聖痕 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.88
  • (8)
  • (7)
  • (9)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 169
レビュー : 13
  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101171531

作品紹介・あらすじ

五歳の葉月貴夫はその美貌ゆえ暴漢に襲われ、性器を切断された。性欲に支配される芸術に興味を持てなくなった彼は、若いころから美食を追い求めることになる。やがて自分が理想とするレストランを作るが、美女のスタッフが集まった店は「背徳の館」と化していく……。巨匠・筒井康隆が古今の日本語の贅を尽して現代を描き未来を予言する、文明批評小説にして数奇極まる「聖人伝」。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  •  中学生の頃、家族八景で初めて筒井作品に触れて以降、私は著者のことを「つくづく人間が嫌いな人だな」と思っています。
     浅はかな女・そんな女に欲情する男・それらを馬鹿にする自分。作品を読んでいると、精緻な文章からとにかく人間という生き物全てを嘲り、嫌っているのが伝わってくるようでした。

     なので、今回の聖痕についても、あらすじを見たときには一体どれほどひどい話になるのかと身構えました。
     実際、美しい主人公は冒頭から倒錯的な性欲の餌食となり、それ以降も彼の周りには欲に駆られた人間が次々と現れ、ついには決定的な悲劇が起きます。
     これをきっかけに、登場人物たちエゴが噴出し、物語は地獄絵図になるに違いない。
     今までの経験から立てた私の予測は、読み進めていく中で綺麗に裏切られました。主人公があまりに高潔であるがゆえに。

     幼少期に望まずして去勢された主人公は、欲望に振り回される人々を透徹した目線で見つめ、人間の善性も悪性も平等に受け止めます。どちらか一方に引きずられ、心動かされるようなことはありません。
     そういうわけで、人の心の醜さを偏執的に描写してきた著者らしからぬ、フラットな印象の物語となっていました。

     意外な展開からクライマックスを経て、美しいラストシーンに着地したとき、著者の人間に対する複雑な思い入れをひしひしと感じました。もしかして、この人ってものすごいツンデレなのでは……。

  • 前半の痛々しさは読むのを止めてしまおうかと思ったくらいだったが,後半は筒井の世界として楽しめた (か?).実際の出来事も含まれていて,不思議な読後感.
    枕詞や古語を使用した言葉遊びに目が行くが,一方で,例えば「怖者なう」の「なう」は「同意を求める気持」と注釈があるのだが,やっぱり「なう」は twitter 用語だろうと思うと,現代の言葉を織り交ぜた言葉遊びも結構隠れているんじゃないかと感じた.「松千代」はわざわざカタカナで「マツチヨ」 (=マッチョ) と振られていたが,それ以外にも探せば見つかりそうな気がする.

  • 3.11の描写が出て来て初めて、
    これはいつ書かれた本なのかと驚き出版年を見た。
    平成27年発行。

    筒井康隆ということ、
    またその文体の古さから(注釈が多く、それなしでは読めない漢字も多々登場する)
    わりと前の作品かと思って読んでいた。

    あまりの美しさから、
    5歳にして性器を切り取られる少年。
    その後、彼の周りの人生は狂い出す…こともなく
    意外な形で結末を迎える。

    スケープゴートという
    最後の一言が
    彼の人生を振り返る晴れやかな姿勢を
    物語っているのだろう。

    わたしはそんな風に、世の中を理解できるだろうか。
    生殖機能がなく、
    ある意味、生き物として抱えるべき葛藤を失って育つ個体。
    煩悩はなく、夢に向かいただ楽しく努力できる環境。

    人格者とは何か。
    考えさせられる。

    面白かった。

    また、東浩紀の解説も良かった。

    "ぼくたちは虚構が好きだ。そしてぼくたちは必ず老いる。けれども両者は何も矛盾しない。なぜならば、死ぬときにぼくたちのまわりにあるのは、きっと現実ではなく虚構だけなのだから。
    筒井氏の文学は、そんなメッセージを届けてくれるのだとぼくは信じている。"

  • どうゆう結末になるのか、どんどん読み進めたいのに枕詞やら見た事ない漢字(読み仮名ふって、ページの左に用語の説明までご丁寧にありましたが)がぎっちりで、少しイライラしました。
    巨匠が古今の日本語の贅を尽くして・・・との事ですが読み難い。
    主人公の性器を切り取った変質者も、祖父を殺した弟も、会社の上司と職場の上の部屋で不倫するレストランのスタッフも、物語の終わりではなんだかみんな赦されていて、ファンタジーなのかな、コメディなのかな、私のココロが狭いのかな?と少し不穏になりました。

  • 筒井氏の作品はできる限り読むようにしているが、近年の作品でも好きなのが本書。

    主人公はじめ家族に起こった出来事や、その当時実際に起こった出来事を述べる部分が多く、個別の場面の描写が密にされることはあまりない。
    筒井氏は、「省略」や「時間経過」についての技法にかねてから取り組んでいたが、本書はその一つの到達点ではないか。

    くどくどと心理描写を重ねるのとは正反対の文体だが、読んでいてわずか数語の文字列に心を揺さぶられるところがあった。
    これは表面的に真似をしようとしてもできない、巨匠の名人芸である。
    ただただ、感服。

  • 美しすぎるぼくは5歳の頃、性の根源を根こそぎ奪われたんだ。

    悲痛な幕開けから淀みなく語られる葉月貴夫と彼の美貌に振り回される人々の半生。
    食と共に生き、性欲から切り離された位置で世を眺め人を眺め、そしてやってくるあの日を超えて。
    我々は欲に塗れ生きている。
    ああ、この世はかくも素晴らしい。

  • 今日、3月12日、この本を読み終わったのは何か見えない強い力が働いたのではないかと、ちょっと思った。僕の再燃筒井康隆ブームは続く。

  • 2016/02/07 読了

  • 160203

  • 文体が神。筒井ワールド。

全13件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

筒井 康隆(つつい やすたか)
1934年大阪市生まれ。日本を代表するSF作家の一人と目され、小松左京、星新一と並び「SF御三家」と称されることもある。
1981年『虚人たち』で泉鏡花文学賞、1987年『夢の木坂分岐点』で谷崎潤一郎賞、1989年「ヨッパ谷への降下」で川端康成文学賞、1992年『朝のガスパール』で日本SF大賞をそれぞれ受賞。1993年に断筆宣言を行ったことは大きな話題になった。1996年断筆解除後には、2000年『わたしのグランパ』で読売文学賞、2010年に第58回菊池寛賞、2017年毎日芸術賞をそれぞれ受賞。2002年には紫綬褒章も受章している。
代表作のひとつ『時をかける少女』は度々映画化、アニメ化され、多くの読者に愛される。ほか『日本以外全部沈没』、『文学部唯野教授』、『旅のラゴス』、『残像に口紅を』などは機会あるごとに話題となり、読み返されてきた。

聖痕 (新潮文庫)のその他の作品

聖痕(新潮文庫) Kindle版 聖痕(新潮文庫) 筒井康隆
聖痕 単行本 聖痕 筒井康隆

筒井康隆の作品

聖痕 (新潮文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする