花埋み (新潮文庫)

  • 新潮社
3.85
  • (27)
  • (50)
  • (38)
  • (0)
  • (2)
本棚登録 : 490
感想 : 52
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (576ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101176017

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 20230924読了
    公美さんに借りる。
    荻原吟子さんの伝記的小説
    初・渡辺淳一でしたが、思ったよりずっと面白かった。なるほど、人気なわけだわ渡辺先生。

  •  この時代の男尊女卑の障害と虐めは想像を絶するもので、それらに対し計り知れぬ覚悟と時に敵意を持って立ち向かってゆく主人公に感銘を受けた。
    登場人物の心情描写、生きた時代は異なるのにその人生を見守っていたかのように愛をもって描いている著者を感じ、自分も近くでその景色を見ているような感覚になった。

     日本初の女医、荻野吟子の生涯を描いた小説。
    「読んでみろし」と父に渡され持ち帰ってきたけれど、難しそうでしばらく本棚に眠っていたもの。
    読み始めてすぐに引き込まれたのでした。

  • 二つの意味での驚きであった。一つは、失楽園の印象強い作者の人物像、印象が変わった事。一つは、日本で初めて女医師となった、荻野ぎんという人物、壮絶な人生。

    努力をしなければ、人は進めない。しかし、決断がなければ、人は立ち上がらない。立ち上がらなければ、当然、歩めない。また、歩みを邪魔する他人の価値観がある。ぎんは、立ち上がり、他人の価値観と戦い、歩んだのだ。

    男に運命を翻弄され、故に、一人で生きていく事を決断したぎん。だが、最後には、しかし今度は能動的に、自ら男の人生に連れ添うのだった。

    人の生き方は多様。また、何が良かったかも、人それぞれである。そんな教唆も得られる、読むべき一冊ではないだろうか。

  • 女性に社会的地位のなかった明治初頭に日本初の女医となった荻野吟子の生涯を描いた一冊。
    女が勉学を積み医者になるなど何事かと一掃した当時の閉鎖的な空気が恐ろしい。
    晩年にキリスト教に傾倒し、夫と共に信者の理想郷を建設すべく北海道開拓に乗り出したときに味わった艱難辛苦、この描写が寂寥感溢れるものでまた素晴らしい。
    傑作『阿寒に果つ』でも見せつけられた淡々としていて且つ鋭く重い文体がここでも存分に活かされている。
    やっぱり渡辺淳一の文章は知的で無駄がなくて大好きだわ。

  • 日本で初めての女医である荻野吟子の伝記的なお話だった。明治のまだ女性蔑視の時代、医者になるということがどれほど大変だったかがわかる。なんでも最初にやるというのは大変だ。それをやり遂げた意志の強さに感心した。やがて彼女は医者だけの力ではどうしようもないことがあることを知る。病気を治すには周りの人の協力も必要なのだ。そこにたどり着いて彼女はキリスト教を信仰するようになり、夫となる志方と出会う。彼に出会うことが彼女の人生をがらりと変えてしまう。東京での医師としての名声も仕事も捨て、北海道に行くがそこでの10年の間に医学は進歩しもはや自分の知識と技術は古いものであると知りショックを受ける。志方と結婚したことは彼女にとって良かったのか。愛する人を得たことは良かったのだと思いたい。彼女の残した功績は忘れられることはない。人生は人との出会いで変わるものだと感じざるをえない。

  • 初婚相手にうつされた膿淋がはじまりだった。
    男医者に恥部を見せる屈辱が忘れられず、女は医者を志す。

    荻野ぎん、のちの荻野吟子という日本人女性初の医者が誕生するまでと、それからを描いた長編。
    家族の反対を押しきり
    師匠のプロポーズを断り
    男性だけの学校で執拗な嫌がらせを受けたり
    彼女が挫折する要因はその人生の中で幾度も幾度もあった。
    しかし、彼女は医者になる。

    「男から受ける側の女である性」と立ち向かいながら、彼女は女である私たちに励ましをくれる。

  •  
    ── 渡辺 淳一《花埋み 19750603 新潮文庫》
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4101176019
     
    (20240918)

  • 日本最初の女医荻野ギンの物語。明治初期においては女性が学問をするものとは考えられておらずましてや医者は男のするものだという考えがあった中、男尊女卑の社会に対抗しようとするギンの熱い信念のもと彼女は初めての女医となる。女医を目指すきっかけは元夫から淋病をうつされたこと、それに対して周りは女性なら仕方ないという考えがあったこと、診察の際に男に見られるという恥ずかしさを受けたことなど多くの理由がある。女医になってからは女性の権利向上を目指したり、キリスト教に入信したりと多岐にわたる社会的活動をし世間からも注目される。13歳年下の志方と結婚し彼のキリスト教徒のユートピア開拓という大きな目的のため北海道に移住したが開拓は失敗に終わり田舎の町医者として最後を迎える。
    封建社会が根強い中才能だけでなく強い信念をもとに行動したことによって今では当たり前になった女性が医者になるという快挙を成し遂げた過程は読み応えがあった。自分も彼女のように強い信念を持って勉強に励まなくてはならないなと痛感させれる。

  • 児童に荻野吟子の調べ学習をさせるために読みました。吟子さんの波乱に満ちた生涯が、渡辺淳一氏の手によって、ドラマチックに、まるで映像を観ているかの如く描かれています。
    前半部分は医者になるまでの茨の道を歩く吟子さんの姿が、後半部分は医師となったあと、新世界を夢みる志方さんによりそう吟子さんの姿が描かれています。
    正直なところ、前半部分だけでよかったかなと思います。後半からは志方さんにズルズル引きずられていく唯の女みたいな感じがして、"え?これが困難に立ち向かったあの荻野吟子?"と、がっかりする場面も多々あります。
    小説はあくまでもフィクションだから…と思うのですが、それでも前半部分の勢いが後半急激に衰えてくる残念さは否めません。

  • 解説がすごく身に染みた。
    「その憎悪が、吟子の存在を支え、女医への道を完遂させた原動力である。その憎悪が吟子の人生の前半の魂と霊を喚びさましたのであり、その憎悪の虚しさの実感が、志方との結婚とキリスト教の仰という吟子の後半生を決定したのである。」

    医師になる上で、覚悟は求められる。世間一般的に、勉強ができかつ性格もよい、体力もある、といういわゆる「天才」が求められる。それは、人の体や命を預かる仕事である以上、当たり前のことであるのだろう。しかし、今の私にその力はあるのだろうか。話す時には言葉がうまくまとまらないこともあり、体力も不安で、勉強もできる部類では無い..
    人間性は周りのことをよく見てる方ではあるだろうが、その心情推察は向いてない(たぶん映画とかみて慣れていくことが求められるのだろう)。医師になるとはどういうことか、改めて向き合う機会となった。

全52件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1933年北海道生まれ。札幌医科大学卒。1970年『光と影』で直木賞。80年『遠き落日』『長崎ロシア遊女館』で吉川英治文学賞受賞。2003年には菊池寛賞を受賞。著書は『失楽園』『鈍感力』など多数。2014年没。

「2021年 『いのちを守る 医療時代小説傑作選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

渡辺淳一の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×