死刑の理由 (新潮文庫 い 67-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (699ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101173214

作品紹介・あらすじ

「極刑をもって臨むほかはない。」1983年の永山則夫第1次上告審判決から1995年まで、最高裁において死刑が確定したのは43件。詳細に記述された判決書をもとに、そのすべての犯罪事実と、一審、控訴審、上告審の各量刑理由をわかりやすくダイジェストした。行間ににじむ被害者の悲しみ、脚色されていない事実、計り知れぬ人間の「闇」-。死刑問題を考えるための比類なき一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 「死刑の理由」は平成7年から14までに死刑が確定した重犯罪事件の被告43人の判決文を集めた本で、実名こそ出ていないが、獄中で「無知の涙」などを著した、連続ピストル射殺事件の永山則夫や、連合赤軍事件の永田洋子、北海道庁爆破事件の犯人のそれも第一審、控訴審、上告審の各量刑理由とともに全文が収録されている。他に余計な記述はなく、読み応えのある資料が一冊にまとまった、無駄のない仕上がりだ。この本によれば、死刑囚の大多数を占めるのは貧乏で学のない小卒や中卒の人、未成年のころから犯罪を重ね、娑婆より刑務所暮らしの方が長いような札付き、仮出獄してすぐまた事件を起こした無期懲役囚だという。そういえばサイコパスをテーマにした「良心をもたない人たち(マーサ・スタウト著、木村博江訳)」にも、刑務所に収監されている人々の大部分は、貧困のためまともな教育も受けられないまま育った、虐待や家庭内暴力の被害者で、何世代にもわたるひどい貧困から抜け出せずにやむをえず犯罪にはしった、ごくふつうの人だと書かれていた。うまれついての悪人などいない。かれらはただ、人よりはるかに不運で不遇で、それにより無知を強いられてきた社会の犠牲者なのだとおもう。たぶんもうすこし知恵があれば、うまくたちまわれていれば、極刑は免れていたはずだ。司法も決して公平ではない。これはその告発なのだろう。しかし、わたしはかれらにそれほど同情しなかった。犯罪者だからじゃない。さらなる弱者がそこにいたからだ。とくに心がささくれだったのは、複数のセックスワーカーが殺された、とある連続殺人事件の判決文。犯行の動機は被告いわく「被害者がコンドームなしのセックスに応じなかった」という極めてふざけたもの。

    にもかかわらず裁判官はそれを「(被害者である)娼婦の不信行為」とした。はじめにそういう契約を交わしたとの記録もなく(仮に交わしていたとしても、じぶんのからだをまもるための抵抗は、断じて不信行為ではない)ならばむしろコンドームなしのセックスを要求することこそ「(加害者である)客の不信行為」ではないか。この被告はのちに死刑囚となるのだけれど、それはまだ先のはなしで、このとき(二審)の判決は無期懲役。5人のセックスワーカーを殺してその量刑だ。その意味をかんがえると半ば絶望する。尊属殺人を犯した(これは尊属殺人が違憲とされる以前の事件だ)まだ歳若い男の判決文もひどかった。婚約者をはげしく罵り、別れろとしつこく迫る両親を衝動的に殺害した事件だが、そこには被告の恋人がソープ嬢であることが記されていて、しかもそこをやたら強調している。ことさら執拗にセックスワーカーであるとの記述をくりかえすさまは異様ですらある。殺人を教唆したわけでもないのに、まるで彼女が加害者であるかのような、諸悪の根源かのような書かれ方。平然と差別する司法に呆然とするしかない。あげく、交際に反対するのも、婚約破棄を強要するのも、相手がソープ嬢なのだから当然だとそこにははっきり書かれていた。息子の恋人を口汚く罵ったことについても、親なのだからあたりまえ、なんら落ち度はない、との記述。もちろん殺されるほどの落ち度ではなかっただろう。でも被告の兄弟は法廷で証言している。両親の罵詈雑言は聞くに耐えなかった、被告に同情すると。ちなみに娼婦や男娼ばかりを狙ったれいの連続殺人事件は、二審の判決を破棄し、最高裁で死刑が確定した。「売春行為自体が落ち度とはいえない」それが破棄の理由だった。

  • 20年ぶりに再読した。ときどきは、死刑について考えてみたいと思うのだ。この間にもいくつもの死刑判決がでているが、変わっていることもあるような気がした。特に裁判員裁判開始後の死刑についてはどなたかまとめて書籍にしてほしい、というかどっかにはあるのかな?

