- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101171487
作品紹介・あらすじ
見知らぬ夜の街で、若い裸の美女に導かれて奇妙な洞窟の温泉を滑り落ちる「エロチック街道」。九度死んで生きる虫の、いや増す死の恐怖を描いた「九死虫」。海のなかに建つ巨大な家で、水浸しの縁側を少年が漂流する「家」。乳白色に厚く張りめぐらされたヨッパグモの巣を降下する幻想的な川端康成文学賞受賞作「ヨッパ谷への降下」ほか、夢幻の異空間へ読者を誘う魔術的傑作12編。
感想・レビュー・書評
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これ何年積読してたんだ…。学生のとき買ってほっといてた。 最近読みだしたらなんか猛烈に面白くて、たちまち読了。 これ…、すごい傑作揃いだ…! 文庫解説が河合隼夫さんていうのが最初意外だったけど、読了してみれば絶妙の組み合わせ。解説依頼した人グッジョブ。 表題作の、主人公とヒロインとの会話がすごすぎる。
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まるで夢を見ているような不思議な感覚を味わえるファンタジー短篇集。
自選というだけあって面白い作品ばかりだった。 -
タイトルにはファンタジー傑作集とあるが、解説にもあるように現実感の強い短編集。
唐突な設定や結末がほとんどだけど、なぜか納得しそうになる話ばかりで面白かった -
ツボな短編集だった。今の所ベスト短編集かも。好きな話が多い。「薬菜飯店」からして想像の斜め上、スラップスティックな突き抜け方していて無茶苦茶面白いし、夢をテーマに様々な切り口で小話を連作した「法子と霊界」も最高。エロチックながらも体験してみたくなる「エロチック街道」も秀逸だし、いちいちエロに持っていくやたら詳しい娘に笑える「箪笥」、若干トラウマになりそうで幻想的な「タマゴアゲハのいる里」は忘れられない。死を体験できるからこそ最も恐れると語る「九死虫」も刺激的。そして最高に素晴らしかった「秒読み」ジュブナイルの甘酸っぱさ、疾走感が強烈で老境目線のノスタルジーも素晴らしい。一人称なればこその年齢の変化が絶妙すぎる。ラストも秀逸。キャラの内面描写から知覚表現からSF要素、オチとその流れまで文句なしの傑作。「あのふたり様子が変」「東京幻視」はオチにゾクッとした。意図も後味も違うけど、時代的に思うところがあるんだろうな。 東京へ行きたすぎて高熱のさなか夢に見るくだりの幻視描写が素晴らしい。見知らぬ世界を見知った物で補完しながらイメージするくだりに共感。表現力凄い。
「家」ファンタジック且つノスタルジックな異世界をイメージして楽しい。少年の好奇心と熱病による幻視。筒井康隆の真骨頂と言いたくなる筆力が冴え渡りまくってる。こういうオチもいい。そして表題作「ヨッパ谷への降下」最高じゃないか!!ヨッパグモに噛まれている最中の文章が素晴らしい。そこに行き着く展開、オチも良い。真っ白で小さなヨッパグモと絹のような巣と魚がたくさんいる川と、これもイメージして楽しい、澄んだ気持ちよさを味わえる傑作だった。 -
荒木飛呂彦先生も読んでると思うと興奮する。
解説も秀逸で読んでてワクワクした。
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「(前略)黒白を明確にするところには、ユーモアは生まれない。どちらかに決めずに待つ余裕のなかにユーモアが生まれてくる。」
筒井の現実ともファンタジーとも取れる珠玉の短編集を河合隼雄の解説で締める至高の一冊。 -
①文体★★★☆☆
②読後余韻★★★★★ -
筒井康隆のファンタジー短篇集。そのどれもが奇想に満ちており、短篇の雰囲気やテーマに合わせて文体を変えているのが凄い。ジョジョ第四部のトニオ・トラサルディーのスタンドの元ネタにもなった「薬菜飯店」は危害を与えないグロテスクな食事描写が面白く、反面、出てくる料理は店主の口上とあいまってどれもリアリティに溢れており、ファンタジーとリアリティのさじ加減が絶妙である。一風変わった食レポ風味の短篇であり、非常に印象深い。「エロチック街道」は淫靡なタイトルながら幻想的な短篇であり、オチがないのがオチというまことに奇妙な短篇である。裸同然の女と温泉宿の滝を滑っていくという風景描写がどこか夢心地でありながらも、このような場所が存在していそうな現実感がある。まるで深夜番組の旅レポのようだ。「北極王」は今までの詰めに詰めた文体から一転して、子どもの作文風味の読みやすい開かれた文体となっている。興味深いのは、小学生的な無駄で遠回りな細部描写と、小学生らしい知ったかぶりな嘘という合わせ技が小説内に混在しており、どこが本当でどこが嘘かを読み解く楽しみがある。小学生が法螺話を真実だと力説しているさまが目に浮かぶようで微笑ましい反面、時折訂正される北極王の正体や末尾の一文などから想像する小学生男子の現状や作文に向かう心意気はどこか切ない。「九死虫」は短篇としての世界観、骨組み、オチの全てがしっかりしている良質の短篇である。九回コンティニューすることのできる奇妙な虫の自分語りは「死」という重いテーマに対して警句的でありながらも、死に近づけば近づくほど悟りを開くのではなく、むしろ死に対する恐怖心が増すという結論が斬新である。「あの二人様子が変」はラストで戦時中というその世界観の一端が明らかになるが、それに反して妨害にあいセックスを何度も中断させられるカップルという話の落差とくだらなさが素晴らしい。「秒読み」はオチの一文の切れ味がありつつ、核戦争の秒読み開始という緊迫感のある出だしからタイムリープものになるという跳躍力には惚れ惚れする。また少年となった大佐の決断それそのものが秒読みの開始だというのはアイロニカルで、どちらとも解釈できる。オチを期待すると肩透かしを食らうかもだが、どの短篇も現実と幻想の配分が素晴らしく、一度読むといつまでも残像のように残り続ける悪夢のような短篇である。