)ことの怖さが身に染みる。悪い奴(だと感じた相手)のことをワンクリックで罵倒できる現代(不届き者のバックレを許さないという意味では重要なことだ)においては、自分が加害者になる危険性も高いことを胸に刻んでおく必要を感じる。

    ともあれ、真に心配なのは筒井先生の「確信犯的至芸」とも言うべき文章が、「喫煙の害を過小評価している」といった調子で本当に批判され、読めなくなってしまうことだ・・・。

  • とにかく、この方はアイデアの宝庫ですね。
    読者を惹きつける力が凄い。
    通勤中に読んでいましたが、途中でやめられなくなるので、短編を一つ読み終わって、次の短編が読み終わりそうになかったら、そこでやめてました。朝からズドーンとなる話もありましたが(笑)、目が覚めて良かったかも?
    個人的には、表題の「最後の喫煙者」が好きです。私はタバコは嫌いですが、主人公が気の毒になっていきました…


  • 最後の喫煙者
    喪失の日
    万延元年のラグビー

  •  表題作をオーディオブックで聴いたり、ドラマで観たことがあったので、おもしろそうという期待の元に購入しました。

     この本は9つの短編からなる本で、そのうち「急流」、「問題外科」、「最後の喫煙者」、「平行世界」が朗読作品となっています(自分の知る限りでは)。
     少し話がそれますが、自分はそのうち「問題外科」以外の3つを先にオーディオブックや動画サイトで聴きました。どの朗読も大変良いもので、不思議と何回聴きかえしても飽きが来ません。自分も朗読のまねごとをやろうとするといかに難しいことなのかを実感し、作品世界を鮮やかに表現する技量の高さに驚かされました。「問題外科」はまだ朗読を聴いたことがないので、これをどのように表現するのだろうという関心が非常にあります。
     本が手に取りづらい方は、自分と同じように、興味があれば朗読作品から入るというのもいいかもしれません。

     この本の中で特に印象に残った作品は、朗読作品を除くと「ヤマザキ」と「万延元年のラグビー」でした。

     「ヤマザキ」について。
     本能寺の変で織田信長が亡くなり、その報せが羽柴秀吉の元へ届き、俗に言う「中国大返し」がどのように始まり、明智光秀との「山崎の戦い」へどう繋がったのかというもの。
     これだけ書くと誰もが真面目な時代小説かと思います。実際、途中までは全くもってその様な感じなので、何か読む作品を間違えたかな、とさえ思いました。
     ところが、途中から様子がおかしくなります。電話が出てきます。駅が出てきます。新幹線が出てきます。突然過ぎて読みながら「ええっ!?」と声を出してしまいました。そこからは前半の雰囲気と違い、笑いながら最後まで読みました。説明も何もなく物語はそのまま終わるのですが、後半からの怒涛の展開の馬鹿馬鹿しさのせいか、別にいいかと思えてしまいます。何か完全に「やられた」と思わされた作品でした。

     「万延元年のラグビー」について。
     桜田門で井伊直弼が浪士に遅われ、その首が奪われる。家臣は首がなければ面目が立たず、井伊直弼が亡くなったということも公表できない。そこでその部下に窃盗団を結成させ、首があると思われる場所から奪取させようとするのだが……。
     これも真面目な時代劇かと思われる前半と窃盗団を結成し、いざ盗み出そうとする後半のギャップにやられた作品です。
     窃盗団は何故かラグビーを用いて首を盗み出そうと決行の日までの間鍛錬を積みますが、上手くいかず、結局イギリス人を雇って窃盗団を結成します。いざ盗み出そうとすると相手もなかなかのラグビーの使い手で、上手くいかず首はあられもないことになっていきます。
     正直、ラグビーのことがわからないので用語が出てきても何のことかわからないのですが、それでも笑えてくる作品です。
     最後の「蛇足」と書かれた一連の文章は、映画「マグノリア」の冒頭部分を思い出させてくれました。

  • 煙草を吸える年齢になってるけど肩身の狭さに慰めてもらおうと図書館で借りる。
    表題以外にも老境のターザンや問題外科など、短編集ではあるが一貫して不条理で残酷で狂気的な作品群だ。
    ブラックユーモアとして見られるものだろうけど私はそこが面白いとは思わなかった。そういったトリップじみた物語の中にちょくちょく顔を覗かす非常に人間的な反応の方がよほど生々しく印象だ。
    ラグビーやヤマザキ?あたりの時代劇"風"な作品においても設定をぶち壊す謎さに困惑はしても、登場人物たちはみな愚直にもがき舞台を騒がせている。
    それにしても表題のような時代が到来している現代人かるすると、その先見性の方がよほど謎だ。

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著者プロフィール

筒井 康隆(つつい やすたか)
1934年大阪市生まれ。日本を代表するSF作家の一人と目され、小松左京、星新一と並び「SF御三家」と称されることもある。
1981年『虚人たち』で泉鏡花文学賞、1987年『夢の木坂分岐点』で谷崎潤一郎賞、1989年「ヨッパ谷への降下」で川端康成文学賞、1992年『朝のガスパール』で日本SF大賞をそれぞれ受賞。1993年に断筆宣言を行ったことは大きな話題になった。1996年断筆解除後には、2000年『わたしのグランパ』で読売文学賞、2010年に第58回菊池寛賞、2017年毎日芸術賞をそれぞれ受賞。2002年には紫綬褒章も受章している。
代表作のひとつ『時をかける少女』は度々映画化、アニメ化され、多くの読者に愛される。ほか『日本以外全部沈没』、『文学部唯野教授』、『旅のラゴス』、『残像に口紅を』などは機会あるごとに話題となり、読み返されてきた。

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