愛のひだりがわ (新潮文庫)

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感想 : 72
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  • Amazon.co.jp ・本 (339ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101171494

感想・レビュー・書評

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  • ◯児童書としても進められる内容。構成としてはかなり王道のストーリー。
    ◯文章表現は一時代前のように感じるが、情景がスッと頭に描ける平易さや、一人称の語りによる演出とはいえ巧み。
    ◯しかし何故だろう、歳をとったせいか、こういった本で涙腺を刺激されるようになった。

  • 久しぶりの筒井康隆!
    主人公愛ちゃんは父親を探しにひとり旅に出て、息子の嫁に居場所を追われているご老人・詩の才能豊かな主婦・ずっと愛を見守ってくれるサトルや犬のダンとデン・両親を殺した暴走族のリーダーになった歌子・出版社の人々etc.、バラエティ豊かで心根の温かい人々に守られながら影響を受け月日を重ねていく。
    ジュブナイル系と思って侮るなかれ、作者からの説明や心理描写の押し付けが(多分意図的に)少なく、さらさらのスープのごとく進む展開の中で、読み手の想像欲求は否が応にも駆り立てられる。そうしている内にすっかり小説に丸め込まれた様に愛ちゃんやその他愛ちゃんをサポートする登場人物に感情移入していって、自分なりの解釈が楽しくなってくる。
    最後、愛ちゃんのストーリーを通しての成長が喜ばしくもある反面切なくて、胸がつまるのです。

  • 近い未来この小説と同じ社会になるのかなと思い少し怖くなりました。
    環境汚染で汚れた空、警察官の機能が低下し治安が悪くなった町、人殺しや銃の発砲は当たり前。
    そんな無法地帯の中でも父を探し懸命に生きようとする愛。

    「今の私が作ったのが今の社会であるなら、今の私以上の私になって今の社会以上の、もっとよい社会に変えなければ」この愛の気持が印象的でした。

    今の現状に失望せず知識を深めたら自分が成長するだけでなく視野が広がり社会が変わるきっかけを作ることができるかもしれません。
    一番良くないのは今の現状に不平不満言い時代の流れに流されることかもしれませんね。

  • ‪2006年文庫化の長編小説。左腕が不自由な小学6年生の少女が行方不明の父を探す旅に出るジュブナイル小説。細かな描写や状況説明を極力削ぎ落とし、淡々とストーリーは進むが破天荒かつ非常識な要素が散りばめられ、独特な刺激を放っている。‬

  • 内容(「BOOK」データベースより)

    幼いとき犬にかまれ、左腕が不自由な小学六年生の少女・月岡愛。母を亡くして居場所を失った彼女は、仲良しの大型犬デンを連れて行方不明の父を探す旅に出た。暴力が支配する無法の世界で次々と事件に巻き込まれながら、不思議なご隠居さんや出会った仲間に助けられて危機を乗り越えていく愛。近未来の日本を舞台に、勇気と希望を失わずに生きる少女の成長を描く傑作ジュヴナイル。



    最初に読書の楽しみを教えてくれた最大の恩人は筒井康隆氏です。高校の時は手当たり次第に読みました。短編も長編もエッセイもどれもこれも大好きでした。当時の世の中への影響力も物凄いものが有りました。ブラックな攻めた話が多かったのでとっても刺激的でした。
    翻って久々に作品を読みました。文体や単語の選び方に古さを感じるのですが概ね話としては悪くなかったという所でしょうか。ただ昔のギラリっと光る才気が感じられないのはさみしい限りです。これも一時代を築いた人への過大な期待なのかもしれません。

  • まずジュヴナイルってなんぞや、YAみたいなものなのね。それなら許してもいいかしら、ずいぶんと大衆的な読み物だなぁという感じはする、でも筒井康隆の顔、こわいので、このひとすごい経験してきたんだろうな、とは思ったり。
    人がこんなにパタパタとRPGみたいに死んでゆく小説はあまり読まないので新鮮だった。
    父の最後の絶望的な様子ばかり現実的で、そこが好き。

  • 主人公の小学生の少女の一人称で語られるため、難しい漢字を使わず、使ってもルビをふって児童小説のような体裁なのだが、主人公の置かれた世界はハードでバイオレンスな、児童小説にはまったく似つかわしくない世界だ。
    主人公の少女は左手に障害があり、家庭環境に問題を抱えているが健気に生きている。そんな少女が母の死をきっかけに家を出て、いなくなった父を探しに旅をするロードストーリーなのだが、少女の左側には常に誰かが(それはまず犬からだった)寄り添って物語は淡々と進んでいくのである。
    各章のタイトルに登場人物の名前が冠してあり、章毎にその人物が少女の左側を受け持つことになる(一部違うが)。その人物たちの物語の悲惨さはしかし後半で昇華される。暴力や殺人が生々しく続いていき、そうやって物語は児童小説とは似ても似つかない様相となるのだ。
    結論から言うと、想像とはまったく違っていたが楽しめた。大人向けの児童文学という感じで好意的に受け止められた。そこは非常に筒井康隆らしいと思った。

  • 事故により左腕が動かなくなってしまった愛。
    自分を取り囲む環境に嫌気がさし、いなくなった父を探す旅に出る。
    私利私欲が最優先の暴力が蔓延る世界で
    それでもそんな世界でも思いやりの心は絶えることはないと
    動かない愛のひだりがわで見守る人達が教えてくれた。

  • ゆっくりと進む映画を観ているように、おだやかな心で一気に読めた。
    簡単な設定と分かりやすいストーリー、近未来の話ということで、想像に足るぐらいの荒んだ町。銃や殺人といったような話も当たり前にでてくるが、違和感なく話は進み、人の優しさや美しさだけが余韻のように残る。読後感が良い。

  • 愛の旅が楽しかった。子供の旅だから無謀で危険だったけど、いつもそばに誰かいて、助けてくれる。
    子供から卒業したら、残酷だけど大人にならなきゃいけない。

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著者プロフィール

筒井康隆……作家、俳優。1934(昭和9)年、大阪市生まれ。同志社大学卒。1960年、弟3人とSF同人誌〈NULL〉を創刊。この雑誌が江戸川乱歩に認められ「お助け」が〈宝石〉に転載される。1965年、処女作品集『東海道戦争』を刊行。1981年、『虚人たち』で泉鏡花文学賞、1987年、『夢の木坂分岐点』で谷崎潤一郎賞、1989(平成元)年、「ヨッパ谷への降下」で川端康成文学賞、1992年、『朝のガスパール』で日本SF大賞をそれぞれ受賞。1997年、パゾリーニ賞受賞。他に『家族八景』『邪眼鳥』『敵』『銀齢の果て』『ダンシング・ヴァニティ』など著書多数。1996年12月、3年3カ月に及んだ断筆を解除。2000年、『わたしのグランパ』で読売文学賞を受賞。

「2024年 『三丁目が戦争です』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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