  • この本は読み物ではありません。
    1984年以降の死刑判決43例が
    ただひたすら並んだものです。

    判決文ってこういうものなんだ、というところから
    さまざまな量刑理由まで、感心すること仕切り。

    全然面白いものでもなんでもないし、
    正直半分も読めばお腹いっぱい。

    しかし死刑制度を論じる上で最低限にして
    最も建設的な礎になることは間違いない。

    お手元に一冊、いかがですか。
    普通はいらねーけど。。

  • 死刑になった判例、犯罪事実の内容と裁判官による判決の理由が羅列される。
    裁判員制度も始まり、自分も死刑の量刑判断に携わる可能性がある以上、これらの死刑判決にいたる理由については最低限知っておくべきだとする著者の考えには異議ありません。。
    が、死刑になるだけあってあまりにもひどい話ばかりで気が滅入ってしまって
    途中で読むのを中断してしまっている。。(泣)

  • 誰もが当然、極刑=死刑判決が出るものだと思っていた裁判員裁判が、まったく予想外のかたちで判決が下されました。

    去年8月3日午前8時52分ころ、ナイフで刺されて1ヶ月後に亡くなった江尻美保さん(当時23歳)と、ハンマーで数回殴られ首などを数回刺されて殺害された祖母の鈴木芳江さん(当時78歳)の無念は、果たされませんでした。

    極悪非道の凶悪犯人=林貢二(42歳)が無期懲役の判決を受けました。断固、許せません!

    この本は、今まで実際に死刑判決を受けた43件の事例を、判決書を元に詳細にわたる犯罪事実と一審・控訴審・上告審のそれぞれの判断理由をコンパクトにしてあり分かり易く読むことが出来る本です。

    どれもみな犯人は、死刑になって当然のことをした輩ばかりで、ここに登場する奴等と、今度の林貢二の違いは何もありません。

    犯行時にうつ状態だった、とか、祖母の殺害に計画性がなかった、とか、初犯だ、とか、反省している、などといった理由でよくも無期懲役にできたものです。

    こんな理由なら何の罪もない人を無理やり殺してもいいのか、ば、馬鹿野郎~!

    百歩譲って、林貢二が無期懲役の毎日を、江尻美保さんと鈴木芳江さんのズタズタに残虐に殺された写真で埋め尽くされた独房で暮らさせて、平日一般面会可能にして、全国からやってきた心ある人たちの放つ「人殺し!鬼畜生!」「よくも無抵抗な、か弱い女性をふたりも殺して、のうのうと平気で生きていられるな」などという非難ごうごうを浴びせかけられたり、凶悪犯は一日一食、寒さ暑さも関係なし常に薄い囚人服一枚きりなどなど、ともかく囚人として物心両面で自覚せざるをえない、罪を悔いるように仕向けるシステムが完璧に整備されているならまだしも、そうではなく、ぬくぬくと三食昼寝つき冷暖房完備の快適永久ライフが約束されている刑務所などに、どうしてのほほんと生きながらえさせてあげる必然性があるのでしょうか!

    裁判員制度の弊害が、まさかこんなところで、犯罪者にやさしく甘いという形で現出するとは思ってもみませんでした。

  • 一気読みを許さない、読むのに恐ろしくエネルギーを使う本。読んでるうちにどんどん性悪説に引きずられる。途中途中でリセットして気持ちを切り替えないとなんか気分がおかしくなる。

  • 裁判資料なのでちょっぴり眠くなるかも…。事件に関する固有名詞などはすべてイニシャルになっています。

  • 一気に読み進めた。「闇」

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著者プロフィール

同朋大学大学院人間福祉研究科・社会福祉学部准教授。臨床心理士。
名古屋大学大学院文学研究科博士前期課程(心理学専攻)修了(文学修士、1982)。愛知県児童相談所に勤務(1983〜1999)。1999年より同朋大学社会福祉学部専任教員。家族援助論、児童福祉臨床研究などを担当。児童家庭相談、特に児童虐待防止ケースマネジメントを研究。
主な著書等:『児童虐待へのブリーフセラピー』(共著 金剛出版 2003)、『新生児医療現場の生命倫理』(共著 メディカ出版 2004)、「サインズ・オブ・セイフティ・アプローチ入門」(共著 そだちと臨床vol.2 明石書店 2007)。訳書として、『安全のサインを求めて』(ターネル、エドワーズ著 共監訳 金剛出版 2004)、『児童虐待を認めない親への対応』(ターネル、エセックス著 共監訳 明石書店 2008)

「2008年 『子ども虐待防止のための家族支援ガイド』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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